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第五章 混乱
第47話 歌子、降霊術発動っ!
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スズネは街に戻って、憶え屋に行ってきた。 この混乱の状況で、憶え屋はますます利用されているようだった。 どこの店舗も客で溢れていて、待ち時間まで設定されてるところもあるようだった。
小春は、まだ頼まれた人探しを終えていないようだった。 『見つからないじゃないっ! 早く出てきなさいよっっ!!!』みたいな書置きが、何枚も見つかった。
普段の口座には、イトやユメが書いた『私は大丈夫です』みたいな書置きがあったのを見つけた。
……でも、ホナミの書置きは見つからなかった。 アマネもまだ見つかってないらしいし……って、アマネ、そろそろヤバいんじゃない?! ……2人とも、大丈夫だろうか。
用事を終えて、スズネは憶え屋から出ていった。 もう夕日は傾いて、辺り一面をオレンジ色に染めている。
街の道を歩きだし、はあと息を吐きながら歩いていく。 えーっと、次は何をすればいいんだっけ? ……そっか、病院の人探しが、まだ終わってないんだ。
小春によると、他の人もだれかれ構わず巻き込んで、大勢で探し回っているらしい。 なら、私もそっちを手伝うかな。
街の道を歩きだすと、見覚えのある姿が目に入った。 小さい背格好の、頭がぼさぼさで、古い格好をしてて……。 ふと、今朝目が覚めた直後のことを思い出す。
「あ、タンポポちゃんっ!」
声をかけると、タンポポちゃんがこっちに気づいた。 挨拶を返すように、小さく頷いてくる。
朝に、山で初めて会ったときは、行き先を知らないロボットみたいな、ぎこちなさがあったけど、今は違った。
相変わらず格好は古くて、今日降霊された古代人にしか見えないけど……。
でもなんだか元気が良くて、街の空気に慣れてきたみたいな、ブサッとさされた油が回ってきたみたいな、そんな感じだ。
一緒に歩きながら、現状を聞いてみる。
「そっちは、どう?」
「今、やることないか、探してるとこ」
……あれ、なんか話し方もスルスルしてる。 どうしたんだろう? 口にも油を差したのかな。 まあいいか。
「じゃあ、私のほう手伝ってくれない? 人探ししてるんだけど」
タンポポちゃんは頷くと、歩く足を早めていった。 手伝ってくれるみたいだ、2人は並んで歩き、山へ向かっていく。
山の中には、夕日の光がギラギラと差し込んでいた。 人の姿はほとんど見えず、静けさを取り戻している。 山で降霊された人たちも、街のほうへ行ったんだろう。
「えーっと……髪の長い……髪の長い……」
ブツブツ呟きながら、例の女の人を探していく。
憶え屋で確認したところでは、目撃情報はいくつかあったらしい。 この山も、目撃情報があった場所の一つなのだ。
こういう時も、自分が幽霊だと気が楽だ。 生きてて生身の体を持ってたら、夜になったら危険だとか考えてしまう。 もう怪我をすることも、死ぬことも無いんだ。 今日は動き回ったし、夕日に染まった緑でも眺めながら、ゆっくり探そうか。 ふんふーん♪♪……うわまぶしっ。
……あれ、でも夜になったら真っ暗じゃん。 街で生活してるのに慣れてるから気づかなかったけど、山の中なんて日が沈み切ったら僅かな光すら無くなる。 人探しどころか、自分の体さえ見えなくなるじゃんっっ!! やべえ、ちょっと早くやんなきゃw
いきなり焦りだして、山道をズンズンと歩いていくと、向こうのほうに人影が見えた。 数人が固まって、なにやら話をしている。
あ! もしかして、同じように人探しをしている人たちだろうか。
その中の一人は生身らしい、地面を踏む音がはっきり聞こえて、ガサガサ音を立てている。 女の子っぽくて、黒っぽい髪で、柔らかい色の服を着てて……。
「……あ、歌子だ。 歌子ー!」
声をかけると、集団の中で話していた歌子は、こっちに気づいて振り向いた。
「スズネ!」
「歌子、歴史所忙しいんじゃないの?」
近づいていきながら聞いていくと、歌子はこっちに走ってきながら、首を振った。
「あぁ、でも、アマネがいなかったから、探してくれって」
「え?! ……アマネ、まだいないの?」
びっくりして声を上げる。 アマネ……ちょっと、どうしちゃったの? 元気がいいのは知ってるけど、さすがにこの状況だしヤバいんじゃ……。
しかし歌子は、安心させるように首を振った。
「あぁいや、見つかったよ」
そういって振り返って、道の端っこを指す。 見るとそこには、見覚えのあるアマネの姿があった。 地面にしゃがんで、じっと何かを眺めているようだ。
なんだ、大丈夫なんじゃんっ! アマネがこの出来事の犯人なんてことはないだろう。 いつもみたいに、好き勝手に野山を駆け回ってただけだ。 あぁ、よかったw
アマネは向こうで、地面に落ちている石ころを眺めているようだった。 石ころを手に取って、じっと見つめて、懐に入れちゃったりしている。
……あの石ころには、どんなワクワクすることが書かれてるんだろう? あぁいや、石ころをメモ紙だと思ってるのは、私たちだけか。 憶え屋が出来てから、感覚が変になってきたな。 ははっ!!ww
スズネが笑っていると、歌子がそばに身を近づけてきた。 こっそり話したいことがあるようだ、耳元に近づいてくる。
「あっそうだ、人探しの話だけどね。 ……聞いたら、どうも精神科の患者さんらしいよ」
「えっっ??! 精神科って、幻じゃなかったの?」
素っ頓狂な大声を出して、スズネはぽかんと口を開ける。
精神科は公的な人ならみんな知ってるぐらい真面目な組織だ。 街中に公的なポスターが大量に貼ってあるし、さすがに幻なわけがない。
アホみたいにびっくりしているスズネの顔から離れて、歌子は真面目に頷く。
「うん。 だから、早く見つけてあげないと、まずいんだけど……」
「ねえ、でも、霊なんだから、ゆっくり探してもよくない? ……もう、死ぬことは無いんだし」
2人が話していると、別の人が会話に割り込んできた。 なんか、図々しい元気な声だ。
見ると、向こうから数人の幽霊が歩いてきていた。 先頭にはチャラい感じの女の子の姿があり、子分を引き連れるようにしてこっちに来る。 昼間にのろしを上げた所で出会った……来たーっっ!! ナツミだっっ!! 超かわいいナツミちゃんが、ズンズンと歩いてきながら、張りのある声で話しかけてくる。
口ぶりからすると、ナツミは状況を完全に理解しているようだ。 精神科の患者を探すのを、今まで手伝ってたんだろう。
ナツミの横には、別の幽霊の人も一緒にいた。 その人は首を振って、会話に口をはさんでくる。
「あぁいや、でも、心が深く傷ついても、生きていけなくなるから……」
この人は見たことがある、第2病院で人探しを頼んできた幽霊の人だ。 病院の看護師かと思いきや、じつは精神科の医療スタッフだったらしい。
担当の患者さんが見つからなくて、焦っているとかだろうか? すっかり青ざめた様子で、今にも手で顔を覆うような表情をしている。
心が深く傷ついても、生きていけない……。 生身の肉体を持っておらず、怪我をすることも死ぬことも無いとはいえ、心は傷つくということなんだろう。
「……あー。 ……そういう、考え方か。 ……んー、まあ、確かにそうかも」
ナツミは納得したのか、うーんと考えて唸りながらブツブツと呟いている。
近くには、見たことのある人たちが他にもいた。 声のやたらとデカかった、ナツミの友達の男の子だ。 横で腕組みをして立ち、辺りの様子を眺めている。 一緒に精神科の患者を探していたんだろう。
山の中でたった一人の人を探すのは、大変なことだ。 こんなことをしている間にも時間は過ぎて、猶予はなくなっていく……。
どうしようもない空気が漂っていると、その場へさらに別の人がやって来た。 1人の青年が山道を走ってきて、こっちに向かってくる。
「北側探したが、いなかったぞ」
この人も見たことがある、ナツミと一緒に降霊されていた人の一人だ。 古風な青年で、ナツミに古臭いおっさんとか初対面で言われてた人だ。
どうやら昼間にのろしの所で集まっていた人たちで、そのまま行動していたらしい。 新たに降霊された人を処理するのを一緒に手伝った後に、同じメンバーで精神科の患者探しをやっていたんだろう。
報告を聞いて、精神科の人はますます顔が青ざめていく。
「そうですか。 ……あぁ、どうしよう」
すっかり血の気が引いて、憔悴した様子で頭を抱えている。 もうこの人が逆に入院しそうな勢いだ。
光はまだあるが、夕方もあと少しで終わりだ。
「……やべえな、もう日が暮れるぞ」
「あー……アワさんが、いればなー……」
なんとなしに、歌子がぼそっと呟く。 ……アワさん? いきなりの聞きなれない名前に、ナツミが聞き返した。
「……誰?」
「あぁいや、なんか500年前に、アキカゼさん……あ、降霊術を最初に始めた人なんですけど、その人を支えた人らしくて。 人を探すのが凄く上手かったって、アキカゼさんが言ってたんですよね……」
それを聞いた古風な青年は、憶えがあるのか声を上げる。
「あぁ、アワか! ……そうだな、あいつは人を見つけるのが上手いぞ」
古風な青年は、聞いたところによると500年前の人らしい。 降霊術の創始者のアキカゼと同じ時期に、3つの村を統合するのに尽力した若者の一人だそうだ。
一方で、ナツミはきょとんとした顔だ。 アワさん? 誰それ。 そんな感じで、歌子に聞いていく。
「へー。 今、いないの?」
「うーん、多分……」
「じゃあ、降霊すれば?」
「うーん、……え?!」
ナツミは、テンポよく話す。 ぽんぽんと会話が進んでいくから、大事なことを聞き逃してしまいそうになる。
いま降霊する?! ……たった一人の人を探すためだけに?
ナツミはなんてことない顔をしている。 そりゃそうだろう、街に来たばかりだし、細かい決まりなど知るわけがないのだ。
「だって、このままじゃ日が暮れるよ? 早く見つけてあげなきゃ、ヤバいんでしょ?」
そういってナツミは身振りをして、辺りの夕暮れを示して見せる。
うーん……言ってることはもっともだけど、街の決まりが色々あって、新しく降霊するにはまず許可が必要で……。 でもこの状況だと、早く見つけてあげないとまずいし……。
決まりと状況に板挟みになり、精神科の人はぐるぐると目を回した。
「……あー、そうですけど……でも新しい人の降霊って、勝手にやっちゃいけないことになってて……」
「何言ってんの、こんな時に! 心が壊れちゃったら、終わりじゃん! ……うーん、確かにそうだね。 うん」
ナツミは自分で納得しながら、独り言のようにぶつぶつ言っている。 さっきの言葉が、よほど心に響いたのだろうか。
声のデカい男の子も頷いて、賛同するように言う。
「やってみようぜ。 とりあえず、目の前に助ける人がいるんだからよ。 そういう決まりも、大事なんだろうけど」
声のデカい男の子は、名前をヒノキというらしい。
ヒノキは、めっちゃいいやつなんだろう。 しかし新しく降霊された人たちは、新たに降霊することの重大さを全然分かってない。 どうもノリが軽くて、困る。
歌子はそう思いながらも、しぶしぶ決断を下した。
「……分かりました。 アマネ!」
名前を呼びながら、歌子は向こうへと歩いていく。
アマネは何をしているのか、相変わらず道の端っこに座り込んで土をイジイジしていた。 早く帰ってご飯が食べたいとか、思ってるのかな。
「ねえ、降霊したい人いるんだけど、やってくれない?」
「んー……。 その人、誰?」
土をさわる手を止めずに、アマネはこっちを見上げて聞いてくる。
「えっと……アキカゼさんのそばにいた人で……」
「じゃあ、歌子がやれば?」
「え、私?!」
私が降霊術を使うって……。 そんなこと、どうやってやるの? 手を合わせて、水の前に立って裸になって、イェイ!wとかだったっけ……。
こんなヘンテコな街に生まれ育ったのに、降霊術の詳しいやり方など実は知らないのだ。
「霊をおろすのは、なるべくその人を知ってる人がいいから。 私は、その人知らないし」
土を触っていた手を払い、アマネは立ち上がっていきながら説明する。
降霊術をするなら、その人を可能な限り明確にイメージしなければならない……。 そういう話は聞いたことはある。
でも、本当に私ができるんだろうか? ……私、1ミリも降霊術の素養が無いって言われたんだけどww
「……どうすんだ?」
後ろから、古風な青年が近づいてくる。 歌子は腕組みをして、うーんと考えた。 どうするって言っても、私そもそもアワさんのこと知らないし……。
「あっそうだ、アワさんのことを、もっと細かく教えてくれませんか? ……しっかり想像できないといけないみたいで」
古風な青年は、すぐに理解したようだ。 500年前にアキカゼさんと一緒にいたんだし、降霊術は目の前で見たんだろう。 初めて降霊術を目の当たりにして、口をあんぐり開けて間抜けな表情をしている古風な青年が目に浮かぶ。 ……フフフ、フムハッ!!!ww
古風な青年もいいやつのようだ、良い人オーラ全開で、すぐに頷いて了解してくれる。
「あぁ、いいぞ」
「じゃあ私、材料集めてくる」
そういって、アマネが別のほうに走っていった。 日の暮れかけた山の中で、一行は降霊の準備を進める。
歌子も材料を集めるのを手伝い、なんとか準備が整った。 超特急で準備をしたから、足は擦り切れて服もボロボロだ。 息も上がっているままで、歌子はどさっと地面に座り込んでいく。
指定された場所は、川の近くだった。 水の音が小さくなっていて、川のせせらぎが聞こえてくる。
前を見ると、アマネはネックレスのような装飾具を作っていた。 刃物は自分で持っていたらしく、器用にそれを使って手早く道具を作っている。 木の棒やどんぐりなんかを集めたものだ。 よくこんなものを、素早く作れるものだ。
「じゃあ……これと、これと……」
装飾具を作り終えると、アマネはさっさっと装飾具を配置していく。 座り込んだ歌子の身の回りに、的確に配置していっているようだ。 研究所でやっているんだろう、手つきが早くて慣れているのが分かる。
体や頭にぶら下げるアクセサリーも、勢いよく腕を動かして配置していく。 たまにぶつかって歌子が顔をしかめるが、そんなの関係ねえ。
「これ、持って」
最後に、木の葉がついた枝を持たされた。 一見何てことない枝だけど、きっと意味があるんだろう。 うーん、確かに禍々しいオーラが出ているような……。 不毛なことを考えながら眺めていると、目の前にどさっとアマネが座った。
「じゃあ、目を閉じて。 その人のこと、細かく想像して」
歌子はその通りにして、目を閉じた。 自然の音が聞こえてくる中で、古風な青年が話してくれたアワさんという人のことを、細かく想像していく。
降霊術の創始者のアキカゼさんが森の中で彷徨っていたら、いつも探してきて、あれこれ世話を焼いてくれたらしい。 500年前の争いの中で、空気が悪くて、男たちは嫉妬してアキカゼさんを殴り飛ばして……。
「そしたら、手元に集中して、そこにその人がいるんだと強く念じるの」
あ、まだしっかり想像できてないんだけど。 ……まあいいや、適当にやろう。
辺りには、小さく風が吹いている。 わずかに残っていた夕日の光が、ふっと辺りから消え、山の陰に消えていった。
近くの川の水が、さわさわと音を立てている。 水面は異様な様子でざわめき始め、水しぶきが飛び散った。
青い光が辺りに満ちていき、穏やかさに包まれた。 辺り一面に不可思議な青い光が揺れている。 目を閉じた歌子の顔に、髪の毛が揺れている。
ざわっと強い風が吹き、思わず少し顔をしかめた。 ……全く不思議な気配はなくなり、いつもの日常に戻った感じがする。 ……あれ? もう目を開けていいのかな?
「……ん?」
ふいに聞きなれない声が呟くのが、耳に届いた。 疑問を発するようなその呟きに、思わず目を開ける。
見ると、近くに見知らぬ人が立っていた。 若い女の人だ、その人はきょろっと辺りを見回して、不思議そうな顔をしている。
「……あれ、ここ、どこ?」
「おう、アワ」
知り合いに声をかけるように、古風な青年が声をかけていく。 アワと呼ばれた女の人は、その声に振り向くと、きょとんとした顔を浮かべた。
「マツ? ……何?」
「ちょっと、頼み事あってな。 急いでるから、動きながらでいいか」
まだ状況が飲み込めて無いようだ、アワは周囲に立っている人々を眺めている。 時代が違う人たちがごちゃごちゃになっていて、服装もみんな違うから、さぞ変てこな集団に見えることだろう。
「あぁ、うん。 ……え? ……あれ、私、もしかして、死んだの?……」
一応返事をしながらも、アワはまだ理解が追いついてないみたいだ。 ブツブツと呟いて周囲を眺めながら、古風な青年に引っ張られていく。
小春は、まだ頼まれた人探しを終えていないようだった。 『見つからないじゃないっ! 早く出てきなさいよっっ!!!』みたいな書置きが、何枚も見つかった。
普段の口座には、イトやユメが書いた『私は大丈夫です』みたいな書置きがあったのを見つけた。
……でも、ホナミの書置きは見つからなかった。 アマネもまだ見つかってないらしいし……って、アマネ、そろそろヤバいんじゃない?! ……2人とも、大丈夫だろうか。
用事を終えて、スズネは憶え屋から出ていった。 もう夕日は傾いて、辺り一面をオレンジ色に染めている。
街の道を歩きだし、はあと息を吐きながら歩いていく。 えーっと、次は何をすればいいんだっけ? ……そっか、病院の人探しが、まだ終わってないんだ。
小春によると、他の人もだれかれ構わず巻き込んで、大勢で探し回っているらしい。 なら、私もそっちを手伝うかな。
街の道を歩きだすと、見覚えのある姿が目に入った。 小さい背格好の、頭がぼさぼさで、古い格好をしてて……。 ふと、今朝目が覚めた直後のことを思い出す。
「あ、タンポポちゃんっ!」
声をかけると、タンポポちゃんがこっちに気づいた。 挨拶を返すように、小さく頷いてくる。
朝に、山で初めて会ったときは、行き先を知らないロボットみたいな、ぎこちなさがあったけど、今は違った。
相変わらず格好は古くて、今日降霊された古代人にしか見えないけど……。
でもなんだか元気が良くて、街の空気に慣れてきたみたいな、ブサッとさされた油が回ってきたみたいな、そんな感じだ。
一緒に歩きながら、現状を聞いてみる。
「そっちは、どう?」
「今、やることないか、探してるとこ」
……あれ、なんか話し方もスルスルしてる。 どうしたんだろう? 口にも油を差したのかな。 まあいいか。
「じゃあ、私のほう手伝ってくれない? 人探ししてるんだけど」
タンポポちゃんは頷くと、歩く足を早めていった。 手伝ってくれるみたいだ、2人は並んで歩き、山へ向かっていく。
山の中には、夕日の光がギラギラと差し込んでいた。 人の姿はほとんど見えず、静けさを取り戻している。 山で降霊された人たちも、街のほうへ行ったんだろう。
「えーっと……髪の長い……髪の長い……」
ブツブツ呟きながら、例の女の人を探していく。
憶え屋で確認したところでは、目撃情報はいくつかあったらしい。 この山も、目撃情報があった場所の一つなのだ。
こういう時も、自分が幽霊だと気が楽だ。 生きてて生身の体を持ってたら、夜になったら危険だとか考えてしまう。 もう怪我をすることも、死ぬことも無いんだ。 今日は動き回ったし、夕日に染まった緑でも眺めながら、ゆっくり探そうか。 ふんふーん♪♪……うわまぶしっ。
……あれ、でも夜になったら真っ暗じゃん。 街で生活してるのに慣れてるから気づかなかったけど、山の中なんて日が沈み切ったら僅かな光すら無くなる。 人探しどころか、自分の体さえ見えなくなるじゃんっっ!! やべえ、ちょっと早くやんなきゃw
いきなり焦りだして、山道をズンズンと歩いていくと、向こうのほうに人影が見えた。 数人が固まって、なにやら話をしている。
あ! もしかして、同じように人探しをしている人たちだろうか。
その中の一人は生身らしい、地面を踏む音がはっきり聞こえて、ガサガサ音を立てている。 女の子っぽくて、黒っぽい髪で、柔らかい色の服を着てて……。
「……あ、歌子だ。 歌子ー!」
声をかけると、集団の中で話していた歌子は、こっちに気づいて振り向いた。
「スズネ!」
「歌子、歴史所忙しいんじゃないの?」
近づいていきながら聞いていくと、歌子はこっちに走ってきながら、首を振った。
「あぁ、でも、アマネがいなかったから、探してくれって」
「え?! ……アマネ、まだいないの?」
びっくりして声を上げる。 アマネ……ちょっと、どうしちゃったの? 元気がいいのは知ってるけど、さすがにこの状況だしヤバいんじゃ……。
しかし歌子は、安心させるように首を振った。
「あぁいや、見つかったよ」
そういって振り返って、道の端っこを指す。 見るとそこには、見覚えのあるアマネの姿があった。 地面にしゃがんで、じっと何かを眺めているようだ。
なんだ、大丈夫なんじゃんっ! アマネがこの出来事の犯人なんてことはないだろう。 いつもみたいに、好き勝手に野山を駆け回ってただけだ。 あぁ、よかったw
アマネは向こうで、地面に落ちている石ころを眺めているようだった。 石ころを手に取って、じっと見つめて、懐に入れちゃったりしている。
……あの石ころには、どんなワクワクすることが書かれてるんだろう? あぁいや、石ころをメモ紙だと思ってるのは、私たちだけか。 憶え屋が出来てから、感覚が変になってきたな。 ははっ!!ww
スズネが笑っていると、歌子がそばに身を近づけてきた。 こっそり話したいことがあるようだ、耳元に近づいてくる。
「あっそうだ、人探しの話だけどね。 ……聞いたら、どうも精神科の患者さんらしいよ」
「えっっ??! 精神科って、幻じゃなかったの?」
素っ頓狂な大声を出して、スズネはぽかんと口を開ける。
精神科は公的な人ならみんな知ってるぐらい真面目な組織だ。 街中に公的なポスターが大量に貼ってあるし、さすがに幻なわけがない。
アホみたいにびっくりしているスズネの顔から離れて、歌子は真面目に頷く。
「うん。 だから、早く見つけてあげないと、まずいんだけど……」
「ねえ、でも、霊なんだから、ゆっくり探してもよくない? ……もう、死ぬことは無いんだし」
2人が話していると、別の人が会話に割り込んできた。 なんか、図々しい元気な声だ。
見ると、向こうから数人の幽霊が歩いてきていた。 先頭にはチャラい感じの女の子の姿があり、子分を引き連れるようにしてこっちに来る。 昼間にのろしを上げた所で出会った……来たーっっ!! ナツミだっっ!! 超かわいいナツミちゃんが、ズンズンと歩いてきながら、張りのある声で話しかけてくる。
口ぶりからすると、ナツミは状況を完全に理解しているようだ。 精神科の患者を探すのを、今まで手伝ってたんだろう。
ナツミの横には、別の幽霊の人も一緒にいた。 その人は首を振って、会話に口をはさんでくる。
「あぁいや、でも、心が深く傷ついても、生きていけなくなるから……」
この人は見たことがある、第2病院で人探しを頼んできた幽霊の人だ。 病院の看護師かと思いきや、じつは精神科の医療スタッフだったらしい。
担当の患者さんが見つからなくて、焦っているとかだろうか? すっかり青ざめた様子で、今にも手で顔を覆うような表情をしている。
心が深く傷ついても、生きていけない……。 生身の肉体を持っておらず、怪我をすることも死ぬことも無いとはいえ、心は傷つくということなんだろう。
「……あー。 ……そういう、考え方か。 ……んー、まあ、確かにそうかも」
ナツミは納得したのか、うーんと考えて唸りながらブツブツと呟いている。
近くには、見たことのある人たちが他にもいた。 声のやたらとデカかった、ナツミの友達の男の子だ。 横で腕組みをして立ち、辺りの様子を眺めている。 一緒に精神科の患者を探していたんだろう。
山の中でたった一人の人を探すのは、大変なことだ。 こんなことをしている間にも時間は過ぎて、猶予はなくなっていく……。
どうしようもない空気が漂っていると、その場へさらに別の人がやって来た。 1人の青年が山道を走ってきて、こっちに向かってくる。
「北側探したが、いなかったぞ」
この人も見たことがある、ナツミと一緒に降霊されていた人の一人だ。 古風な青年で、ナツミに古臭いおっさんとか初対面で言われてた人だ。
どうやら昼間にのろしの所で集まっていた人たちで、そのまま行動していたらしい。 新たに降霊された人を処理するのを一緒に手伝った後に、同じメンバーで精神科の患者探しをやっていたんだろう。
報告を聞いて、精神科の人はますます顔が青ざめていく。
「そうですか。 ……あぁ、どうしよう」
すっかり血の気が引いて、憔悴した様子で頭を抱えている。 もうこの人が逆に入院しそうな勢いだ。
光はまだあるが、夕方もあと少しで終わりだ。
「……やべえな、もう日が暮れるぞ」
「あー……アワさんが、いればなー……」
なんとなしに、歌子がぼそっと呟く。 ……アワさん? いきなりの聞きなれない名前に、ナツミが聞き返した。
「……誰?」
「あぁいや、なんか500年前に、アキカゼさん……あ、降霊術を最初に始めた人なんですけど、その人を支えた人らしくて。 人を探すのが凄く上手かったって、アキカゼさんが言ってたんですよね……」
それを聞いた古風な青年は、憶えがあるのか声を上げる。
「あぁ、アワか! ……そうだな、あいつは人を見つけるのが上手いぞ」
古風な青年は、聞いたところによると500年前の人らしい。 降霊術の創始者のアキカゼと同じ時期に、3つの村を統合するのに尽力した若者の一人だそうだ。
一方で、ナツミはきょとんとした顔だ。 アワさん? 誰それ。 そんな感じで、歌子に聞いていく。
「へー。 今、いないの?」
「うーん、多分……」
「じゃあ、降霊すれば?」
「うーん、……え?!」
ナツミは、テンポよく話す。 ぽんぽんと会話が進んでいくから、大事なことを聞き逃してしまいそうになる。
いま降霊する?! ……たった一人の人を探すためだけに?
ナツミはなんてことない顔をしている。 そりゃそうだろう、街に来たばかりだし、細かい決まりなど知るわけがないのだ。
「だって、このままじゃ日が暮れるよ? 早く見つけてあげなきゃ、ヤバいんでしょ?」
そういってナツミは身振りをして、辺りの夕暮れを示して見せる。
うーん……言ってることはもっともだけど、街の決まりが色々あって、新しく降霊するにはまず許可が必要で……。 でもこの状況だと、早く見つけてあげないとまずいし……。
決まりと状況に板挟みになり、精神科の人はぐるぐると目を回した。
「……あー、そうですけど……でも新しい人の降霊って、勝手にやっちゃいけないことになってて……」
「何言ってんの、こんな時に! 心が壊れちゃったら、終わりじゃん! ……うーん、確かにそうだね。 うん」
ナツミは自分で納得しながら、独り言のようにぶつぶつ言っている。 さっきの言葉が、よほど心に響いたのだろうか。
声のデカい男の子も頷いて、賛同するように言う。
「やってみようぜ。 とりあえず、目の前に助ける人がいるんだからよ。 そういう決まりも、大事なんだろうけど」
声のデカい男の子は、名前をヒノキというらしい。
ヒノキは、めっちゃいいやつなんだろう。 しかし新しく降霊された人たちは、新たに降霊することの重大さを全然分かってない。 どうもノリが軽くて、困る。
歌子はそう思いながらも、しぶしぶ決断を下した。
「……分かりました。 アマネ!」
名前を呼びながら、歌子は向こうへと歩いていく。
アマネは何をしているのか、相変わらず道の端っこに座り込んで土をイジイジしていた。 早く帰ってご飯が食べたいとか、思ってるのかな。
「ねえ、降霊したい人いるんだけど、やってくれない?」
「んー……。 その人、誰?」
土をさわる手を止めずに、アマネはこっちを見上げて聞いてくる。
「えっと……アキカゼさんのそばにいた人で……」
「じゃあ、歌子がやれば?」
「え、私?!」
私が降霊術を使うって……。 そんなこと、どうやってやるの? 手を合わせて、水の前に立って裸になって、イェイ!wとかだったっけ……。
こんなヘンテコな街に生まれ育ったのに、降霊術の詳しいやり方など実は知らないのだ。
「霊をおろすのは、なるべくその人を知ってる人がいいから。 私は、その人知らないし」
土を触っていた手を払い、アマネは立ち上がっていきながら説明する。
降霊術をするなら、その人を可能な限り明確にイメージしなければならない……。 そういう話は聞いたことはある。
でも、本当に私ができるんだろうか? ……私、1ミリも降霊術の素養が無いって言われたんだけどww
「……どうすんだ?」
後ろから、古風な青年が近づいてくる。 歌子は腕組みをして、うーんと考えた。 どうするって言っても、私そもそもアワさんのこと知らないし……。
「あっそうだ、アワさんのことを、もっと細かく教えてくれませんか? ……しっかり想像できないといけないみたいで」
古風な青年は、すぐに理解したようだ。 500年前にアキカゼさんと一緒にいたんだし、降霊術は目の前で見たんだろう。 初めて降霊術を目の当たりにして、口をあんぐり開けて間抜けな表情をしている古風な青年が目に浮かぶ。 ……フフフ、フムハッ!!!ww
古風な青年もいいやつのようだ、良い人オーラ全開で、すぐに頷いて了解してくれる。
「あぁ、いいぞ」
「じゃあ私、材料集めてくる」
そういって、アマネが別のほうに走っていった。 日の暮れかけた山の中で、一行は降霊の準備を進める。
歌子も材料を集めるのを手伝い、なんとか準備が整った。 超特急で準備をしたから、足は擦り切れて服もボロボロだ。 息も上がっているままで、歌子はどさっと地面に座り込んでいく。
指定された場所は、川の近くだった。 水の音が小さくなっていて、川のせせらぎが聞こえてくる。
前を見ると、アマネはネックレスのような装飾具を作っていた。 刃物は自分で持っていたらしく、器用にそれを使って手早く道具を作っている。 木の棒やどんぐりなんかを集めたものだ。 よくこんなものを、素早く作れるものだ。
「じゃあ……これと、これと……」
装飾具を作り終えると、アマネはさっさっと装飾具を配置していく。 座り込んだ歌子の身の回りに、的確に配置していっているようだ。 研究所でやっているんだろう、手つきが早くて慣れているのが分かる。
体や頭にぶら下げるアクセサリーも、勢いよく腕を動かして配置していく。 たまにぶつかって歌子が顔をしかめるが、そんなの関係ねえ。
「これ、持って」
最後に、木の葉がついた枝を持たされた。 一見何てことない枝だけど、きっと意味があるんだろう。 うーん、確かに禍々しいオーラが出ているような……。 不毛なことを考えながら眺めていると、目の前にどさっとアマネが座った。
「じゃあ、目を閉じて。 その人のこと、細かく想像して」
歌子はその通りにして、目を閉じた。 自然の音が聞こえてくる中で、古風な青年が話してくれたアワさんという人のことを、細かく想像していく。
降霊術の創始者のアキカゼさんが森の中で彷徨っていたら、いつも探してきて、あれこれ世話を焼いてくれたらしい。 500年前の争いの中で、空気が悪くて、男たちは嫉妬してアキカゼさんを殴り飛ばして……。
「そしたら、手元に集中して、そこにその人がいるんだと強く念じるの」
あ、まだしっかり想像できてないんだけど。 ……まあいいや、適当にやろう。
辺りには、小さく風が吹いている。 わずかに残っていた夕日の光が、ふっと辺りから消え、山の陰に消えていった。
近くの川の水が、さわさわと音を立てている。 水面は異様な様子でざわめき始め、水しぶきが飛び散った。
青い光が辺りに満ちていき、穏やかさに包まれた。 辺り一面に不可思議な青い光が揺れている。 目を閉じた歌子の顔に、髪の毛が揺れている。
ざわっと強い風が吹き、思わず少し顔をしかめた。 ……全く不思議な気配はなくなり、いつもの日常に戻った感じがする。 ……あれ? もう目を開けていいのかな?
「……ん?」
ふいに聞きなれない声が呟くのが、耳に届いた。 疑問を発するようなその呟きに、思わず目を開ける。
見ると、近くに見知らぬ人が立っていた。 若い女の人だ、その人はきょろっと辺りを見回して、不思議そうな顔をしている。
「……あれ、ここ、どこ?」
「おう、アワ」
知り合いに声をかけるように、古風な青年が声をかけていく。 アワと呼ばれた女の人は、その声に振り向くと、きょとんとした顔を浮かべた。
「マツ? ……何?」
「ちょっと、頼み事あってな。 急いでるから、動きながらでいいか」
まだ状況が飲み込めて無いようだ、アワは周囲に立っている人々を眺めている。 時代が違う人たちがごちゃごちゃになっていて、服装もみんな違うから、さぞ変てこな集団に見えることだろう。
「あぁ、うん。 ……え? ……あれ、私、もしかして、死んだの?……」
一応返事をしながらも、アワはまだ理解が追いついてないみたいだ。 ブツブツと呟いて周囲を眺めながら、古風な青年に引っ張られていく。
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