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第五章 混乱
第50話 タンポポちゃんの話!
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森の縁で、焚き木をしている集団があった。 幽霊探しや、精神科の患者探しをしていた人たちのようだ。 混乱の処理を終えて、適当に集まった集団で休憩を取っているようだ。 生身の人もいて、キャンプファイヤーみたいに火を囲んで談笑している。
雨子や、ホナミの姿もあった。 火を囲んだ端っこのほうで話しているようだ。 雨子が楽しそうに話すのを、ホナミと、物静かすぎるクルミがうんうんと頷きながら聞いている。
そこへ、おーいと3人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、スズネだ」
向こうの暗い木々の間から、スズネが手を振りながら走ってきた。 元気な様子で、笑顔で走ってくる。 ナツミたちも向こうに見えていて、山を歩いて一緒に来たんだろう。
「3人とも、大丈夫だった? ……ホナミとか、どこにいるか聞かなかったけど」
「他の人と一緒に、霊探してた」
「そっか」
ホナミは普段と変わらない感じだ、返事には元気さも感じられる。 いつも島の中を散歩してるし、地面を通り抜けたり空を飛んだりするのも得意だから、こんな混乱へっちゃらだったのかもしれない。
スズネがほっとしながら横に座っていると、横で雨子が、思い出したように突然声を上げた。
「あっ! ねえ、未来の人が降霊されたって、本当?!」
……未来人? ……あぁ、昼間に流れてた噂の話か。 もともと街にいたソラが、今回の混乱で山に移動したのを、そう勘違いしただけだろう。
それに、変な噂は流しちゃいけない。 病院で、包帯をぐるぐる巻きにして松葉杖をついていたアキラくんとの会話を思い出す。
「あぁ、それ、多分嘘w ……あと、殺人鬼って話もね」
「えー! ……なんだ」
雨子は、心底がっかりしたようだ。 肩を落とすと、つまらなさそうに口を尖らす。
「あ! でも、300年前の殺人っていうのは、本当だったんでしょ?」
私が幽霊探しに必死になってる間、雨子や小春たちは降霊洞穴に入ったというのだ。 歌子までいたというし……まったく、私が居ない間に楽しんでくれちゃって。
雨子はそれを聞いて、びっくりするぐらい素早く、一瞬でワクワクの笑顔を取り戻した。
「あっ! そうなのっ! えーっとね……」
ウキウキするようにして、今日体験した出来事を話しだす。
雨子はこういう時、まったく嫌なことを引きずらないのだ。 今までも、都市伝説が嘘だったと分かることは日常のようにあったが、新しい話が入ると、前のことはすっかり忘れるんだってw
話していると、向こうから歩いてきたナツミやヒノキたちもその場に到着したようだ。 近くの人たちと会話をしながら、焚き木の話の輪に入ってくる。
初対面だろうに友達みたいにいきなり話しかけていって、もうみんなに受け入れられてる。 ナツミって、やっぱりコミュ力があるんだなぁー……。
向こうでナツミは適当に世間話をしていたが、端のほうで固まって話している私たちに気づいた。
「おーい、スズネー。 ……ん、何の話?w」
こっちに近づいてきて、雨子がマシンガンのように喋り続けているのを見て、興味を持ったみたいだ。 私は顔を上げて答えた。
「ナツミちゃん。 ……都市伝説の話w」
「え、何それw」
興味があるような声を振りまくナツミに、雨子は獲物を見つけたような鋭い目になる。 瞬時に真剣な顔になり、音速で聞いていく。
「興味あるのっ?!」
「うん、聞かせて」
ナツミは人と話すのが好きなんだろうか、楽しそうに言いながら、そわそわと隣に座っていく。
話し相手を得た雨子は水を得た魚のようになり、生き生きと話しだした。
……みんな楽しそうで、いいな。 スズネはそう思いながらも、ふと引っかかったものを感じた。 ……あれ、なんか忘れてない? 辺りを見回して、違和感の正体を探っていく。
気づいたように立ち上がり、静かに話の輪を離れていった。
「タンポポちゃん」
焚き木の輪から離れたところで、タンポポちゃんを見つけた。 一人で木の根元に座っていて、何もせずにぼうっとしている。 声をかけるとこっちを見て、返事をするように頷いてきた。
同じ木の根元の、隣に腰を下ろしていきながら話しかけていく。
「なんか、変な感じだね。 ……いつもと、違って」
こんな暗い夜の時間に山の中をうろつくなんて、生きていた頃にもなかった。
今日は変な一日だったな……。 スズネははあとため息をついて、今日のことを思い返してみる。
朝目が覚めたら、山の中にいて、新しい幽霊を探し回って、こんどは海に行って……。 病院で手伝ったかと思ったら、今度は精神科の患者さん探し……。
歩き回って疲れたけど、たまにはこんな日があってもいいな。 結構楽しかったかもww
そう思っていると、隣でタンポポちゃんが突然、ぼそっと呟く。
「……なんか、こんな感じだったっけ?って……」
「え?」
意味が分からずに、聞き返す。 こんな感じって、どういう感じなの?
タンポポちゃんは、言葉を続けた。
「……こんなに、人としゃべったの、初めてで……」
「あぁ……そうだね、不思議な気分w」
確かに、今日は色んな人と話した。 多くは知らない人だったし、仕事としてってわけでもなかった。
みんな一緒に生きてる、仲間って感じだった。 言葉を伝えあって、生きるって目的に向かって一緒に歩いていくような……。
そんなこと当たり前なのに、今まではちょっと違った気もする。
毎日生きていく中で、一人一人バラバラに行動して、仕事のための言葉を交わして……。 確かに街って、こんな感じだったっけ?
今になって思えば、街で宴会をやる理由が分かる気がする。 街全体が親戚みたいにワイワイして、隣に座ってる知らない人とも酒を飲み合って……。 みんなで楽しむ時間を設けなかったら、本当にバラバラの生活が続いていくだけだ。
少し黙って、空を見る。 真っ黒で透き通るような中に星が輝いていて、涼し気な気分にさせてくれる。
「タンポポちゃんって、いつも、何してるの?」
ふと気になって、聞いてみた。 タンポポちゃんは、古いヨレヨレの格好をしてて髪もボサボサで、現代の人じゃないみたいに見える。 結局現代人だったんだけど……。 普段何をしているのか、想像がつかないのだ。
タンポポちゃんは、自分の中の何かを抑えるように、一瞬たじろいだ。
「……うーん、私、何もしてなくて……」
「え、何もしてないの?」
タンポポちゃんは、黙って頷く。
何もしてない……仕事をやってないってことだろうか? ……それとも本当に、何もしてない?
「でも、だったら、普段どうしてるの? ……ただ、一日ぼーっとしてるの?」
タンポポちゃんは頷くと、なぜか笑った。
「うん。 そう……」
そうか、だから恰好が昔のまま変わってないんだ。
確かにこの街では、そういう話はたまに聞く。 幽霊は死ぬことがないから、生身の人みたいに、食べるために何かをする必要が無いのだ。
……でも、本当に何もしないでいるの? 一日中ぼうっとしてるとは、どんな感じなんだろう。 部屋の中でうずくまって、静かにじっとしているんだろうか? 普通だったら、退屈で動きだしてしまいそうだ。
完全には呑み込めないまま、私は話を続ける。
「ふーん。 ……まあ、別に、生の体が無いから、生きて行けるしね。 ……そういう人も結構いるって、聞いたことあるし」
うーんと、横でタンポポちゃんは唸っている。 タンポポちゃんは、もしかしたら自分でも納得いってないのかもしれない。 自分の言葉に、自分で首をひねっている。
一人ぼっちで、社会とつながりを持たずに生活して……。 私も昔のことを思い出してきた。 この街に降霊されて間もないころ、街をさまよっていたあの時……。 私も、最初は何をするわけでもなくうろついてたっけ。
「……私も、前は何もやってなかったんだよね。 それでも、べつにいいやって……あ、私、生きてた時、自分で死んでね」
「……え?」
唐突な告白に、タンポポちゃんは思わず不思議そうな声を出す。 私はそのまま話し続けた。
「飛び降りて、自分で死んだの。 私がいたのは、200年前なんだけど」
話を聞きながら、タンポポちゃんは何とか理解しようと、眉をひそめながらも頷いている。 自分で死んだ人の話など、聞いたことがないのだろう。 この街だと、みんなこんな反応をするんだ。
私は明るい調子で続けた。
「だから、いきなりこれからもう一回生きてもいいよって言われても、全然しっくりこないっていうかw」
「……なんで?」
「……え?」
ぽつんと、タンポポちゃんが聞く。
「なんで、死んだの?」
質問の意味を理解して、私は昔のことを少しだけ思い出していく。
200年前、自然災害がこれでもかと多発した時代……。 私はそのほんの最初のほうで、自分で飛び降りて死んだ。
でも、なぜ死んだのかと聞かれると、よく分からなくなる。
村の空気はずっと悪かったし、人はイライラしていた。 小さなことで言い争ったり、喧嘩したり、人をいじめたり……。
私自身も、嫌なことはたくさんあった。 でも、今考えると、不思議とどれも些細なことだった気がするのだ。
「あぁ……うーん、いま考えれば、大したことないことばかりだったんだけどね。 ……その時は、世界が、小さく見えてたっていうか……」
よく分からない表現に、タンポポちゃんはふうんと、不思議そうに頷いている。
「……それで一人で勝手に感じてしまって、一人で傷ついて……。 ……多分誰も、私がなんで死んだかって知らないんだよねw おかしいねw」
ははっと笑う横で、タンポポちゃんは黙って聞いている。
私が死んだ理由を、村の誰も分からなかったと、海で船の上のカナタくんは言った。 そりゃそうだ、私もなんで自分が死んだのか、分からないんだ。
村の空気は悪かったけど、誰もそんなことで死んだりはしなかった。 悪口を言われたって、殴り飛ばされたって、別に死ぬわけじゃない。 嫌なことがあったって、起き直って前を向いて生きていける。 それが普通だ。
「それに私の時代ってさ、人がたくさん死んだ時代でね。 ……あ、でも、私が生きてた時は、まだましだったらしいんだけどねw ……それで、なんか変になってたのかも」
変な感じで自分の話を締めくくって、私は黙り込む。 タンポポちゃんも黙っていて、私たちの間に沈黙が流れた。
こんなこと話したのは、この街に来てから初めてだ。 集団は嫌いだから常に距離を置いてきたし、友達になった人とも深く関わらないようにしてきた。 一人で死んだ理由を聞かれたら、いつも適当に答えてたんだ。
「……なんか最近、人と喋ってなかったから、……ちょっと、嬉しくて」
少しして、タンポポちゃんが呟いた。 ソワソワするようにして笑顔を見せて、言ってくる。
「そうなの?」
「うん。 ……ここに来てから、ほとんど誰とも話してなかったから……」
「へー……。 いつ来たの?」
気になって、聞いてみる。 タンポポちゃんは思い返すようにして、答えた。
「うーん……3年ぐらい前かな?」
「ふーん。 ……え? 3年間ずっと、誰とも話してないの?」
思わず身を乗り出すようにして聞いてしまう。 タンポポちゃんは、静かに頷いた。
そんなに長い間、誰とも話してなかったのか……。
朝、最初に会った時はぎこちなかったが、夕方に再び会った時はそうでもなかった。 1日人と話しただけで、元に戻って自然に話せるようになるものなのに……。
こんなこともあるのかと、改めてこの世のヘンテコさを噛みしめる。
「へー。 ……結構、長いねw」
「うんw」
タンポポちゃんは、笑って頷いた。
混乱が起きて大変な状況になったと思ったら、引きこもりが解消されて外に出てきた人がいた……。 世界はどんなふうに回ってるんだろう? よく分からないものだ。
2人はまた黙り込むと、葉っぱが風に揺れている音が聞こえてきた。 手元で積み重なった落ち葉がふるえている。
一緒に風の音を聞くたびに、タンポポちゃんの吐息も聞こえてくる。 緩やかに、ちょっとずつ、お互いの気持ちが流れ込んでくるようだ。 ドクドクと脈打って、心臓の鼓動が聞こえてくる。
私たちは、確かに生きている。 それがなぜだか嬉しくて、気持ちが良い。
深くなっていく夜の中に、木々が揺れるのを、私たちは一緒に眺めていた。
雨子や、ホナミの姿もあった。 火を囲んだ端っこのほうで話しているようだ。 雨子が楽しそうに話すのを、ホナミと、物静かすぎるクルミがうんうんと頷きながら聞いている。
そこへ、おーいと3人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、スズネだ」
向こうの暗い木々の間から、スズネが手を振りながら走ってきた。 元気な様子で、笑顔で走ってくる。 ナツミたちも向こうに見えていて、山を歩いて一緒に来たんだろう。
「3人とも、大丈夫だった? ……ホナミとか、どこにいるか聞かなかったけど」
「他の人と一緒に、霊探してた」
「そっか」
ホナミは普段と変わらない感じだ、返事には元気さも感じられる。 いつも島の中を散歩してるし、地面を通り抜けたり空を飛んだりするのも得意だから、こんな混乱へっちゃらだったのかもしれない。
スズネがほっとしながら横に座っていると、横で雨子が、思い出したように突然声を上げた。
「あっ! ねえ、未来の人が降霊されたって、本当?!」
……未来人? ……あぁ、昼間に流れてた噂の話か。 もともと街にいたソラが、今回の混乱で山に移動したのを、そう勘違いしただけだろう。
それに、変な噂は流しちゃいけない。 病院で、包帯をぐるぐる巻きにして松葉杖をついていたアキラくんとの会話を思い出す。
「あぁ、それ、多分嘘w ……あと、殺人鬼って話もね」
「えー! ……なんだ」
雨子は、心底がっかりしたようだ。 肩を落とすと、つまらなさそうに口を尖らす。
「あ! でも、300年前の殺人っていうのは、本当だったんでしょ?」
私が幽霊探しに必死になってる間、雨子や小春たちは降霊洞穴に入ったというのだ。 歌子までいたというし……まったく、私が居ない間に楽しんでくれちゃって。
雨子はそれを聞いて、びっくりするぐらい素早く、一瞬でワクワクの笑顔を取り戻した。
「あっ! そうなのっ! えーっとね……」
ウキウキするようにして、今日体験した出来事を話しだす。
雨子はこういう時、まったく嫌なことを引きずらないのだ。 今までも、都市伝説が嘘だったと分かることは日常のようにあったが、新しい話が入ると、前のことはすっかり忘れるんだってw
話していると、向こうから歩いてきたナツミやヒノキたちもその場に到着したようだ。 近くの人たちと会話をしながら、焚き木の話の輪に入ってくる。
初対面だろうに友達みたいにいきなり話しかけていって、もうみんなに受け入れられてる。 ナツミって、やっぱりコミュ力があるんだなぁー……。
向こうでナツミは適当に世間話をしていたが、端のほうで固まって話している私たちに気づいた。
「おーい、スズネー。 ……ん、何の話?w」
こっちに近づいてきて、雨子がマシンガンのように喋り続けているのを見て、興味を持ったみたいだ。 私は顔を上げて答えた。
「ナツミちゃん。 ……都市伝説の話w」
「え、何それw」
興味があるような声を振りまくナツミに、雨子は獲物を見つけたような鋭い目になる。 瞬時に真剣な顔になり、音速で聞いていく。
「興味あるのっ?!」
「うん、聞かせて」
ナツミは人と話すのが好きなんだろうか、楽しそうに言いながら、そわそわと隣に座っていく。
話し相手を得た雨子は水を得た魚のようになり、生き生きと話しだした。
……みんな楽しそうで、いいな。 スズネはそう思いながらも、ふと引っかかったものを感じた。 ……あれ、なんか忘れてない? 辺りを見回して、違和感の正体を探っていく。
気づいたように立ち上がり、静かに話の輪を離れていった。
「タンポポちゃん」
焚き木の輪から離れたところで、タンポポちゃんを見つけた。 一人で木の根元に座っていて、何もせずにぼうっとしている。 声をかけるとこっちを見て、返事をするように頷いてきた。
同じ木の根元の、隣に腰を下ろしていきながら話しかけていく。
「なんか、変な感じだね。 ……いつもと、違って」
こんな暗い夜の時間に山の中をうろつくなんて、生きていた頃にもなかった。
今日は変な一日だったな……。 スズネははあとため息をついて、今日のことを思い返してみる。
朝目が覚めたら、山の中にいて、新しい幽霊を探し回って、こんどは海に行って……。 病院で手伝ったかと思ったら、今度は精神科の患者さん探し……。
歩き回って疲れたけど、たまにはこんな日があってもいいな。 結構楽しかったかもww
そう思っていると、隣でタンポポちゃんが突然、ぼそっと呟く。
「……なんか、こんな感じだったっけ?って……」
「え?」
意味が分からずに、聞き返す。 こんな感じって、どういう感じなの?
タンポポちゃんは、言葉を続けた。
「……こんなに、人としゃべったの、初めてで……」
「あぁ……そうだね、不思議な気分w」
確かに、今日は色んな人と話した。 多くは知らない人だったし、仕事としてってわけでもなかった。
みんな一緒に生きてる、仲間って感じだった。 言葉を伝えあって、生きるって目的に向かって一緒に歩いていくような……。
そんなこと当たり前なのに、今まではちょっと違った気もする。
毎日生きていく中で、一人一人バラバラに行動して、仕事のための言葉を交わして……。 確かに街って、こんな感じだったっけ?
今になって思えば、街で宴会をやる理由が分かる気がする。 街全体が親戚みたいにワイワイして、隣に座ってる知らない人とも酒を飲み合って……。 みんなで楽しむ時間を設けなかったら、本当にバラバラの生活が続いていくだけだ。
少し黙って、空を見る。 真っ黒で透き通るような中に星が輝いていて、涼し気な気分にさせてくれる。
「タンポポちゃんって、いつも、何してるの?」
ふと気になって、聞いてみた。 タンポポちゃんは、古いヨレヨレの格好をしてて髪もボサボサで、現代の人じゃないみたいに見える。 結局現代人だったんだけど……。 普段何をしているのか、想像がつかないのだ。
タンポポちゃんは、自分の中の何かを抑えるように、一瞬たじろいだ。
「……うーん、私、何もしてなくて……」
「え、何もしてないの?」
タンポポちゃんは、黙って頷く。
何もしてない……仕事をやってないってことだろうか? ……それとも本当に、何もしてない?
「でも、だったら、普段どうしてるの? ……ただ、一日ぼーっとしてるの?」
タンポポちゃんは頷くと、なぜか笑った。
「うん。 そう……」
そうか、だから恰好が昔のまま変わってないんだ。
確かにこの街では、そういう話はたまに聞く。 幽霊は死ぬことがないから、生身の人みたいに、食べるために何かをする必要が無いのだ。
……でも、本当に何もしないでいるの? 一日中ぼうっとしてるとは、どんな感じなんだろう。 部屋の中でうずくまって、静かにじっとしているんだろうか? 普通だったら、退屈で動きだしてしまいそうだ。
完全には呑み込めないまま、私は話を続ける。
「ふーん。 ……まあ、別に、生の体が無いから、生きて行けるしね。 ……そういう人も結構いるって、聞いたことあるし」
うーんと、横でタンポポちゃんは唸っている。 タンポポちゃんは、もしかしたら自分でも納得いってないのかもしれない。 自分の言葉に、自分で首をひねっている。
一人ぼっちで、社会とつながりを持たずに生活して……。 私も昔のことを思い出してきた。 この街に降霊されて間もないころ、街をさまよっていたあの時……。 私も、最初は何をするわけでもなくうろついてたっけ。
「……私も、前は何もやってなかったんだよね。 それでも、べつにいいやって……あ、私、生きてた時、自分で死んでね」
「……え?」
唐突な告白に、タンポポちゃんは思わず不思議そうな声を出す。 私はそのまま話し続けた。
「飛び降りて、自分で死んだの。 私がいたのは、200年前なんだけど」
話を聞きながら、タンポポちゃんは何とか理解しようと、眉をひそめながらも頷いている。 自分で死んだ人の話など、聞いたことがないのだろう。 この街だと、みんなこんな反応をするんだ。
私は明るい調子で続けた。
「だから、いきなりこれからもう一回生きてもいいよって言われても、全然しっくりこないっていうかw」
「……なんで?」
「……え?」
ぽつんと、タンポポちゃんが聞く。
「なんで、死んだの?」
質問の意味を理解して、私は昔のことを少しだけ思い出していく。
200年前、自然災害がこれでもかと多発した時代……。 私はそのほんの最初のほうで、自分で飛び降りて死んだ。
でも、なぜ死んだのかと聞かれると、よく分からなくなる。
村の空気はずっと悪かったし、人はイライラしていた。 小さなことで言い争ったり、喧嘩したり、人をいじめたり……。
私自身も、嫌なことはたくさんあった。 でも、今考えると、不思議とどれも些細なことだった気がするのだ。
「あぁ……うーん、いま考えれば、大したことないことばかりだったんだけどね。 ……その時は、世界が、小さく見えてたっていうか……」
よく分からない表現に、タンポポちゃんはふうんと、不思議そうに頷いている。
「……それで一人で勝手に感じてしまって、一人で傷ついて……。 ……多分誰も、私がなんで死んだかって知らないんだよねw おかしいねw」
ははっと笑う横で、タンポポちゃんは黙って聞いている。
私が死んだ理由を、村の誰も分からなかったと、海で船の上のカナタくんは言った。 そりゃそうだ、私もなんで自分が死んだのか、分からないんだ。
村の空気は悪かったけど、誰もそんなことで死んだりはしなかった。 悪口を言われたって、殴り飛ばされたって、別に死ぬわけじゃない。 嫌なことがあったって、起き直って前を向いて生きていける。 それが普通だ。
「それに私の時代ってさ、人がたくさん死んだ時代でね。 ……あ、でも、私が生きてた時は、まだましだったらしいんだけどねw ……それで、なんか変になってたのかも」
変な感じで自分の話を締めくくって、私は黙り込む。 タンポポちゃんも黙っていて、私たちの間に沈黙が流れた。
こんなこと話したのは、この街に来てから初めてだ。 集団は嫌いだから常に距離を置いてきたし、友達になった人とも深く関わらないようにしてきた。 一人で死んだ理由を聞かれたら、いつも適当に答えてたんだ。
「……なんか最近、人と喋ってなかったから、……ちょっと、嬉しくて」
少しして、タンポポちゃんが呟いた。 ソワソワするようにして笑顔を見せて、言ってくる。
「そうなの?」
「うん。 ……ここに来てから、ほとんど誰とも話してなかったから……」
「へー……。 いつ来たの?」
気になって、聞いてみる。 タンポポちゃんは思い返すようにして、答えた。
「うーん……3年ぐらい前かな?」
「ふーん。 ……え? 3年間ずっと、誰とも話してないの?」
思わず身を乗り出すようにして聞いてしまう。 タンポポちゃんは、静かに頷いた。
そんなに長い間、誰とも話してなかったのか……。
朝、最初に会った時はぎこちなかったが、夕方に再び会った時はそうでもなかった。 1日人と話しただけで、元に戻って自然に話せるようになるものなのに……。
こんなこともあるのかと、改めてこの世のヘンテコさを噛みしめる。
「へー。 ……結構、長いねw」
「うんw」
タンポポちゃんは、笑って頷いた。
混乱が起きて大変な状況になったと思ったら、引きこもりが解消されて外に出てきた人がいた……。 世界はどんなふうに回ってるんだろう? よく分からないものだ。
2人はまた黙り込むと、葉っぱが風に揺れている音が聞こえてきた。 手元で積み重なった落ち葉がふるえている。
一緒に風の音を聞くたびに、タンポポちゃんの吐息も聞こえてくる。 緩やかに、ちょっとずつ、お互いの気持ちが流れ込んでくるようだ。 ドクドクと脈打って、心臓の鼓動が聞こえてくる。
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