幽霊だらけの古代都市!発達した呪術国家で、破滅的な未来なんて蹴り飛ばせっ! 幽霊たちと一緒に、ワクワクしながら元気に走り回るっっ!!!

折紙いろは

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第六章 新しい街の始まり・初日

第58話 雨子とマツリ、in市場!

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 聞くところによると、物を売り買いする市場は、昨日は静かだったらしい。 新たな幽霊さがしで混乱していたからだろう。
 そんな昨日とはうってかわって、今日は市場はいつものにぎやかさを取り戻していた。 物を売り買いする人の間で、お笑いや歌を披露ひろうする人などがおり、元気な声が飛び交っている。
 新たに街に来た人たちも、見に来ているみたいだ。 お笑いや歌を披露するのを、興味津々に眺めている。 中には張り切りすぎて変なギャグを連発する人もいて、数百年前の人にドン引きされているみたいだ。 ここは歌どころとは違って、プロよりアマチュアのほうが多いから、こういうことはよくある。
 ほらそこにも、自分の尻をぺろんっと出してバチバチ叩きまくってる人がいる。 何が面白いのか分からないが、やってる本人は楽しそうだ。
 あ! 通りがかって見ていく客がいるっ!w 古い格好をしているから、新しくこの街に来たばかりの人だろう。 その人は苦い表情を浮かべて、目を背けて呆れたように去っていくぜ!! よーっし、よくやった! フゥゥッッ!!!!www

 そんな中を、1人の長身のボサボサ頭の男が歩いていた。 マツリだ、目つきが悪いからすぐに分かる。 まだりずに尻を出してギャグをやり続けている人の前を、馬鹿を見る目で見ながら通り過ぎていく。
 マツリは空いている市場の区画を見つけると、その中に勝手に入っていった。 座り込んで、腰を落ち着けると、だらんと体を伸ばして天を仰ぐ。

「はあ……あー、やるんじゃなかった」

 どうやらマツリは休憩中のようだ。 憶え屋の仕事の合間に、隙を見つけて休んでいるんだろう。
 マツリは目をつむっている。 ぼんやりと疲れた頭を休めて、辺りの喧騒けんそうに耳を傾けているようだ。
 ざわざわと声がしていて、人の活動が感じられる。 風の音が通り抜けていき、目を閉じていても、青空が感じられる。
 ……そのとき、ふっと、何かが視界をさえぎった気がした。

「……ん?」

 目を開けると、目の前には誰かがいた。 上半身だけが見えていて、反対側から覗き込んでいるようだ。 逆光ぎゃっこうで顔が見えにくいが、知っている人ではない。
 その女は、何かに気づいたような様子で、話しかけてきた。

「……あ! もしかして、君、マツリくん?」

 マツリは身を起こして、正面からその人の姿をとらえていく。 晴れやかに気の抜けたような女が、ニヤニヤと笑いながらこっちを見ていた。

「……誰だ、お前。 なんで、俺のこと、知ってんだ?」
「うーん、なんでかなあw」

 女は、なおもニヤニヤと笑ってなぜか楽しそうだ。 そんな様子を見て、マツリの頭にある可能性が浮かんだ。

「あ、お前、あいつの仲間だろ。 ……小春の」
「おっ! さすが、憶え屋の職員じゃん」

 雨子は軽やかに笑いながら、区画の仕切りの石の上に乗っていった。 ふわりと飛び乗り、マツリのそばにしゃがんでいく。
 雨子は、城からそのままやってきたようだ。 そんなに時間がたってないのに、すぐマツリを見つけたらしい。

 マツリは身を起こして、区画の中に座りなおしていった。 再び市場のほうへと目をやると、さっきまでやっていた仕事のことが頭をよぎる。
 ……憶え屋では、小春が言っていたように、客の記録を代わりに書き留めることが主な仕事らしい。 でも、今まで俺がやった仕事はすべて伝言だ。 憶え屋の『口座』とやらが、具体的にどんなふうに使われているかを、俺はまだ知らない。
 この女は、何か知ってるだろうか? そう思いながら、マツリは質問する。

「おい、聞きたいことがあるんだけどよ。 ……『口座』って、具体的に、どういうのがあるんだ? あいつはあるって言ってたんだが、ほとんど伝言ばかりで、そういう話、聞かないんだが」

 雨子は頷いて、説明した。

「あー! そっか。 ……うーん、例えば、私たちがやってるのとかだったら、都市伝説について話すのとか……」
「都市伝説? ……なんだ、そりゃ」

 マツリがつまらなさそうに相槌あいづちを打つ。 雨子は市場の中を眺めながら、自分たちの活動を話す。

「この世の、不思議なことを探してるの。 例えば最近なら、霊か生身なまみか分からない、女の人のうわさとか、人の血を求めてさまよう、鬼の話とか……」
「うわ、つまんねえな」
「えー?!! 面白いよ!!」

 そういって雨子は、心底ワクワクするような顔をする。 マツリはそれを見て、眉をひそめた。
 ……こいつはなんだ、もしかして、頭がおかしいのか? そう思いつつも、話の続きをうながす。

「他の口座は?」
「他は……あ、歴史所っていう所が、あるんだけど。 今回降霊された人たちも、最初に行ったと思うけど」

 歴史所の廊下で、小春を最初に呼び止めた時のことを思い出す。

「あぁ、あそこか。 そうか、あれは文字を使って過去の出来事を、記録してるって場所なのか」
「そう。 それを、憶え屋内に再現しようっていうのも、やり始めてるみたいで」

 憶え屋の中で再現……。 要は、ネット上の『歴史所のサイト』ってことだな。 最近だとVRが流行ってるらしいから、『バーチャル秋葉原』とかか? 憶え屋の仕組みはネットと同じだから、イメージは同じだろ。
 歴史所に直接行かなくても、歴史を知ることができるようになるってことだな。
 歴史所が場所的に遠いやつでも、わざわざ歴史所に行かなくていいし、文字が読めないやつでも、憶え屋の職員に代わりに読んでもらえる……。
 ……だから、元々の歴史所とはもう別物だな。 書いてある歴史の内容は同じだが、使い方も使う人も、全然違ってくるってことだろ?
 はあー、結構おもしれえじゃねえか、憶え屋。 小春には絶対言いたくねえけど、なんかワクワクしてるぜ、俺w

 マツリはクールを気取って、ふうんと理解するようにつぶやいた。 仕事を再開しようと、立ち上がっていき、市場の中へと歩きだしていく。
 雨子は横についていき、口座の具体例をさらに説明していった。

「他にも、大陸研究所とかも同じで、再現しようとしてるらしいし。 ……あ、よそおっていう人たちとかが、憶え屋内に店を設けるとか」
「装い師?」

 聞きなれない言葉に、マツリはまゆをひそめて聞き返す。

「装い師っていうのは……私たちの服って、みんなオシャレじゃん? 君はまだ、アレだけどw」

 雨子は振り向き、マツリの装いをニヤニヤ笑いながら見つめる。
 マツリの格好は、相変わらずボサボサの汚くて長い髪に、ボロボロの服だ。 古いとかの問題ではなく、綺麗にしようという意思がない。
 でもマツリは気にしてないようだ、視線を跳ね返すように、自信にあふれた様子で言う。

「アレってなんだよ。 十分じゃねえか、これで」

 何か言いたげにうーんと唸りながら、雨子はニヤニヤしながら眺める。 下から上に眺めて……上から下に眺めて……。 なんだか納得していないみたいだ。
 一通り眺め終えると、やがて説明を再開した。

「……それで、服の飾りをどんなふうに作るかっていうのを、代わりに想像してくれるんだよ。 上手い人なら、もちろん自分でできるけど、頭の中で想像したものを形にうつすって、けっこう難しくてね。 それに、それを維持し続けるのも」

「はー。 ……なるほどな」

 話しながら、2人は市場を抜けて外へ出ていった。 人が少なくなり、周りの景色が開けていく。

「だから、それを代わりにやって、目の前で見せてくれるっていうのを、仕事にしてる人たちがいるの」

 デザインを考えるのと、それを実際の形にして見せること。 なるほどな、この街では、そういうのも仕事になるのか……。
 考えながら歩いていると、ふと目の前に、一人の男が走ってきた。 マツリのことを探していたみたいだ、話しかけてくる。

「あ、お前、憶え屋だっけ?」

 ……あ? こいつ、さっき俺が伝言したやつじゃねえか。 もしかして、また伝言頼みたいとかか?

「あぁ」
「じゃあ、また伝言頼みたいんだけど」
「あぁ、分かった。 ……ほら、邪魔だぞ、お前」

 横の雨子を、しっしっと手で払う。 休憩は終わりだ、仕事するぜ!

「もう、冷たいなあ」

 雨子はむっと顔をしかめて、口をとがらせた。 もう、せっかく楽しく話が盛り上がってたのになあ。 そう思いながらふいっと身を返して、その場から去っていく。
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