59 / 100
第六章 新しい街の始まり・初日
第59話 祭りの会議に行くわよっっ!!
しおりを挟む
一日が終わり、夕方になってきた。
街は、混乱を終えての初日を乗り切ったようだ。 新しい人たちの仕事とか、住む場所を探したりなど色々あったようだが、何とかなったみたいだ。
街の中には、ほっとしたような安堵感が流れている。 でも、ちょっと違う空気も感じられる。 刺激的で、新鮮で、不安定な感じ……。 日常は戻ってきたはずなのに、やっぱり違った風に見える。
フワフワと浮いたような雰囲気の街を、小春が元気に走っていた。
ふふふーん♪ 今日もいい一日だったわ。 市場で気持ち良く歌ったし、新しい都市伝説もたくさん見つかったし!
さて、憶え屋にでも行ってみようかしら。 あいつ、どうなったかしらね……ほらあの、ボサボサの髪の目つきの悪い男よ。 ……誰だっけ? あそう、マツリよ。
あいつは目つきは悪いけどねえ、意外と真面目に仕事するっていうのが、私の見立てなのよ。
憶え屋の本社に近づいていくと、中から巫女のアマネが出てきた。
「あら、アマネ」
「んー」
んーってなによ、相変わらず適当な返事ね。 ……というかアマネも、憶え屋を使うのね。 山の中に住んでるかと思ってたから、意外だわ。
憶え屋に入ると、そろそろ店じまいかというところだった。 客の対応をしている人もいるが、片付けを始めている人も見える。
「はー! ……あ、いた」
辺りをさらっと見ていくと、壁のほうにマツリがいた。 仕事を終えて、ゆっくりしながら壁を眺めているみたいだ。
憶え屋の壁には、誰でも読んでいいし書き込んでいい『公開口座』が、並べて示されている。 そしてそれだけでなく、学習用の文字表も張り出している。 文字が読めない人が勉強するために、張り出したらしい。
マツリは張り出された学習用の文字表と、公開口座を、ちらちらと視線を往復させて見比べているようだ。 まだ文字が読めないから、暗号を解読するみたいに、一文字ずつ確認していっているんだろう。
物静かすぎるクルミが、そばに突っ立っているが、黙っているので相変わらず存在感がない。
「マツリー! ……どうだった? どんな調子よ?」
小春は壁際に行くと、気さくにマツリの顔を下から覗き込む。
「……ん? あぁ、お前か」
壁のほうを見ていたマツリは、ちらっと目を下にやって小春を見ると、壁のほうに目を戻していった。
……へえ、ずいぶん熱心に、壁の文字表を眺めてるじゃない。 この街に来て初日なのに、もう文字憶えようとしてんのかしら。 この人、勉強熱心ねえ。
「あんた、文字憶えてんの?」
「そりゃそうだろ。 いずれ必要になるだろうよ」
文字は便利だから、覚えられるなら覚えておいた方がいい。 憶え屋が発達したところで、いちいち人に聞かなきゃいけないから、面倒くさいのだ。
「まあ、そうね。 ……あ! それどころじゃないのよ、祭りよ、祭り!」
「あ? なんだ?」
マツリは名前を呼ばれたと思ったのか、ぎょっとしたように振り向く。
……あぁいや、あんたのことじゃないんだけどね。 この時期になると、毎年やるお祭りがあるのよ。
みんなで歌って踊って、夜まで騒いでね。 気分が盛り上がって、いい感じになるのよ。
「これから、祭りの会議があるのよ! あんたも、行くよっ」
せっかくこの街に来たんなら、あんたも楽しみなさいっ!! 私はびしっと指を突きつけて、ポーズを決めてみせる。
しかしマツリは顔をしかめて、面倒くさそうな顔をした。
「祭りー? ……はっ」
そういって鼻で笑うと、また壁のほうを眺めだす。 なんで俺がそんな下らねえことしなきゃいけねえんだよとか、考えてそうな顔ね。
「また、鼻で笑うわね。 結構面白いのよ?」
夜まで騒いで、お酒を飲みまくって……。 街のふだんの宴会の、大規模バージョンみたいなもんね。 やってることは、大して変わんないんだけど。
マツリは壁を眺めながら、相槌を打った。
「ふーん……何するんだ?」
「普通に、みんなで歌ったり踊ったり……」
「うわ、つまんね」
苦い虫を食ったみたいに、マツリは顔をそむける。 あんた、相変わらず面倒くさい性格ねえ。 まったく、最近の若者は。 シャキッとしなさいよっ!
「ほらまた。 つまんないかどうかは、行ってみなきゃ分かんないじゃない! ……あ、ユメ」
2人が雑談をしていると、向こうからユメが歩いてきていた。 店の奥から、廊下を通ってこっちに来る。 ちょっと疲れたような顔に見えるけど、気のせいよね。
「ユメも、祭りの会議行かない? 仕事、そろそろ終わるでしょ?」
ユメはその場に来ると、ゆっくりと立ち止まっていった。 あーとか、んーとか、曖昧な声を出して考えながら、店の中を振り返っていく。
憶え屋も少しずつ閉店に向かっているようだし、もういいかな。 仕事場を一通り眺めて、返事をしていく。
「うーん。 ……そうだね、行ってみようかな」
「よしきたっ!」
「おーい、呼んだか?」
背後からの別の声に振り返ると、ミツバが来ていた。 憶え屋の入り口をくぐり、のんびりした足取りで歩いてくる。 来たわね! 私がさっき、伝言で呼んでおいたのよ。 みんなで祭りの会議に行くわよ!
「あ、ミツバ!」
「祭りの会議あるらしいけど、行くか?」
ミツバもどこかで聞きつけたみたいだ、祭りの会議へと誘ってくる。 私は張り切って、腕を振るって声を上げた。
「もちろん、行くわよ! みんなで一緒に行きましょうっ! ほら、マツリ、行くわよ!」
壁際に近づいて、マツリに声をかけていく。 ……だが、マツリは無視して壁のほうを眺め続けている。 ほらあんた、こっち見なさいっ!!
「マツリーーっっ!!!」
私は渾身のわちゃわちゃ攻撃を開始した。 目の前で手をばたつかせて、ついでに無意味に足もバタつかせていく。
マツリは顔をしかめてこっちを見た。
「うるっせえな、お前! なんだ、祭りの会議? はぁ……」
ため息をつきつつも、マツリは壁から離れていった。 行く気があるみたいだが、かったるいように首を回しながら、格好つけている。
「よし! じゃあ、出発しんこーう!」
まだまだ今日一日、終わってないわよっ!! 私は元気の有り余る体をビシバシと振って、先頭を歩いていく。
小春やユメたちは、夕方の街を歩きだした。
料理の煙が流れてくる道を、汁物をすすりながら歩く人が通りがかっていく。 落ち着きないわねえ、食べる時ぐらい、座って食べなさいよ。
先頭をズンズンと歩いていた私は、後ろを振り返った。
「そういえば、ユメ、あんたもなんか都市伝説探してるって聞いたけど」
なんの都市伝説かは知らないけど、そういう話を耳にしたわよ。
目線の先で、ユメは考えるように目を伏せる。 もったいぶったようにして、言いづらそうに答えた。
「あー……。 ……まあ、ちょっとね」
なによ、ずいぶん歯切れ悪いわね。 ユメって、こういうとこあるのよねえ。 心の中で思ってることがあるのに、口に出さないっていうか……。
私なんて、思ったこと全部言っちゃうのに。 言う必要のない時までポンポン出ちゃうんだから、ヤバいわよ。 どうしよう、第2病院にでも行こうかしら。
横でユメは、ぼんやりと何かを考えているようだ。 思わせぶりな感じで俯いて、憂いのある目をしている。 じつは晩ごはんのことしか考えてなかったら、ウケるわね。
「……ねえ、まだ殺人鬼の噂、流れてるみたいだね」
「え、そうなの?」
思わず間抜けな声で返事をしてしまう。
いきなり、何? 殺人鬼って……。 昨日の混乱の中で、流れた噂のこと? でも、それはデマだったんでしょ。
……病院の包帯グルグル巻きのアキラが、私に忠告したらしいけど。 うーん、私も悪気は無かったんだけどねえ。 慌てたもんだから、しょうがないのよ、うん。
適当に自分で言い訳していると、ユメが俯いたまま続ける。
「うん。 あと、城に誰かが置いてってた紙に書かれてたんだけど、なんか破滅的な未来がどうのとか……」
また誰かがメモ紙を、城に置いてったの? ……名前は書かないで、しかも内容は破滅的な未来?!
アキラ……あんた、いい加減にしなさいよ。 私にデマが云々とか言ってるやつが、自分でデマ流してどうすんのよっ!
……え、まだデマだと決まってないって? アキラが書いたのかも、分からないって? そんなわけないでしょ、こんなの絶対デマよ!!
見なさいよ、この明るさにあふれた街を!!!
焼き魚を食べながら走ってるやつがいて、汁物を飛び跳ねながらすすってるやつがいて……だからあんたたち、落ち着いて食べなさいよ。
マツリもなんか未来が暗いからもう終わりだみたいなこと言ってたけど、そんなことないのよっ!!!
「あー、もうっ! ……みんな、ちょっと混乱が起きたからって、乱れすぎなのよ。 未来なんて知らないわよ、世界は、今ここにしかないのよっ!」
ビシッとそういって、ポーズを決めてみせる。
そうよ! 私、いいこと言うじゃないっ!
……。 ……。 ……。 ……。
……あれ、誰も反応しないんだけど。 みんな黙り込んで、心なしか俯いている。 ……え、本当に破滅するの? マジ?
私は冷めた空気に耐えかねて、ミツバのほうを見た。
「……ちょっと、なんか言いなさいよ」
「え? ……あぁ、まあ、そうだなw」
そんなことを話していると、一行は降霊洞穴にたどり着いた。 よく分からないが、今回はここで祭りの会議をやるらしい。
「まったくもー……みんな、ノリ悪いわねえ」
小春は口を尖らせながら、洞穴の中へと入っていく。
降霊洞穴の中は、人で一杯だった。 昨日、歌子や雨子たちと入った時とは違い、辺りにはたくさんの人が歩いている。
洞穴の中は明るくて、大量の火がともされていた。 人が多いのもあって、空気も暖かく感じる。
入り口は少し高いところにあり、近くには大きな階段があった。 下りた先には広い平地のように開けた場所が見える。 平地部分からは、いくつか通り道があり、降霊洞穴の色んな場所へと行けるように繋がっている……ということだった。 源なんかも、昨日行ったわね。
一行は、下へ向かう階段を下り始めた。 横には階段に沿って、牢屋のような小部屋が続いている。 雨子が50年前に、巫女として修行していた時に使っていた部屋だ。 今日は人が多いからか、階段から脇にどけられてる感じで、暗い小部屋はほとんど存在感がない。
後ろで歩くマツリは、大柄な体で階段を下りていきながら、辺りをきょろきょろと眺めている。 この場所の役割や機能なんかに、興味があったりするんだろうか。
昨日来た時と比べて、人が多く行き来しているからか、階段が狭く感じられる。
「……ここって、こんな風に使う場所なの?」
人をよけながら階段を下りていた小春が、ふと疑問に思ったことを口にした。
見回すと、祭りの話し合いを前にして、人々は楽しそうに話している。 でも、ここは本来降霊術のための場所じゃないの?
ユメが辺りを見回しながら、どうでもよさそうに答えた。
「いいんじゃない? どうせ放っておいたって、何にも使わないんだし」
聞くところによると、50年前に降霊術の技術が発達してからは、全然使わなくなったらしい。 まあそうか、どうでもいいわね。
階段を下りて、平地の部分に来た。 そこにはすでに多くの人が座り込んでいて、あちこちで話し声がしていた。 みな会議を前にして楽しそうだ。
座る場所を探して歩いていく一行に、通りがかったおじさんが声をかけてくる。
「お! 小春ちゃん、久しぶり、元気そうだね」
「あ、おっちゃん! そうよ、私、元気しかないんだからっ」
ポーズを決めてニカッと笑う小春を見て、おじさんは笑いながら通り過ぎていく。
会場の後ろを進んで、座る場所を探していたミツバが、きょろきょろしながら言った。
「どこ座ろうか?」
「どこでもいいじゃん。 ……ここでいいよ」
どうでもいいようにユメが言いながら、その辺で腰を下ろしていく。 それに続いて、他の人も適当に座っていった。 前のほうに張り出して小春が、その後ろにみんなが座るって感じだ。
それぞれが座る場所を調整していると、いよいよ会議が始まった。
街は、混乱を終えての初日を乗り切ったようだ。 新しい人たちの仕事とか、住む場所を探したりなど色々あったようだが、何とかなったみたいだ。
街の中には、ほっとしたような安堵感が流れている。 でも、ちょっと違う空気も感じられる。 刺激的で、新鮮で、不安定な感じ……。 日常は戻ってきたはずなのに、やっぱり違った風に見える。
フワフワと浮いたような雰囲気の街を、小春が元気に走っていた。
ふふふーん♪ 今日もいい一日だったわ。 市場で気持ち良く歌ったし、新しい都市伝説もたくさん見つかったし!
さて、憶え屋にでも行ってみようかしら。 あいつ、どうなったかしらね……ほらあの、ボサボサの髪の目つきの悪い男よ。 ……誰だっけ? あそう、マツリよ。
あいつは目つきは悪いけどねえ、意外と真面目に仕事するっていうのが、私の見立てなのよ。
憶え屋の本社に近づいていくと、中から巫女のアマネが出てきた。
「あら、アマネ」
「んー」
んーってなによ、相変わらず適当な返事ね。 ……というかアマネも、憶え屋を使うのね。 山の中に住んでるかと思ってたから、意外だわ。
憶え屋に入ると、そろそろ店じまいかというところだった。 客の対応をしている人もいるが、片付けを始めている人も見える。
「はー! ……あ、いた」
辺りをさらっと見ていくと、壁のほうにマツリがいた。 仕事を終えて、ゆっくりしながら壁を眺めているみたいだ。
憶え屋の壁には、誰でも読んでいいし書き込んでいい『公開口座』が、並べて示されている。 そしてそれだけでなく、学習用の文字表も張り出している。 文字が読めない人が勉強するために、張り出したらしい。
マツリは張り出された学習用の文字表と、公開口座を、ちらちらと視線を往復させて見比べているようだ。 まだ文字が読めないから、暗号を解読するみたいに、一文字ずつ確認していっているんだろう。
物静かすぎるクルミが、そばに突っ立っているが、黙っているので相変わらず存在感がない。
「マツリー! ……どうだった? どんな調子よ?」
小春は壁際に行くと、気さくにマツリの顔を下から覗き込む。
「……ん? あぁ、お前か」
壁のほうを見ていたマツリは、ちらっと目を下にやって小春を見ると、壁のほうに目を戻していった。
……へえ、ずいぶん熱心に、壁の文字表を眺めてるじゃない。 この街に来て初日なのに、もう文字憶えようとしてんのかしら。 この人、勉強熱心ねえ。
「あんた、文字憶えてんの?」
「そりゃそうだろ。 いずれ必要になるだろうよ」
文字は便利だから、覚えられるなら覚えておいた方がいい。 憶え屋が発達したところで、いちいち人に聞かなきゃいけないから、面倒くさいのだ。
「まあ、そうね。 ……あ! それどころじゃないのよ、祭りよ、祭り!」
「あ? なんだ?」
マツリは名前を呼ばれたと思ったのか、ぎょっとしたように振り向く。
……あぁいや、あんたのことじゃないんだけどね。 この時期になると、毎年やるお祭りがあるのよ。
みんなで歌って踊って、夜まで騒いでね。 気分が盛り上がって、いい感じになるのよ。
「これから、祭りの会議があるのよ! あんたも、行くよっ」
せっかくこの街に来たんなら、あんたも楽しみなさいっ!! 私はびしっと指を突きつけて、ポーズを決めてみせる。
しかしマツリは顔をしかめて、面倒くさそうな顔をした。
「祭りー? ……はっ」
そういって鼻で笑うと、また壁のほうを眺めだす。 なんで俺がそんな下らねえことしなきゃいけねえんだよとか、考えてそうな顔ね。
「また、鼻で笑うわね。 結構面白いのよ?」
夜まで騒いで、お酒を飲みまくって……。 街のふだんの宴会の、大規模バージョンみたいなもんね。 やってることは、大して変わんないんだけど。
マツリは壁を眺めながら、相槌を打った。
「ふーん……何するんだ?」
「普通に、みんなで歌ったり踊ったり……」
「うわ、つまんね」
苦い虫を食ったみたいに、マツリは顔をそむける。 あんた、相変わらず面倒くさい性格ねえ。 まったく、最近の若者は。 シャキッとしなさいよっ!
「ほらまた。 つまんないかどうかは、行ってみなきゃ分かんないじゃない! ……あ、ユメ」
2人が雑談をしていると、向こうからユメが歩いてきていた。 店の奥から、廊下を通ってこっちに来る。 ちょっと疲れたような顔に見えるけど、気のせいよね。
「ユメも、祭りの会議行かない? 仕事、そろそろ終わるでしょ?」
ユメはその場に来ると、ゆっくりと立ち止まっていった。 あーとか、んーとか、曖昧な声を出して考えながら、店の中を振り返っていく。
憶え屋も少しずつ閉店に向かっているようだし、もういいかな。 仕事場を一通り眺めて、返事をしていく。
「うーん。 ……そうだね、行ってみようかな」
「よしきたっ!」
「おーい、呼んだか?」
背後からの別の声に振り返ると、ミツバが来ていた。 憶え屋の入り口をくぐり、のんびりした足取りで歩いてくる。 来たわね! 私がさっき、伝言で呼んでおいたのよ。 みんなで祭りの会議に行くわよ!
「あ、ミツバ!」
「祭りの会議あるらしいけど、行くか?」
ミツバもどこかで聞きつけたみたいだ、祭りの会議へと誘ってくる。 私は張り切って、腕を振るって声を上げた。
「もちろん、行くわよ! みんなで一緒に行きましょうっ! ほら、マツリ、行くわよ!」
壁際に近づいて、マツリに声をかけていく。 ……だが、マツリは無視して壁のほうを眺め続けている。 ほらあんた、こっち見なさいっ!!
「マツリーーっっ!!!」
私は渾身のわちゃわちゃ攻撃を開始した。 目の前で手をばたつかせて、ついでに無意味に足もバタつかせていく。
マツリは顔をしかめてこっちを見た。
「うるっせえな、お前! なんだ、祭りの会議? はぁ……」
ため息をつきつつも、マツリは壁から離れていった。 行く気があるみたいだが、かったるいように首を回しながら、格好つけている。
「よし! じゃあ、出発しんこーう!」
まだまだ今日一日、終わってないわよっ!! 私は元気の有り余る体をビシバシと振って、先頭を歩いていく。
小春やユメたちは、夕方の街を歩きだした。
料理の煙が流れてくる道を、汁物をすすりながら歩く人が通りがかっていく。 落ち着きないわねえ、食べる時ぐらい、座って食べなさいよ。
先頭をズンズンと歩いていた私は、後ろを振り返った。
「そういえば、ユメ、あんたもなんか都市伝説探してるって聞いたけど」
なんの都市伝説かは知らないけど、そういう話を耳にしたわよ。
目線の先で、ユメは考えるように目を伏せる。 もったいぶったようにして、言いづらそうに答えた。
「あー……。 ……まあ、ちょっとね」
なによ、ずいぶん歯切れ悪いわね。 ユメって、こういうとこあるのよねえ。 心の中で思ってることがあるのに、口に出さないっていうか……。
私なんて、思ったこと全部言っちゃうのに。 言う必要のない時までポンポン出ちゃうんだから、ヤバいわよ。 どうしよう、第2病院にでも行こうかしら。
横でユメは、ぼんやりと何かを考えているようだ。 思わせぶりな感じで俯いて、憂いのある目をしている。 じつは晩ごはんのことしか考えてなかったら、ウケるわね。
「……ねえ、まだ殺人鬼の噂、流れてるみたいだね」
「え、そうなの?」
思わず間抜けな声で返事をしてしまう。
いきなり、何? 殺人鬼って……。 昨日の混乱の中で、流れた噂のこと? でも、それはデマだったんでしょ。
……病院の包帯グルグル巻きのアキラが、私に忠告したらしいけど。 うーん、私も悪気は無かったんだけどねえ。 慌てたもんだから、しょうがないのよ、うん。
適当に自分で言い訳していると、ユメが俯いたまま続ける。
「うん。 あと、城に誰かが置いてってた紙に書かれてたんだけど、なんか破滅的な未来がどうのとか……」
また誰かがメモ紙を、城に置いてったの? ……名前は書かないで、しかも内容は破滅的な未来?!
アキラ……あんた、いい加減にしなさいよ。 私にデマが云々とか言ってるやつが、自分でデマ流してどうすんのよっ!
……え、まだデマだと決まってないって? アキラが書いたのかも、分からないって? そんなわけないでしょ、こんなの絶対デマよ!!
見なさいよ、この明るさにあふれた街を!!!
焼き魚を食べながら走ってるやつがいて、汁物を飛び跳ねながらすすってるやつがいて……だからあんたたち、落ち着いて食べなさいよ。
マツリもなんか未来が暗いからもう終わりだみたいなこと言ってたけど、そんなことないのよっ!!!
「あー、もうっ! ……みんな、ちょっと混乱が起きたからって、乱れすぎなのよ。 未来なんて知らないわよ、世界は、今ここにしかないのよっ!」
ビシッとそういって、ポーズを決めてみせる。
そうよ! 私、いいこと言うじゃないっ!
……。 ……。 ……。 ……。
……あれ、誰も反応しないんだけど。 みんな黙り込んで、心なしか俯いている。 ……え、本当に破滅するの? マジ?
私は冷めた空気に耐えかねて、ミツバのほうを見た。
「……ちょっと、なんか言いなさいよ」
「え? ……あぁ、まあ、そうだなw」
そんなことを話していると、一行は降霊洞穴にたどり着いた。 よく分からないが、今回はここで祭りの会議をやるらしい。
「まったくもー……みんな、ノリ悪いわねえ」
小春は口を尖らせながら、洞穴の中へと入っていく。
降霊洞穴の中は、人で一杯だった。 昨日、歌子や雨子たちと入った時とは違い、辺りにはたくさんの人が歩いている。
洞穴の中は明るくて、大量の火がともされていた。 人が多いのもあって、空気も暖かく感じる。
入り口は少し高いところにあり、近くには大きな階段があった。 下りた先には広い平地のように開けた場所が見える。 平地部分からは、いくつか通り道があり、降霊洞穴の色んな場所へと行けるように繋がっている……ということだった。 源なんかも、昨日行ったわね。
一行は、下へ向かう階段を下り始めた。 横には階段に沿って、牢屋のような小部屋が続いている。 雨子が50年前に、巫女として修行していた時に使っていた部屋だ。 今日は人が多いからか、階段から脇にどけられてる感じで、暗い小部屋はほとんど存在感がない。
後ろで歩くマツリは、大柄な体で階段を下りていきながら、辺りをきょろきょろと眺めている。 この場所の役割や機能なんかに、興味があったりするんだろうか。
昨日来た時と比べて、人が多く行き来しているからか、階段が狭く感じられる。
「……ここって、こんな風に使う場所なの?」
人をよけながら階段を下りていた小春が、ふと疑問に思ったことを口にした。
見回すと、祭りの話し合いを前にして、人々は楽しそうに話している。 でも、ここは本来降霊術のための場所じゃないの?
ユメが辺りを見回しながら、どうでもよさそうに答えた。
「いいんじゃない? どうせ放っておいたって、何にも使わないんだし」
聞くところによると、50年前に降霊術の技術が発達してからは、全然使わなくなったらしい。 まあそうか、どうでもいいわね。
階段を下りて、平地の部分に来た。 そこにはすでに多くの人が座り込んでいて、あちこちで話し声がしていた。 みな会議を前にして楽しそうだ。
座る場所を探して歩いていく一行に、通りがかったおじさんが声をかけてくる。
「お! 小春ちゃん、久しぶり、元気そうだね」
「あ、おっちゃん! そうよ、私、元気しかないんだからっ」
ポーズを決めてニカッと笑う小春を見て、おじさんは笑いながら通り過ぎていく。
会場の後ろを進んで、座る場所を探していたミツバが、きょろきょろしながら言った。
「どこ座ろうか?」
「どこでもいいじゃん。 ……ここでいいよ」
どうでもいいようにユメが言いながら、その辺で腰を下ろしていく。 それに続いて、他の人も適当に座っていった。 前のほうに張り出して小春が、その後ろにみんなが座るって感じだ。
それぞれが座る場所を調整していると、いよいよ会議が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる