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第八章 混ざっていく世界、『時のはざま』
第80話 300年前に着いた! まずは蔵の中を調査しよう!
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それから少しして、3人は地下の中にいた。
3人は縦に並んで、狭く暗い階段を上がっている。 他には見えるものは何もない。 ……一体ここはどこだろう? さっきは図書館から続く階段のところにいたが、もうここは300年前なんだろうか。
「これは、どこに出るの? ……一族の家の、地下か?」
病院から解放された冷静なアキラが、階段の前のほうを見ながら言う。 先頭を歩くイトは、振り返らずに答えた。
「うん、多分……」
『イトちゃん、来た?』
耳元から、声が聞こえた。 さっき聞いた、コガネの声だ。 引き続き通信を取っているようだ。
イトは階段を上りながら、手を頭に当てて答えた。
「あ、はい」
『そこ、蓋があるから、それどけて、そのまま出てって』
前のほうに目を凝らしてみると、暗いから分かりにくいが、上のほうに何か遮るものが見えていた。 イトは分かりましたと答えて、手を蓋にかけてガガっとどけていく。
開いた穴の上に出ていくと、そこには別の空間が広がっていた。 蔵のような場所で、光は少なく薄暗い。 部屋には棚のようなものが並び、中には大量の土器が収納されている。
「……ここは?」
『そこが、例の酒蔵だよ。 酒は、適当に持ってっていいから』
ここは酒蔵のようだ。 周りの棚に収納されている土器には、お酒が入っているらしい。
『時のはざま』の話は、最初はコガネが蔵で目覚めるところから始まっていた。 そこから上にハシゴを上っていくと一族の家があり、そこから玄関を通って外に出ていく……というような感じだった。
ここが、300年前のスタート地点ということだろうか。 どうやら3人は、300年前に着いたらしい。
イトは穴から出ていくと、辺りを興味深そうに眺めていた。 イトはふだん酒の研究をしているから、ここの酒に興味があるんだろう。
酒を持ち帰っていいと聞き、イトは分かったと答えると、棚の間を歩いていった。
一方で、大人しくて茶目っ気のある千代は、それとは別に歩いていた。 何かを探しているようで、蔵の中を見回しながら、通信相手のコガネに聞いていく。
「えーっと……病気って人は、どこ?」
『あぁ、そこ一応地下だから、上に上がってきて』
一族の人には、病気の人が2人ほどいるという話だった。 コガネの父親と、3つ目の家族のいとこだ。
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この中の、1つ目の家族のハナの父親……村の一番の権力者である人と、2つ目の家族のコガネの母親が、『時のはざま』の中で逃げていた2人だった。
逃げていた理由は、結局まだ明らかになっていない。 降霊洞穴で見つかったという骨は2人のものではなかったが、逃げた後に殺されていないと決まったわけでもないのだ。
そして、一族の病気にかかっていた2人は、家の奥に寝ていたという。
千代は今、この人たちを探しているようだ。 現代の病院に勤めているから、300年前に来て診察する約束でもしていたんだろうか。
千代は周りを見ながら、蔵の中を歩いていく。 『時のはざま』の中では真っ暗で何も見えなかったが、今度はちゃんと見える。
辺りには、日の光がうっすらと入ってきていて、薄暗いながらも部屋の様子が分かった。 地下とは言っても、半分ぐらいは外に露出しているようだ。 壁の隙間から、いくつも光の線が差し込んできている。
歩いていると、やがて一つのハシゴを見つけた。 部屋の角に立てられていて、上の方へと続いているのが見える。
「このハシゴ?」
『あ、そう。 そこも蓋があるよ』
見ると、ハシゴの先の天井にも蓋のようなものがあり、この蔵と上にある一族の家を隔てていた。 千代はハシゴを上っていくと、腕を持ち上げて蓋をどけて上へと出ていく。
穴を出ると、一族の家の様子が目に入ってきた。 建物の廊下に出たらしく、周りを見ると土の壁が張り巡らせてある。 後ろを振り返ると壁があるから、廊下の行き止まりの所にこの穴はあるらしい。
家の作りは、ぱっと見は現代の日本のような建築に近い。 廊下があって、部屋がいくつも連なっていて……。 一族は、かなり未来的な建築を300年前に作っていたようだ。 こんな形の個人の住居は、複雑化した建物が多い現代にもないのだ。
廊下の床は、土の地面だった。 辺りには土の壁が張り巡らされていて、ところどころに大きな木の柱が立っているのが見える。 木の柱は、高いところにある大きな天井まで続いていた。
どうやらこの家は、土と木を組み合わせて作ってあるようだ。 木を使って支えを組み、壁は土でできている。 個室のような部屋を作って、それをいくつも組み合わせて一つの家を作っているようだ。
そして全ての部屋をまとめるように、大きな天井が上のほうに掲げられているという構造らしい。
たくさんある部屋を、いくつかの家族で分配して住んでいたんだろう。 一族の全盛期には、5,6個の家族が同居していたというから、それらが一つにまとまって大きな家を作っているというところだろうか。
千代は周囲の景色を眺めながら穴から出ていっていると、廊下に急に足音が聞こえてきた。 いきなり目の前に、人影が飛び出してくる。
「きゃっ!」
「あ、ごめん、俺w」
姿を現した男は、軽い調子でへらへらと笑いながら自分を指した。 10代後半の若い男が、そこには立っていた。 現代風の装いをしていて、男だが頭には髪飾りをつけている。
どうやらこの人が、コガネのようだ。 楽しそうに笑っていて、ちょっとお気楽な感じに見える。 憶え屋ではマイペースに見えたが、それは正しいのかもしれない。 髪飾りで通信しながらここまで歩いてきたんだろう。
「あぁ、なんだw」
千代は笑って力を抜くと、ハシゴを上りきって家の中へと這い出していった。
入れ違いになるように、コガネは地下へのハシゴを下りていった。 慣れた足取りで下りながら、蔵のどこかにいるイトへと呼びかけていく。
「どうー? ……イトー」
蔵の奥のほうで、イトは一つの棚の前にしゃがんでいた。 肩から下げたポーチには、試験管のような透明な小瓶がたくさん入っていた。 その小瓶の中に、酒を一種類ずつ、ちょっとずつ移していっているようだ。
小瓶を用意していたということは、酒をもらう約束を事前にしていたんだろうか。
コガネが蔵の中を歩いていると、耳元から通信の声が聞こえてきた。 立場が変わって、今度は通信相手は千代になったようだ。
『あれ? ……ねえ、どこの部屋だっけ?』
千代はどうやら家の中で迷ったらしく、戸惑ったような声で聞いてきた。
蔵の中でコガネは立ち止まると、天井を見上げた。 さっきハシゴから出た所で千代とすれ違ったのを思い返しながら、聞き返す。
「今、どこ?」
『えーっと……さっきすれ違ったところから、右に曲がって進んで……突き当たったら、左には廊下が続いてて、右には扉があるんだけど。 ……この、扉?』
よく分からんけど、そこは違うぜ。 その部屋は、一族が偉ぶった儀式などを行うための、『祭祀場』と呼ばれる場所だ。
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それとは逆の道が、行くべき方向だ。 ……というか千代、さっきのところから真っ直ぐ行けば、目的の部屋には行くことが出来たのに。
「あ、いや、そっちは祭祀場。 そっちじゃなくて、廊下の方をまっすぐ行って。 そしたら、突き当たるから……」
説明していると、通信の向こうで千代が歩きだしたようだ。 小さくトントンと、足音が聞こえてくる。 同時に何かを見つけたのか、不思議そうな声で聞いてきた。
『あれ、こっち……廊下の左側って、これ何? ……建物?』
それは、一族の蔵だぜ。 一族の溜め込んだお宝なんかが、ギッシリと入ってるんだ。 こんなに権力を誇示するみたいになー……まったく、そこまでして偉い人になりたいんかね。
『時のはざま』で逃げてた2人……俺の母さんとハナの父さんが、この頃は特に執着して集めてたなー……。 あの2人、権力が大好きでさw
ハナなんかも、ほとほと嫌気がさしてるみたいだったなw 下らない家だって、日ごろからブツブツ言ってたのは、まあ俺も同意だったけどw
「あぁ、それはもう一つの蔵。 別に、大したもんは入ってないよ」
通信の向こうの千代は、細かい事情は知らないみたいだ。 よく分からないような口ぶりで、ふうんと頷く。
「で、突き当たったら、左に曲がって、3番目と4番目の部屋ね」
『あぁ、分かった』
話を終えて、コガネは蔵の中に目を戻す。
気づくと、近くにはアキラがいた。 蔵の中の棚を眺めているようだ。 ずらりと並べられた酒を見て、感心したように呟く。
「よく、こんなに種類、集めたな」
「うん。 色んな地方からのと……それに、うちのじいさんが、酒を研究するのが好きだったんだよね」
この頃って、他の場所との交流が盛んだったんだ。
一族の人たちって、まあ権力が好きなのもそうだけど、ハイカラっていうか最先端好きでもあったんだ。 率先して、色々な地方の人たちと交流してたみたいなんだよね。
この家の建築も、大陸からの知識をベースにしてるらしいし。
「……あれ、漢字がある?」
棚を見ていたアキラが呟いた。 見ると、酒の棚には、それぞれの土器の前に漢字が書かれている。
「うん、別にまともに読めるやつはいないんだけどね。 ただ酒を見分けるための印として、使ってるみたい」
この時代には、文字は使われてはなかったぜ。 俺はこの蔵でよく遊んでたから、遊びで少し覚えたけど。 この島で本格的に文字が使われるようになったのは、やっぱり最近らしいな。
アキラは理解するように頷くと、唐突に話を変えた。
「ところで、なんでこの日、ここで寝てたの?」
この日……。 どうやら今は、『時のはざま』の事件の当日らしい。
これから時間がたって夜になると、お祭りが開催されて事件が起こるんだろう。 今は、その直前の昼ということだろうか。
コガネはなんでもないように答えた。
「いや、別に意味はないよ。 ここ、俺の秘密の遊び場だったんだよ。 よくここに来て、一人で勝手に遊んでたんだ」
『時のはざま』になる前……昼間には、ここで適当に遊んでたんだよな。 いつもみたいに一人遊びしてて、うとうとしてて、気づいたら夜になってたんだ。
「あっ! 懐かしいな、こんなのも、あったなw」
辺りを眺めていると、懐かしいものを発見した。 外に面した壁のほうへと歩いていき、床に落ちていた紙きれを拾い上げる。
広げてみると、それは島の地図だった。
「あぁ、これが、例の?」
「そう。 島の地図を自分で描いて、遊びの道具として使ってたんだ」
そう言いながら、しみじみとそれを眺めてみる。
最近は街でも新しい地図を作ろうという話になっているらしいけど、俺もこの時一人で島の地図を作ってたんだよな。 別に実用的な意味があったわけではなくて、単に遊びの道具としてな。
こういう風に作っておくと、島を全部使った空想のサバイバルゲームとか、空想の大人数の鬼ごっことか、色々考えられて楽しかったんだ。
……え、全部空想かよって? そうなんだよなー、今の時代なら人が多いからやれるかもしれないけどな。 よく分かんないけど、当時の俺は大規模な遊びに憧れてたんだ。
地図を眺めるコガネは、ずいぶん懐かしそうだ。 この祭りの日からも、長い間生きたのかもしれない。
一体コガネは、何歳になって死んだんだろう? 今は見た目は少年だが、この島では年齢は見た目では分からない。 子供をもうけて、二十歳を超えて、逞しい大人になったんだろうか。
コガネは少しの間、地図を懐かしそうに眺めていたが、やがてその辺にぽいっと捨てていった。 振り返って、イトのところへ向かっていく。
「イトー。 ……どう?」
棚の前に座り込んだイトは、酒を移す作業に没頭しているようだった。 相変わらず周りの物は見えていないようで、一心不乱に作業を続けている。
イトが肩に下げたポーチの中には、液体が入った試験管がカラカラと音を立てていた。 これを持って帰って、城とかで研究するんだろう。
手持ちの容器を使いつくしたのか、黙って作業をしていたイトがぼそっと呟いた。
「あぁもう、一杯になった。 ……容器、残ってない」
「また来れば?」
コガネが笑いながら言うと、しゃがんだままイトが振り返る。
「いいの?」
「いいよ。 ……千代ー、そっちはどう?」
髪飾りに手を当てて、今度は天井のほうへと目を向ける。 病人たちの診察は、どうなっただろうか。 家の中にいるはずの千代に呼びかけると、通信で返事が返ってきた。
『一応、2人とも見てみた』
どうやら千代の診察は終わったらしい。 こっちも終わったことだし、家の中に行って千代と合流しよう。
通信で話しながら、蔵の中のコガネたちはハシゴのほうへと歩いていく。
「ふーん、……で、どう?」
『うーん、奥の部屋の人は難しいけど、手前の部屋の人は治せるんじゃないかな……』
「あぁ、そうなんだな」
やっぱり、現代のほうが医療が進んでいるんだ。 この時は、医者の先生は2人ともダメだって言ってたし。
3人はハシゴを上って蔵を出ていき、家の中へと出ていった。 廊下に空いた穴から這い出していると、ちょうど診察を終えた千代が廊下を歩いて戻ってくる。
3人は縦に並んで、狭く暗い階段を上がっている。 他には見えるものは何もない。 ……一体ここはどこだろう? さっきは図書館から続く階段のところにいたが、もうここは300年前なんだろうか。
「これは、どこに出るの? ……一族の家の、地下か?」
病院から解放された冷静なアキラが、階段の前のほうを見ながら言う。 先頭を歩くイトは、振り返らずに答えた。
「うん、多分……」
『イトちゃん、来た?』
耳元から、声が聞こえた。 さっき聞いた、コガネの声だ。 引き続き通信を取っているようだ。
イトは階段を上りながら、手を頭に当てて答えた。
「あ、はい」
『そこ、蓋があるから、それどけて、そのまま出てって』
前のほうに目を凝らしてみると、暗いから分かりにくいが、上のほうに何か遮るものが見えていた。 イトは分かりましたと答えて、手を蓋にかけてガガっとどけていく。
開いた穴の上に出ていくと、そこには別の空間が広がっていた。 蔵のような場所で、光は少なく薄暗い。 部屋には棚のようなものが並び、中には大量の土器が収納されている。
「……ここは?」
『そこが、例の酒蔵だよ。 酒は、適当に持ってっていいから』
ここは酒蔵のようだ。 周りの棚に収納されている土器には、お酒が入っているらしい。
『時のはざま』の話は、最初はコガネが蔵で目覚めるところから始まっていた。 そこから上にハシゴを上っていくと一族の家があり、そこから玄関を通って外に出ていく……というような感じだった。
ここが、300年前のスタート地点ということだろうか。 どうやら3人は、300年前に着いたらしい。
イトは穴から出ていくと、辺りを興味深そうに眺めていた。 イトはふだん酒の研究をしているから、ここの酒に興味があるんだろう。
酒を持ち帰っていいと聞き、イトは分かったと答えると、棚の間を歩いていった。
一方で、大人しくて茶目っ気のある千代は、それとは別に歩いていた。 何かを探しているようで、蔵の中を見回しながら、通信相手のコガネに聞いていく。
「えーっと……病気って人は、どこ?」
『あぁ、そこ一応地下だから、上に上がってきて』
一族の人には、病気の人が2人ほどいるという話だった。 コガネの父親と、3つ目の家族のいとこだ。
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この中の、1つ目の家族のハナの父親……村の一番の権力者である人と、2つ目の家族のコガネの母親が、『時のはざま』の中で逃げていた2人だった。
逃げていた理由は、結局まだ明らかになっていない。 降霊洞穴で見つかったという骨は2人のものではなかったが、逃げた後に殺されていないと決まったわけでもないのだ。
そして、一族の病気にかかっていた2人は、家の奥に寝ていたという。
千代は今、この人たちを探しているようだ。 現代の病院に勤めているから、300年前に来て診察する約束でもしていたんだろうか。
千代は周りを見ながら、蔵の中を歩いていく。 『時のはざま』の中では真っ暗で何も見えなかったが、今度はちゃんと見える。
辺りには、日の光がうっすらと入ってきていて、薄暗いながらも部屋の様子が分かった。 地下とは言っても、半分ぐらいは外に露出しているようだ。 壁の隙間から、いくつも光の線が差し込んできている。
歩いていると、やがて一つのハシゴを見つけた。 部屋の角に立てられていて、上の方へと続いているのが見える。
「このハシゴ?」
『あ、そう。 そこも蓋があるよ』
見ると、ハシゴの先の天井にも蓋のようなものがあり、この蔵と上にある一族の家を隔てていた。 千代はハシゴを上っていくと、腕を持ち上げて蓋をどけて上へと出ていく。
穴を出ると、一族の家の様子が目に入ってきた。 建物の廊下に出たらしく、周りを見ると土の壁が張り巡らせてある。 後ろを振り返ると壁があるから、廊下の行き止まりの所にこの穴はあるらしい。
家の作りは、ぱっと見は現代の日本のような建築に近い。 廊下があって、部屋がいくつも連なっていて……。 一族は、かなり未来的な建築を300年前に作っていたようだ。 こんな形の個人の住居は、複雑化した建物が多い現代にもないのだ。
廊下の床は、土の地面だった。 辺りには土の壁が張り巡らされていて、ところどころに大きな木の柱が立っているのが見える。 木の柱は、高いところにある大きな天井まで続いていた。
どうやらこの家は、土と木を組み合わせて作ってあるようだ。 木を使って支えを組み、壁は土でできている。 個室のような部屋を作って、それをいくつも組み合わせて一つの家を作っているようだ。
そして全ての部屋をまとめるように、大きな天井が上のほうに掲げられているという構造らしい。
たくさんある部屋を、いくつかの家族で分配して住んでいたんだろう。 一族の全盛期には、5,6個の家族が同居していたというから、それらが一つにまとまって大きな家を作っているというところだろうか。
千代は周囲の景色を眺めながら穴から出ていっていると、廊下に急に足音が聞こえてきた。 いきなり目の前に、人影が飛び出してくる。
「きゃっ!」
「あ、ごめん、俺w」
姿を現した男は、軽い調子でへらへらと笑いながら自分を指した。 10代後半の若い男が、そこには立っていた。 現代風の装いをしていて、男だが頭には髪飾りをつけている。
どうやらこの人が、コガネのようだ。 楽しそうに笑っていて、ちょっとお気楽な感じに見える。 憶え屋ではマイペースに見えたが、それは正しいのかもしれない。 髪飾りで通信しながらここまで歩いてきたんだろう。
「あぁ、なんだw」
千代は笑って力を抜くと、ハシゴを上りきって家の中へと這い出していった。
入れ違いになるように、コガネは地下へのハシゴを下りていった。 慣れた足取りで下りながら、蔵のどこかにいるイトへと呼びかけていく。
「どうー? ……イトー」
蔵の奥のほうで、イトは一つの棚の前にしゃがんでいた。 肩から下げたポーチには、試験管のような透明な小瓶がたくさん入っていた。 その小瓶の中に、酒を一種類ずつ、ちょっとずつ移していっているようだ。
小瓶を用意していたということは、酒をもらう約束を事前にしていたんだろうか。
コガネが蔵の中を歩いていると、耳元から通信の声が聞こえてきた。 立場が変わって、今度は通信相手は千代になったようだ。
『あれ? ……ねえ、どこの部屋だっけ?』
千代はどうやら家の中で迷ったらしく、戸惑ったような声で聞いてきた。
蔵の中でコガネは立ち止まると、天井を見上げた。 さっきハシゴから出た所で千代とすれ違ったのを思い返しながら、聞き返す。
「今、どこ?」
『えーっと……さっきすれ違ったところから、右に曲がって進んで……突き当たったら、左には廊下が続いてて、右には扉があるんだけど。 ……この、扉?』
よく分からんけど、そこは違うぜ。 その部屋は、一族が偉ぶった儀式などを行うための、『祭祀場』と呼ばれる場所だ。
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それとは逆の道が、行くべき方向だ。 ……というか千代、さっきのところから真っ直ぐ行けば、目的の部屋には行くことが出来たのに。
「あ、いや、そっちは祭祀場。 そっちじゃなくて、廊下の方をまっすぐ行って。 そしたら、突き当たるから……」
説明していると、通信の向こうで千代が歩きだしたようだ。 小さくトントンと、足音が聞こえてくる。 同時に何かを見つけたのか、不思議そうな声で聞いてきた。
『あれ、こっち……廊下の左側って、これ何? ……建物?』
それは、一族の蔵だぜ。 一族の溜め込んだお宝なんかが、ギッシリと入ってるんだ。 こんなに権力を誇示するみたいになー……まったく、そこまでして偉い人になりたいんかね。
『時のはざま』で逃げてた2人……俺の母さんとハナの父さんが、この頃は特に執着して集めてたなー……。 あの2人、権力が大好きでさw
ハナなんかも、ほとほと嫌気がさしてるみたいだったなw 下らない家だって、日ごろからブツブツ言ってたのは、まあ俺も同意だったけどw
「あぁ、それはもう一つの蔵。 別に、大したもんは入ってないよ」
通信の向こうの千代は、細かい事情は知らないみたいだ。 よく分からないような口ぶりで、ふうんと頷く。
「で、突き当たったら、左に曲がって、3番目と4番目の部屋ね」
『あぁ、分かった』
話を終えて、コガネは蔵の中に目を戻す。
気づくと、近くにはアキラがいた。 蔵の中の棚を眺めているようだ。 ずらりと並べられた酒を見て、感心したように呟く。
「よく、こんなに種類、集めたな」
「うん。 色んな地方からのと……それに、うちのじいさんが、酒を研究するのが好きだったんだよね」
この頃って、他の場所との交流が盛んだったんだ。
一族の人たちって、まあ権力が好きなのもそうだけど、ハイカラっていうか最先端好きでもあったんだ。 率先して、色々な地方の人たちと交流してたみたいなんだよね。
この家の建築も、大陸からの知識をベースにしてるらしいし。
「……あれ、漢字がある?」
棚を見ていたアキラが呟いた。 見ると、酒の棚には、それぞれの土器の前に漢字が書かれている。
「うん、別にまともに読めるやつはいないんだけどね。 ただ酒を見分けるための印として、使ってるみたい」
この時代には、文字は使われてはなかったぜ。 俺はこの蔵でよく遊んでたから、遊びで少し覚えたけど。 この島で本格的に文字が使われるようになったのは、やっぱり最近らしいな。
アキラは理解するように頷くと、唐突に話を変えた。
「ところで、なんでこの日、ここで寝てたの?」
この日……。 どうやら今は、『時のはざま』の事件の当日らしい。
これから時間がたって夜になると、お祭りが開催されて事件が起こるんだろう。 今は、その直前の昼ということだろうか。
コガネはなんでもないように答えた。
「いや、別に意味はないよ。 ここ、俺の秘密の遊び場だったんだよ。 よくここに来て、一人で勝手に遊んでたんだ」
『時のはざま』になる前……昼間には、ここで適当に遊んでたんだよな。 いつもみたいに一人遊びしてて、うとうとしてて、気づいたら夜になってたんだ。
「あっ! 懐かしいな、こんなのも、あったなw」
辺りを眺めていると、懐かしいものを発見した。 外に面した壁のほうへと歩いていき、床に落ちていた紙きれを拾い上げる。
広げてみると、それは島の地図だった。
「あぁ、これが、例の?」
「そう。 島の地図を自分で描いて、遊びの道具として使ってたんだ」
そう言いながら、しみじみとそれを眺めてみる。
最近は街でも新しい地図を作ろうという話になっているらしいけど、俺もこの時一人で島の地図を作ってたんだよな。 別に実用的な意味があったわけではなくて、単に遊びの道具としてな。
こういう風に作っておくと、島を全部使った空想のサバイバルゲームとか、空想の大人数の鬼ごっことか、色々考えられて楽しかったんだ。
……え、全部空想かよって? そうなんだよなー、今の時代なら人が多いからやれるかもしれないけどな。 よく分かんないけど、当時の俺は大規模な遊びに憧れてたんだ。
地図を眺めるコガネは、ずいぶん懐かしそうだ。 この祭りの日からも、長い間生きたのかもしれない。
一体コガネは、何歳になって死んだんだろう? 今は見た目は少年だが、この島では年齢は見た目では分からない。 子供をもうけて、二十歳を超えて、逞しい大人になったんだろうか。
コガネは少しの間、地図を懐かしそうに眺めていたが、やがてその辺にぽいっと捨てていった。 振り返って、イトのところへ向かっていく。
「イトー。 ……どう?」
棚の前に座り込んだイトは、酒を移す作業に没頭しているようだった。 相変わらず周りの物は見えていないようで、一心不乱に作業を続けている。
イトが肩に下げたポーチの中には、液体が入った試験管がカラカラと音を立てていた。 これを持って帰って、城とかで研究するんだろう。
手持ちの容器を使いつくしたのか、黙って作業をしていたイトがぼそっと呟いた。
「あぁもう、一杯になった。 ……容器、残ってない」
「また来れば?」
コガネが笑いながら言うと、しゃがんだままイトが振り返る。
「いいの?」
「いいよ。 ……千代ー、そっちはどう?」
髪飾りに手を当てて、今度は天井のほうへと目を向ける。 病人たちの診察は、どうなっただろうか。 家の中にいるはずの千代に呼びかけると、通信で返事が返ってきた。
『一応、2人とも見てみた』
どうやら千代の診察は終わったらしい。 こっちも終わったことだし、家の中に行って千代と合流しよう。
通信で話しながら、蔵の中のコガネたちはハシゴのほうへと歩いていく。
「ふーん、……で、どう?」
『うーん、奥の部屋の人は難しいけど、手前の部屋の人は治せるんじゃないかな……』
「あぁ、そうなんだな」
やっぱり、現代のほうが医療が進んでいるんだ。 この時は、医者の先生は2人ともダメだって言ってたし。
3人はハシゴを上って蔵を出ていき、家の中へと出ていった。 廊下に空いた穴から這い出していると、ちょうど診察を終えた千代が廊下を歩いて戻ってくる。
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英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
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