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第八章 混ざっていく世界、『時のはざま』
第81話 一族の家を出よう!……と思ったら、薬を忘れたっ!
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3人はハシゴを上って蔵を出ていき、家の廊下へと出ていった。 穴から這い出していると、ちょうど診察を終えた千代が廊下を歩いて戻ってくる。
「お待たせー。 ……終わった?」
「じゃ、外行くか」
コガネはみんなが穴から出たのを確認すると、蓋を閉めていった。 廊下に出て、家の中を眺めていたアキラが、不意にボソッと呟く。
「家の空気、悪かったんだってな」
コガネが情報提供してくれた、日常の様子があった。 玄関から入ると、どこからか怒声が聞こえてくるなど、雰囲気はかなり悪かったように思えた。
コガネは廊下を慣れた足取りで歩きだしながら、振り返って笑った。
「あぁ、まあなw 俺はマシだったけど……ハナのおふくろは、毎日怒られて大変そうだったな。 ハナの父親の人が、結構面倒な人でさw」
どうやら怒られていたのは、ハナのお母さんだったらしい。 ハナの父親は自分の妻を怒鳴り散らして、逆にコガネの母親と仲良くしていたということだろうか? やりたい放題の人だったようだ。
一行は廊下を曲がると、すぐに玄関があった。 扉などは無く、ただぽっかりと穴が開いているだけの簡単なつくりだ。
玄関を通ろうとすると、ちょうど外から入ってくる人がいた。 古い服装をした、10代中ごろぐらいの女の子だ。
先頭を歩いていたコガネはその姿を見て、驚いたように声を上げた。
「ハナ! ……あぁそうか、この日か」
どうやらこの人が、いとこのハナのようだ。 パッと見た感じ、賢そうな女の子だ。
……ん? しかし、変な感じだ。 コガネは何を驚いているんだろう? あぁそうか、などと言って、何かに納得しているような様子でもある。 コガネは思いがけないことが起こったかのような表情で、不思議なものでも見るような目で目の前のハナを見つめていた。
玄関に入ってきたハナは、歩みを遅くしながらこっちを見た。 じろっと探るように4人を見て、先頭にいたコガネに話しかける。
「コガネ。 ……祭り、行かないの?」
「あぁ、後で行くよ」
「……そう」
話すハナの表情は、明るくもなく暗くも無かった。 表情を隠していて、よく分からない感じだ。 複雑な心を抱えた感じで、少なくとも底抜けに明るい性格ではないことは分かる。
一方でコガネは、なぜか楽しそうだ。 清々しく嬉しそうに声を弾ませて、ハナと話している。 ……どうしたんだろう? 現代の街に来て、コガネがどれだけ過ごしてきたかは分からないが、久しぶりだったりするんだろうか。
ハナは小さく頷くと、そのまますれ違っていった。 追うようにして振り返った千代は、その後ろ姿を見つめる。
「……あの子が、ハナちゃん?」
「うん、俺のいとこ」
そう言ってぼんやりとハナの後姿を見つめるコガネは、やはり懐かしそうな顔をしていた。
一行は玄関を出て、家の外へと出ていった。
『時のはざま』は真っ暗な夜で、しかも雨が降っていた。 月明かりも無くて暗い中を歩いていったわけだが、今は違う。 明るい昼で、天気も晴れていて午後の太陽が照りつけていた。
家のすぐ横には、降霊洞穴への入り口が見えていた。 ここは霊力が強い場所だから、洞穴の近くにこの大きな家を作ったってことなんだろう。
4人は家の前へと出ていくと、改めて家を振り返った。
一族の家は巨大で、見上げるほど大きかった。 手前の正面には祭祀場がデーンと見えていて、大陸風の木造建築で立派な装飾がついている。
ただの失踪事件を神隠しとか言っておおごとにして、この場所で『まつり』をやっていたんだろう。 ぞろぞろと人々がやってきて、宗教のようにひれ伏すのが目に浮かぶ。 ……フフフ……ムハハッ!!w
「へー! ……思ってたより、ずいぶん大きいな」
アキラが感心するように、建物を眺めて言う。 なかなかしっかりした建物だ、これなら風が吹いてもビクともしないだろう。
そう思っていると、同じように建物を見上げたコガネが言った。
「あぁ。 今にも崩れそうだろ?」
「……へ? そうなの?」
頓珍漢な発言に、アキラは素っ頓狂な声を出す。
もう一度建物を見てみても、やはりしっかりしていて頑丈に作られているように見える。 これが、今にも崩れそう? ……コガネの目には、何か別の物でも映っているんだろうか。
会話を聞いておかしくなったのか、横で千代が噴き出すようにして笑った。
「無理があるんだよ、こんな建物。 ……立派な祭祀場なんか作ってさ、ほんと、馬鹿みたいだ」
普段から一族に対して思う所でも、あるんだろうか。 コガネは軽い調子で、ペラペラと悪口を並べ立てた。
千代は楽しそうに笑っていたが、突然思い出したように声を上げた。
「あっ! 薬、忘れたっ! ごめん、先行ってて」
どうやら薬を置いてきてしまったらしい。 千代は慌てて身をひるがえし、再び家へと向かった。 急いで走って、家の玄関へと戻っていく。
さっきは遠回りしてしまったが、今度は間違えないぞ。 千代は玄関から入るとすぐに曲がって、目的の部屋へと一直線に向かった。 土の廊下をトントンっと軽やかに歩いていく。
歩いていきながら、ふと聞いた話を思い出した。 ……そういえばこの300年前の当時にも、現代の街の長……ハルが薬を置き忘れて戻ったって言ってたな。 薬の種類も同じだし、まるで当時の様子をなぞっているみたいだw ハルは今回は、現代で仕事してるわけだけど。
部屋に入ると、さっきは1人しかいなかったのが2人になっていた。 地面の床に敷物を敷いて横になっている病人と、さっき玄関ですれ違ったハナだ。
横になっている病気の人は、ずいぶん年老いているのか、顔にはしわが刻まれていた。
情報からすると、コガネの父親か、3つ目の家族のいとこのどちらかだろうが……。 どちらにせよ、コガネやハナの年齢を考えれば、こんなに老けているのは珍しい。 なにか、特異な病気なんだろうか。
ハナはその枕元に座って、背中を丸めて何かしていた。 置き忘れていた薬の袋から薬を取り出して、手で触って興味深そうに眺めている。
部屋に入ってきた千代に気づいて、薬を触っていたハナは顔を上げた。
「……あ、これ、君の……?」
気づくとハナの表情は、さっき玄関で見たのとは少し違った。 玄関では無表情のように気持ちを隠している感じだったが、今は違う。 うっすらと息苦しいような……心を狭められているような表情だ。 この部屋の中は静かなのに、なぜだか落ち着かないような顔をしている。
しかしそんなことは気にならないのか、千代は嬉しそうに頷いた。
「あぁ、そう!」
改めて部屋の中へと入っていき、2人のそばに近づいていく。
ハナはまだ薬に興味があるようで、さらさらと薬を触っていた。 手元を見ながら、隣にしゃがんでくる千代に聞く。
「……これ、何? ……たまに先生が持ってきてて、お母さんたちも不思議がってるけど」
「これは、よく眠れる薬だよ。 すごく強くてね、ぐっすり眠れるんだ」
この時代の医者の先生は薬草に詳しく、色々な薬を調合していたという。 どうやら睡眠薬のようなものまで作っていたらしい。
よく眠れるという説明を聞いて、びっくりしたのか、ハナは手を引っ込めた。
「え?! ……こわっ」
手を薬からぱっと離し、はいと言って渡してくる。 自分の親族にどんな薬が処方されているか、ただ気になっただけだろう。 ありがとうと言って薬を受け取ると、千代は立ち上がっていった。
部屋を出るとき、ちらっとまた2人の様子が見えた。
ハナは話すときには、まだ社交性で感情を抑えていたようだったが、今度は違った。 苦痛に顔を歪ませるように、眉間にしわを寄せている。 病人の人の顔を見下ろして、焦燥感のようなものに駆り立てられているような感じだ。
ハナは一体どうしたんだろう……? うんこでも我慢しているんだろうか。 早く行こう。
千代は、ふたたび家の外に出ていった。 一族の家を離れて走っていると、先に行った3人の背中が見えてきた。 コガネが振り返って聞いてくる。
「あった?」
「うん」
千代は頷いて、3人と一緒に歩きだす。
辺りの風景に目をやると、山の風景が広がっていた。 一族の家からは、高い丘が続いているような地形になっているのだ。 遠くには山が連なっているのが見えていて、横を見ると、下りていく丘の斜面には段々に田んぼが広がっているのが見える。
「そういえば、イトって、いつ死んだの?」
景色を眺めて風を受けながら、千代はふと思ったことを聞いた。 イトはちらっと振り向いて答える。
「この祭りの、1年前ぐらいかな」
1年前……。 1年もたっているなら、やはりイトは事件に直接関係していないのだろうか。
千代は相槌を打ちながら、続けて他のことを聞いていく。
「へー……。 一族以外の、降霊能力を持った人が現れ始めたのは、いつだっけ?」
一族以外にも、降霊能力を持った人が現れたのもこの時期だという話だった。 それは、この祭りの日とは関係ないのだろうか。
イトは前を向いていきながら、淡々と答えた。
「たしか、この祭りが終わった、少し後」
祭りの後……。 なら、この祭りの日……『時のはざま』の日を境に、何かが変わったということだろうか……?
『イト? ……今、300年前にいるのかしら?』
いきなり、通信で別の声が聞こえてきた。 現代の街の長の、落ち着いた声だ。
イトは、頭の髪飾りに手を当てて答えた。
「ハル?」
『うん。 私も、今からそっちに行くから。 ……あ、いま歌子ちゃんの髪飾りを借りてるんだけどね。 一応、当時の記憶を確認したくて』
どうやら長は、今は現代の街にいるらしい。 歌子の髪飾りを借りてるということは、歌子が近くにいるんだろうか。
長もイトと同じように、まさにこの300年前の時代で生活していた人だ。 『時のはざま』の事件を解くために、協力してくれることになったんだろう。
イトは髪飾りに手を当てたまま、返事をした。
「分かった。 ……じゃあとりあえず、祭りの場所に行ってみよう」
通信を終えながら、そう3人に提案する。 一行は、祭りの準備をしている場所へと向かった。
「お待たせー。 ……終わった?」
「じゃ、外行くか」
コガネはみんなが穴から出たのを確認すると、蓋を閉めていった。 廊下に出て、家の中を眺めていたアキラが、不意にボソッと呟く。
「家の空気、悪かったんだってな」
コガネが情報提供してくれた、日常の様子があった。 玄関から入ると、どこからか怒声が聞こえてくるなど、雰囲気はかなり悪かったように思えた。
コガネは廊下を慣れた足取りで歩きだしながら、振り返って笑った。
「あぁ、まあなw 俺はマシだったけど……ハナのおふくろは、毎日怒られて大変そうだったな。 ハナの父親の人が、結構面倒な人でさw」
どうやら怒られていたのは、ハナのお母さんだったらしい。 ハナの父親は自分の妻を怒鳴り散らして、逆にコガネの母親と仲良くしていたということだろうか? やりたい放題の人だったようだ。
一行は廊下を曲がると、すぐに玄関があった。 扉などは無く、ただぽっかりと穴が開いているだけの簡単なつくりだ。
玄関を通ろうとすると、ちょうど外から入ってくる人がいた。 古い服装をした、10代中ごろぐらいの女の子だ。
先頭を歩いていたコガネはその姿を見て、驚いたように声を上げた。
「ハナ! ……あぁそうか、この日か」
どうやらこの人が、いとこのハナのようだ。 パッと見た感じ、賢そうな女の子だ。
……ん? しかし、変な感じだ。 コガネは何を驚いているんだろう? あぁそうか、などと言って、何かに納得しているような様子でもある。 コガネは思いがけないことが起こったかのような表情で、不思議なものでも見るような目で目の前のハナを見つめていた。
玄関に入ってきたハナは、歩みを遅くしながらこっちを見た。 じろっと探るように4人を見て、先頭にいたコガネに話しかける。
「コガネ。 ……祭り、行かないの?」
「あぁ、後で行くよ」
「……そう」
話すハナの表情は、明るくもなく暗くも無かった。 表情を隠していて、よく分からない感じだ。 複雑な心を抱えた感じで、少なくとも底抜けに明るい性格ではないことは分かる。
一方でコガネは、なぜか楽しそうだ。 清々しく嬉しそうに声を弾ませて、ハナと話している。 ……どうしたんだろう? 現代の街に来て、コガネがどれだけ過ごしてきたかは分からないが、久しぶりだったりするんだろうか。
ハナは小さく頷くと、そのまますれ違っていった。 追うようにして振り返った千代は、その後ろ姿を見つめる。
「……あの子が、ハナちゃん?」
「うん、俺のいとこ」
そう言ってぼんやりとハナの後姿を見つめるコガネは、やはり懐かしそうな顔をしていた。
一行は玄関を出て、家の外へと出ていった。
『時のはざま』は真っ暗な夜で、しかも雨が降っていた。 月明かりも無くて暗い中を歩いていったわけだが、今は違う。 明るい昼で、天気も晴れていて午後の太陽が照りつけていた。
家のすぐ横には、降霊洞穴への入り口が見えていた。 ここは霊力が強い場所だから、洞穴の近くにこの大きな家を作ったってことなんだろう。
4人は家の前へと出ていくと、改めて家を振り返った。
一族の家は巨大で、見上げるほど大きかった。 手前の正面には祭祀場がデーンと見えていて、大陸風の木造建築で立派な装飾がついている。
ただの失踪事件を神隠しとか言っておおごとにして、この場所で『まつり』をやっていたんだろう。 ぞろぞろと人々がやってきて、宗教のようにひれ伏すのが目に浮かぶ。 ……フフフ……ムハハッ!!w
「へー! ……思ってたより、ずいぶん大きいな」
アキラが感心するように、建物を眺めて言う。 なかなかしっかりした建物だ、これなら風が吹いてもビクともしないだろう。
そう思っていると、同じように建物を見上げたコガネが言った。
「あぁ。 今にも崩れそうだろ?」
「……へ? そうなの?」
頓珍漢な発言に、アキラは素っ頓狂な声を出す。
もう一度建物を見てみても、やはりしっかりしていて頑丈に作られているように見える。 これが、今にも崩れそう? ……コガネの目には、何か別の物でも映っているんだろうか。
会話を聞いておかしくなったのか、横で千代が噴き出すようにして笑った。
「無理があるんだよ、こんな建物。 ……立派な祭祀場なんか作ってさ、ほんと、馬鹿みたいだ」
普段から一族に対して思う所でも、あるんだろうか。 コガネは軽い調子で、ペラペラと悪口を並べ立てた。
千代は楽しそうに笑っていたが、突然思い出したように声を上げた。
「あっ! 薬、忘れたっ! ごめん、先行ってて」
どうやら薬を置いてきてしまったらしい。 千代は慌てて身をひるがえし、再び家へと向かった。 急いで走って、家の玄関へと戻っていく。
さっきは遠回りしてしまったが、今度は間違えないぞ。 千代は玄関から入るとすぐに曲がって、目的の部屋へと一直線に向かった。 土の廊下をトントンっと軽やかに歩いていく。
歩いていきながら、ふと聞いた話を思い出した。 ……そういえばこの300年前の当時にも、現代の街の長……ハルが薬を置き忘れて戻ったって言ってたな。 薬の種類も同じだし、まるで当時の様子をなぞっているみたいだw ハルは今回は、現代で仕事してるわけだけど。
部屋に入ると、さっきは1人しかいなかったのが2人になっていた。 地面の床に敷物を敷いて横になっている病人と、さっき玄関ですれ違ったハナだ。
横になっている病気の人は、ずいぶん年老いているのか、顔にはしわが刻まれていた。
情報からすると、コガネの父親か、3つ目の家族のいとこのどちらかだろうが……。 どちらにせよ、コガネやハナの年齢を考えれば、こんなに老けているのは珍しい。 なにか、特異な病気なんだろうか。
ハナはその枕元に座って、背中を丸めて何かしていた。 置き忘れていた薬の袋から薬を取り出して、手で触って興味深そうに眺めている。
部屋に入ってきた千代に気づいて、薬を触っていたハナは顔を上げた。
「……あ、これ、君の……?」
気づくとハナの表情は、さっき玄関で見たのとは少し違った。 玄関では無表情のように気持ちを隠している感じだったが、今は違う。 うっすらと息苦しいような……心を狭められているような表情だ。 この部屋の中は静かなのに、なぜだか落ち着かないような顔をしている。
しかしそんなことは気にならないのか、千代は嬉しそうに頷いた。
「あぁ、そう!」
改めて部屋の中へと入っていき、2人のそばに近づいていく。
ハナはまだ薬に興味があるようで、さらさらと薬を触っていた。 手元を見ながら、隣にしゃがんでくる千代に聞く。
「……これ、何? ……たまに先生が持ってきてて、お母さんたちも不思議がってるけど」
「これは、よく眠れる薬だよ。 すごく強くてね、ぐっすり眠れるんだ」
この時代の医者の先生は薬草に詳しく、色々な薬を調合していたという。 どうやら睡眠薬のようなものまで作っていたらしい。
よく眠れるという説明を聞いて、びっくりしたのか、ハナは手を引っ込めた。
「え?! ……こわっ」
手を薬からぱっと離し、はいと言って渡してくる。 自分の親族にどんな薬が処方されているか、ただ気になっただけだろう。 ありがとうと言って薬を受け取ると、千代は立ち上がっていった。
部屋を出るとき、ちらっとまた2人の様子が見えた。
ハナは話すときには、まだ社交性で感情を抑えていたようだったが、今度は違った。 苦痛に顔を歪ませるように、眉間にしわを寄せている。 病人の人の顔を見下ろして、焦燥感のようなものに駆り立てられているような感じだ。
ハナは一体どうしたんだろう……? うんこでも我慢しているんだろうか。 早く行こう。
千代は、ふたたび家の外に出ていった。 一族の家を離れて走っていると、先に行った3人の背中が見えてきた。 コガネが振り返って聞いてくる。
「あった?」
「うん」
千代は頷いて、3人と一緒に歩きだす。
辺りの風景に目をやると、山の風景が広がっていた。 一族の家からは、高い丘が続いているような地形になっているのだ。 遠くには山が連なっているのが見えていて、横を見ると、下りていく丘の斜面には段々に田んぼが広がっているのが見える。
「そういえば、イトって、いつ死んだの?」
景色を眺めて風を受けながら、千代はふと思ったことを聞いた。 イトはちらっと振り向いて答える。
「この祭りの、1年前ぐらいかな」
1年前……。 1年もたっているなら、やはりイトは事件に直接関係していないのだろうか。
千代は相槌を打ちながら、続けて他のことを聞いていく。
「へー……。 一族以外の、降霊能力を持った人が現れ始めたのは、いつだっけ?」
一族以外にも、降霊能力を持った人が現れたのもこの時期だという話だった。 それは、この祭りの日とは関係ないのだろうか。
イトは前を向いていきながら、淡々と答えた。
「たしか、この祭りが終わった、少し後」
祭りの後……。 なら、この祭りの日……『時のはざま』の日を境に、何かが変わったということだろうか……?
『イト? ……今、300年前にいるのかしら?』
いきなり、通信で別の声が聞こえてきた。 現代の街の長の、落ち着いた声だ。
イトは、頭の髪飾りに手を当てて答えた。
「ハル?」
『うん。 私も、今からそっちに行くから。 ……あ、いま歌子ちゃんの髪飾りを借りてるんだけどね。 一応、当時の記憶を確認したくて』
どうやら長は、今は現代の街にいるらしい。 歌子の髪飾りを借りてるということは、歌子が近くにいるんだろうか。
長もイトと同じように、まさにこの300年前の時代で生活していた人だ。 『時のはざま』の事件を解くために、協力してくれることになったんだろう。
イトは髪飾りに手を当てたまま、返事をした。
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