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第八章 混ざっていく世界、『時のはざま』
第82話 300年前の祭りの場所で、アイデア探し!
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祭りの場所に来ると、村の人々が準備をしていた。 櫓やら出店やらがあるわけではなく、簡単な祭りのようだ。
焚き木がそこかしこに作られていて、火を使って女たちが料理をしている。
酒や水の大きな入れ物なんかも置かれていて、飲んで騒ぐ気満々のようだ。
見回すと人も多く、3つの地域からの人々が集まっているからか、結構な人数だ。
村はかつて3つに分かれていたが、500年前に一つに統合された。 しかし、それはあくまで形式上のことだ。
3つの地域は少し離れているし、最初は知り合いもお互いに少ない。 現代に至るまでに少しずつ、緩やかに混ざり合ってきたのである。
「もう、準備してんだな」
祭り会場の中を歩いていきながら、アキラが言う。
日はまだ高く、昼の12時ぐらいだが、暇なのかもう村人たちは集まっているようだ。 準備をしながら、楽しそうに話している。 住んでいる場所が離れていて、普段話さない人たちと話したりするからか、ちょっと刺激的な空気も漂っているみたいだ。
ちなみにこのお祭りは、現代で最近計画を立て始めた祭りと同じものだ。 500年前に村が一つになったのを祝ったのから始まり、現代にいたるまで毎年続いてきた祭りなのである。
「コガネくん!」
祭りの場所に来たコガネの姿に気づき、近くの人が声をかけてきた。 準備していた一人のようだ、知り合いなんだろうか。
コガネは、会釈をして挨拶を返した。
「どうも、こんにちは」
「お母さん、どこにいるかな? ……姿が見えないみたいだけど、今日はいらっしゃるのか?」
そう言いながらキョロキョロと辺りを眺めて、探すようなそぶりをしている。
一族の人は権力を持っているから、代表の挨拶とかをするんだろうか。 『あー、今年もよくやった! OK!』『フゥゥッッ!!!!』そんな感じなんだろう。
しかし、今はコガネの母親はいないみたいだ。 話していると、近くにいた別の村人が会話に入ってきた。
「さっき、長と一緒にいるのを、東の森の中で見かけたぞ」
長……この時代での長は、おそらくハナの父親のことだろう。 どうやら例の2人は、いま東の森にいるらしい。 東の森とは、200年前にソラたちが隠れて生活していたという、『東の洞穴』に近いところにある森のことだろう。
村人たちは、話し続けている。
「そうなのか?」
「あぁ。 ……あの方たちなあ、不思議なんだよな。 いきなり、神出鬼没に、別のところに現れたりしてな。 まったく、どんなお力を持ってらっしゃるのやら」
「本当だなあ。 今年は祭りに、来てもらえるんだろうか? 時間までに、間に合えばいいのだが」
そんなことを、村人たちは不思議そうな顔をして話している。
神出鬼没? 東の森……。 会話を聞いて、アキラは何か思いついたみたいだ。 ピンと閃いたような顔をして、そばにいたコガネの体を突っつく。
「……なあ、これって地下道のことじゃないか?」
コガネはそれを聞き、顔を明るくさせた。 ニヤッと笑って答える。
「あぁw ……一族のやつらは、降霊洞穴から伸びてる地下道を知ってて、利用してるからな」
この時代には、一族の人しか降霊洞穴を利用していない。 巫女たちが色んな地域から集まって修行をするようになるなど、一族以外の人も入るようになるのは後の時代のことだ。
もともと地下道のことは現代でも知っている人は少ないのだが、この時代では、一族以外の人は誰も知らない秘密の通り道になっているんだろう。
「あぁ、だから瞬間移動したように見えるってこと?」
「そうそうw」
会話を聞いていた千代まで入ってきて、3人は楽しそうにコソコソと話している。
事実を知っていると、なんてことないものだ。 地下道を使った移動が『瞬間移動』と呼ばれるなど、一族の人も意図したわけではないだろう。 勝手に権力を引き立てるのに役立っているのだからおかしなものだ。
村人たちの会話には、他にも気になる点がある。
祭りに『今年は来てもらえるか』ということは、ハナの父親などは去年は来なかったんだろう。
一族は、村の一番の権力を持っているという話だった。 それなら村の代表として参加するのが普通のはずだが……。
もしかして、彼らは結構きまぐれでもあるんだろうか。
楽しそうに話す3人をよそに、イトはぼんやりと会場内を眺めていると、ふと見慣れた姿を見つけた。
「あれ、小春?」
小春も、300年前に来ていたようだ。 どうやらイトたちだけでなく、他の人まで時間移動ができるようになっているらしい。
小春は祭り会場の中で、その辺のおじさんたちと話しているようだ。 謎のコミュ力を発揮して、旧知の仲のように自然に話している。
呼びかけると小春はこっちに気づいて、のっそりと近づいてきた。
「あんたたち、来たのね」
どうも小春は、元気がないみたいに見える。 ハジけてないというか、動きにキレがないというか……。
鬼退治をした晩から、小春はこんな感じだ。 警備隊に追いかけ回された疲れが残ってるわけでもあるまい。
どうでもいいが、小春も通信用の髪飾りをつけているようだ。 割と似合っている。
「何やってんの?」
「祭りの案、なんかないかと思ってね。 ちょっと、話聞いてたのよ」
小春は、祭りの会場を振り返って眺めながら言う。
現代の祭りのアイデアを考えるのに、過去の祭りを参考にしようとしたんだろうか。 この300年前に、散歩みたいな感覚で来たらしい。 タイムマシンも、日常的なものになったものだ。
向こうのほうには、ミツバの姿も見える。 2人で一緒に、仕事終わりにでも来たんだろう。
ミツバは祭りの会場をブラブラと歩いて、食い物でも漁っているみたいだ。 焚き木で料理をしている人たちのところに行って、話しかけたりしている。 『おばさん、なんかうまいもんないすか?』『あら、あなたこれ食べなさい』そんな感じだ。
しかしこの時代の祭りは、別に派手というわけではない。 ただ料理を食べて酒を飲んで、歌って踊るだけだ。
小春は、ぼんやりと会場を見つめながら言う。
「……でも、何もないのね、ここ。 ただ飲んで踊ってーって……、そんなんやって、何が楽しいのよ。 もっと面白いこと、考えて、やんなきゃ」
イトはそれを聞いて、眉をひそめた。 ……小春、あなた逆のこと言ってなかったっけ。
それに去年の祭りのときは、歌と踊りしかなかったのに、滅茶苦茶楽しそうだったよ。 『歌って踊って、フゥゥーゥ! お祭りって最高よねぇ!!www』とか言ってキャーキャー騒いで、私と無理やり肩を組んで、引っ張りまわしてくれたよね。
相変わらず、矛盾だらけの人だ。
イトはそう思いながらも、何も言わず聞き流した。
アキラはしゃがんで、木の切れ端を拾い上げていった。 それを適当にいじりながら辺りを眺めて、呟く。
「まあ、ここも別に何もないな」
「例の事件、調べてんの? あんたたち」
小春が思い出したように聞いてくる。 例の事件とは、『時のはざま』のことだろう。
4人は頷くと、小春は興味なさそうにふうんと言って、またその辺をぼんやりと眺めた。
近くで、子供たちがはしゃいでいた。
「薬ごっこーw」
そう言いながら、地面から砂を拾い上げて、会場に置いてあった大きな酒の容器に入れている。 祭りを前にしてテンションが上がり過ぎたんだろうか。 調子に乗って意味の分からないことを始めている。
パシンっ!と乾いた音が鳴った。 あらら……そばにいる大人にひっぱたかれたみたいだ。
「何やってんだ、お前!」
「……ごめんなさい」
そんなこの場所での日常風景はさておき、しゃがんで祭りの会場の様子を見ていたアキラは、今度は別の物に目をつけた。
「……で、それが例の蔵?」
近くに立っていた大きな建物を指す。 異様に大きな蔵が祭りの会場のすぐ横には立っていて、実はさっきから目立っていたのだ。
藁と木でできた周囲の建物とは明らかに違って、異質で正直景観に合っていない。
「あぁ、そこは、最近建てられた、新しい蔵」
コガネは答えながら、その蔵へと近づいていく。
蔵は、土でできているようだった。 一族の家と同じようなつくりで、大きな木の柱を混ぜて形を整えているようだ。
周囲に立っている藁ぶきの家の中では異彩を放っていて、キラキラと輝いて見える。 一族の人たちはハイカラな人が多いらしいが、この蔵の作りもこの時代では最先端なのかもしれない。
扉は開いていて、中の様子が見えていた。 子供が適当に遊んでいて、その辺に土器が転がっている。 無駄に広くて、100人以上は簡単に入りそうだが、こんな蔵を作って何を収納するというんだろう?
「まだ何も無いんだけど、後になって、道具とか、色々な倉庫として使っていくことになるんだけどね」
未来人っぽい言い方をしながら、コガネは壁に手を当てていった。 さらさらと壁を触りながら、立派で真新しい建物を見上げて、感慨深いように呟く。
「これも、今にも崩れそうだろ?」
またコガネは、訳の分からないことを言っている。 おかしくなって、また千代は笑い始めた。
「ねえ、さっきから、コガネどうしたの?」
振り返ったコガネも、なぜだか笑った。 自分でも、言ってることのおかしさを分かっているらしい。 この祭りの日から月日がたって、『未来で』崩れた瞬間でも目の当たりにしたんだろうか。 でも今目の前にあるのは、新しくて綺麗な建物なのだ。
そんな会話をしていると、通信で別の声が聞こえてきた。
『イトちゃーん???』
お? 今までとは違う声だ。 聞きなれないが、少しだけ聞いたことのある声だ。 エネルギーがガンガンに有り余っていて、飛び跳ねたりガッツポーズをしているさまが目に浮かぶ。
これは第3病院にいた、元気すぎる女の子の『弥生』の声だ!! 来たっ、ついに来たっ!!! 待ってたぜ、弥生っ!!!!ww
どうやら第3病院で働く弥生とも、通信が繋がっているらしい。 イトは髪飾りに手を当てて、返事をする。
「あ、弥生?」
『ねえ、そこにも、病院があるんでしょ? 行ってみようぜっ!』
ガッツポーズを決めて誘ってくる感じが目に浮かぶ。 弥生は相変わらず、めちゃくちゃ元気なようだ。
弥生は病院勤めだから、別の時代の病院にも興味があるんだろうか。
じつは、この300年前にも病院のようなものがある。 現代に比べれば規模は小さく、診療所と呼ばれているところだ。
300年前のこの時代には、凄腕の医者がいる。 イトや長がその人のもとでお手伝いをしていたらしいが、とにかく変わった人ということだった。
何日もご飯を食べずに山をさ迷い歩いて死にかけたり、イトと意気投合して嵐の日に島の外へ船で漕ぎ出そうとしたり、人体実験まがいの治療をやろうとするなど、ぶっ飛んでいる人らしい。
散々振り回された長は、イトと会うとまだ愚痴を言っている。
その人のおかげで、この300年前には医療が発達していたが、それは一瞬のことだった。 文字が発達していなかったから、知見が後世に受け継がれることが無かったのだ。
現代を除いて医療が発達したのは、前にも後にもこの300年前だけなのである。
誘いを受けて、イトは乗った。 どうやらこれから、弥生を含めて診療所に行くことになりそうだ。
「そうだね。 一応、行ってみよう」
話していると、向こうからミツバがやって来た。 相変わらず手には食べ物を持っているみたいで、片手を服に突っ込んでむしゃむしゃ食いながら歩いてくる。
こっちに来て、コガネに話しかけてきた。
「なあ、300年前の海って、どうなってんだ? 今と、何か違うのか?」
ミツバは漁師だから、気になるんだろうか。 300年も経っていれば、海にも多少は変化があるのかもしれない。
それを聞いて、アキラも興味があるように言った。
「確かに、それも見てみたいな。 コガネ、分かるか?」
「あぁ。 じゃあ診療所はイトたちに任せた。 俺らは、海のほうに行くから」
そんなことを言って、男たちで勝手に決めてしまう。 診療所と海の2グループに分かれて、手掛かりを探すんだろうか。
よっしと嬉しそうに手を叩いたミツバは、振り返って向こうにいる小春を呼んだ。
「小春ー! お前は、どうする? 診療所とか、海とか、興味あるか?」
小春は、また別の人と話しているようだった。 こっちに振り向くと、退屈そうに首をひねって、すげなく断ってくる。
「うーん、私はいいや。 みんなで、行ってて。 ……ん?」
ふと気づいたように手を掲げて、小春は自分の頭にある髪飾りをさわった。 こっちには聞こえないが、誰かと通信しているんだろう。 仕組みはよく分からないが、この髪飾り通信はそういう制御の仕方もできるらしい。
小春はふんふんと誰かの話を聞いているようだったが、やがてはいはいと返事をした。
「ちょっと私、行くとこあるから」
一言そう言い残すと、身をひるがえしてどこかへ行ってしまう。
ミツバは少しの間、釈然としないような顔でその様子を眺めていた。 小春の元気が無い理由を、ミツバは知っているんだろうか。 なんだかんだ言ってこの2人は仲が良く、一緒にいる時が多いのだ。
しかし、考えてもしょうがないと思ったのか、ミツバはコガネたちのほうに向き直ってきた。
「……まあいいや、行こうぜ」
コガネグループと、イトグループに分かれて、調査を進めることになった。
焚き木がそこかしこに作られていて、火を使って女たちが料理をしている。
酒や水の大きな入れ物なんかも置かれていて、飲んで騒ぐ気満々のようだ。
見回すと人も多く、3つの地域からの人々が集まっているからか、結構な人数だ。
村はかつて3つに分かれていたが、500年前に一つに統合された。 しかし、それはあくまで形式上のことだ。
3つの地域は少し離れているし、最初は知り合いもお互いに少ない。 現代に至るまでに少しずつ、緩やかに混ざり合ってきたのである。
「もう、準備してんだな」
祭り会場の中を歩いていきながら、アキラが言う。
日はまだ高く、昼の12時ぐらいだが、暇なのかもう村人たちは集まっているようだ。 準備をしながら、楽しそうに話している。 住んでいる場所が離れていて、普段話さない人たちと話したりするからか、ちょっと刺激的な空気も漂っているみたいだ。
ちなみにこのお祭りは、現代で最近計画を立て始めた祭りと同じものだ。 500年前に村が一つになったのを祝ったのから始まり、現代にいたるまで毎年続いてきた祭りなのである。
「コガネくん!」
祭りの場所に来たコガネの姿に気づき、近くの人が声をかけてきた。 準備していた一人のようだ、知り合いなんだろうか。
コガネは、会釈をして挨拶を返した。
「どうも、こんにちは」
「お母さん、どこにいるかな? ……姿が見えないみたいだけど、今日はいらっしゃるのか?」
そう言いながらキョロキョロと辺りを眺めて、探すようなそぶりをしている。
一族の人は権力を持っているから、代表の挨拶とかをするんだろうか。 『あー、今年もよくやった! OK!』『フゥゥッッ!!!!』そんな感じなんだろう。
しかし、今はコガネの母親はいないみたいだ。 話していると、近くにいた別の村人が会話に入ってきた。
「さっき、長と一緒にいるのを、東の森の中で見かけたぞ」
長……この時代での長は、おそらくハナの父親のことだろう。 どうやら例の2人は、いま東の森にいるらしい。 東の森とは、200年前にソラたちが隠れて生活していたという、『東の洞穴』に近いところにある森のことだろう。
村人たちは、話し続けている。
「そうなのか?」
「あぁ。 ……あの方たちなあ、不思議なんだよな。 いきなり、神出鬼没に、別のところに現れたりしてな。 まったく、どんなお力を持ってらっしゃるのやら」
「本当だなあ。 今年は祭りに、来てもらえるんだろうか? 時間までに、間に合えばいいのだが」
そんなことを、村人たちは不思議そうな顔をして話している。
神出鬼没? 東の森……。 会話を聞いて、アキラは何か思いついたみたいだ。 ピンと閃いたような顔をして、そばにいたコガネの体を突っつく。
「……なあ、これって地下道のことじゃないか?」
コガネはそれを聞き、顔を明るくさせた。 ニヤッと笑って答える。
「あぁw ……一族のやつらは、降霊洞穴から伸びてる地下道を知ってて、利用してるからな」
この時代には、一族の人しか降霊洞穴を利用していない。 巫女たちが色んな地域から集まって修行をするようになるなど、一族以外の人も入るようになるのは後の時代のことだ。
もともと地下道のことは現代でも知っている人は少ないのだが、この時代では、一族以外の人は誰も知らない秘密の通り道になっているんだろう。
「あぁ、だから瞬間移動したように見えるってこと?」
「そうそうw」
会話を聞いていた千代まで入ってきて、3人は楽しそうにコソコソと話している。
事実を知っていると、なんてことないものだ。 地下道を使った移動が『瞬間移動』と呼ばれるなど、一族の人も意図したわけではないだろう。 勝手に権力を引き立てるのに役立っているのだからおかしなものだ。
村人たちの会話には、他にも気になる点がある。
祭りに『今年は来てもらえるか』ということは、ハナの父親などは去年は来なかったんだろう。
一族は、村の一番の権力を持っているという話だった。 それなら村の代表として参加するのが普通のはずだが……。
もしかして、彼らは結構きまぐれでもあるんだろうか。
楽しそうに話す3人をよそに、イトはぼんやりと会場内を眺めていると、ふと見慣れた姿を見つけた。
「あれ、小春?」
小春も、300年前に来ていたようだ。 どうやらイトたちだけでなく、他の人まで時間移動ができるようになっているらしい。
小春は祭り会場の中で、その辺のおじさんたちと話しているようだ。 謎のコミュ力を発揮して、旧知の仲のように自然に話している。
呼びかけると小春はこっちに気づいて、のっそりと近づいてきた。
「あんたたち、来たのね」
どうも小春は、元気がないみたいに見える。 ハジけてないというか、動きにキレがないというか……。
鬼退治をした晩から、小春はこんな感じだ。 警備隊に追いかけ回された疲れが残ってるわけでもあるまい。
どうでもいいが、小春も通信用の髪飾りをつけているようだ。 割と似合っている。
「何やってんの?」
「祭りの案、なんかないかと思ってね。 ちょっと、話聞いてたのよ」
小春は、祭りの会場を振り返って眺めながら言う。
現代の祭りのアイデアを考えるのに、過去の祭りを参考にしようとしたんだろうか。 この300年前に、散歩みたいな感覚で来たらしい。 タイムマシンも、日常的なものになったものだ。
向こうのほうには、ミツバの姿も見える。 2人で一緒に、仕事終わりにでも来たんだろう。
ミツバは祭りの会場をブラブラと歩いて、食い物でも漁っているみたいだ。 焚き木で料理をしている人たちのところに行って、話しかけたりしている。 『おばさん、なんかうまいもんないすか?』『あら、あなたこれ食べなさい』そんな感じだ。
しかしこの時代の祭りは、別に派手というわけではない。 ただ料理を食べて酒を飲んで、歌って踊るだけだ。
小春は、ぼんやりと会場を見つめながら言う。
「……でも、何もないのね、ここ。 ただ飲んで踊ってーって……、そんなんやって、何が楽しいのよ。 もっと面白いこと、考えて、やんなきゃ」
イトはそれを聞いて、眉をひそめた。 ……小春、あなた逆のこと言ってなかったっけ。
それに去年の祭りのときは、歌と踊りしかなかったのに、滅茶苦茶楽しそうだったよ。 『歌って踊って、フゥゥーゥ! お祭りって最高よねぇ!!www』とか言ってキャーキャー騒いで、私と無理やり肩を組んで、引っ張りまわしてくれたよね。
相変わらず、矛盾だらけの人だ。
イトはそう思いながらも、何も言わず聞き流した。
アキラはしゃがんで、木の切れ端を拾い上げていった。 それを適当にいじりながら辺りを眺めて、呟く。
「まあ、ここも別に何もないな」
「例の事件、調べてんの? あんたたち」
小春が思い出したように聞いてくる。 例の事件とは、『時のはざま』のことだろう。
4人は頷くと、小春は興味なさそうにふうんと言って、またその辺をぼんやりと眺めた。
近くで、子供たちがはしゃいでいた。
「薬ごっこーw」
そう言いながら、地面から砂を拾い上げて、会場に置いてあった大きな酒の容器に入れている。 祭りを前にしてテンションが上がり過ぎたんだろうか。 調子に乗って意味の分からないことを始めている。
パシンっ!と乾いた音が鳴った。 あらら……そばにいる大人にひっぱたかれたみたいだ。
「何やってんだ、お前!」
「……ごめんなさい」
そんなこの場所での日常風景はさておき、しゃがんで祭りの会場の様子を見ていたアキラは、今度は別の物に目をつけた。
「……で、それが例の蔵?」
近くに立っていた大きな建物を指す。 異様に大きな蔵が祭りの会場のすぐ横には立っていて、実はさっきから目立っていたのだ。
藁と木でできた周囲の建物とは明らかに違って、異質で正直景観に合っていない。
「あぁ、そこは、最近建てられた、新しい蔵」
コガネは答えながら、その蔵へと近づいていく。
蔵は、土でできているようだった。 一族の家と同じようなつくりで、大きな木の柱を混ぜて形を整えているようだ。
周囲に立っている藁ぶきの家の中では異彩を放っていて、キラキラと輝いて見える。 一族の人たちはハイカラな人が多いらしいが、この蔵の作りもこの時代では最先端なのかもしれない。
扉は開いていて、中の様子が見えていた。 子供が適当に遊んでいて、その辺に土器が転がっている。 無駄に広くて、100人以上は簡単に入りそうだが、こんな蔵を作って何を収納するというんだろう?
「まだ何も無いんだけど、後になって、道具とか、色々な倉庫として使っていくことになるんだけどね」
未来人っぽい言い方をしながら、コガネは壁に手を当てていった。 さらさらと壁を触りながら、立派で真新しい建物を見上げて、感慨深いように呟く。
「これも、今にも崩れそうだろ?」
またコガネは、訳の分からないことを言っている。 おかしくなって、また千代は笑い始めた。
「ねえ、さっきから、コガネどうしたの?」
振り返ったコガネも、なぜだか笑った。 自分でも、言ってることのおかしさを分かっているらしい。 この祭りの日から月日がたって、『未来で』崩れた瞬間でも目の当たりにしたんだろうか。 でも今目の前にあるのは、新しくて綺麗な建物なのだ。
そんな会話をしていると、通信で別の声が聞こえてきた。
『イトちゃーん???』
お? 今までとは違う声だ。 聞きなれないが、少しだけ聞いたことのある声だ。 エネルギーがガンガンに有り余っていて、飛び跳ねたりガッツポーズをしているさまが目に浮かぶ。
これは第3病院にいた、元気すぎる女の子の『弥生』の声だ!! 来たっ、ついに来たっ!!! 待ってたぜ、弥生っ!!!!ww
どうやら第3病院で働く弥生とも、通信が繋がっているらしい。 イトは髪飾りに手を当てて、返事をする。
「あ、弥生?」
『ねえ、そこにも、病院があるんでしょ? 行ってみようぜっ!』
ガッツポーズを決めて誘ってくる感じが目に浮かぶ。 弥生は相変わらず、めちゃくちゃ元気なようだ。
弥生は病院勤めだから、別の時代の病院にも興味があるんだろうか。
じつは、この300年前にも病院のようなものがある。 現代に比べれば規模は小さく、診療所と呼ばれているところだ。
300年前のこの時代には、凄腕の医者がいる。 イトや長がその人のもとでお手伝いをしていたらしいが、とにかく変わった人ということだった。
何日もご飯を食べずに山をさ迷い歩いて死にかけたり、イトと意気投合して嵐の日に島の外へ船で漕ぎ出そうとしたり、人体実験まがいの治療をやろうとするなど、ぶっ飛んでいる人らしい。
散々振り回された長は、イトと会うとまだ愚痴を言っている。
その人のおかげで、この300年前には医療が発達していたが、それは一瞬のことだった。 文字が発達していなかったから、知見が後世に受け継がれることが無かったのだ。
現代を除いて医療が発達したのは、前にも後にもこの300年前だけなのである。
誘いを受けて、イトは乗った。 どうやらこれから、弥生を含めて診療所に行くことになりそうだ。
「そうだね。 一応、行ってみよう」
話していると、向こうからミツバがやって来た。 相変わらず手には食べ物を持っているみたいで、片手を服に突っ込んでむしゃむしゃ食いながら歩いてくる。
こっちに来て、コガネに話しかけてきた。
「なあ、300年前の海って、どうなってんだ? 今と、何か違うのか?」
ミツバは漁師だから、気になるんだろうか。 300年も経っていれば、海にも多少は変化があるのかもしれない。
それを聞いて、アキラも興味があるように言った。
「確かに、それも見てみたいな。 コガネ、分かるか?」
「あぁ。 じゃあ診療所はイトたちに任せた。 俺らは、海のほうに行くから」
そんなことを言って、男たちで勝手に決めてしまう。 診療所と海の2グループに分かれて、手掛かりを探すんだろうか。
よっしと嬉しそうに手を叩いたミツバは、振り返って向こうにいる小春を呼んだ。
「小春ー! お前は、どうする? 診療所とか、海とか、興味あるか?」
小春は、また別の人と話しているようだった。 こっちに振り向くと、退屈そうに首をひねって、すげなく断ってくる。
「うーん、私はいいや。 みんなで、行ってて。 ……ん?」
ふと気づいたように手を掲げて、小春は自分の頭にある髪飾りをさわった。 こっちには聞こえないが、誰かと通信しているんだろう。 仕組みはよく分からないが、この髪飾り通信はそういう制御の仕方もできるらしい。
小春はふんふんと誰かの話を聞いているようだったが、やがてはいはいと返事をした。
「ちょっと私、行くとこあるから」
一言そう言い残すと、身をひるがえしてどこかへ行ってしまう。
ミツバは少しの間、釈然としないような顔でその様子を眺めていた。 小春の元気が無い理由を、ミツバは知っているんだろうか。 なんだかんだ言ってこの2人は仲が良く、一緒にいる時が多いのだ。
しかし、考えてもしょうがないと思ったのか、ミツバはコガネたちのほうに向き直ってきた。
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