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第B章:何故異世界飯はうまそうに見えるのか

異世界人と現代人/1:海外旅行に行く人がスーツケースにカップラーメンを入れる理由

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 食神都市グーラの街の賑わいは、知識派寄りであるシズク達3人と、武闘派寄りであるリク達2人で全く異なって映っていた。この街が大きな賑わいを見せれば見せるほど、知識派にとっては世界に対して危機感を駆り立てられる結果に繋がり、武闘派寄りには世界平和による安心を感じるようになっていく。同じものを見て印象が正反対になってしまうのが知識の持つ面白い効果であると言えるだろう。

 一方、知識が人間の理性を司るなら、食欲は人間の本能を司る。結果として、屋台巡りを行う中で一同の心は1つになれていた。グーラの屋台はこの世界のあらゆる場所から集まった料理人によるものであるため、味よりもバリエーションの楽しさが大きかった。それはまさに。

「テーマパークに来たみたい」

 ただ、ここでも実はパーティの感想は半分に分かれている。異世界組の2人にリンネを加えた3人は、純粋にその楽しさに加えて今まで食べたこともなかった料理に舌鼓を打つ。一方、現代日本からの転生組である2人にとっては、料理の美味しさという意味ではそれほど大きな感動を感じることができなかった。それは、現代日本が食というカテゴリにおける世界最先端を歩んでいるが故に、2人の舌が肥えすぎていたことに原因があった。結果として、異世界組が屋台を全件制覇してやると意気込む一方、転生組は一足先に宿に戻ってこっそりシズクのチートラーメンをすすっていた。

「ソウルフードってのもあるんだろうが、そういうの抜かしてもやっぱうまさのレベルが違うな」
「まぁ仕方ないよ。料理も人間の技術である以上、世界の科学水準と料理の質はある程度比例してしまう。焼き肉1つを例にとってみても、タレや焼き方、また、根本的な肉の質の時点で大きすぎる差を作ってしまう。ある意味、冷房や電車、スマホに依存していた現代人が異世界で真っ先に感じる苦心と同じだね」
「そっちはもうだいぶ慣れてきたと思うんだが、俺達はずっとラーメン食べられてたからなぁ。生活水準は上げることより下げることの方がよほど難しいってわけだ。異世界転生に憧れる人には、まずスマホを3日手放すことからはじめてみてほしいな」
「あと、道端に平然と死体とうんこが落ちてる状況の想像ね」
「イルマには感謝してもしきれないなぁ」

 そんな現実的なことを話しながらラーメンをすすっていた一同の元に、両手に一杯の屋台料理を抱えた異世界組が帰還する。

「どうしてわざわざこの街に来てまで」
「こればかりは俺達の残念さと思ってもらってもしょうがないな」
「というか率直にこっちのが格段に美味しい」

 呆れるイルマに堂々を受け答える2人。

「それは否定しきれませんが……もしかしたらお二人が良い屋台を引けなかっただけかもしれませんわ」
「それは完全否定できないけど、当たりの期待値は高くないと思うんだよねぇ」
「実際明らかなはずれもあっただろ。虫料理とか。見た目を百歩譲っても、キチン質の殻の食感はどうしようもない」
「それなら、期待値が高いところに行けば良いわけですわね」

 リンネが振り返ると、レーヌが頷いて一枚のチラシを差し出した。

「食神決戦。半年に一度行われる世界最高の料理人を決める大会がちょうど3日後らしい。私達は運がいいぞ!」
「日頃の行いは最悪な自覚があるんだけどね。でも、なるほど。確かにそれは期待できそうだ」
「そうでございましょうとも! ここでならお二人が心の底から美味しいと思える料理に巡り会えると思いますわ! ところで、私も一杯いただけますこと?」
「お好みは?」
「味濃いめ麺硬め脂少なめでお願いしますわ」

 そういって家系をすするリンネにイルマは呟く。

「裏切り者」
「深夜のラーメンは最高ですわぁ!」

 そこはまさにアトランティスとは別ベクトルの楽園都市。ただし、そこに滞在する代償は3日後を待たずとしてリンネ以外の3人を襲うことになる。一同は、何故この街で早朝ランニングを行う人が多いのかの理由を察し、自らもその列に加わった。
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