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しおりを挟む「はぁっはぁ、っ透!」
「はぁ、はぁ・・・。」
2人分の荒い息遣い、目の前の欲情した瞳、熱が集まる下腹部に、透はなぜこんな事になってしまったのか、ぼぅっとする頭で考えていたーーー
午後の講義が終わり透が友人の和基と構内を歩いていると、大学名物のカフェテリアからガヤガヤと一団があふれ出てきたのが見えた。
「ヤバいな。」
「ああ、いるな。」
透と和基はその一団を目にした途端、自然な様子で手近な講義棟に体の向きを変えた。ゆっくりと、急ぎ過ぎずに。
なるべく人の陰になり一団に見つからないように二人は移動し、5号館と呼ばれる少し古めの講義棟の中に入ってホッと息を吐いた。
しかし、まだ油断する事なく入り口から離れ通路を進みつつ、窓から外を見て和基は透に話しかけた。
「2号館の方に行ってるぞ、たぶん部室棟に行くんだろうな。」
「ふぅー。じゃあもうこっちには来なそうだな!」
透は5号館に入ってからも続けていた警戒をやっと解いて知らず入っていた肩の力を抜いた。
「ああ、部活始めるだろうからな。…ずっとそっちに専念してくれればいいのにな。」
「本当だよ、全く。俺せっかく大学入ったのに逃げ隠れるキャンパスライフなんてやだよ。」
和基は透に同情したような視線を送り、項垂れた透の肩を叩いた。
「まぁ時間が経てば諦めてくれんじゃないか?陸部もさ。」
「はぁ~。」
透は中学高校と陸上部に入っており、インターハイにも出場するほど実力のある選手だった。高校の頃は陸上一筋、その為だけに生きているような状態で、正に全身全霊をかけて臨んでいた。
だが、高校でやり切った透は、大学では普通の学生生活を送りたいと思っていた。
全てを犠牲にしてきた6年間、透には周りのクラスメイト達は自由に学生時代を謳歌し、楽しそうにキラキラと輝いているように見えた。
だからせめて大学では部活などに入らず、身体的にも精神的にも追い込まれない余裕を持った日常生活を送りたかったのだが…
大学に入ると実際は、透の事をどこからか聞きつけた陸上部の部員達に、勧誘という目的の半ばストーカー行為で追いかけまわされる日々だった。
「とりあえずまだステラ(カフェテリア)に残ってるかもしんないし、適当に空き教室で時間つぶそうぜ。」
透は和基の言葉に頷いて手近な空き教室を探す事にした。
「おっここ空いてるみたいだな。」
「そうみたいだな。…いつも付き合わせて悪いな和基。」
「別に俺は全然かまわないぞ。面白いし。」
「…すっげヒトゴト~。ハァ、俺もそっちの立場になりてぇよ。」
「ため息が多いな~、イケメンが廃れるぞ。」
机に寄りかかる透に、和基は笑いながら返した。
陸上部からの勧誘が激しいのは透の容姿が整っている事も大きな要因だった。実力があり、更に容姿も整っている事をしきりに声高にして誘われるので、透も自覚はしていた。
おそらくどちらか一方のみだったらこんな事態にはならなかったのだろう、と透は複雑な気持ちでいた。
「そりゃ普通よりちょっとはイケメンかもしんないけどさ~、ガチのイケメンには遠く及ばねぇよ?俺。お前と同じぐらいじゃん。」
「まぁ超絶美形ってわけじゃないけどさ、そ…。」
二人が話していると急にガチャッ!と空き教室のドアが開く音がした。パッと振り向いてドアに注目した二人は、数人の男女が話しながら教室内に入ってくるのを見た。
知らない学生達だったが、どうやらこの後ここで集まりがあるようだった。
「何かのサークルのミーティングっぽいな。」
「そうだな。しょうがない、じゃ出るか。」
教室を出た二人は時間も経ったしそろそろ帰るか、と5号館から出る事にした。
それを10秒後、後悔する事になった。
「透っ3号館だ!あそこは少人数用のミーティングルームばっかだ!」
「っああ、隠れるにはちょうどいいな!」
「あいつらがしらみつぶしに探してる間に3号館を抜けて4号館に行こう!」
「おぅ!」
透は和基のペースに合わせて走っていた。一人で全速力を出せば振り切れる可能性も高いだろうが、この状況で一緒に居てくれる友人の心強さの方を選んだのだ。
和基もそんな透の心情を分かっている為、透一人で逃げろとは今まで決して言った事はなかった。
「っまずはどっか適当な部屋に、」
「和基!あの部屋っ!」
「!!」
3号館に入った二人は半分扉の開いた部屋に飛び込んで行った。
そこは備品室と書かれており、普段は施錠されている部屋だった。
2人はドアを閉めて機材や段ボールなどをかきわけ、壁際の背の高いロッカーの陰に一旦身を隠した。
「って、ん?…おい透、扉が空いてたって事はさ、この部屋…。」
目の前の和基の言葉に透はハッと顔を上げた。
その時バタバタという足音とドアが開く音がした。備品室に誰かが入ってきたようだ。
「ふぅー暑い暑い。あれ、ドア開けてたんだけどな?ま、いいか。えーっと、これはこっちであれをまとめて持ってくから…」
おそらく大学職員と思われる人の声がして二人はギュッと縮こまって息を潜めた。
室内には部屋に入って来た時に職員がつけた扇風機の音と、職員のたまにつぶやく独り言の声しか聞こえなかった。
バタバタバタバタ!
「ん、なんだ?」
「あっすいません!」
扉はまだ空いたままにしていたのだろう、ドアを開けた音がせず複数の人の足音と声が聞えた。
「あの、この部屋に学生が入ってきませんでしたか?」
その問いが聞えた時、和基はロッカーを背にする透に更に身を寄せて、1ミリでも面積を小さくしようと努力した。
「いや誰も来てないですね。」
「そうですか、ありがとうございます!失礼します!」
「上に行ってみよう!」
バタバタと複数の足音が遠ざかって行った。
ホッと息を吐いた二人だったが、
「…そこにいるんだろ?出てきなさい。」
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