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6.7月編
45話 愛の深さ
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僕は今、多目的室のドアの前に立っている。
その多目的室のドアには『進路カウンセラー』の張り紙が貼られてある。
本当に恋愛相談なんかしても良いのだろうか……。
そんな不安を抱えつつも僕は扉を開ける。
「失礼します……」
中に入ると、暇そうに机に突っ伏している白髪混じり……いや、白髪8に対し黒髪の割合が2くらいなのでもはや黒髪混じりの男生徒がそこにいた。
暇そうにしている彼を見ると本当に評判がいいのか更に不安になる。
その男生徒は僕に気付き、少し焦りながら姿勢を正し軽く頭を下げた。
名札には六道と書かれている。
「やぁ、いらっしゃい。今日はどういったご相談で?」
六道さんは優しくゆったりとした丁寧な口調で尋ねる。
「恋愛の相談なんですが」
僕の言葉を聞き六道さんは一気に落胆の表情へと変わる。
「また恋愛ごと……か……」
六道さんはため息を吐きながら正していた姿勢を崩し頬杖をつく。
「テスト期間中に珍しく人が来たからやっとこさ進路カウンセリング出来ると思ったんだけどな……いや、たとえ来てくれてもまともな進路カウンセリングなんて出来る気がしないし、したくもないけど……」
六道さんはそうぶつぶつ呟いたあと、「まぁ、座りなよ」と言いながら目の前の席を指差す。
僕はとりあえず六道さんに言われた通りに指差している席へと座った。
「それで? どういった内容で? 先に言っておくが、モテたいとかそういった相談なら別のところでやってくれよ。自分にそういった力はないから」
六道さんの口調はガラリと変わり、面倒そうに頬杖をついた状態で僕へと言う。
晴矢は六道さんをかなりのお人好しだと言っていたが、今の彼を見るに全然そんな感じには見えない。
「その……好きな人に告白がしたいんですけど、どういった告白がいいか分からなくて……」
「そんなの自分が言いたいことを言ってやればいいんだよ」
「何か特別な事をしたいと思ってるんですけど……」
「そんなことしなくていいだろ。重要なのは相手の気持ちだ。相手が自分の事を好きだと思ってくれてるならokされるし、嫌いなら振られるだけ。そりゃあ馬鹿みたいな告白をしたら好きだったのが嫌いに変わって振られるかもしれないけど、何か特別な告白をしたからって好きには多分ならない」
六道さんは僕と目を合わせずにつらつらと言っていく。
きっと同じ質問を何度もされ何度も同じことを言い続けているのだろう。
彼の言葉には言われ慣れたものを感じる。
「もし特別な何かをしたからokしたというなら、これから君はその子のために色々と頑張らないといけないよ。彼女は特別な何かが気になっただけで君自身を好きになったわけじゃない。君が頑張って君自身を好きになって貰わないと長続きはしないだろうし、浮気されるだろうな」
彼はそこで手を一度叩き、一呼吸入れ僕と目を合わす。
「まぁ、何にせよ結局のところ『好きだから付き合って下さい』の無難な一言が一番だ。それで今の君自身の事をどう思ってくれているか分かるだろうぜ」
結論で言うと六道さんが言っていることは晴矢が言っていた事と同じ。
きっと晴矢と違って考えに考えた末にこの結論になったと思うのだが、これだと先程晴矢たちと話していた内容と然程も変わらない。
「なんだか納得のいかない顔をしているな。自分は恋愛マスターでもなければ恋のキューピッドじゃない。恋愛相談を受けておきながらこんな事を言うのもなんだが……君の人生は君が主人公の物語だ。他人の言うことなんか御構い無しに、君が思い描きたいように君のシナリオを描けばいいんだよ」
凄い笑顔で六道さんはとうとうとんでもない事を言い出した。
「まぁ、何事も君次第だ。頑張れ」
六道さんは親指を立てながらそう言った後、それじゃあまた機会があれば、と手を振り始める。
「あ、あの、もう一つ聞きたいことがあるんですけど……」
六道さんは勝手に恋愛相談を終わらそうとしているが僕はそうはいかない。
まだ、彼に聞きたいことが残っている。
はっちゃん達が言っていた評判がいいという噂はもはや怪しかったが、そんなことはもうどうでも良かった。
僕が次に相談しようとしていることは晴矢やはっちゃんには相談できないこと。
このまま終わってしまうとここに来た意味が本当に無意味になってしまう。
「はぁ……時間はまだあるから別にいいけど……もう君も充分分かっているとは思うがまともなアドバイスなんかできないぜ。こんな無意味なことに時間を使うよりもテスト期間に入ってるから早く家に帰ってテスト勉強でも……」
六道さんはそこで言葉を止め、僕の顔をじっと見つめ始めた。
「ど、どうしました? 何か付いてますか?」
「いや、入ってきたから薄々思ってたんだが、どっかで見た顔だなって……でも気のせいだと思っていたから……あぁ! 思い出した!」
六道さんは急に大きな声を出しぽんっと手を叩く。
「林間学校の肝試しの時に女の子を庇った勇敢な男子!」
六道さんに言われ僕も思い出す。
「確か、肝試しのドッキリで刺された役をしていた……」
「そうそう! もしかしてあの時庇ってた女の子に告白しようとしているのか?」
「いや、その……僕が好きな子は別の子なので……」
「あぁ、そうなんだ……でも違う子に告白しようとしてるんだよな?」
「えぇ、まぁ……」
「よし、任せろ! 相談ならなんだってのってやるし協力もしよう! まぁ、勢いよく任せろとは言ったものの絶対に成就させれるわけではないけど……でも絶対に悔いは残させない」
六道さんはそう言った後、机の下から煎餅やらクッキーやらが入った籠を取り出し机の上に置いた。
「遠慮せずにどれでも好きなものを食べていいよ。全て学校から金が出ているから。あ、それと何か飲みものでも出そうか……って、凄い顔で固まってるけど大丈夫か?」
六道さんに指摘されハッと我に帰る。
「え、あ……す、すみません。さっきまでとは全然様子が違ったので……」
今までの六道さんを見ていて僕は、彼は他人の恋愛ごとには興味がなく嫌々で恋愛相談を受けていると思っていた。
そんな彼がいきなり積極的になれば驚くのも無理はないだろう。
「うーん……本当は他人の恋愛ごとになんて関わりたくはないんだけどな。今まで色々と面倒な事に巻き込まれてきたし……でも、誰かの為にそれなりの努力をしている人間に自分は後悔して欲しくはないんだ。特にこれといった取り柄もない自分だけど、何か出来ることがあるならいくらでも手を貸すよ」
六道さんはそう言い終わると笑顔を見せた。
この時、僕は晴矢が言っていた六道さんがお人好しといわれている理由がなんだか分かった気がした。
「それに自分は…………」
六道さんは何かを呟いていたがあまりにも声が小さく、その言葉は僕の耳には届かなかった。
笑いながら呟いていたが、先程の明るい笑顔とは違い、その笑顔には悲しみが含まれているように感じた。
「今、なんて……」
「ん? あぁ、別に何でもないよ。そんな事よりも君の恋愛相談を続けようぜ。それで? もう一つの聞きたいことというのは?」
何を呟いていたのか聞きたい気持ちもあったが、六道さん自身が流そうとしている為僕もこれ以上聞かないことにした。
「もし……もしもですよ?」
「うん」
「もし、余命宣告されていて数ヶ月後に絶対に死ぬって分かっていたとしても……告白しますか?」
4月に僕は瑞稀さんに告白しようと覚悟を決めた。
だけど、だんだん時間が経つに連れてその覚悟もだんだん揺らいでいった。
瑞稀さんともし付き合えたとしても、僕は来年の4月には死んでしまう。
沢山の大切な思い出を作れば作るほど、僕が死んでしまった後、彼女は悲しむのではないだろうか。
僕は瑞稀さんに悲しんで欲しくはない。
でも、瑞稀さんとは付き合いたい。
僕はどうするのが正しいのか分からなかった。
誰かにこの事を相談したいと思っていたが、色々と協力してくれてる晴矢達にまだ告白しようか迷っているとは申し訳なくて言う事など出来ない。
それに僕自身がこんなにも悩んでる事を大切な友人達にも考えてもらうのもなんだか嫌だった。
だから僕はこの質問をずっと一人で抱え込んできたのだが――
「する」
僕が約2ヶ月間悩み続けてきた事を六道さんは何事もないかのように即答した。
まるで当たり前の事を言うかのように。
告白を『する』と彼ははっきりと言ったのだ。
「えっと……もし仮に付き合える可能性が高いとしますよ? それでもしますか?」
「だったら尚更告白するだろ」
条件を付けることによって少しは悩んでくれると思ったが、六道さんは再び即答した。
しかも、六道さんの答えは変わらないどころか、告白する事を強調したのだ。
「もし付き合えたとしても、死ぬことが分かっているんですよ? 付き合ってる間に色々と思い出が出来て、自分が死んでしまった後にその思い出が大切な人を苦しめるかもしれない。だったら付き合わなかった方が大切な人を傷付けず済む。それでも六道さんは――」
「絶対に告白する」
六道さんは僕が全てを言い切る前に答えた。
もしかして彼は付き合えた後の事を考えていないのかと思ったがそうではないらしい。
六道さんが真剣に考えて答えているのか、自分には全然関係がなく現実味がない事だから適当に答えているのかは分からない。
まぁ、どちらにせよ、この人は――
「自分勝手だと思うか?」
僕は思っていた事をそのまま当てられギクリとする。
僕のそんな反応を見て六道さんは「まぁ、そう思うよな」と笑う。
そして一頻り笑った後、彼の表情は真剣なものへと変わった。
「今まで色々な恋愛を見てきた。恋が成就して両想いになったもの。大切な人と結ばれたいって思いながらも恋が成就しなかったもの。そして両想いであったにも関わらず、ちょっとした運命の悪戯で付き合えなかったものもいる」
六道さんは僕の目をじっと見据えたまま目を逸らさない。
僕もまたそんな彼の目から目を逸らせなかった。
「この世の中には沢山の人間がいる。何十億といった途方も無い数。それと比べれば一生の内に会える人の数なんてただでさえ少ないのに、その中で話しをして心通わせて仲良くなれる人なんてそれこそ一握りだろう。更にそんな中でもお互いのことを強く愛せるってのは奇跡だと思うんだ」
僕は六道さんの言葉を黙って聞いていた。
彼の言葉には強い想いが込められていて相槌を打つ事さえも躊躇ってしまう。
「確かに自分が死んだ後に大切な人を悲しませるかもしれないし、苦しませるかもしれない。でもそれってさ、それ程愛してくれてたって事だろ? それとも君は大切な人にとって、どうでもいい存在でありたいか?」
「……それは嫌です」
僕の言葉を聞き、六道さんは真剣な表情を緩ませ笑みを作る。
「ならさ、とことん愛してとことん悲しませてやろうぜ」
僕はその言葉に強く「はい」っと返事を返した。
そして、そんな僕を見て何かに勘付いたのか六道さんは首を傾げる。
「ん? こんな質問をするってことは……もしかして君は……」
「い、いえ……これは友人に同じことを質問されて、うまい返しができなかったので」
僕は咄嗟に嘘を付く。
流石に余命のことは晴矢達以外の人達には知られたくはない。
「……そっか」
六道さんがそう言った直後に五時のチャイムが鳴った。
「もうこんな時間か……すまないが、これから用事があるから今日はここまでで」
「いえ、今日はありがとうございました」
僕は礼を言って席を立ち、帰るために鞄を肩にかける。
「あ、少しだけいいか?」
帰ろうとする僕を六道さんは急に呼び止めた。
「はい、大丈夫ですが……」
「林間学校の肝試しの行動、そして今日数分話しただけでも分かるくらい君は優しい。いや、優し過ぎるといった方が正しいか……」
六道さんは何か言いづらい事でもあるのか、視線を泳がせている。
「さっき自分は自分の人生は自分が主人公だから好きにしろと言ったけど……しかし、常に自分が主人公って訳じゃない。ある誰かの物語の脇役になる時もあるし、悪役になってしまう時もある」
六道さんは泳がせていた視線を僕へと向ける。
「そして、自分の物語だけではなく誰かの物語の主人公になる時だってある。君はその責任をとる覚悟はあるか?」
僕はその言葉の意図が分からずに首を傾げた。
そんな反応を見て六道さんは大きな溜息をつく。
「あぁ……やっぱ今のなし。綺麗さっぱり忘れてくれ」
六道さんはそれ以上何も言わなかった。
結局何が言いたかったのはさっぱり分からないまま僕は再び帰る用意をする。
「今日は本当にありがとうございました」
「あぁ、告白上手くいくといいな……ええっと……そういえばちゃんと自己紹介してなかったっけ」
六道さんは僕の前へと手を差し出す。
「自分の名前は六道 幸作。また何かあればその時はよろしくな」
「僕は銘雪 陸。よろしくです」
僕は六道さんの手を取り、力強い握手を交わした。
その多目的室のドアには『進路カウンセラー』の張り紙が貼られてある。
本当に恋愛相談なんかしても良いのだろうか……。
そんな不安を抱えつつも僕は扉を開ける。
「失礼します……」
中に入ると、暇そうに机に突っ伏している白髪混じり……いや、白髪8に対し黒髪の割合が2くらいなのでもはや黒髪混じりの男生徒がそこにいた。
暇そうにしている彼を見ると本当に評判がいいのか更に不安になる。
その男生徒は僕に気付き、少し焦りながら姿勢を正し軽く頭を下げた。
名札には六道と書かれている。
「やぁ、いらっしゃい。今日はどういったご相談で?」
六道さんは優しくゆったりとした丁寧な口調で尋ねる。
「恋愛の相談なんですが」
僕の言葉を聞き六道さんは一気に落胆の表情へと変わる。
「また恋愛ごと……か……」
六道さんはため息を吐きながら正していた姿勢を崩し頬杖をつく。
「テスト期間中に珍しく人が来たからやっとこさ進路カウンセリング出来ると思ったんだけどな……いや、たとえ来てくれてもまともな進路カウンセリングなんて出来る気がしないし、したくもないけど……」
六道さんはそうぶつぶつ呟いたあと、「まぁ、座りなよ」と言いながら目の前の席を指差す。
僕はとりあえず六道さんに言われた通りに指差している席へと座った。
「それで? どういった内容で? 先に言っておくが、モテたいとかそういった相談なら別のところでやってくれよ。自分にそういった力はないから」
六道さんの口調はガラリと変わり、面倒そうに頬杖をついた状態で僕へと言う。
晴矢は六道さんをかなりのお人好しだと言っていたが、今の彼を見るに全然そんな感じには見えない。
「その……好きな人に告白がしたいんですけど、どういった告白がいいか分からなくて……」
「そんなの自分が言いたいことを言ってやればいいんだよ」
「何か特別な事をしたいと思ってるんですけど……」
「そんなことしなくていいだろ。重要なのは相手の気持ちだ。相手が自分の事を好きだと思ってくれてるならokされるし、嫌いなら振られるだけ。そりゃあ馬鹿みたいな告白をしたら好きだったのが嫌いに変わって振られるかもしれないけど、何か特別な告白をしたからって好きには多分ならない」
六道さんは僕と目を合わせずにつらつらと言っていく。
きっと同じ質問を何度もされ何度も同じことを言い続けているのだろう。
彼の言葉には言われ慣れたものを感じる。
「もし特別な何かをしたからokしたというなら、これから君はその子のために色々と頑張らないといけないよ。彼女は特別な何かが気になっただけで君自身を好きになったわけじゃない。君が頑張って君自身を好きになって貰わないと長続きはしないだろうし、浮気されるだろうな」
彼はそこで手を一度叩き、一呼吸入れ僕と目を合わす。
「まぁ、何にせよ結局のところ『好きだから付き合って下さい』の無難な一言が一番だ。それで今の君自身の事をどう思ってくれているか分かるだろうぜ」
結論で言うと六道さんが言っていることは晴矢が言っていた事と同じ。
きっと晴矢と違って考えに考えた末にこの結論になったと思うのだが、これだと先程晴矢たちと話していた内容と然程も変わらない。
「なんだか納得のいかない顔をしているな。自分は恋愛マスターでもなければ恋のキューピッドじゃない。恋愛相談を受けておきながらこんな事を言うのもなんだが……君の人生は君が主人公の物語だ。他人の言うことなんか御構い無しに、君が思い描きたいように君のシナリオを描けばいいんだよ」
凄い笑顔で六道さんはとうとうとんでもない事を言い出した。
「まぁ、何事も君次第だ。頑張れ」
六道さんは親指を立てながらそう言った後、それじゃあまた機会があれば、と手を振り始める。
「あ、あの、もう一つ聞きたいことがあるんですけど……」
六道さんは勝手に恋愛相談を終わらそうとしているが僕はそうはいかない。
まだ、彼に聞きたいことが残っている。
はっちゃん達が言っていた評判がいいという噂はもはや怪しかったが、そんなことはもうどうでも良かった。
僕が次に相談しようとしていることは晴矢やはっちゃんには相談できないこと。
このまま終わってしまうとここに来た意味が本当に無意味になってしまう。
「はぁ……時間はまだあるから別にいいけど……もう君も充分分かっているとは思うがまともなアドバイスなんかできないぜ。こんな無意味なことに時間を使うよりもテスト期間に入ってるから早く家に帰ってテスト勉強でも……」
六道さんはそこで言葉を止め、僕の顔をじっと見つめ始めた。
「ど、どうしました? 何か付いてますか?」
「いや、入ってきたから薄々思ってたんだが、どっかで見た顔だなって……でも気のせいだと思っていたから……あぁ! 思い出した!」
六道さんは急に大きな声を出しぽんっと手を叩く。
「林間学校の肝試しの時に女の子を庇った勇敢な男子!」
六道さんに言われ僕も思い出す。
「確か、肝試しのドッキリで刺された役をしていた……」
「そうそう! もしかしてあの時庇ってた女の子に告白しようとしているのか?」
「いや、その……僕が好きな子は別の子なので……」
「あぁ、そうなんだ……でも違う子に告白しようとしてるんだよな?」
「えぇ、まぁ……」
「よし、任せろ! 相談ならなんだってのってやるし協力もしよう! まぁ、勢いよく任せろとは言ったものの絶対に成就させれるわけではないけど……でも絶対に悔いは残させない」
六道さんはそう言った後、机の下から煎餅やらクッキーやらが入った籠を取り出し机の上に置いた。
「遠慮せずにどれでも好きなものを食べていいよ。全て学校から金が出ているから。あ、それと何か飲みものでも出そうか……って、凄い顔で固まってるけど大丈夫か?」
六道さんに指摘されハッと我に帰る。
「え、あ……す、すみません。さっきまでとは全然様子が違ったので……」
今までの六道さんを見ていて僕は、彼は他人の恋愛ごとには興味がなく嫌々で恋愛相談を受けていると思っていた。
そんな彼がいきなり積極的になれば驚くのも無理はないだろう。
「うーん……本当は他人の恋愛ごとになんて関わりたくはないんだけどな。今まで色々と面倒な事に巻き込まれてきたし……でも、誰かの為にそれなりの努力をしている人間に自分は後悔して欲しくはないんだ。特にこれといった取り柄もない自分だけど、何か出来ることがあるならいくらでも手を貸すよ」
六道さんはそう言い終わると笑顔を見せた。
この時、僕は晴矢が言っていた六道さんがお人好しといわれている理由がなんだか分かった気がした。
「それに自分は…………」
六道さんは何かを呟いていたがあまりにも声が小さく、その言葉は僕の耳には届かなかった。
笑いながら呟いていたが、先程の明るい笑顔とは違い、その笑顔には悲しみが含まれているように感じた。
「今、なんて……」
「ん? あぁ、別に何でもないよ。そんな事よりも君の恋愛相談を続けようぜ。それで? もう一つの聞きたいことというのは?」
何を呟いていたのか聞きたい気持ちもあったが、六道さん自身が流そうとしている為僕もこれ以上聞かないことにした。
「もし……もしもですよ?」
「うん」
「もし、余命宣告されていて数ヶ月後に絶対に死ぬって分かっていたとしても……告白しますか?」
4月に僕は瑞稀さんに告白しようと覚悟を決めた。
だけど、だんだん時間が経つに連れてその覚悟もだんだん揺らいでいった。
瑞稀さんともし付き合えたとしても、僕は来年の4月には死んでしまう。
沢山の大切な思い出を作れば作るほど、僕が死んでしまった後、彼女は悲しむのではないだろうか。
僕は瑞稀さんに悲しんで欲しくはない。
でも、瑞稀さんとは付き合いたい。
僕はどうするのが正しいのか分からなかった。
誰かにこの事を相談したいと思っていたが、色々と協力してくれてる晴矢達にまだ告白しようか迷っているとは申し訳なくて言う事など出来ない。
それに僕自身がこんなにも悩んでる事を大切な友人達にも考えてもらうのもなんだか嫌だった。
だから僕はこの質問をずっと一人で抱え込んできたのだが――
「する」
僕が約2ヶ月間悩み続けてきた事を六道さんは何事もないかのように即答した。
まるで当たり前の事を言うかのように。
告白を『する』と彼ははっきりと言ったのだ。
「えっと……もし仮に付き合える可能性が高いとしますよ? それでもしますか?」
「だったら尚更告白するだろ」
条件を付けることによって少しは悩んでくれると思ったが、六道さんは再び即答した。
しかも、六道さんの答えは変わらないどころか、告白する事を強調したのだ。
「もし付き合えたとしても、死ぬことが分かっているんですよ? 付き合ってる間に色々と思い出が出来て、自分が死んでしまった後にその思い出が大切な人を苦しめるかもしれない。だったら付き合わなかった方が大切な人を傷付けず済む。それでも六道さんは――」
「絶対に告白する」
六道さんは僕が全てを言い切る前に答えた。
もしかして彼は付き合えた後の事を考えていないのかと思ったがそうではないらしい。
六道さんが真剣に考えて答えているのか、自分には全然関係がなく現実味がない事だから適当に答えているのかは分からない。
まぁ、どちらにせよ、この人は――
「自分勝手だと思うか?」
僕は思っていた事をそのまま当てられギクリとする。
僕のそんな反応を見て六道さんは「まぁ、そう思うよな」と笑う。
そして一頻り笑った後、彼の表情は真剣なものへと変わった。
「今まで色々な恋愛を見てきた。恋が成就して両想いになったもの。大切な人と結ばれたいって思いながらも恋が成就しなかったもの。そして両想いであったにも関わらず、ちょっとした運命の悪戯で付き合えなかったものもいる」
六道さんは僕の目をじっと見据えたまま目を逸らさない。
僕もまたそんな彼の目から目を逸らせなかった。
「この世の中には沢山の人間がいる。何十億といった途方も無い数。それと比べれば一生の内に会える人の数なんてただでさえ少ないのに、その中で話しをして心通わせて仲良くなれる人なんてそれこそ一握りだろう。更にそんな中でもお互いのことを強く愛せるってのは奇跡だと思うんだ」
僕は六道さんの言葉を黙って聞いていた。
彼の言葉には強い想いが込められていて相槌を打つ事さえも躊躇ってしまう。
「確かに自分が死んだ後に大切な人を悲しませるかもしれないし、苦しませるかもしれない。でもそれってさ、それ程愛してくれてたって事だろ? それとも君は大切な人にとって、どうでもいい存在でありたいか?」
「……それは嫌です」
僕の言葉を聞き、六道さんは真剣な表情を緩ませ笑みを作る。
「ならさ、とことん愛してとことん悲しませてやろうぜ」
僕はその言葉に強く「はい」っと返事を返した。
そして、そんな僕を見て何かに勘付いたのか六道さんは首を傾げる。
「ん? こんな質問をするってことは……もしかして君は……」
「い、いえ……これは友人に同じことを質問されて、うまい返しができなかったので」
僕は咄嗟に嘘を付く。
流石に余命のことは晴矢達以外の人達には知られたくはない。
「……そっか」
六道さんがそう言った直後に五時のチャイムが鳴った。
「もうこんな時間か……すまないが、これから用事があるから今日はここまでで」
「いえ、今日はありがとうございました」
僕は礼を言って席を立ち、帰るために鞄を肩にかける。
「あ、少しだけいいか?」
帰ろうとする僕を六道さんは急に呼び止めた。
「はい、大丈夫ですが……」
「林間学校の肝試しの行動、そして今日数分話しただけでも分かるくらい君は優しい。いや、優し過ぎるといった方が正しいか……」
六道さんは何か言いづらい事でもあるのか、視線を泳がせている。
「さっき自分は自分の人生は自分が主人公だから好きにしろと言ったけど……しかし、常に自分が主人公って訳じゃない。ある誰かの物語の脇役になる時もあるし、悪役になってしまう時もある」
六道さんは泳がせていた視線を僕へと向ける。
「そして、自分の物語だけではなく誰かの物語の主人公になる時だってある。君はその責任をとる覚悟はあるか?」
僕はその言葉の意図が分からずに首を傾げた。
そんな反応を見て六道さんは大きな溜息をつく。
「あぁ……やっぱ今のなし。綺麗さっぱり忘れてくれ」
六道さんはそれ以上何も言わなかった。
結局何が言いたかったのはさっぱり分からないまま僕は再び帰る用意をする。
「今日は本当にありがとうございました」
「あぁ、告白上手くいくといいな……ええっと……そういえばちゃんと自己紹介してなかったっけ」
六道さんは僕の前へと手を差し出す。
「自分の名前は六道 幸作。また何かあればその時はよろしくな」
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