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スイーツ②
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シュークリーム二つを持ってレジに向かう。皇女様は相変わらず、とてとて、と歩いて着いてきた。
「いないなぁ、あのギャルっ」
「そうですね...」
あのギャルって...。確かにウヅキはギャルっぽさはあるけど。
『こちらにお並び下さい』の貼り紙が地に這いつくばってるのをちらりと一瞥し、奥にいるはずのウヅキを呼ぶ。それにしてもあいつサボりすぎだな...。
「すみませーん」
「はぁ~いっ」
ウヅキは夜に似合わない、やけに明るい声音で応じる。リズミカルな足音とともに件のギャルが登場した。
「おーまたまたマジメンくんだ」
「...サボりすぎじゃない?」
「確かにっ」
たはは、と照れたように笑うウヅキは素早くレジを通す。ピッピッ、と音ゲーの要領だ。
「いやでも今は揚げ物やってたの...揚げ物イヤだから深夜入ったのに、今夜は特例」
わざとらしく肩を落とす。どうやら本当らしく、袖がまくられていた。
ふとホットスナックのコーナーを見遣ると何にも無い。なるほど、こりゃダメだ。
「コンビニバイト、大変なんだな」
僕はバイトとか絶対無理だから尊敬する。コミュ障とかとは全く違うんだけど、接客とか嫌だ。
するとウヅキはどうやらホントに大変らしい。長々と愚痴り始めた。
「そーなんだよー。特に午後。クレーマーのサラリーマンウザすぎる。きっと上司に虐められたストレスを発散してるんだろーなーって思いながら相手してる」
「...あー、それはうざいなぁ」
偶にエンカウントするタバコ銘柄で言うおじさんとかうへぇ、ってなる。そんで店員が「番号でお願いします」って言うとキレ出す人とかいるよね。後ろでレジ待つ人の気持ち考えろっつーの。
すると、愚痴に同意された事に満足したらしい。ウヅキは嬉しそうな表情でカウンターに乗り出してきた。キラキラデコられた名札が大きな胸元と共に揺れる。
「マジメンくんも一緒にやろーよ。楽しいぜぇ~」
「...っ」
化粧に隠れたあどけない顔立ちが目の前にあって、心臓が跳ねる。そんな僕を不思議そうに凝視したのち、媚びるように可愛らしく笑った。...こいつも距離感おかしい人間だったな。
思わずその場で履歴書買って書いて面接受けそうになったが---思いとどまった。
ウヅキは、誰にだって、こういう態度を取る人なのだ。
世渡り上手で超可愛らしく、ちょっぴり小悪魔的な女の子。
だから、勘違いしてはいけない。
「...いや、愚痴のあとに『楽しいぜ~』とか言われても説得力無いし...」
「それもそうだ~」
高鳴る心臓を抑え僕が意識的に平坦な口調で断ると、彼女は笑みを浮かべたまま引き下がった。
視線を落とし、シュークリームをポリ袋に入れる。ガサガサ、という音が、束の間の静寂に響く。
ウヅキの笑みは、どこか悲しそうにも見えたのは気のせいだろうか。
* * *
コンビニの照明が漏れ出てほのかな煌きを擁しているアスファルトに、シュークリームのカスタードが落ちた。
「クリーム多いですね...」
甘くて美味しいんだけど、めっちゃクリームが手につく。シュークリームのシューの要素が格段に影薄い。
苦戦してる僕をみて、隣でしゃがんでる皇女様は楽しげだ。
「こどもみたいだぞ少年!」
そういう彼女の口元には大量のクリームが。てか鼻まで付いてる、どうやって食べたらそうなるんだ...。
「クリーム付いてますよ」
「わわっ、ホントだっ」
ちょっと恥ずかしがる素振りをして、萌え袖で白と黄色のクリームを拭った。それ、僕のパーカーなんですけど...。まあ、いいか。
「はむっ...それにしてもおいしいなっ」
「ですね~」
そう言って彼女はかぶりつくと、再び口元にクリームがつく。ぺろりとそれを、舌で舐めた。
その仕草が何だか甘美で、見惚れてしまう。
「そういや少年」
「...っ。はいっ!」
急に僕の方を見てきたので、慌てて目を逸らした。彼女はきょとん、としていたが、やがてシュークリームに視線やって問うてきた。言いづらそうに口籠らせる。
「少年と、ウヅキとやらは、一体、ど、どういう関係なのだっ?」
「はっ?」
思ってもいない問いかけに、変な声が出た。
どういう関係と言われても、どういう関係でもない。ただ、僕が昔、好きだっただけで。
でも、そんなこと言う必要は無いだろう。
端的に答えた。
「ふつーに同じ高校だっただけですけど」
「そ、それにしては、仲良すぎではないか?」
あー、確かにそう見えるかもしれないけど。あれはただ、ウヅキがそういう性格ってだけだ。僕に対してだけ、ああいう態度な訳じゃない。
「ウヅキはそういう人なんですよ。コミュ力高いってゆーか」
僕のコミュ力が低くても普通に会話ができてしまうくらい彼女は話しやすいのだ。
皇女様は不安そうに、再び聞いてくる。
「本当かっ?」
「本当です」
「本当に本当に本当かっ?」
「本当に本当に本当です」
「そうかっ」
皇女様は安心したらしい。嬉しそうに口角を上げて、残り少ないシュークリームを口に運ぶ。
僕は若干飽きてきたなー...てか、甘過ぎる、胃もたれしてきた。最初の方は美味かったんだけど、途中から手が進まなくなっていた。歳とったんだなぁと実感する。
しかし、だ。嬉しかった。嫉妬では無いのだろうけど、僕とウヅキが仲良さげにしていることに、ちょっとでも引っ掛かりを覚えてくれた事が。
「少年、手が止まってるぞ...いただきっ!はむっ」
物思いに耽っていた僕の手に残されてた半分くらいのシュークリーム。皇女様は突然それに、食いついてきた。
刹那に唇が手に触れ、頭まで脈打ちそうだ。鼓動が凄い勢い。
「ごちそーさまっ」
悪戯っぽく笑む彼女に僕は。
スイーツは甘々だと胃もたれするけど、女の子はどれだけ甘くてもいい、なんて、しょーもない事を考えた。
「いないなぁ、あのギャルっ」
「そうですね...」
あのギャルって...。確かにウヅキはギャルっぽさはあるけど。
『こちらにお並び下さい』の貼り紙が地に這いつくばってるのをちらりと一瞥し、奥にいるはずのウヅキを呼ぶ。それにしてもあいつサボりすぎだな...。
「すみませーん」
「はぁ~いっ」
ウヅキは夜に似合わない、やけに明るい声音で応じる。リズミカルな足音とともに件のギャルが登場した。
「おーまたまたマジメンくんだ」
「...サボりすぎじゃない?」
「確かにっ」
たはは、と照れたように笑うウヅキは素早くレジを通す。ピッピッ、と音ゲーの要領だ。
「いやでも今は揚げ物やってたの...揚げ物イヤだから深夜入ったのに、今夜は特例」
わざとらしく肩を落とす。どうやら本当らしく、袖がまくられていた。
ふとホットスナックのコーナーを見遣ると何にも無い。なるほど、こりゃダメだ。
「コンビニバイト、大変なんだな」
僕はバイトとか絶対無理だから尊敬する。コミュ障とかとは全く違うんだけど、接客とか嫌だ。
するとウヅキはどうやらホントに大変らしい。長々と愚痴り始めた。
「そーなんだよー。特に午後。クレーマーのサラリーマンウザすぎる。きっと上司に虐められたストレスを発散してるんだろーなーって思いながら相手してる」
「...あー、それはうざいなぁ」
偶にエンカウントするタバコ銘柄で言うおじさんとかうへぇ、ってなる。そんで店員が「番号でお願いします」って言うとキレ出す人とかいるよね。後ろでレジ待つ人の気持ち考えろっつーの。
すると、愚痴に同意された事に満足したらしい。ウヅキは嬉しそうな表情でカウンターに乗り出してきた。キラキラデコられた名札が大きな胸元と共に揺れる。
「マジメンくんも一緒にやろーよ。楽しいぜぇ~」
「...っ」
化粧に隠れたあどけない顔立ちが目の前にあって、心臓が跳ねる。そんな僕を不思議そうに凝視したのち、媚びるように可愛らしく笑った。...こいつも距離感おかしい人間だったな。
思わずその場で履歴書買って書いて面接受けそうになったが---思いとどまった。
ウヅキは、誰にだって、こういう態度を取る人なのだ。
世渡り上手で超可愛らしく、ちょっぴり小悪魔的な女の子。
だから、勘違いしてはいけない。
「...いや、愚痴のあとに『楽しいぜ~』とか言われても説得力無いし...」
「それもそうだ~」
高鳴る心臓を抑え僕が意識的に平坦な口調で断ると、彼女は笑みを浮かべたまま引き下がった。
視線を落とし、シュークリームをポリ袋に入れる。ガサガサ、という音が、束の間の静寂に響く。
ウヅキの笑みは、どこか悲しそうにも見えたのは気のせいだろうか。
* * *
コンビニの照明が漏れ出てほのかな煌きを擁しているアスファルトに、シュークリームのカスタードが落ちた。
「クリーム多いですね...」
甘くて美味しいんだけど、めっちゃクリームが手につく。シュークリームのシューの要素が格段に影薄い。
苦戦してる僕をみて、隣でしゃがんでる皇女様は楽しげだ。
「こどもみたいだぞ少年!」
そういう彼女の口元には大量のクリームが。てか鼻まで付いてる、どうやって食べたらそうなるんだ...。
「クリーム付いてますよ」
「わわっ、ホントだっ」
ちょっと恥ずかしがる素振りをして、萌え袖で白と黄色のクリームを拭った。それ、僕のパーカーなんですけど...。まあ、いいか。
「はむっ...それにしてもおいしいなっ」
「ですね~」
そう言って彼女はかぶりつくと、再び口元にクリームがつく。ぺろりとそれを、舌で舐めた。
その仕草が何だか甘美で、見惚れてしまう。
「そういや少年」
「...っ。はいっ!」
急に僕の方を見てきたので、慌てて目を逸らした。彼女はきょとん、としていたが、やがてシュークリームに視線やって問うてきた。言いづらそうに口籠らせる。
「少年と、ウヅキとやらは、一体、ど、どういう関係なのだっ?」
「はっ?」
思ってもいない問いかけに、変な声が出た。
どういう関係と言われても、どういう関係でもない。ただ、僕が昔、好きだっただけで。
でも、そんなこと言う必要は無いだろう。
端的に答えた。
「ふつーに同じ高校だっただけですけど」
「そ、それにしては、仲良すぎではないか?」
あー、確かにそう見えるかもしれないけど。あれはただ、ウヅキがそういう性格ってだけだ。僕に対してだけ、ああいう態度な訳じゃない。
「ウヅキはそういう人なんですよ。コミュ力高いってゆーか」
僕のコミュ力が低くても普通に会話ができてしまうくらい彼女は話しやすいのだ。
皇女様は不安そうに、再び聞いてくる。
「本当かっ?」
「本当です」
「本当に本当に本当かっ?」
「本当に本当に本当です」
「そうかっ」
皇女様は安心したらしい。嬉しそうに口角を上げて、残り少ないシュークリームを口に運ぶ。
僕は若干飽きてきたなー...てか、甘過ぎる、胃もたれしてきた。最初の方は美味かったんだけど、途中から手が進まなくなっていた。歳とったんだなぁと実感する。
しかし、だ。嬉しかった。嫉妬では無いのだろうけど、僕とウヅキが仲良さげにしていることに、ちょっとでも引っ掛かりを覚えてくれた事が。
「少年、手が止まってるぞ...いただきっ!はむっ」
物思いに耽っていた僕の手に残されてた半分くらいのシュークリーム。皇女様は突然それに、食いついてきた。
刹那に唇が手に触れ、頭まで脈打ちそうだ。鼓動が凄い勢い。
「ごちそーさまっ」
悪戯っぽく笑む彼女に僕は。
スイーツは甘々だと胃もたれするけど、女の子はどれだけ甘くてもいい、なんて、しょーもない事を考えた。
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