魔性少女カスミちゃん~隣の刹那君は私に惚れない~

三一五六(サイコロ)

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八性 終わりの始まり

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「き、綺麗!」
「でしょ!」

 そこはこの街を一望できる絶景スポット。
 私の通う学校、有名な赤色のタワー、最近できたムサシタワーもしっかり見える。
 他にも富士山も薄っすらだが、紅色に染まる空によって黒いシルエットが私の目に映った。

「ヘリってどこに止まるの?」
「ここにHってあるだろ?」
「う、うん」
「ここを目印にして着陸するんだ」
「え、近くないかな? 大丈夫?」
「大丈夫だって! ヘリのマークにはRとHがあって、Rは着陸できないマークで、Hは着陸ができるマークだから心配することないよ」

 大志君って意外と賢いんだな。って、失礼か。
 けど、私達の関係ってセフレ、いや、ワンナイトみたいなものだし。
 第一印象がそれぐらいなのは仕方ないだろう。
 それよりヘリとか初めて乗るよ。墜落とかしないのかな?
 テレビのニュースとかで時々、民家にヘリが墜落しましたみたいなんやってるし……。
 正直、ワクワク二割、怖さ八割ぐらい。だから、心臓はバクバクだ。

「ひ、一つ質問していい?」
「ん? 何かな?」
「えっと、ヘリより歩く方が逃げるには良い気がするんだけど……」

 みんなもそう思うでしょ?
 誰が考えても分かることだし、この状況の一番の謎だよね。

「いや、それは危険すぎる!」
「な、何で? ヘリの方が墜落の可能性があると思うけど」
「だって、今から……」

 大志君の顔から笑顔が消える。
 本当に危険なことがあるのだろうか?

「今から?」
「このホテルを……燃やすんだから」
「……」

 二人の間に強い風が吹き、時が止まる。
 私はしっかりその言葉を聞いていたが、大志君が何を言っているのか分からなかった。
 燃やすとは何なのかが分からなかったのではなく、何故そのようなことをするのかが理解できなかったのだ。

「どういう……こと?」
「そのままの意味だよ。このホテルを燃やし、灰にする」
「大志君の家が経営するホテルだよね? おかしくない? 意味分かってる?」
「もちろん、そこまで俺もバカじゃない」
「じゃあ、何で?」

 私から目を逸らしながら、嫌な表情をして口を開いた。

「それはカスミを傷付けたあいつらを殺すため」
「……」

 そこまでしなくても……という言葉が喉まで来ていたが何故か音にならなかった。
 おそらく、私は『殺す』という言葉に戸惑ったのだろう。
 いや、それだけじゃない。
 毎日のように世界では多くの人が殺されている。だが、その瞬間に立ち会う人など殺人犯以外にはいない。
 けど、私は今この瞬間、それに立ち会おうとしている。まるで、私が犯罪者みたい。
 そう、思ったのだ。

「そんな顔してどうした?」
「お願いがあるの……」
「ん?」
「あの二人が私を傷付けたことは事実。けど、その罪が死というのは流石に重すぎると思うの。だから、命だけは奪わないでほしい」

 私は初めて人のために頭を下げた。
 それも私に危害を加えた男達のために。
 でも、そんな男達の命だとしても、私の頭を下げる行為より重いと思ったからそうした。

「カスミはどこまでも優しい女の子だ。もう頭を上げて」

 顔を上げると大志君は笑っていた。
 その笑顔には殺意などもう感じられない。純粋でどこまでも続く太陽の光のような輝いた笑みだった。

「あ、ありがとう」
「俺は何も。それよりそろそろヘリが来るんじゃないかな? この双眼鏡で富士山方面を見てみてよ!」
「うん。すぐ分かるかな?」
「ヘリだから分かるよ。見つけたら言ってね!」
「うん、分かった」

 そんな会話をしてから十分が経つが、双眼鏡のレンズにはヘリらしきものは映らない。
 見えるものと言ったら、夕日と富士山の美しい景色と電線を飛び交うカラスの姿だけ。
 時折、強い風が吹くが特に景色は変わらない。
 ただ、髪を揺らし、シャツの隙間から乳首を刺激し、濡れたパンツを冷やす。
 大志君はというと、特に喋りかけることもなく、喋りかけられることなく、沈黙が続いている。
 男子と二人きりの時は大体の男子が自分から話しかけて来るから、こういう場合はどうすればいいか分からない。
 黙っているべきなのか、軽く世間話をするべきなのか。
 ヘリが早く来たらいいのに。

「――準備はできたか? ああ、分かった。こちらも今からだ。じゃあ……」

 電話だろうか?
 沈黙した屋上に大志君の声が微かに聞こえる。
 内容は聞こえなかったが、電話をしていたということはそろそろ来る頃なのだろう。

「ねぇ、かすみ」
「ん? ヘリはまだみたいだよ」
「……ヘリならこっちから来たみたいだよ。ほら、アレ!」
「ほ、本当に!」

 その言葉にテンションが上がった私は勢いよく振り返る。

「……嘘」
「え? それは何の真似……」
「おいおい、笑わすなよ。見れば分かるだろ?」
「……わか、分からない」
「だーかーら! お前を……殺すんだよ」

 大志君は右手でナイフを握り、こっちへ向かって来る。
 私にチンコを刺したからって、次はナイフを刺すのは流石に洒落にならない。

「ちょ、待って! ヘリで逃げるんじゃ――」
「ああ、それは俺だけだ! お前はあいつらと一緒に炎の中で死ぬんだよ。あ、違うか!今から俺が殺してあげるのか!」
「意味が……分からないんだけど。どうしてそんなこと……」
「まだ、まだとぼけるかぁ! 死んで償え! お前の罪を!」

 ナイフを向けられた私の足は動かない。
 それに頭の中は真っ白で、目の前の状況が全く分からない。
 とぼける? 死んで償え? 罪?
 私が大志君に何をしたっていうの?
 記憶を遡っても大志君との記憶は今日とヤった日だけ。
 そんなことを考えているうちに大志君は三メートル、二メートル、一メートルと距離を詰めて来る。
 ……怖い、怖い、怖い。
 ストーカー、痴漢、レイプ。性的な暴行なんか比べものにならない怖さだ。

「これで、これで……全て終わりだぁ! 死ねぇぇぇぇ!」

 肩を掴まれ、ナイフを振りかぶる。
 死ぬ、死ぬんだ私……。
 覚悟を決めて瞼を下ろした。
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