魔性少女カスミちゃん~隣の刹那君は私に惚れない~

三一五六(サイコロ)

文字の大きさ
63 / 65
八性 終わりの始まり

62

しおりを挟む
「た、大志君! もうこんなこと止めようよ!」
「うっせぇな! お前はあいつを殺す餌だ。だから、黙ってろ!」
「でも、大志君がこんなことをしてもマナは喜ばない! 明日、デートするんでしょ!」

 これが私が大志君の怒りを収める唯一の方法だった。
 大志君だって、マナのことを思い出せば我に返るはずだ。
 それに私はこれ以上マナの悲しむ顔を見たくない。

「マナ? そんなやつどうでもいい!」
「彼女……。大志君の彼女でしょ! 好きなんでしょ!」
「あんなデカパイしか魅力のない女なんか好きなわけねぇーだろ?」
「……胸は評価しているのね。でも、付き合っているんだよね?」

 大志君はマナの彼氏だよね?
 マナの妄想彼氏だったとか? それはないと信じたいが……。
 でも、ラブラブなメールをしているぐらいだ。それにマナはそんな嘘をつく子じゃない。

「一応、付き合っている。いや、付き合わされていると言った方が正しい」
「どういうこと?」
「マナは俺の……許嫁なんだ。父が会社を大きくするということで、マナの父が経営していた会社を買収した。その買収の代わりが許嫁ってこと。そのせいで俺はマナと付き合うことになったってわけ」
「それはマナも知っているんだよね?」
「いや、一切知らないだろうな」
「な、何で?」
「そんなのはマナの親に聞け。まず、大体推測はつくだろ?」

 推測なんてつくはずがない。
 それにマナがそんなこと知ったら、絶対に傷つく。
 私からは絶対にこのことは言えない。
 私からは言えない? 待てよ、それってつまり……

「……娘の気持ちを考えたら、親は言えなかったってこと?」
「多分な、それにマナの家は貧乏だ。その原因が自分だと知ったら、ショックはそれなりに大きいはずだからな」

 確かに自分がその立場なら、家族に申し訳なさすぎる。
 マナが知らないのも仕方ないと言えば仕方ない。
 でも、マナを悲しませることはさせたくない。

「今からでもいい。だから、お願い! マナを好きになってあげて!」
「そんなことできるわけないだろ!」
「何で!」
「好きでもないやつのことを、急に好きになれるはずがない」
「マナは大志君のことを愛してる! ずっと、大志君のことを考えているよ!」

 私は入学してから見てきた。
 いきなり大志君に呼び出されて、笑顔で帰るマナ。
 デートした思い出をウキウキしながら、声を弾ませて喋るマナ。
 大志君と遊べなくて、別れの危機を恐れるマナ。
 大志君からの久しぶりメールにテンションを爆発させるマナ。
 他にもたくさんのマナの姿をこの一カ月間見てきた。
 だから、私はマナに幸せになってほしい。

「それはマナだけだ。俺は何とも思っていない」
「大志君もちょっとずつ好きになるって! だから、こんなこと止めよう! そして二人で幸せになれば――」
「チッ、そんなこと言える立場かよ」
「え……」

 私はマナの友達。そして私の数少ない大切な友達だ。

「いい加減気づけよ! お前が一番分かってるだろ! 好きでもない人からの好意は、自分にとっては興味のないことってことを!」
「……」

 何も言葉が出なかった。まず何も言える言葉がなかったのだ。
 分かっていたはずなのに、分かっていなかったみたいだ。
 魔性持ちとして、好意を持たれるのは日常茶飯事。だけど、その好意にイエスと答えたことなんて一度もない。
 それなのにマナの気持ちだけを考えて、大志君の気持ちは考えずに最低だ……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...