魔性少女カスミちゃん~隣の刹那君は私に惚れない~

三一五六(サイコロ)

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八性 終わりの始まり

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「おっと、残念ながらお話はここまでのようだ」
「ボス、オソクナッタ、ゴメン」

 扉を見ると、そこにはさっき二人いた黒人の一人が立っていた。
 頬についた白い液体を舌で舐め、美味しそうに飲み込む。

「気にするな、丁度こちらも話を終えたところだ」
「……チッ、二対一か」
「そうだよ。俺が念には念を入れるタイプの人間ということぐらい知っていただろ?」
「まぁな。だが、怪しい動きがなかったから、完全に油断していた。三人で話そうと言ったのも、時間を稼ぐためのものってことか」
「そういうことだ」

 余裕な表情をしていた理由はこれだったらしい。
 一対一で輝琉に勝てなくても、二対一の状況でその中の一人が元アフリカ武装集団の戦闘員なら、勝てると思うのはおかしくない。むしろ、普通のことだろう。
 もう今の輝琉に勝ち目はない。それに挟まれているので逃げ場もない。
 つまり、輝琉の死は決まったようなもの。
 私もこの状態だ、何もできない。まず、何かしたら殺されるだろう。

「やっと……殺せるよ。お前も殺して欲しかったみたいだしな」

 大志君は手に持っていた拳銃を輝琉に向けた。

「へー、君の拳銃はニューナンブM六十か。警察官が持っているのと同じものだな」
「それがどうした? 警察官の拳銃でも心臓を撃ち抜けば、人ぐらいは殺せるぞ!」
「ああ、そうだな。心臓に当たればの話だけどな」
「なめているのか? 前後から心臓を狙えば当たる確率は倍増する。それに一人は実戦経験があるプロだ! お前みたいなどこの誰なのかも分からないやつがイキがるな!」

 大志君の言っていることは正しい。
 だが、輝琉はどこの誰なのかも分からない人ではあるが、人を殺したことのあるプロだ。
 だから、なめて……

「じゃあ、俺もこの拳銃で戦うことにするよ。正々堂々とな」

 ……る! 何でそんなに笑顔なの?
 この男は状況を理解しているのだろうか? 殺されるかもしれないのよ?
 私は輝琉が死ぬのは嫌だよ。

「その拳銃で何ができる? 二丁使うなら、勝ち目はあるかもしれない。だが、お前は右手に持ったその拳銃ただ一つだぞ?」
「勝ち目ね。君は俺を殺す気があるのか? 俺に勝ち目があると考える時点で、そうは思えないけど」
「その状況でよくそんなこと言えるな。俺は父を殺した犯人にそこまで優しくできるほど、立派な大人でも、心広い性格でもねぇ!」
「ああ、それでいい」

 輝琉は大志君に力強い目線を送り、頬を緩めた。
 まるで、この殺し合いを楽しんでいるようにも見える。
 それにこの場に緊張感が走る中、輝琉からは緊張の『き』の文字すら感じられない。
 死を覚悟しているのか、それとも殺す自信があるのか。
 どちらにしても、私にはもう止められない。

「じゃあ……さようなら」

 私の髪を揺らす風は死んだように止み、太陽が沈み、その場から茜色が消える。

『『『パンッ!』』』

 三発の銃声がほぼ同時に屋上に鳴り響く。
 その瞬間、茜色を失い暗くなった視界に、花火のように赤色の血が映る。
 私は目の前の光景に、悲鳴すら出なかった。
 おそらく、これが人間が本当に怖い時の素の反応なのだろう。

「フッ、殺ったか! これで父も喜んで――」
「……くれるな。君が父の元に来てくれることを!」

 その声は……輝琉!
 そしてその声は足音と共に近寄って来る。

「お前ぇ! 何をしたぁ!」
「プロなら普通頭を狙うものだ。あの黒人も君もド素人すぎる」
「ま、まさか……防弾チョッキを!」
「ああ、そうだ。だが、今更遅い」

 だから、なめたようなフリをして素人が狙う心臓を撃たせるように誘導したのか。
 それに大志君はまんまと引っかかったということね。
 これがプロ、本当のプロなんだ。

「それ以上近寄るなぁ! 撃つぞ!」
「ああ、好きにしろ」

 でも、次は頭に……

「……出ない。何で、何で出ないだ!」
「だって、ニューナンブM六十は……五発だからな」

 威嚇に三発、暴発に一発、そして心臓を撃ち抜くのに一発、計五発。
 つまり大志君の銃弾は……

「ないってことか! クソォ!」
「悪いな、これが仕事なんだ。父によろしく言っといてくれ」

 輝琉はそう言って、拳銃の引き金を引いた。
 暗くてはっきりは見えなかったが、頭を狙ったらしく、大志君の血が私の体中に飛び散る。
 そして髪を掴んでいた手は離れ、大志君は地面に大きな音を立て崩れ落ちた。

「た、大志君は……」
「見ての通りだ」
「でも、殺す必要って――」
「ある。人間は復讐心を持つ生き物だ。あのまま生かしておけば、何れ俺を殺しに来ていただろう。それにあいつも立派な四手家、そのうち殺していたはずだ。だから、こいつの死はちょっとだけ早かった……それだけ」
「そ、そうだけど……」
「それより血は大丈夫だったか?」
「それは大丈夫。一カ月に一回は血を見てるから」

 女子には生理と言うものがあるからね。
 本当に毎月しんどいよ、アレは! まぁ、仕方ないけど。

「おっちょこちょいなのは仕方ないが、もう少し気をつけろ」
「あ、うん。ありがとう」

 私が毎月転んでいるとでも思っているのかな? なんか純粋で可愛い。
 それに心配してくれるとか、なんかアレだねアレ!
 つい、乙女を出してしまったよ。……私が乙女?

「こんなゆっくりしている場合じゃない。早く離れないと……」
「ど、どこに?」
「質問は後にしてくれ。血を隠すためにこの上着を羽織って、行くぞ」
「う、うん……」

 手を握られ、引っ張られるままに、私は足を前に出した。
 ホテル内は避けているのか非常階段を使い、ホテルから急いで離れる。
 その間は二人とも無言、いや、まず全力で走っていたから声なんか出ない。
 それに何と声をかければいいのか分からなかった。
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