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そのあとキャンディスとドミニクはなんとなく無言になってしまった。
賑やかな音楽が流れる中、こんなふうに重苦しい空気を纏っているのは気詰まりで。
キャンディスは知人と話してくるとドミニクに言い残し、場を離れた。
知人と話すというのは嘘だった。
ただ今は、静かな場所で一人になりたかったのである。
ドミニクの家には何度も来ているおかげで、こういう時に人気のない場所はだいたい把握している。
それでも今夜は招待客が多く、あてにしていた部屋はどこも人の姿があった為、仕方なく誰もいない廊下の隅で立ち止まった。
重厚なカーテンの隙間から窓の外を覗いてみたが、見えるのは窓ガラスに反射する自分の顔ばかり。
すっかり暗闇に溶け込んでしまった庭園は、チラリとも見ることができなかった。
キャンディスは、ふうと息を吐き出した。
そしてゆっくりと振り向こうとしたところで、突然背後に気配を感じて、ビクリとした。
神妙な顔でこちらを見下ろしていたのは、セオドアだった。
キャンディスの脳裏に、ドミニクが言った『セオドアには関わるな』という言葉がよぎる。
彼の言葉に素直に従うのならば、適当な事を言って今すぐにこの場を去るべきなのだろう、ということは分かっていた。
しかし、キャンディスはそうはしたくなかった。
心の中でドミニクに謝り、少しだけだからと言い訳すると、セオドアへと向き直ったのである。
「セオドア様……ごめんなさい」
キャンディスはペコリと頭を下げた。
ドミニクの意向に反しているとは分かっていたが、どうしても謝罪だけはしておきたかった。
なにしろセオドアの頼みを引き受けたのは自分自身だったから。
その結果を報告する義務があると思ったのである。
「ドミニクに、セオドア様の思いを伝えてみたんですけど……彼の気持ちを変えることはできなかったんです」
「うん……さっき見てた感じだと、そうかなって思った」
セオドアは悲しげに笑った。
「仕方ないさ。
信用されてないからね、僕」
「そんなこと……」
とは言ったものの、否定の言葉を続けることなどできなかった。
まさにセオドアの言う通りだと思ったのである。
セオドアはどう頑張ってみても、ドミニクに信用されてはいないのだ。
いたたまれなくなったキャンディスは、「そういえば」と、唐突に話を変えた。
「グレース様にまだお会いしていないのですが。
今夜はいらしていないのですか?」
「ああ、グレースね。
来てはいるんだけど、ちょっと体調が悪いみたいで。
奥の部屋で休んでいるんだよ」
「そうでしたか。
かなり具合がお悪いのですか?」
「いや、大したことないみたいだから心配いらないよ。
少し休めば大丈夫と言っていたし」
セオドアは笑顔で言ってから、ふと思いついたというように、ハッとして続けた。
「そうだ。
そろそろ様子を見に行こうと思ってたから、よかったら一緒に行かないか?」
「あ……」
キャンディスは躊躇った。
セオドアへの謝罪は済んだのだから、このままセオドアとは別れるべきだろう。
しかしグレースの様子ぎ心配だったし、彼女の見舞いに行くのならば、セオドアとは2人きりになることもないはずだ。
「彼女、最近はずっと体調が悪い日が続いているから、気が滅入ってて。
キャンディスが会ってくれたら、喜ぶと思うんだ」
セオドアにそうとまで言われたら、断るわけにもいかなくて、キャンディスは自然と頷いていた。
「ええ、でしたら私も行きます」
賑やかな音楽が流れる中、こんなふうに重苦しい空気を纏っているのは気詰まりで。
キャンディスは知人と話してくるとドミニクに言い残し、場を離れた。
知人と話すというのは嘘だった。
ただ今は、静かな場所で一人になりたかったのである。
ドミニクの家には何度も来ているおかげで、こういう時に人気のない場所はだいたい把握している。
それでも今夜は招待客が多く、あてにしていた部屋はどこも人の姿があった為、仕方なく誰もいない廊下の隅で立ち止まった。
重厚なカーテンの隙間から窓の外を覗いてみたが、見えるのは窓ガラスに反射する自分の顔ばかり。
すっかり暗闇に溶け込んでしまった庭園は、チラリとも見ることができなかった。
キャンディスは、ふうと息を吐き出した。
そしてゆっくりと振り向こうとしたところで、突然背後に気配を感じて、ビクリとした。
神妙な顔でこちらを見下ろしていたのは、セオドアだった。
キャンディスの脳裏に、ドミニクが言った『セオドアには関わるな』という言葉がよぎる。
彼の言葉に素直に従うのならば、適当な事を言って今すぐにこの場を去るべきなのだろう、ということは分かっていた。
しかし、キャンディスはそうはしたくなかった。
心の中でドミニクに謝り、少しだけだからと言い訳すると、セオドアへと向き直ったのである。
「セオドア様……ごめんなさい」
キャンディスはペコリと頭を下げた。
ドミニクの意向に反しているとは分かっていたが、どうしても謝罪だけはしておきたかった。
なにしろセオドアの頼みを引き受けたのは自分自身だったから。
その結果を報告する義務があると思ったのである。
「ドミニクに、セオドア様の思いを伝えてみたんですけど……彼の気持ちを変えることはできなかったんです」
「うん……さっき見てた感じだと、そうかなって思った」
セオドアは悲しげに笑った。
「仕方ないさ。
信用されてないからね、僕」
「そんなこと……」
とは言ったものの、否定の言葉を続けることなどできなかった。
まさにセオドアの言う通りだと思ったのである。
セオドアはどう頑張ってみても、ドミニクに信用されてはいないのだ。
いたたまれなくなったキャンディスは、「そういえば」と、唐突に話を変えた。
「グレース様にまだお会いしていないのですが。
今夜はいらしていないのですか?」
「ああ、グレースね。
来てはいるんだけど、ちょっと体調が悪いみたいで。
奥の部屋で休んでいるんだよ」
「そうでしたか。
かなり具合がお悪いのですか?」
「いや、大したことないみたいだから心配いらないよ。
少し休めば大丈夫と言っていたし」
セオドアは笑顔で言ってから、ふと思いついたというように、ハッとして続けた。
「そうだ。
そろそろ様子を見に行こうと思ってたから、よかったら一緒に行かないか?」
「あ……」
キャンディスは躊躇った。
セオドアへの謝罪は済んだのだから、このままセオドアとは別れるべきだろう。
しかしグレースの様子ぎ心配だったし、彼女の見舞いに行くのならば、セオドアとは2人きりになることもないはずだ。
「彼女、最近はずっと体調が悪い日が続いているから、気が滅入ってて。
キャンディスが会ってくれたら、喜ぶと思うんだ」
セオドアにそうとまで言われたら、断るわけにもいかなくて、キャンディスは自然と頷いていた。
「ええ、でしたら私も行きます」
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