やっかいな幼なじみは御免です!

ゆきな

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「ま、まさか……冗談でしょう?」

アリスの顔から血の気が引いていくのが見えるようだった。
あまりの屈辱に、耐えられないというように、わなわなと両手が震えている。

こちらを睨んでくる彼女の目は、怒りに燃えていて。
可愛らしい唇からは、その見た目には似合わない罵詈雑言が、今にも飛び出してくるように思えた。

しかしネリーは目をそらすことなく、まっすぐにアリスを見返したまま、動かなかった。

ただ静かに、

「お父様、お母様。
三人だけで話をさせてもらいたいのだけど……いいかしら」

と言っただけだった。
伯爵夫人は心配そうに「でも」と言いかけたが、伯爵がそれを止めた。
そして

「わかった。では、なにかあったら、すぐに呼びなさい」

とだけ言い残すと、伯爵夫人の肩を抱いて部屋を出て行った。

後に残ったネリーにシェイマス、アリスは少しの間、黙ったまま互いを眺めていた。
そしてまず口を開いたのは、シェイマスだった。

「さっきの話だけど」

と前置きをしてから、アリスに顔を向けて、ゆっくりと話し出した。

「まだ婚約が決まる前だったな。
初めてネリー様を見た時、その美しさに思わず見とれてしまったんだ。
僕には、誰よりも美しく見えた」

シェイマスの目が、こちらに向いた。
深い緑色の瞳が、長いまつ毛の向こうで揺れているのを見ながら、ネリーもその日のことを思い出していた。
ネリーが落としたハンカチを、シェイマスが拾ってくれた、あの日のことを。

すると不意に、シェイマスが小さく笑った。

「でも、誉め言葉を口にしても、どうしてかネリー様は自信なさげでしたね」
「あ、そ、それは……」

『それはそうでしょう』。
誰もが自分なんかよりも、アリスやシェイマス、マーティーに目を奪われるに違いないのだから。

そう言おうとしたのだったが、思いがけず同じ言葉を先に言ったのは、アリスだった。

「『それはそうでしょう』!
シェイマスったら、ネリー様と私をよく見てよ」

アリスはずかずかと歩いてくると、隣に並んで立った。
正面からシェイマスが、こちらを見ている。

その向こうには、大きな鏡があり、ちょうど二人の姿を映し出していた。
アリスの隣に立つ自分の、なんとみすぼらしい事か。
ネリーはいたたまれなくなって、思わず後ずさりしかけたが、アリスがぐいと腕をつかんできたものだから、それも出来なかった。

「私とネリー様は、全然違うでしょう?
綺麗なのは、どっち?
婚約者としてふさわしいのは、どっちなの!?」

アリスが金切り声を上げる。
ネリーはあまりのことに、目を伏せた。

すると、つかつかと早足にシェイマスが進み出てくると、ネリーの手を取り、アリスから引きはがした。

「それはもちろん、ネリー様だよ。
何度も言わせないでくれ」

いつも穏やかな彼には似合わず、声が苛立っている。
アリスは口を薄く開いたまま、彼を見上げていた。

「誰でもきみの言うことを聞くんだと思ったら、大間違いだ。
僕は、きみよりも余程、ネリー様の方が美しいと思っているし……愛しているんだよ」
「な、なんで……」

アリスは呟いたが、それ以上言葉にならなかった。
シェイマスは冷たく彼女を見下ろしながら続けた。

「それよりもアリス。
まだきみのご両親に、婚約破棄のことを言ってなかったんだな。
ここに来る前に、事情を説明する為にきみの家に寄って来たんだが……僕の話を聞いて、青ざめていたぞ。
今すぐ帰ったほうがいい」

これにはアリスもハッとして、今度はみるみる顔が真っ赤になった。

「なんで余計なことを言うのよ!
私から話そうと思ってたのに、信じられない!」

それから勢いよく駆けだして、扉のノブに飛びついたが、部屋を出る前に顔だけ振り向いた。

「シェイマスったら女を見る目がないのね!
こんな人のどこが良いのか、全く理解できないわ!
あなたなんか、こっちからお断りよ!!」

と言い捨てるなり、アリスは走り去っていったのだった。
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