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作りかけの箱の話1
しおりを挟む葉状の茎を空に透かしていると、後ろから笑われた
「何見てるんだ?桂林、葉っぱなんか空に掲げて」
「ああ、江見……帰ってきたのか…」
ごろりと縁側で横になり、再び葉っぱを太陽に透かす
あの日、父上が倒れてから燕核は俺を東の離れに監禁し、ずっと体を苛んだ
燕核は、いつまでものしかかってくるし
所構わず盛るようになって浴室で口を塞がれて後ろから襲われた次の日、このままじゃ駄目だと、ほうほうの体で逃げてきたのだ
江見の屋敷に
「お前の弟殿、昨日もうちに来たんだけど。でけーし、なんかキレてるし、目もいっちゃっててこえーよ、もう帰れよ」
燕核を見慣れているせいか、まあまあ男前の江見が、そう言いながら部屋に入っていくのを寝転がったまま見送る
「いやだよ、まだ置いてよ!見捨てるのかよ!友達を!」
「………お前の弟殿はいったい何者なんだよ、父上にも圧力がきてるんだけど。追い出せって言われてるんだからな!もう明日には帰ってくれよ、頼むから!」
「そ、そうなのか……」
これ以上、江見に迷惑はかけられないか。とりあえず、本家ではなく自分の邸宅に帰るしかないかもしれない
燕核が待ち構えていそうだけど
「お、噂をすれば…??変だな、今日は使用人か?」
江見がみている方向を見ると、うちの使用人が頭を下げて、江見のとこの使用人に紙の束を渡しているのが遠く見える
燕核だったら、慌てて隠れたけど
慌てた様子で、使用人が江見に紙の束を渡すと、江見の顔色がみるみるうちに変わった
「おい、お前の弟殿、当代になったぞ。当代からの申し入れだと絶対に断れないし、もう今日は帰れよ」
紙の束をばさりと投げてきた江見に唇を尖らせながら、紙の束を受け取ると燕核が跡取りとして当代になったこと、父上が身罷りそうなことが書かれており、燕核の器用な字で一度、帰ってくるようにと書かれていた
「……俺は、平民になるんだな。何して働こう…」
「おい、平民にまでならなくていいだろ。一旦、帰って身の振り方で放逐されてから、うちに来い。学院にまでは通わせるし、髪が駄目だから士官までは難しいにしても、なんとかしてやるよ。友達だろ?」
ウィンクする江見に思わず抱き縋る
良い友達をもった
「江見!!」
「もういいって。それより、はよ問題解決してこい」
江見の指差す方向を見ると、入り口には使用人と一緒に燕核がキラキラと輝くような笑顔で立っていた
久しぶりに見た燕核は、やはり美しい
輝く白髪に薄墨を流したような銀髪に、自分と同じ色の鳶色の目が桂林を責めていた
弟ながら燕核は惚れ惚れするほどの美丈夫ぶりだ
恐ろしいくらい美しい
書面に間違いがなければ、当代になったそうで、これはもう引く手数多だろう
胸にチリッとした痛みを感じながら、立ち上がると、江見に肩を叩かれた
「んな、辛そうにすんな。追い出されたら面倒なら見てやるから…」
江見の言葉に、むっとしながらも燕核のもとに急ぐ
これ以上、江見に迷惑はかけられない
俺は、燕核に放逐されるのだろうか?跡目争いにならないように髪の短い跡目争いに敗れた男兄弟はそうされるのが普通だ
「兄上、帰りましょう」
物凄い美丈夫がうっとりとしながら、俺の髪を撫でるのを振り払うように頭を振る
燕核は、俺を捨てるつもりの癖に…
じわりとわいてくる涙を溢さないように袖でぬぐい俯く
「……兄上?帰ったら聞きたいことが沢山あります…今日はやめてあげれませんよ?でも自業自得ですよね?」
まただ、また燕核が胡散臭い口元だけ笑う笑顔を見せる
目は俺を断罪するかのように鋭いのに
「あ、あんなこと、もうしたくない……」
俯きながら震える唇を噛みながら言うと燕核が、ふっと笑う
肘を取られて後ろから抱き寄せられて、慌てて江見を振り返ると、燕核の大きな手で目隠しされた
「兄上、大丈夫ですから…ひとまず帰りましょう?兄上のお友達に、何かあると嫌でしょう?」
耳元で囁かれて、大きな手を掴んで見上げると、燕核はニコニコと笑っていた
「………嫌なんだ。燕核、聞いてよ。兄なのに…女みたいに扱われるのは嫌だ」
ぐいぐいと強引に門の外に出されると、迎えの馬車が止まっていて中に押し込まれる
燕核は後ろから首筋に鼻を埋めて、身動きがとれないようにきつく抱きしめてくる
「女みたいに扱ったことなんてありません。桂林、桂林、お願いですから、あの男のところには、もう行かないでください」
「でも、あの…江見が俺が学院に通って…その仕え先まで探してくれるって言ってるんだ。た、助かるだろ?燕核、お前だって嫁を貰わないと…次々と申し込み来てるんだろ…?」
懇願するように抱きしめてくる燕核を抱き返したかった。
でもダメだ
額に脂汗が浮かぶ
逃げたあの日、あの日に聞いてしまった会話が俺を苦しめる
「………母さんですね?困った人だ。大丈夫ですよ。桂林。僕には桂林だけです。それにあの男の面倒になるだなんて……」
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