8 / 8
潰された箱の話3
しおりを挟む春の麗らかな気温の中、タンポポが咲いていて風がそよいでいくのを眺める
あの日、義母から提案されたのは燕核に嫁入りする西上殿下の食客になることだった
外出はおろか手紙のやり取りさえ禁じられてはいるが、西上殿下の屋敷の敷地内だけは何処でも自由に行き来してよかった
何をしていても良かったのだが衛兵に混じったりして軽口を叩いたり、厨房に入り浸るのが、もっぱらの俺の行動だった
あの日、幸せそうだった燕核の顔が、たまに思い浮かんで胸がじくじくと痛んだけれど、あれから燕核からは音沙汰もなく平和に暮らしていた
「桂林、夜飲みに行かないか?」
最近、仲良くなった樹恩が話しかけてきた。樹恩は西上殿下の護衛で上背もあるし鍛えているだけあって逞しい
樹恩がカッコいいと女中達がよく噂をしているのも聞く
美男なのに気安い樹恩とは、かなり仲良くなったと思う
「いや、夜は駄目なんだよ。昼も駄目だけどさ。厨房に樹恩が来てくれたら一緒に食事は出来るけど」
完全に外出禁止なのだが、何故なのかとか樹恩に説明が難しい
もう燕核は何とも思ってないかもしれないけれど、義母との約束で燕核を想うならば、もう会わないで欲しい。西上殿下との婚姻が整うまで外出もせず、結婚次第、国から出て行って欲しいとまで言われている
ちなみに出て行く先の国は南東の国で暖かいところのようだ
残念そうに頭を撫でて、また今度な。と声をかけられた
本当に平和で、ゆっくりと時間が過ぎていっている気がする
それからまた暫く経つと、西上殿下の輿入れが決まったと屋敷中が慌ただしくなった
西上殿下が発った後は一番末の皇子の互助殿下がはいられると女中や護衛も騒いでいた
桐の箱に詰められていく嫁入り道具の山を横目に、女中達がはしゃぐ会話の中で燕核がいかに美男で優秀で帝のお気に入りかが語られて目を逸らす
とぼとぼと厨房に帰り、お膳してもらって、ご飯をもそもそ食べるも、なんだか美味しくない
口の中で唇を噛む
逃げた自分に悲しむ資格なんてない
燕核の前途は揚々で、これが一番良かったんだ
そう自分に言い聞かせるも、胸が苦しくて喉が締まるような想いだ
箸が止まった俺を、最近仲良くなった女中の円が心配そうに見やる
「これ美味しくなかったですか?違うものにします?」
「ん、大丈夫。体調が悪いみたい……」
「た、大変です。桂林様の体調は管理して報告することになってるので…医師を呼びますね!」
「いや!そんな大事にしないで!胃の調子がおかしいだけで…昨日食べ過ぎたのかも…!」
すぐに立ち上がった円の腕を取ったが、何かを恐れているかのような表情で振り払われ走り去ってしまった
まさか燕核が婚姻するから食欲がないなんて絶対に言えないのに、円は医師を連れてきて本当に心配そうにしていた
73
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 1000 Thank_You!!
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続々と再upしてくださり最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます😭
66様の作品全て好みドンピシャで大好き過ぎて何度も何度も読んでいたので、本当に踊り出す程嬉しかったです!
有り難く大切にまた楽しませていただきますm(_ _)m❤️
ありがとうございます❤️癌になって、一時、本当に死ぬかも…となってた時に家族が作品見たらやばいな…と思って全部下げてました笑まだ治療はあるのですが、手術と抗がん剤が終わったので🥹🌸治療が全部終わったら、また全部戻します❤️めっちゃ励まされました!ありがとうございます😊
新作ありがとうごさいます♥️
桂林は箱から出られないのかなぁ😁
ハッピーエンドお待ちしています😆
ゆいねこさん、ありがとうございます❤️出れないでいて欲しいです❤️🥺