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潰された箱の話3

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春の麗らかな気温の中、タンポポが咲いていて風がそよいでいくのを眺める

あの日、義母から提案されたのは燕核に嫁入りする西上殿下の食客になることだった

外出はおろか手紙のやり取りさえ禁じられてはいるが、西上殿下の屋敷の敷地内だけは何処でも自由に行き来してよかった

何をしていても良かったのだが衛兵に混じったりして軽口を叩いたり、厨房に入り浸るのが、もっぱらの俺の行動だった

あの日、幸せそうだった燕核の顔が、たまに思い浮かんで胸がじくじくと痛んだけれど、あれから燕核からは音沙汰もなく平和に暮らしていた

「桂林、夜飲みに行かないか?」

最近、仲良くなった樹恩が話しかけてきた。樹恩は西上殿下の護衛で上背もあるし鍛えているだけあって逞しい

樹恩がカッコいいと女中達がよく噂をしているのも聞く

美男なのに気安い樹恩とは、かなり仲良くなったと思う

「いや、夜は駄目なんだよ。昼も駄目だけどさ。厨房に樹恩が来てくれたら一緒に食事は出来るけど」

完全に外出禁止なのだが、何故なのかとか樹恩に説明が難しい

もう燕核は何とも思ってないかもしれないけれど、義母との約束で燕核を想うならば、もう会わないで欲しい。西上殿下との婚姻が整うまで外出もせず、結婚次第、国から出て行って欲しいとまで言われている

ちなみに出て行く先の国は南東の国で暖かいところのようだ

残念そうに頭を撫でて、また今度な。と声をかけられた

本当に平和で、ゆっくりと時間が過ぎていっている気がする

それからまた暫く経つと、西上殿下の輿入れが決まったと屋敷中が慌ただしくなった

西上殿下が発った後は一番末の皇子の互助殿下がはいられると女中や護衛も騒いでいた

桐の箱に詰められていく嫁入り道具の山を横目に、女中達がはしゃぐ会話の中で燕核がいかに美男で優秀で帝のお気に入りかが語られて目を逸らす

とぼとぼと厨房に帰り、お膳してもらって、ご飯をもそもそ食べるも、なんだか美味しくない

口の中で唇を噛む

逃げた自分に悲しむ資格なんてない

燕核の前途は揚々で、これが一番良かったんだ

そう自分に言い聞かせるも、胸が苦しくて喉が締まるような想いだ

箸が止まった俺を、最近仲良くなった女中の円が心配そうに見やる

「これ美味しくなかったですか?違うものにします?」

「ん、大丈夫。体調が悪いみたい……」

「た、大変です。桂林様の体調は管理して報告することになってるので…医師を呼びますね!」

「いや!そんな大事にしないで!胃の調子がおかしいだけで…昨日食べ過ぎたのかも…!」

すぐに立ち上がった円の腕を取ったが、何かを恐れているかのような表情で振り払われ走り去ってしまった

まさか燕核が婚姻するから食欲がないなんて絶対に言えないのに、円は医師を連れてきて本当に心配そうにしていた
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