みんなゾンビ

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黒井さんに連れて行ってもらった温泉は山の中腹にあって、避難したのか襲われたのか人影もない誰もいない、がらんとした旅館だった

広い温泉施設は、人がいなくても湧き出る温泉でそのまま稼働している

さっさと入った黒井さんに続いて大浴場に入ると、掛け湯をしてから湯船に浸かる

「来週、この旅館まで軍隊のバリケードが来るから…惜しいが週半ばで来るのやめないとな」

「….黒井さんは、ずっと移動していくつもりですか?」

「うーん………海がさあ、一番抜け道っぽいよなあ?ゾンビもしかして海にも来ないんじゃないか?見張りが川に比べて甘くないか?」

「警戒区域の海岸は船でいっぱいでしたよ?ただ沖の向こうにいるっぽかったので、確かにゾンビは海には近づかないかもですね?磯臭いし」

黒井さんが黙って考えこんでいたので、外に出て寝そべりができる湯船に寝転んで空を見上げる

星が綺麗で今夜は満月だった

月に手を伸ばしながら、涙がじわりとわいてくる

日常で、殺されそうになることなんてない。今から自分を殺そうとした人達がいる所に帰らなければいけないのだ

本当は怖い。怖いけど宵に会いたいし宵だって、あんな所にいたら殺されてしまうかもしれない

ゾンビ対策がわかった今、あのホームセンターを出て、また2人で移動していく方がいい

「帰るでー。温まった?明日はシートに液体歯磨きかける作業と、足場に上がれるように階段組むから早く寝ないとしんどいからな」

暫くしたら黒井さんが呼びにきたので湯船から上がって、そのままハイエースに乗り込む

「絶対に恨み言とか言うなよ。黙って俺の後ろにいて、一言も喋るなよ」

黒井さんの言葉に頷く。俺は非常事態の人の怖さが全くわかっていなかった。今この状況は物資も限りがある中、無神経な行動をとりすぎた結果なのだ

黒井さんに任せて、俺は何も言わない方がいいだろう

「んな、神妙な顔するな。むり君がいい子だって俺でもわかるよ。ただ、たまたま…たまたま巡り合わせが悪かっただけだ」

黒井さんの優しい言葉に、ぐっときながら頷く

なんなら涙が出そうだ

「ほら、もうすぐ着くから。泣くなよ」

ぐしぐし袖で涙を拭って何度も頷く

ハイエースがバリケード前に乗り入れると、ホームセンターまでの道が開く

そのまま乗り入れると、駐車場には宵やあの女の子達がいた

女の子達より、かなり身長が高く、がたいがいい宵は美男子で近くにいる舞歌も顔が可愛い為、美男美女で、お似合いに見えて気分が暗くなる

宵はハイエースに気がつくと、走り寄ってきた

こんなに焦っている宵は初めて見たかも

「黒井さん、むぅちゃんが、どこ探してもいなくて……むぅちゃん!?黒井さんと一緒だったの!?」

気まずくハイエースの後部座席から小さく手を振る

すまんな、宵…逆だったら、俺だったら心配しただろとか怒鳴ってしまいそうだ
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