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山岳地帯の黄金郷2
しおりを挟むカルディナ山の探索に出たんだけれど、やはり日が沈んでしまってからは辺りは真っ暗に
松明を掲げるパンの腕にしがみつきながら、おっかなびっくりゴルディの後ろを着いて行った
変な鳴き声も聞こえるし、寒いし、たまに変な目玉が光っていて、めちゃくちゃ怖い
「ひえ~怖すぎるぅう…パン、大丈夫だよね?守ってくれるよね!?」
「………………なんか本当に勇者様なのか疑わしいよね。ウール、怖いならしがみついてな。勇者の剣の封印解いてるんだし、大丈夫だよ」
ぎゅうとパンの腕を掴んでい歩いていると、松明を持ったままのゴルディが鼻を鳴らしながら振り返った
「妙な臭いがしねぇか?こう…何かが焼けるような…」
「確かに。何か臭うな。焦げ臭いような…」
「本当だ。なんか、パチパチ焼けるような音もするよ?」
恐る恐るパンの後ろから覗くと、火の燻っているような赤い光が空に広がっている
「燃えてるな。おい、ウル公とパンは此処で待ってろ。な、何かいるのか?」
ゴルディが松明の火をパンに渡して、用心深そうに火の海に近づいて行く
「ウール、あっちの窪みで身を隠しててくれる?ゴルディだけじゃ心配だよ」
「ええ!?パン!やだよ!1人無理!一緒に待ってようよ!」
「ウール…早く。ゴルディが見えなくなっちゃう」
パンに言い聞かされるように木の根の窪みの所に勇者の剣を抱きしめたまま座り込む
「は、は、は、早く帰ってきてよ!」
ビビり倒しながら叫ぶと、パンに子供にするみたいに頭を撫でられた
「すぐ戻るから。待っててね」
赤い火がパチパチと燻っている中、ゴルディの背中が小さくなっていくのを、パンは追いかけて行ってしまった
松明も無く、暗闇の中をまんじりと冷や汗をかきながら待つ
暗闇の中、虫や不気味な鳥の声が聞こえてきて、怖すぎて涙が浮かんできた
どれくらい待っているのだろう?大した時間じゃないかもしれないのに、すごく時間がゆっくりに感じる
早く、みんな戻って来ないかな
じりじりと迫り来る燻る赤い火は広がってきていて、ぼくの目前まで火が広がってきている
黒い煙に咳き込みながら、窪みから少し這い出て、勇者の剣を引き摺りながら涙を拭った
すぐ戻るって言ってたのに、ゴルディもパンも戻ってこない
「パン!ゴルディ!!パンパパ!ミルディコ!クイン!!!」
みんなの名前を叫びながら火の海を振り返る
一瞬、燻った火の海がうねりを上げて、黒い空に火花を散らしたかと思った
火の海のうねりは、形を作り人の形になっていく
それをぽかんと口を開けたまま、見つめていた
赤い肌の、黒い長髪は胸筋を隠し、真っ赤な燃えるような眼は、僕を見据えていた
美しい赤い唇が口角を上げる
火の中から、角の生えた美しい男が現れたのだ
見惚れるくらい美しい男が火の海から現れる光景に後ろに後退りしながら息を呑む
男の手には、ゴルディの首が掴まれていた
「んー?僕は何してるの?」
親しげな男、人間かも怪しい男は上半身は裸で、下半身は布で覆われた一枚布を腰に巻いているだけのようだ
目が見開かれたゴルディの首に泣きながら腰が抜けてしまった
「全く。さっきから子供ばかりだな。んー?名前は何ていうの?」
「ぱ、ぱんは?パンはぶ、無事?」
震える足を叱咤しながら男に向き直ると、男は一瞬目を見開いて哄笑した
「名前聞いてるのにな。僕はアスモ。あいにく子供は好きじゃなくてね。しかし、んー、お前、勇者だな?」
アスモの見開かれた赤い眼に、おしっこがちびりそうになる。そうだ、ぼくは勇者で勇者の剣を持っているのだ
ここにきて剣が封印されているのが悔やまれる
泣きながら剣を構えると、アスモが再び大笑いした
「あははははっ!なに、戦う気なの!?あー、面白い!パンてやつは寝かしといたけど、お前は勇者だから見逃せないな」
アスモはゴルディを放り出すと、ひょいと首根っこを掴んできた
「あっ、なっ!?くそ!放せ!」
「勇者の剣は捨ててもらおう。勇者をペットにするなんて、なかなかいいアイディアだな。行くぞ」
ぺしりと勇者の剣ははたき落とされて、俵のようにアスモに担がれた
「では勇者よ、行こうか。魔王の城へ」
アスモの言葉に抵抗をやめて見上げる
ニヤリと笑ったアスモが火に包まれて悲鳴を上げる
「ぎゃああああああ!」
同時に自分も火に包まれて、叫び声は火の海に吸い込まれていったのだった
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