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落下する番
しおりを挟む焦りながら下を見下ろすと、ヴァイスが、ぼくを見つめながらアスモの首にゆっくりと勇者の剣を沿わせていく
それは静謐な時間だった
下手なホラーよりも恐ろしい時間は、ゆっくりとスローモーションで流れていくようだった
魔王であるアスモよりも勇者であるヴァイスの方が殺気に溢れ禍々しい空気を纏っている
スライスされたアスモの腕は血が滴り落ちており、内臓が引き摺り出されズルズルと土に引きずられながら汚れていく
アスモの赤い肌が濡れ、下半身を重点的に削がれていて吐き気がこみあげてきた
薄い笑みを浮かべているヴァイスに背筋が凍りつく
その鋭い眼光は、ぼくをも責めていた
「い、いかん。アスモ閣下でも瀕死状態で勇者の剣はまずい。下等生物、お前とアスモ閣下を引き換えにしろ」
バルデモニウムが怒りながら叫んできたので、背中に意地でもしがみつきながら必死で首を振る
バルデモニウムお願い、お願い、見捨てないで、見捨てないで
いやいやいやいやいやいや、怖い怖い怖い怖い怖い!無理だって!!!
ヴァイスは真っ直ぐに、昏く濁った目で、ひたむきにぼくだけを見つめていた
なんとなく、絡みついてくる粘っこい、その視線が怖い
でも、このままだとアスモが死んでしまう
幼少期から拾われて、なんだかんだ可愛がってくれたし、親みたいに愛情も注いでくれた
アスモの笑顔が思い浮かび、嗚咽が喉から溢れる
ぼくが、ぼくが行けば解決するような気もする
「うう……うー!ば、バルデモニウム!たす、助けに来てよ!絶対に!へ!!!!陛下ぁ!ぼくとアスモを交換して欲しいそうです…!」
ヴァイスにそう叫ぶと、ヴァイスはポイっと掴んでいたアスモの髪を離して離れたところに歩いていく
ぐったりとしたアスモはぴくりとも動かず、凄惨な死体のようだ
みるみると広がる黒い血溜まりに、バルデモニウムはヴァイスが怖いのか、うろうろと空中を旋回している
「さらばだ、下等生物」
意を決したようにバルデモニウムが、ぼくとクルクルを遠めに振り落とし、アスモを回収しに飛んで行く
「ぎゃあああああ!ひっ!ひどいっ!バルデモニウム!!」
叫びながら真っ逆さまに落ちていく中、ヴァイスが慌てたように、ぼくの方に勇者の剣を振りかぶり、空中に駆け上ってくる
もうダメだと、目を閉じると、がしっと抱き止められ、ふわりと爽やかな柑橘の匂いが鼻腔をくすぐる
ぶわりと体に甘ったるい熱がまとわりつき、ヴァイスが熱く吐息を吐いたのが首筋にかかる
ぎゅんと心臓が高鳴ったのは、ヴァイスに抱かれているからなのか落下による恐怖からなのか
ぎゅうと抱きしめられ、ヴァイスが甘く笑いかけ額にやわらかな唇の感触を押し付けてくるのを感じながら、急降下で落下していく
あああああ、死んだ!!!!!!
。
。
。
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