私のリビングアーマー

福々 ゆき

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24 私のリビングアーマー

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 落ち着いたらしいバルトが静かに此方を見つめているアリシアに気づき、先程までの自分を誤魔化すように姿勢を正した。
 
「此処からが本題なのだけど」
 バルトはすっかり話が終わったものと思っていたのでその言葉に虚を衝かれる。
 謝りたい事とは先程の話ではなかったのだろうか。
 
「さっきのは違うわ。少し感傷的になって……本題は魔法のことよ」
 魔法。そういえばアリシアは魔法も謎のままだったとバルトは思い出す。
 
「この加護の魔法は一度しか使えないものだったの」
 魔術を使う時に、間違って魔法を使っても魔法自体の効果が現れていなかったのはそのせいだった。
 つまり、アリシアはその一度だけしか使えない魔法を既に使ってしまっている。
 
「……だから私はバルトに謝らなければいけないわ」
 だからの意味が繋がらず、バルトは困惑した。
 一度しか使えない魔法が何かバルトにとって不都合になる事だったのだろうか。
  
「百年以上も前に、使ってしまっているみたいなのよ。バルトに対して」
 対してというのは少し違うかもしれないわね、とアリシアは呟く。
 
「この魔法は、運命の人と魂を繋げる魔法よ」
 バルトの魂の一部はアリシアに、アリシアの魂の一部はバルトに、お互いがお互いに影響しあう。
 加護も魔法も随分とわかりにくいものだとアリシアは思った。知った後でもきちんと理解できない。
 この魔法がお互いにどれだけ影響するのかも、わからないのだ。
 
「本来想いが通じ合ってから使える魔法らしいのだけど」
 魂を繋げるなんて魔法を初対面や親しくない状態でするわけがない、そうアリシアも思う。 
 しかし、アリシアがこの魔法を使ったのは、黒髪の青年に剣を向けられたあの時。
 
 一目惚れした瞬間だった。
 
 アリシアの自惚れた聞き間違いで無ければ、バルトも一目見た時からと言っていた。
 しかし、その時の二人は殺す方と殺される方の極限状態。
 
 そこから起こったのは、死を覚悟したアリシアと命を奪う覚悟を決めたバルトを繋げる魔法の無意識での発現だった。
 
 繋がったからといっても、特にこれという現象が起こる訳ではない。
 アリシアもバルトも今まで気づく事なく百年以上も一緒に過ごしてきた。
 気づいていないだけで何かはあったかもしれないが、それは二人が知らないことだ。
 
「だから、ごめんなさい」
 アリシアが謝りたかったのはこの事だ。
 想いを伝えたわけでもないのに既に通じ合った状態になっていた、そんな告白していないのに恋人になっているような違和感に、アリシアは意識的にやったことではないが、これはバルトに不誠実なのではないかと思ったのである。
 
「順番が逆になってしまったけれど、ちゃんと言うわ」
 アリシアは困惑で沈黙したままだったバルトの手を取り、きゅ、と決意したように握った。
 
「貴方が好きよ、バルト」
 
 バルトを見上げ頬を赤く染めながら想いを告げたアリシアに、困惑が解け、想いが溢れかけたバルトは今朝の夢を思い出す。
 
 アリシアが好きなのは昔の、人だった頃の自分で今の自分ではないのではないか。
 落ち込むように俯いていくバルトを見て、また何か余計なことを考えている、と感じたアリシアは意気込んで話を続けた。
 
「私が一目惚れしたのは確かに人の時の貴方よ」
 考えていた事を言われ、ビクリとアリシアが触れている手が揺れる。
 
「でも、一緒に過ごしているうちに好きになっていたのは今の貴方なの」
 言葉とともに、アリシアはバルトの手を自分の頬へ促すと照れたように微笑んだ。
 
 鎧の体は熱を感じる事は出来ないはずだが、バルトはその頬の熱さが移ったように感じた。
 じわじわと言葉と熱がバルトに浸透していく。
 
「バルトの真っ直ぐなところが好きよ」
 頑固なところも努力家なところも好き、アリシアが言葉を重ねる度にその熱はバルトに移り全身熱に浮かされたような心地になった。
 嬉しいような、泣きたいような、不思議な気持ちで、バルトはアリシアの頬にある手をゆっくり動かし撫でる。
 
「私は不器用で、わがままでこれからも色々迷惑もかけると思うわ、でも、それでも私と一緒に居てくれるのなら……」
 
 アリシアが赤さが増してくる顔を近づけ、少し屈んでと手で示す。
 バルトと同じ位置で視線を合わせると深く呼吸をし、口を開いた。
 
「私と……ふ、夫婦になってください」
 
 大事なところで噛んじゃったわと少し慌てているアリシアは、若干涙目になっている。
 バルトは言われた言葉の衝撃を受け止めると『喜んで』と言うように勢いよくアリシアを抱きしめた。
 
「うっ! い、痛いわバルト!」
 ゴッと固い鎧に頭をぶつけたアリシアが声をあげるが、バルトは感情が高ぶって聞こえていないのか、抱きしめる腕に更に強く力を込める。
 アリシアは痛いからもう少し力を抜いてほしいと思ったものの、こんなに喜んでくれるのならもう少し我慢しようと鎧に頬をすり寄せた。 
 
「バルト、大好きよ。愛してるわ」
 
 
 
 
 
 
 
 数日後、バルトの経過を確認し、問題無さそうだとアリシアに報告したシュテルとフェリックスは、にこにこと笑うアリシアの前でぽかんとした表情を晒している。
 
「ごめんアリシア、もう一回言ってくれる?」
 立ち直ったフェリックスが優しげに聞き返す。
 アリシアは首を傾げながら、先程二人に話したことを言う。
 
「バルトと結婚したの」
「まってどういうこと?」
 あれからまだ一週間も経ってないのに何が、と小さくフェリックスが呟く。
 シュテルはへぇと相槌を打ち、興味が無さそうにおめでとうと祝いの言葉を送った。
 
「あ、そうだよねお祝いしないと。おめでとう!」
「ありがとうシュテル、フェリックス」
 アリシアは幸せそうに祝いの言葉を受け取る。バルトは感慨深そうに軽く頷いていた。
 
  
 
 
 
「さっきバルトとクッキーを作ったの。良かったら食べて」
 
 お茶にしましょうと言ったアリシアが、フェリックスとシュテルの前に出した皿の上には、形の悪いクッキーが多く並んでいた。
 よく見ると綺麗なクッキーもち、らほらと混ざっている。
 
 生地を作ったのも、伸ばしたのも、焼いたのもバルトだが、クッキーの型で形にしたのはアリシアだ。
 大体はぐちゃぐちゃになってしまったが、幾つかはちゃんと綺麗な形になっていた。
 紅茶に砂糖を入れることしか出来なかったアリシアにしてみれば大成功と言っても過言では無いだろう。
  
「ふふ、この調子で進めれば、千年あれば一人でアップルパイくらい作れるようになるわね……!」
「……そうか、気が長ぇな」
「アリシアは頑張りやさんだよね」
 
 アリシアの前向きな計画に、シュテルとフェリックスが軽く言葉を返す。
 千年あれば、確かにいくら不器用だとしても出来るようになるだろう。多分。
 
 
 
 「ずっと、これからも宜しくね。バルト」
 
 アリシアの言葉に鎧が頷く音が、カシャンと響いた。
 
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みんなの感想(1件)

2017.03.13 ユーザー名の登録がありません

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2017.03.14 福々 ゆき

感想ありがとうございます。
設定が設定でしたので、そう言っていただけて安心しました。
初めて書いた小説なので、感想をいただけた事がとても嬉しいです。

解除

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