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◆・◆ お品書き ◆・◆
たっぷり香味野菜で食べるカツオのたたき
しおりを挟む金串に刺したカツオの皮目をサッとあぶる。
いい感じな皮目にうん、と満足の笑みが漏れた。
金串を外して切ったカツオに塩をふって押さえ、ポン酢で余分な塩を落とすようにして手で押さえて味をよく馴染ませる。
たたき、というだけあって軽く叩くようにしながらしっかりと。
お皿を用意していると新たなお客さんが木戸を潜った。
「あれ、幸ちゃん」
顔を出した太郎は相変わらず眠そうな顔で近づくと「隣、いい?」とカウンター席に腰かけた。
「あ、カツオのたたき、俺も」
ひょういと綾の手元を覗き込んだ太郎の注文にはーいと答えて作業を続ける。
人数が増えたので少し大きめに変更したお皿に薄くスライスした玉ねぎを敷き、カツオをのせる。
カツオの上にはさらに玉ねぎ、小口切りにした万能ネギ、茗荷にカイワレ、ニンニクの薄切りと薬味をこれでもかとたっぷりと!
上からもポン酢をまわしかけて完成です。
「おまたせ~」
「薬味、山盛り」
「はい、今日は香味野菜たっぷりです」
何故か?
そんな気分だったからですがなにか?
「よく味が馴染んでておいしいです。薬味が沢山なのでさっぱり食べられますし、ポン酢もいつもよりさっぱりですね」
「あ、気づいてくれた?今日はポン酢も柑橘を絞って作った自家製なの」
笑顔を浮かべて綾は答える。
ちょっとしたひと手間に気付いてもらえるとすごく嬉しい。
炙った皮目もポイントです。
いまはスーパーなどで炙り済の切るだけで食べれるものも売っていますが、生を自分で炙る場合はフライパンは厳禁ですよ!
皮がパリッとしないし、なにより身に余分な熱が加わってしまうので。
直火で炙ることが重要!
太郎が「綾ちゃんも」とお酒を差し出してくれ、今日はお客さんが比較的少ないこともあって綾もカウンター越しにお相伴にあやかった。
何杯ぐらい呑んだ後だったか……。
うっ、うっと嗚咽を零しながら嘆く幸がそこにいた。
中身が大人っぽかろうと、あやかしだろうと酔う時は酔う。
嘆きの発端は太郎が放った「最近、どう?」の一言だった。
黒目がちの瞳がうるっと潤み、「ふぇ~ん!」といきなり泣き出したのだ。
どうやら見かけはそうでもないが、結構出来上がっていてたらしい。そこに切っ掛けがあって大爆発。
「私はただ……幸せになってほしくて、それだけで……」
うんうん、と酔っ払い相手の常套手段、相槌を打って綾と太郎は慰める。
「本当に、それだけを願っていただけなのに…………」
これまた酔っ払いの典型、話が何度も巻き戻るをただ黙って聞く。
「それなのに……私が相手を幸せにしようとすればする程、相手が働かなくなるし堕落していくんです~~!!」
おいおいと顔を覆って泣く少女。
見掛けだけは幼いその少女を何とも言えない気持ちで綾は見つめる。
「貢ぐ女、と、ダメ男みたい」
「なんで言うのタロくん?!」
「綾ちゃんも、思った癖に……」
「思ったよ?!思ったけどもっ!!」
ポツリと呟いた太郎の言葉に綾は全力で突っ込んだ。
相手の為を思ってよかれとなんでも買い与え世話をするある意味一途な甲斐甲斐しい女性と、それを当然としヒモ化するダメ男みたいって思ってたけどっ!
だけどあえて飲み込んでたのにっ。
目の前の少女・幸は座敷童だ。
そして座敷童が住む家は富に恵まれ、繁栄するという。
もともとあまり人には見えにくいあやかしらしく、相手は幸の存在に気付いてはいなかったぽい。
だが幸がいることでどんどん運気が上がり、金運が上昇した相手は仕事をサボり、ついには止め、遊んで暮らすようになったらしい。
……なんてこったい。
「あの人に幸せになってほしかっただけなのに」
メロドラマみたいな台詞を繰り返し嘆く、外見年齢10歳の美少女という現実を前に、綾がかけられる慰めの言葉などなかった。
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