あやかし居酒屋「酔」

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◆・◆ お品書き ◆・◆

海老とシラスのアヒージョ 1

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「ご迷惑をおかけしました」

背筋を伸ばし、もう何度目かもわからない頭を下げる幸に綾は苦笑いを浮かべた。

「平気だってば。そんな気にしないで、ね?」

店に来るなりさっきから何度も謝られているのは、先日の醜態についてだ。

……まぁ、何とも言えない気持ちにはなったけど。

内心のそんな言葉は飲み込み、なんとか笑顔をキープする。

一昔前のメロドラマみたいな台詞を吐く10歳児(外見だけ)という絵面は非常にシュールだったが、ここは居酒屋。
お客さんが酔って愚痴グチるなんて日常茶飯事。
溜め込むよりもずっといいし、そう性質タチの悪い酔い方でもない。

「それを言うなら私のほうこそ…………」

そしてもう一人、ずずーんと暗雲を背負った女性が。

「飲み過ぎた挙句、意識を失って鬼の統領様のお屋敷に泊めていただくなど……。ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんっ」

頬に手を当て、ふるふるしてるのは糸織だった。

綾はそっと雪音と視線を交わし合う。

……意識を失う前の方が色々とアレでした。

そしてやっぱりその言葉は飲み込んだ。

正直、酔いつぶれたことは別にいい。
むしろ、太郎が糸織を潰した時は綾も雪音も喝采をあげたものだ。

その直前が色々とアレだったので。

なお、糸織は酔っている間の自らの豹変を知らない。
そして変に気まずくなるのも嫌なので綾たちも口を噤んでいる。
だって「酔った貴女はだれかれ構わず口説きます。ちなみに口説かれました」とか言えなくない?

「酔ってなにか粗相をしませんでしたか?」の問いには渇いた笑いを浮かべて誤魔化ごまかすしかなかった。

「ま、まぁ誰だって飲みたい時はあるわよ!でも飲み過ぎは駄目よ!飲み過ぎは!!」

「はい!お酒は楽しくほどほどに!」

若干ひきつった笑みを浮かべつつビールを掲げる雪音に綾も全力で相槌あいづちを打った。

“酒は飲むとも飲まるるな”

“一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む”

実に深いことわざだ。
店内のどっかに貼ろうかな?
達筆な方、募集です!

「綾さんこれを」

そういって糸織が差し出したのは桜色の風呂敷。

「先日のお詫びです。中身は和菓子ですわ。皆さまで召し上がってください。笹女さんにも宜しくお伝えくださいまし」

「わーありがとうございます。蒼くんも喜ぶと思う」

ここで断っても糸織の気を重くするだけだ。
第一、泊めた家主は羅刹だし、世話をしたのは笹女。綾にお断りする権利はないので有り難く受け取った。

「ささ、糸織さんも幸ちゃんも謝ってばっかいないで、せっかく来たんだから楽しく飲んで。はい、海老とシラスのアヒージョお待ちどおさまです!」

ぐつぐつに煮立ったスキレットを敷物を敷いて差し出す。

「熱っいので火傷に注意してくださいね。オイルも旨みが染み出してて美味しいのでこっちのバゲットと一緒にどうぞ。上に具材を乗っけてもいいですし、オイルに浸してもいいですよ。そっちの丸っこいのはマッシュルームっていうキノコです」

さぁどうぞ!と薄切りにしたバゲットを乗せた皿も隣に置いた。

ニンニクの香りが非常に食欲をそそります。
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