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◆・◆ お品書き ◆・◆
貝柱と大根のマヨネーズ和え
しおりを挟むそもそも「高すぎ!」ってダメ出しならともかく、なぜに「安すぎ!」とダメ出しを食らっているのか……。
納得しない気持ちを抱えつつ、綾は戸棚から缶詰を取り出して蓋を開けた。
「別に安いぶんにはいいじゃないですか」
「小娘、適正価格という言葉を知っておるか?」
唇を尖らせての反論は九十九に一言で切って捨てられた。
千切りの大根が入ったボウルにホタテの貝柱缶を汁ごと入れる。
大根は千切りにした後で塩を振り、数分置いて水気を十分絞ったものだ。
そこにマヨネーズを入れて菜箸でよく混ぜる。
黒胡椒をガリガリと挽いて皿に盛り付けたら上にちょこんとカイワレを乗っけた。
貝柱と大根のマヨネーズ和えだ。
お手軽だけどホタテの貝柱の缶詰を汁ごと使っているので旨みもたっぷり。
水っぽくなってしまうので味付けをして和えるのは食べる直前に行うのがポイントです。
「こっちってそんなに物価が高いんですか?」
「別に、普通だろ」
「この店が安すぎるだけでしょ」
「……ぐぬぬっ」
もはや何を言ってもそこに戻ってしまう。
正直な話、この店の料金設定が適正価格でないことは綾も何となくわかっている。
……羅刹から散々言われてたし、他のお客さんにもよく言われる。
「でも仕入れ値とか考えると妥当なんですけどね」
料理を配りつつ綾はそう口にした。
「ほら、さっき糸織さんがこの店の料理や酒はって言ったじゃないですか。人間界の物が希少だっていうのはわかるんですけど、私としては人間界の物を使ってるからこの価格設定なわけですし」
店で使う食材は羅刹の妖術によって人間の世界から取り寄せて貰っている。
実はそれは羅刹だから簡単にできることであって、他のあやかしではとても無理らしい。
……わりと最近知った綾だった。
「ネットスーパー便利!」としか思ってなかった。
「こっちの貨幣って人間界の価値と違うから、ぶっちゃけ仕入れ値がもの凄くお安いんですよ」
なんせ古風な世界感だけあって金だの銀だのが使われている。
物価が全く異なるのだ。
なので、仕入れに対して儲けは十二分すぎるほど。
むしろ今の料金設定でも儲けが大きすぎじゃ……?と思う程なのだ。
もちろん、それは仕入れに対してで、こちらの世界で買い物をしたり生活をしたりする分には足りなくなる額なのかも知れない。
だけどそもそも。
「いまだに衣食住すべて羅刹さんが面倒見て下さってるし、自分でお金使う機会ってないんからピンとこないんですよね。このお店の敷賃・光熱費だって受け取ってくれないし。むしろ太っ腹すぎるのは羅刹さんだと思うんですけど!」
腰に手を当てて綾はそう主張する。
別に散々みんなから呆れた目で見られた仕返しとかじゃない。
「別に大したことじゃない」
「あー!人には貰えるものは貰っとけ、みたいに言うくせにっ」
「仕入れに関わらず料理に見合った値をとればいいだろうに」
酒を呑み干し、空になったロールキャベツの器を渡された。
5個完食してまだまだいけるとは恐るべし。
「そーいえば、わりと人間界の食べ物とか人気なのに皆さん行くわけじゃないんですね」
見慣れぬ食べ物や酒を物珍しそうに楽しむお客さんはわりと多い。
お取り寄せに羅刹が使っている妖術は使えずとも、雪音たちのように自分が人間界に行けるならそう物珍しくもないのでは?と綾は不思議だった。
「「面倒だ」」
羅刹と九十九の声が被った。
図らずも被ったことにお互い物凄く嫌そうな表情を一瞬浮かべた。
「わたくしは……興味はあるのですが躊躇ってしまって……」
「どうしてですか?」
「まぁ面倒っていえば面倒だもの。行くのはともかく、正体バレないようにするのとか色々ね」
耳に髪をかけつつ雪音が溜息を吐いた。
「姿を変えなきゃいけないあやかしなんかは特に大変よね。私は髪色変えるぐらいで平気だけど。知識もつけなきゃ会話で危ないし。幸みたいにそのままでも人に姿が見えにくいあやかしならともかく」
「俺、たまに耳と尻尾、出る」
ええっ?!と女性陣が叫んだ。
「意外と、平気。コスプレって、思われる」
独特なパンクファッションと、太郎のキャラもあるのだろう。
雪音たちに「気をつきなさいよ」と怒られている太郎たちを見ながら思った。
意外と海外旅行とかそんなノリなのかな?
好きな人は行くけど、外国語とか知らない土地に気後れする人はするっていう感じ?
応援ありがとうございます!
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