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◆・◆ お品書き ◆・◆
とりあえずの最中と緑茶
しおりを挟む「お兄様は鬼の一族の中でも最年少で統領の座を手にいれたのよ」
自分のことのように誇らしげに胸を張る美少女。
「統領は本当に凄いお方だ。誰よりも強く威厳があり、正に統領に相応しい!」
抑えきれぬ熱を込めて語る若い男。
合いの手を入れつつ、統領のここがすごい!エピソードを繰り出す男たち。
彼らの前には緑茶の入った湯のみと小皿に置かれた最中。
最中は栗入りのちょっとお高い一品だ。
そして場所は……居酒屋「酔」の座敷。
「ちょっとっ、聞いてるの?」
「聞いてます、聞いてます。羅刹さんは本当にすごいんですね」
綾の言葉にうんうんと頷く一同はドヤ顔だ。
さて、どうしてこんな状況になっているかというと…………。
どうやら認識の総意があったらしい。
綾はといえば、わけも分からぬまま攫われ当初は身の危険を真剣に案じていたわけだが……彼女らは最初から話がしたかっただけらしい。
それならあんな方法でなく、普通に来て欲しかった。
切実にそう思わずにはいられない綾だったし、その点については抗議もした。
そして、そんな彼らの目的は敬愛する統領(お兄様)の周りをウロチョロする女狐(綾のことだ……)の本性を突き止めることだった。
原因はあの簪だ。
羅刹が女物の簪を買った。
相手は誰だ?!と調査(?)に乗り出したらしい。
「本人に聞けばいいじゃないですか」という綾のもっともな言葉は、「そんなことできるか(できるわけないでしょ)!!」の一言で返された。
どうやら羅刹は鬼の一族の間でも孤高の存在であるようだ。
そんなこんなで「なんで統領はこんな女を!」と綾を直接問い詰めようと攫ってみた彼女らだが……思ってたのとなんか違った。
綾は羅刹を誑かした魔性の女でないし、ただのお世話になっている居候。
誤解は解け、簪は一応返して貰えたし(若干しぶしぶだった)、こうして「酔」にも帰ってこれた。
謝罪もされたし、鬼の秘薬だという塗り薬で手首の手当もしてもらった。
多少のぎこちなさはあるが、動かす分には問題なさそうだ。綾は心から安堵した。利き手が使えないとなれば、店をしばらく閉めなくてはならなくなる。
改めて自己紹介をして、とりあえずお茶と茶菓子を振る舞えば、統領のここがすごい!エピソードが延々とはじまった。
「ごめんなさい、そろそろお店の準備をしなきゃだから話は下拵えしながらでもいい?」
時計を見つつ、若葉たちにそう声をかける。
若葉というのは羅刹の腹違いの妹である少女の名前だ。
彼女を「姫」と呼ぶ、綾を担いだ青年の名前は剛鬼。
まだまだ話したり足りなそうな彼女らは一瞬不満そうな顔をしたものの、自分たちが迷惑をかけた自覚もあるのか了承した。
綾としても作業をしながらでいいのなら、興味深い羅刹のエピソードを聞くのに否はない。
かなり時間も押しちゃったし肉祭りは今日は無理だな。
眉を落としつつ、手早く作れそうなメニューを考える。
あっ、結局お味噌もないっ!
攫われた時に落としてそのままだ。
いまは若葉たちも居るし、豚汁はあとはお味噌をといてネギなどを入れるだけ。取りに行くのは後ででいいかと後回しにする。
座敷を降り、カウンターへと向かう途中。
勢いよくガラリと扉が乱暴に開かれた。
驚いて顔を向ければ、そこに立っていたのは羅刹だった。
さらに驚いたことに、羅刹だけでなく蒼や九十九、雪音に糸織、太郎たちまで揃っており、皆一様に表情が険しい。
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