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◆・◆ お品書き ◆・◆
厚揚げのネギ塩ダレステーキ
しおりを挟むおつまみストックでとりあえず場を濁したが、あれではとても足りない。
大急ぎで綾がまず取り出したのは厚揚げだった。
厚揚げを6等分に切り、油を引いたフライパンにうえでこんがり焼き色がつくまで焼く。
その間にネギ塩ダレ作りだ。
「綾様。作業は私がやりましょうか?手を痛めておられますし」
包丁を握れば、味噌を取ってきてくれた笹女が心配そうに覗きこんできた。
「大丈夫ですよ。代わりにお米を研ぐの、お願いしてもいいですか?」
痛みはないからと礼を告げ、そうお願いした。
お米を研ぐのは包帯がビショビショになってしまうので。
そんなやり取りをしていると厳しい視線が剛鬼たちへと向いた。
座敷に座る若葉たちはすごく肩身が狭そうだ。
「剛鬼さんは大根すりおろしてください。力を入れすぎないで!」
そう言って綾はほぼ一本の大根とおろし金を彼へと渡した。
念のため注意をするのも忘れない。
鬼の力だとぐしゃっといきそう。
さてネギを、とまな板へ視線を戻したところで九十九から声がかかった。
「小娘、手を貸すがよい」
「へ?」
ん、と視線で示され、包丁を置いて手を差し出す。
ひやりとした指が綾の手首を支え、もう片方の手が包帯を解いた。
「っ!」
綾自身、思わず息を飲んだ。
赤く熱を持って腫れていた手首は、握られた手の形をくっきりと残し、どす黒く変色していた。
ぶっちゃけ、かなりグロテスク。
またも膨れ上がる怒気に綾は慌ててカウンターの面々を宥める。
「えっと、痛みはないんですよ?!鬼の秘薬?で手当もしてもらいましたし!!」
手当の件を強調し、彼らが危害を加えるつもりじゃなかったことをアピール!
このままでは本当に流血沙汰が発生しそうで綾は必死だった。
だって怖い。美形だけに迫力がすごい。
「女の子に、怪我、させるなんて、サイテー」
「本当に痛くない?綾ちゃん」
「マジ、ムカつくんだけど」
「次はありませんからね?」
上から順に、太郎、蒼、雪音、糸織だ。
酔ってもいないのに強気な糸織が超貴重。
羅刹はただ視線だけを静かに若葉たちへと向けた。
静かな筈のそれは、だけど確かな意志を持って彼女たちを縫い付けた。
きっともう二度と彼女たちがこのような行動に出ることはないだろう。それだけの強さを含む視線だった。
グロテスクな傷痕に美しい眉を顰め、男性にしては細くしなやかな九十九の指が翳された。
音もなく唇が何かを紡ぎ、ぼんやりと淡い光が灯る。
「ほれ」
そうして放された手は、傷痕が綺麗さっぱり消えていた。
「えっ?待って?なんで??」
「それで不便はなかろ」
「貸しにしとけ」
ちらりと九十九に視線を向け、ぶっきらぼうに告げる羅刹。
はっと小さく九十九が笑った。
「要らぬわ。お主のためではない。我はこの店の馴染だからな」
大興奮で九十九にお礼を告げていると、ふと鼻についた香ばしい匂いに、慌てて厚揚げをひっくり返す。少しこんがり目だが、焦げてはいない。セーフ。
ネギをみじん切りにし、鶏がらスープの素、塩コショウ、ゴマ油、レモン汁に隠し味にニンニクを加えて混ぜる。
両面を焼いた厚揚げステーキをお皿に盛って、ネギ塩ダレをたっぷりと。
「九十九さんほんとすごいんですけど。ありがとうございます!」
お礼を込めて厚揚げ好きの彼にはたっぷり盛ってみた。
尻尾がふよふよしてご機嫌だ。
九十九や太郎の機嫌は尻尾がふりふりされるので大変わかりやすい。
「うむ、美味い」
カリッとした焼き目に、絹ごし豆腐の滑らかさ。ネギたっぷりの塩ダレがよく合う。
厚揚げはお腹にもそれなりに溜まる一品です。
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