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【その後】
転生司祭は看病する 2
しおりを挟む「ご機嫌よう、司祭様。この先で勇者様のお姿を拝見しましたわ」
いつも身の回りの世話をしてくれるメイドに挨拶したらそう返された。
「あっ、司祭様!勇者様なら鍛錬場ですよ。聖女様は……どこだろう?」
「午前中なら温室でお見掛けしましたよ」
胃薬を横流ししてる宰相補佐室の文官たちに声をかけられた。
「勇者様ならあっちです!」
敬礼した騎士にあっち、と指をさされた。
聞いてもいないのにアーサーやユリアの居場所や動向を事細かに教えて下さる皆様。
何が一番変わったかといえばこれだ。
確かに待遇は良くなった。
信頼、尊敬、親しみ、そういった感情を向けられているのもわかる。
だけど、国を救った英雄云々っていうよりも……
“保護者” “飼い主” “唯一の常識人”
認識的にはそういう感じだ。
特に前者二つ。
後者は……アーサー、ユリアもそうだが、基本的に皆ぶっ飛んでるからね。
城にまだ滞在してる僕らは国からの要請を受けて知識や技術の提供をしてる。
僕が語った「自分たちは何もしないで、全部押し付けて」って発言を真摯に捉えてくれた結果だ。
自分達の能力を鍛えようとする姿には好感が持てる。アーサーやウルフがいま騎士団の鍛錬場に居るのもその一環。
だが、ここで問題発生。
勇者パーティ、人外疑惑。
もうね、本当に規格外なんだわ。
しかも自分達が特殊なことはわかっていても、どのくらいズバ抜けているかわかってない彼らが一般人に要求するのは「出来るかっ、ボケぇ!!」「俺ら人間なんで!!」と声を荒げたくなるレベル。
そして間に入るのが僕の役目。
喧嘩を始める皆を宥めることなんかもあるから近頃は “救世主!” って目を向けられることも少なくない。
そんな僕だが、先程から「司祭様」「司祭様」と呼ばれていることからも分かる通り、司祭からのジョブチェンジは叶わなかった。
いや、めっちゃ止められたんだよね。
教会の上層部にもだし、王様や騎士団長含め諸々に。
勇者と聖女召喚しちゃおうかとも思ったが、事態は無事解決を見せた。
「特別な地位につかないで自由にしてていいから、所属はそのままで、最低限の式典やなんかだけ顔出して!武器以外なら刃物も使っていいから!!(意訳)」
稀にない神の寵愛を受ける司祭をキープしたい&広告塔に使いたい教会側が出した妥協案だった。
大人の取引ってやつですね。
そもそも神託じゃないし寵愛ないけど……。
昔、水泳の大会で優勝しまくってた友達がいて、部員たった一人の「水泳部」が設立されたことを思い出したよ。
学校にプールないのにね。
部として所属させたら学校の宣伝になるもんね。それと一緒だ。
世の中の世知辛さと強かさに想いを馳せながら歩いていると、回廊の隙間から鍛錬場が見えてきた。
固唾を呑んで見守る騎士たちの中心にいるのは、剣を構えたアーサーとファイティングポーズを決めたウルフ。
「あれ……?」
僅かな違和感に目を瞬く。
視線の先には残像に近い動きで激戦を繰り広げる二人の姿。
気付けば足は駆けだしていた。
「ウルフっ止めろっっ!!」
叫びと共に紡いだ魔法。
繰り出された蹴りは止まることも出来ずにアーサーへ。
だが、直前の僕の叫びに動きを止めようとしたことが幸いし、内臓を抉りそうな一撃はアーサーの前に生まれた風の障壁に止められた。
ほっと大きく息を吐く。
ウルフの全力の蹴りならあの程度の障壁など容易く突き破っていたことだろう。
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