ブラック・スワン ～『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る～

悪役令嬢フラグ勃発っ？！ ３

　あれは数日前のこと。

　リリアが真面目な顔をして俺に「大事な話があります」と言ってきた。

　この時点で嫌な予感はしてた。
　あの子が真面目な表情してる時って基本ろくなこと言わないからね。

　そして話の内容は、というと。

　よくわからん主観を交えながら、「生徒に手を出しちゃ駄目！！」という趣旨の熱弁を繰り広げられた。
　熱弁の途中で我が家のベテランメイド長のマーサがやって来て襟首ひっつかまれて強制連行されてたけど。

　控えめにいっても般若の形相だった。
　激おこ。

　因みにマーサも我が家の逆らっちゃいけないお方のお一人だ。
　………あれ、なんかウチの使用人強くない？

　「このバカ娘の戯言はどうぞお忘れ下さい」と頭を下げたマーサは俺に対しては素晴らしく非の打ちどころのないアルカイックスマイルで、綺麗な所作の礼と部下リリアを強制回収した手腕は流石ベテランメイド長。

　リリアは多分正座でもさせられたのだろう。
　先輩メイドのエリーゼに足をつんつんされてのたうち回るリリアが後にはいた。

　そもそもあの子は俺が雇用主ということをちゃんと理解しているんだろうか？
「若い少女に手を出したら犯罪ですよ！」とか他所でいったらクビどころか普通に処罰案件なんですけど……。

　まぁ、リリアは最初からああだったしな。
　面接に来た時も「家事全般苦手です！」とか言い放ってたし。

　面接してたリフの笑顔が引き攣ってるのを気にもしない清々しさ。
　鋼のハートの持ち主だと思う。

　明らかに転生者だし、しかもベアトリクス推しっぽかったうえ当のベアトリクスが何故か懐いたから雇ったけど。

　他の使用人たちに「本気マジで？！」みたいな顔された。
　まぁ、悪い子じゃないんだよ。

　あの熱弁の理由はベアトリクスの為っていうのはわかってる。
　リリアは何故か俺を隠しキャラだと思ってるからヒロインが俺ルートに入ってベアトリクスが悪役令嬢ルートに入るのを阻止したかったんだろう。

　だけどそもそも俺、モブだからね？

　そして更に勘違いしてることに………。

『カイザー様が魔族だったなんて。しかも黒竜』

『でも薄々普通の人間じゃないことは感づいてたわ』

　とか、リリアさんの心の声が聴こえてきたんですよね。
　全力で突っ込みたかった！！

　魔族じゃねぇーーーわっ！？