呼吸(いき)をするだけで、誰かの光

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4話(最終話):世界中に、たったひとつの輝き

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十数年が過ぎ、健は地元の小さな同窓会に足を運んでいた。 会場の隅では、かつての級友たちが「起業して成功した」「海外で活躍している」と華やかな実績を並べ、眩しいほどの光を放っている。対照的に、健は今も地道に事務職を続ける「普通」の人生の真っ只中にいた。

「自分だけ、何の色もない人生を歩んでいる気がするな……」 ふと、かつて自分を苦しめたあの劣等感が、喉の奥までせり上がってきたその時だった。

「あの、佐藤くんだよね?」

声をかけてきたのは、当時はほとんど話したこともなかった女性だった。彼女は穏やかな、けれどどこか強い意志を感じさせる瞳で健を見つめ、思いがけない言葉を口にした。

「ずっと、お礼が言いたかったの。卒業式のあの日、あなたが校門の隅で一人で泣いていた下級生に、自分のハンカチを渡して笑いかけているのを、私は見ていたわ」

健は驚いて瞬きをした。そんな些細な出来事、自分ですら記憶の隅に追いやっていた。

「あの時の私はね、人生のすべてに絶望して、明日を諦めようとしていた。でも、あなたのその計算のない、呼吸をするように自然な優しさを見て、『世界はまだ、こんなに温かくて捨てたもんじゃないんだ』って、心から思えたの。今は私、カウンセラーとして傷ついた人たちを支える仕事をしているけれど、あの日のあなたの後ろ姿が、私のすべての原点なのよ」

健は言葉を失った。目頭が熱くなり、視界が滲む。 自分がただ、自分として必死に生きて、呼吸をして、その時できる精一杯の優しさを手渡しただけ。誰にも気づかれていないと思っていたその瞬間に、彼は一人の女性の人生を繋ぎ止める「光」になっていたのだ。

派手な花を咲かせなくても、特別な才能がなくても、今日を繋いできた。そのこと自体が、誰かの物語を支えるかけがえのない一部になっていた。

会場を出ると、夜空には満天の星が広がっていた。かつて自分の影ばかりを数えていた帰り道とは違う。今の健には、冷たい夜風さえも、誰かの生命の息吹のように優しく感じられた。

健は肺いっぱいに、澄んだ空気を吸い込んだ。 ふと思い出す。かつて職場で自分を導いてくれた先輩の加藤や、雨の日に傘を渡したあの少女。顔も知らないけれど、どこかで自分の「ため息」を「明日への風」に変えてくれた誰か。

「……あぁ、そうか。僕たちはみんな、響き合っていたんだ」

孤独だと思っていた夜も、実は見えない糸で誰かと手を繋いでいた。 かつて数えた「影」はもうない。代わりに、今まで出会ってきた人たちの笑顔や、自分が繋いできた呼吸の温かさが、胸の中に確かな光として灯っている。

「……ありがとう」

誰にともなく呟いたその言葉は、また夜風に乗って、この星のどこかで立ち止まっている誰かの明日を照らす光へと変わっていく。 命のオーケストラは、これからもずっと、止まることなく響き続けていく。 あなたが、あなたという光のままで、呼吸を重ねている限り。

(完)
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