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第一話 氷多目で! 1/4

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 狭いアパート、安値のテーブルの上に皺になった一万円札の山、百万はあろうか。

 その回りには五百円硬貨が、まるで宝箱を引っくり返したが如く、無造作に撒き散らしてある。


 俺は二日酔いと大金に酩酊し、茫然と金、そして手元の水の入ったグラス、その脇で場違いにうずくまる、小さな青蛙を眺めていた。


 蛙の小さな喉と腹が、トクトクと躍動して、妙な現実感を放っている。

 12月だ、蛙は静かに丸くなったまま動かない。
ガマガエルやウシガエルは凄まじくグロテスクだが、青蛙は可愛い。
なぜだろう?


 俺はスマホをとり、バイト先の居酒屋の店長に電話をかける。


 いつも通り中々出やがらねえ…。

 今ごろは仕込みの時間だが、どーせバックヤードでサボってる筈だ。


 「あー、お疲れ様です、俺です。あー突然で悪いですが、あのー今日休ませてもらえませんかね?

 あー、試験じゃないですよー。
えっ?いやぁいたって元気ですよー。」

   チッ、相変わらず汚えダミ声だ。
  聞きたくねえ、さっさと済ませよう。


 「あーそうですか、じゃあいいです、もう辞めます。
今まで安い時給でブラックにこき使ってもらってありがとうございましたー。

   あー?どういう意味かって?

    そのまんまの意味ですよ。
     辞めるって事で、ハイ。

 あー最後なんで言っときますけど、あんたワキ臭すぎ。
今一店が流行らないの、あんたの腋のバイオテロのせいだから。
     
 じゃ!制服はちゃんとクリーニングしてそのうち届けます。
えっ?良いですよー、昨日までの給料も要りません。

 あーそだ、腋臭治療の足しにでもして下さい。
ハイ、現代の医学力じゃ不治の病じゃないみたいだし……もう臭いから切りますよ。」

 俺は店長の脳を焼くような薫りを思い出し、しかめっ面で鼻をつまみ、電話を切るやスマホの電源をオフり、ベッドに放った。


 ふん!偉そうにしやがって!
ただの雇われ店長が!

 
 はっ、まぁ良い……。
もう会うこともないしな。


 そんな事よりこれだ!
俺は再び恍惚としてテーブルをうっとりと見る。
      
 フゥ……。

 それにしても未だに信じられないな……。こいつが俺の物で、自由に出来るなんて……。

       クシャ……。

 一万円札達を無造作に握ってみる。


 うん、やはり間違いなく本物だ!


 俺は雨蛙のまばたきを眺めながら、グラスの水をあおった。

 多分、水道水をかれこれ100杯は飲んでいる。
それでもおかしな事に、トイレは日が変わった早朝に帰ってから今までただの一度も行っていない、そう一度もだ。

 今、昼過ぎだから、普通はあり得ない。


 あぁそうだ、バイトだけじゃない、大学も辞めないとな。

 フフ、もう俺は一生働かなくて良いんだ。
宝くじの一等が当たるよりも遥かに凄い事が俺に起きたのだから。
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