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第6話 初めての仕立て屋さん

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 日にちは変わり、父のお休みの日。
 そう、私のドレスを買う日だ。
 前世庶民だった私は、外に買いに行くのかと思っていたが、どうやら家まで来てくれるらしい。
 私知ってる!
 前世でも、富裕層の人たちは百貨店とかの販売員さんが来るんだよね!?

 前世を思い出してから、初めての家族以外の人。
 ちなみに、ユズはもう家族枠だろう。
 朝から無駄に早起きしてしまったし、ソワソワしてウロウロと動き回ってしまう。
 子どもみたいだ…って、私充分子どもだったわ。

「アリー様。御手洗は扉を出て三番目の扉ですよ」

 ソワソワしている私に、ユズが無表情で告げる。

「御手洗を我慢してるわけじゃないわよ!それに、私の家なんだから、それくらい分かるわ! 」

 全く失礼なやつ。

「先日、夜中に御手洗に起きた際、間違えて私の部屋に入ってきたのは、どなたでしたっけ? 」

 覗き込んでくるユズと、視線を合わせないようにする私。
 だってしょうがないじゃない。
 昼間と夜中じゃ、雰囲気違って分からなくなるんだもの。
 ドアも似たような作りだし。

「そ、そんなことより!仕立て屋さんはいつくるのかしら? 」

「そうねぇ、あともう少しだと思うわよ~」

「ソワソワしているアリーも可愛いね。そしてユズリア、その話は後で詳しく聞かせてもらうからね」

 可愛くて仕方ないとばかりに、ニコニコと私を見つめる両親。
 ぐぬぬ…。
 ちょっとソワソワし過ぎたかも知れない。
 ちなみに、父のドスの聞いた声での後半の台詞は、聞かなかったことにした。

「あっ!来たわ! 」

 玄関のベルが鳴り、仕立て屋さんの来訪を告げる。
 走り出したい気持ちをグッと堪え、静々と優雅に見えるようにお迎えに向かう。
 扉の前で待っていると、ノックと共に入ってくる、十人程の女性。
 先頭に立つ、二人の女性が挨拶をする。

「デザインを担当させていただきます、ビオレッタ・グローヴと申します」

 教育ママの雰囲気漂う、ハリガネみたいな体型の女性が言う。

「仕立てを担当させていただきます、マーガレット・ブラウンと申します」

 二人目の女性は、細い目に穏やかな風貌。
 ふっくらとした体型が、更に優しさを醸し出している。

「アリア・ローズと申します。今日はよろしくお願いいたします」

 そう言って、ぺこりとお辞儀をする。
 二人がニッコリと笑うのを合図に、後ろに控えていた八人の女性がわらわらと準備を始める。
 おぉ、なんか凄い。
 両親は慣れたものなのか、挨拶をし終わると優雅にソファに腰掛け、紅茶を飲んでいる。

 しれっとその隣で紅茶を飲んでいるユズの事は無視しよう。
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