誰も助けてくれないのだから

めんだCoda

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第34話 同じ声だ

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 突然目の前に現れた小柄な男の子に、全員が状況を飲み込めず固まる。

「…えっ…と…お父さんかお母さんと、はぐれちゃったのかな…?」

 膝を曲げ、目線を合わせて優しく話しかけるジャンだったが、無表情のままの少年に、何か言いようのない不安が胸にザワザワと広がる。

 その少年は両足の踵かかとをくつけ、手を後ろに組み、大きな目で真っ直ぐに、こちらを見ている。
 また、よく見ると着ている服は綺麗で、金髪でクルクルとカールしている髪の毛はどこか育ちの良さを感じさせる。

「違うよ。私は——」

「学園長!」

 息を切らして現れたのは、ルイの父親が来たときに案内係をしていた事務員の女性だった。

「えっ…今なんて…?…え、学園長…?」

 ジャンが顔をこわばらせると、マハラ、シャーラン、スカイ、ケイシ、タク、ルイの全員が動揺する。

「…はぁ、はぁ…。はい、そうです。こちらにおられる方は、このセントラル学園のトップでおられます、学園長です。それで学園長、急にここに来られて、どうされたのでしょうか…」

 学園長の隣にひざまずき、学園長を見上げて恍惚な顔で聞くその事務員の女性の姿に、一同は言いようのない奇妙さを感じる。

 学園長と呼ばれるその少年は、腕をゆっくりと持ち上げ、人差し指をシャーランに向ける。

「私は彼女と話したいのだ」

 口は笑っているが目は大きく見開いたままのその顔は、不気味さを際立たせた。

「承知いたしました。そこの女性、学園長と共に来てください」

 スクッと立ち上がった事務員の女性は、ほぼ命令のようにシャーランに言い、言われたシャーランは皆の顔を不安そうに見る。

 シャーランの不安が分かったマハラは、唾を飲み、恐る恐る尋ねる。

「…あの、学園長がシャーランと話したいことって、何でしょうか…」

 恐縮したマハラは、いつもより温和な声で尋ねるも、その少年はマハラの声など耳に入っていないかのように、表情を変えずただシャーランを見つめ続ける。

 マハラは困惑し、後ろを振り返り皆の顔を見るが、全員どうしたらいいのか分からず、強張った表情で、小さく首を振ることしかできなかった。

「とりあえず、私、行ってみる…」

 シャーランが声を震わせ、少年の方を見ながら一歩、一歩、と近づいていく。

「私について参れ」

 少し高い声で無表情のまま少年はシャーランに向かってそう言うと、踵を翻し事務員の女性を従えて歩き出す。

 その後から、間隔をあけついていくシャーラン。
 マハラ達はシャーランの後ろ姿を見送るが、これでいいのか、大きな不安を感じていた。

 気持ちが落ち着かないタクは、戸惑った顔で皆に話しかける。

「いいんすか、連れて行かれて。なんか、シャーランが連れて行かれるのが、わかんないっすけど、不安を感じるんっすよ」

「分かる、おれもそう思うんだけど、相手は学園長だし…な…」

 眉間にシワを寄せたケイシは、顔は強張りどもり気味であった。

 ジャンは、シャーランが階段を下るために左に曲がり、見えなくなった辺りをまだ見つめたまま口を開く。

「僕ら学園長なんて一度も見たことがないんだ。いくらさっきの女性が言っていたからといって、彼が学園長である保証は何もないんだよな…それに、学園長って…見ただろ?まだ少年だった」

「じゃあ、早くシャーランちゃんを追いかけようぜ!」

 走り出そうとするスカイだったが、待て、という言葉と共に、ルイに腕を掴まれ止められる。
 
「待ってくれ…なんだ…俺は何か大事なことを見落としている気がする…」

「なんだよ!それは、今考えなきゃいけなことか?!」

 スカイはシャーランを最後に見た方向をチラチラと見ながら、早く追いかけようと焦りをみせる。

「待ってくれ…学園長…最近、俺はその言葉をどこかで……そうだ…そうだ、父上の来たときだ」

「ルイの親父さんが、なんだよ」

「父上が来たとき、確か、最初に父上は学園長室にいると、さっきの事務の女性は言っていた。それで俺は、そのときに慌てて学園長室を探したんだ」

 スカイは、ルイが何を言いたいとかわからず、眉間に皺を寄せる。

「あぁ、そうだったな」

「…父上は、血統にこだわる身分至上主義だ」

「それは知ってる。だからなんだよ」

 イライラするスカイに、ルイはゆっくりと話す。

「身分至上主義な父上が、上流階級でもないただの学園長という人物に会うわけがない。つまり、学園長は父上より上の身分である可能性が高い」

 ルイの話に、スカイ、ケイシ、マハラ、ジャン、タクはその場で固まる。

 タクは、指をこめかみに当て、頭の中を整理するように、言葉を選びゆっくりと話す。

「上の身分の人間は限られるっすよね…ルイは公爵家で、それに、ルイの親父さん言われてたっすよね…ファースト家は、セントラル国で一番権力を持っている公爵家だ、と……」

「王族」

 下を向いているマハラが、ボソッと口に出す。

 マハラの言葉に、皆話すのをやめる。

「それしかないだろ?あの学園長とかいう少年が、王族としか考えられない」

 ゆっくりと顔をあげたマハラの顔は、少し青白かった。

 マハラを心配そうに見つめるジャンの顔からは、暑くもないのに一筋の汗がたらりと、こめかみを伝う。

「あの事務員の女性が跪ひざまずいたときに、違和感は感じていたんだ。ただの学園長のために、そこまでするか?って…そうか、王族だったから…。はぁ…、そもそも、リハク医師の件で、ここはセントラル王族の手にかかっているって分かっていたのに、そこまで考えが及ばなかった——」

 両手で髪の毛を無造作に掴み顔を歪めるジャンの姿に、スカイはより一層気持ちが焦る。

「どうする…!シャーランちゃんを連れ戻さないと…!」

「連れ戻すって、もう追ってもどこに行ったか分からない。学園長室だって、僕らはどこにあるのか分からないんだ」

「……っ。なら、片っ端から部屋を確認する」

「え、おい!スカイ、待て!」

 ジャンが走り出そうとするスカイの肩を掴むと、ジャンの手を振り払おうと、スカイが腕を振り上げる。
 そしてその拍子に体のバランスを崩し、後ろに立っていたマハラに強く当たってしまい、マハラはその反動で尻もちをついてしまった。

「あっ!ごめん、悪い…」

 スカイが腕を伸ばし、マハラを立ち上がらせたときに、マハラのズボンのポケットから、カシャンと音を立て、何かが廊下に落ちた。

「あ…」

 廊下に転がった黒いものを目にし、マハラは指で掴んだそれは、デジタルメモだった。

「そうだ——オレ、ずっとポケットに入れっぱなしだった」

 マハラが、またデジタルメモをポケットに戻そうとしたときだった。

 誤ってスイッチを押してしまったのか、デジタルメモが
 カチッ キュルルル
 と音を立て、その後に、音声が流れ始めた。

「いいか、これがお前の・・・だ。よいか、お前はこれと・・・て、この世の・・を・・れるのだ」

「はい」

 カチッ

 マハラは、手の中のデジタルメモを、微動だにせず見つめる。その手のひらには、ジワジワと汗が滲む。

「な、なんだよ、急に再生されるから、びっくりしたよ」

 マハラは息を吐くと、デジタルメモをポケットにしまう。

「シャーランがクラゲに刺されたとき、オレがこっそり部屋に隠し置きしてたときの、そろそろ消してもいいよな?」

 ははっと笑い皆を見上げたマハラだったが、一歩前に出てきたジャンの顔がこわばっているのに気付く。

「なぁ…この…最後の声…さっきの…学園長の声に似てないか…?」

 ジャンの言葉に、皆、顔が凍りつく。

「いや…え…?まさか…」

「もう一度再生してくれるか」

 青ざめるジャンに言われ、マハラはポケットからデジタルメモを取り出し、もう一度再生する。

 一同は音一つ立てず、その場で音声を注意深く聞く。
 聞き終わった後、ケイシがくそっと、悪態をつく。

「うそだろ、気持ちわりい……同じ声だぜ、これ……」

 ケイシは気分が悪そうに、口元に手をやる。

 マハラはデジタルメモをポケットにしまうと、先ほどの学園長の少年がいた場所に目をやる。

「早くシャーランを探さないと——本当に、最悪な展開だ…くそっ!」

 マハラが、走り出そうとしたときだった。

「行かない方がいいです」

 マハラ、スカイ、ケイシ、ジャン、タク、ルイは、背後から聞こえた声に、バッと振り返る。
 一同は誰か分からなかったが、マハラはすぐに思いついた。

「あんたは、確かりんご飴屋の」

 シャーランとマハラが買ったりんご飴の店員、栗毛色の髪をした男が、不安そうな顔をして立っていた。
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