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第33話 体は能力をもったままかもしれない
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「とりあえず、その絵はこの美術室に置いておこう。シャーランが描いたことは僕達の他に知ってる人はいないし、見られても大丈夫だろ。じゃあ、いいか、ドアを開けるよ」
美術室の電気も消し、ジャンがドアをゆっくりと開け、顔を出して外の様子を伺う。
「誰もいない。出ていいよ」
ジャンの合図で、全員が順番に素早く美術室を出る。
「よし、じゃあ向こうの階段を上って行こ…」
「結局、そういうことか」
廊下の柱の陰から出てきたのは、うんざりした顔のケイランだった。
「…!?お兄さま…!?やっぱりついてきて…。…私を1人で行かせると、夕食までに戻ってくればいいと…言ったのは、最初から嘘だったのですね」
「嘘ではないよ。ただ、シャーランが無事かどうか確かめようとここに来ただけで、別にシャーランを連れ戻そうなどとは思ってはいなかったよ。今の、この状況を見るまではね」
ケイランはイラついた様子で、顎を少し上にあげ皆の顔を見回す。
「シャーラン、もうこいつは兄じゃないだろ。お兄さまなんて、呼ぶ必要ない」
マハラは、シャーランの前に出ると、腕を伸ばし、シャーランが連れて行かれないように守る。
「…君は毎回私に噛みついてくるな。それに、発言する前に、もう少し考えるっていうことをした方がいい。私とシャーランが実の兄妹ではないからと、呼び方を変えたらどうなる?周りは不審がり、何かあったのかと探ろうとしてくる、違うか?シャーランが自分の出生を知った事実を隠すために、いつも通り呼ばせているというのに、そんなことにも気付かないとは、はぁ…シャーラン、よくこんな奴らと一緒にいられるな…」
額に手を当て、ガッカリした表情で首を振るケイラン。
マハラは、今回はケイランの挑発にのることなく、冷静に聞いていた。
「そうやって、今もシャーランを守っているんですね」
「——は、なんだ?」
マハラからの思いもよらぬ返しに、ケイランは険しい顔をする。
「シャーランへの接し方は間違っていますが、彼女を、妹としてではなく、1人の女性として愛しているのは、本当なんだなと思っただけです」
「…何を言いだすかと思えば、ははっ、急にどうした?私の気持ちを考えてどうなる。で、仮にそうだとしたら、なんだ?」
「オレもシャーランのことを、1人の女性として好きなんです。オレだけじゃなくて、他にもここにいるメンバーも」
突然の告白に動揺するシャーランと、突然自分達の気持ちをバラされ、同じく動揺するジャン達。
「それで、聞きたいんです。シャーランが記憶を取り戻すべきか否か、あなたはどう考えているのか。オレらの中では意見が割れているんです」
「君は、ふざけているのか?それを私に聞いて、どうするんだ?まず、記憶を取り戻す方法に、何か心当たりでもあるのか?ないのであれば、議論をする以前の問題だと思うが。それ以上に、誰が耳にするか分からない、学園のこういった廊下でする話ではない」
「じゃあ、オレらの部屋でこの続きを話しましょう」
「断る。君らとこれ以上話すつもりはない。シャーラン、部屋に帰るぞ」
ケイランはシャーランに向かって手を差し伸べるが、シャーランはマハラの服をギュッと掴み、マハラの後ろに隠れる。
「…ごめんなさい、お兄さま。私、皆んなとまだ一緒にいたいの。部屋には戻るけれど…、もうお兄さまとずっと一緒は…いや…」
シャーランの言葉に、ケイランは一瞬顔が凍りつくが、目を伏せて息を吐き、その端正で綺麗な顔をシャーランに向ける。
「お前を守ってやれるのは、私だけだよ。セントラル国王から、直々にお前を託されているんだ。愛してるよ、シャーラン、彼らとはまた別日に話せばいいだろう、さあ早く帰ろう」
「あとで戻るから…先に戻って…ごめんなさい…」
マハラの服を更にギュッと強く掴むシャーランの顔は、少し怯えていた。
そんなシャーランの様子を見たマハラは、シャーランの手を服から離すと、優しくシャーランの手を握りしめる。
「部屋にはオレらが送っていきますし、必ず帰します。でも、それまでは一緒にいさせてください」
マハラはシャーランの肩を抱き寄せ、互いに体を寄せ合い、ケイランを真っ直ぐに見据える。
ケイランは何か言おうと口を開きかけたが、怯えたような目で自分を見るしゃーらんを見て、話すのをやめ、代わりに深いため息をつく。
「好きにしたらいい…」
そういうと、ケイランは背中を向け歩き出し、少し先の階段を上って消えていった。
「…なんか、ずいぶんアッサリ引き下がったな」
拍子抜けしたルイは、自分の髪の毛をクシャッと掴み、ケイランが去った方向を見つめる。
マハラは心配そうな表情で視線を落とし、シャーランを見つめると、同じくして視線をあげたシャーランと目が合い、思わず互いに体をビクッとさせる。
「あっ…あの…、えっと…」
シャーランは、マハラとの距離が近いことにドキドキと胸の音が激しくなり、節目がちになって顔を赤らめる。
「あ…!ごめん、えっと…」
シャーランの思わぬ反応に、マハラもまた顔を赤らめ、抱いていたシャーランの肩から手をパッと離す。
「と…とりあえず、部屋に…」
「あ…はい…」
ぎこちないマハラとシャーランの様子に、他の5人はニヤニヤしながら見つめていた。
「おれたちだって、シャーランのことが好きなんだからな」
「そうだそうだー。なんか自分ばっかり、ずるいぞー」
ケイシとスカイは目を細めて、マハラを揶揄からかう。
「ほらほらほら、とりあえず行こう」
ジャンが両手を広げ手のひらをヒラヒラとさせ、歩くよう全員を後ろから促す。
やっと歩き出した一行は、なるべく人気の少ない廊下を選んで部屋まで歩く。
マハラ達の部屋まではまだ距離がある中、スカイが我慢できずに口を開く。
「あのさ、シャーランちゃんはどうなの、記憶が戻って欲しいとか、そのへん」
「記憶は…まだどっちがいいのかわからないです…。私も過去に何があったか、昔の私はこの世界のことをどう思っていたのか、…他のシュトム族の方はどんな人だったのか、何を話していたのか思い出したい。でも…」
シャーランを取り囲むように歩くマハラ、スカイ、ケイシ、ジャン、タク、ルイは、辺りを警戒しつつも、暗い表情のシャーランを心配そうに見つめる。
「私が記憶を取り戻すことで、またシュトム族として生きなけらばならなくなる…としたら……。…私は…私は、伝記にあったような生き方はしたくない。今のように、皆と同じ人間として、普通に生活していきたい…」
「シャーラン…」
最後の方で涙声になるシャーランの頭を、マハラはポンポンと優しく触れなだめる。
ルイは、マハラとシャーランの様子を横目で見ながら、暗い声で話す。
「そっか…そうだよな、俺よく考えていなかったな…。シャーランは記憶を取り戻すべきだ、って最初から思っていたけど、記憶が戻るとシュトム族としての生態に戻る可能性があるのか…」
ルイが自分の疑問に対して意見を求めるかのように、ジャンとタクの方を見る。
「どうなんっすかね。おれもそれは考えたことあるんすけど、記憶はないだけで、シャーランの体は今もシュトム族のままなんすよね。もし、例の7日起きて100年寝るサイクルは、シュトム族としての記憶と脳によって起こるものだとして……」
タクは口をギュッと結び、シャーランの体を一度見るとすぐに視線をそらし、固い表情のまま黙り込む。
「だとして、で、なんだよ…?お前、まさか…気持ち悪いな!そんなこと考えんじゃねーよ」
タクの考えを悟ったスカイは、顔を歪め話を打ち切ろうとするが、ジャンが真剣な目でスカイを見つめる。
「…いや、これは僕もタクと同じことを考えてる。それに、仮定として考えておいた方がいい…。シャーランの体は、もしかすると、シュトム族としての能力は、そのままかもしれない」
「——それって、つまり、仮に誰かの子を妊娠したら、その生まれてくる子は、伝記の通り全能で人の上に立つ子…」
ケイシが前を向いたまま小声でボソっと話すと、シャーランは自分の腕を両手で掴み身震いする。
「おい、そんな、まさか…もしそうだったら、今頃シャーランちゃんはセントラル王族の奴らに……」
言いかけてやめたスカイは、苦々しい顔になり、シャーランから顔を背ける。
ルイは、そんなスカイの背中をポンと励ますように叩くと、周囲に人がいないことを確認して後方から皆に話しかける。
「スカイの言いたいことは分かるよ。それならば、セントラル国王がシャーランを手放すわけがない、俺もそう思う。それに、もしそれが真実だとしたら、先日会ったときに、私の父上はもっと俺に必死に圧力をかけてくると思う」
ジャンはルイの話を聞きながら頷きつつも、最後に首を傾げる。
「ルイの父親の考えまでは分からないけど、あくまでもこれは推測でしかないから、ルイの父親もそこまで強行できないとか?」
ジャンの話のあとは少しだけ皆無言になり、廊下を歩く音だけが目立って聞こえる。
「ジャンとタクの、推測通りだと思うよ」
マハラが正面を向いたまま、低い声で静かに話し出す。
「さっきもさ、シャーランがオレらと行くっていうのを、ケイランは結構すぐに引き下がっただろ。あれも、オレらならシャーランにそういうことをしない、って分かってたから、引き渡したって感じしないか?」
「いや、それは深読みしすぎな気もするな。そもそも、ケイランがおれらと同じ推測をしていたとしたら、なぜ今までシャーランへ…決定的な行為をしなかったんだ?シャーランへの過去の接触を見る限りケイランなら、すぐやりそうだろ」
真剣な表情でケイシはマハラを見つめて話すが、マハラはゆっくりと首を横にふる。
「いや、ケイランは全て分かったうえで、色々とやっている気がする」
「あとは、手を出さない理由に、セントラル国王からマージ家への圧力も関係するかもしれないっすね。…まぁ、ケイランがそれに屈するようには、見えないっすけど」
タクは言っておきながら、腑に落ちない何かに頭をかく。
シャーランは自分の体をギュッと掴みながら、歩く足元に視線を落とし、沈んだ声で話す。
「…あのね、皆んなと一緒にいない間…お兄…ケイランは…理由は分からないんだけれど…、離れたら危ないからって、私と同じ部屋で寝たがったんだけれど、私と同じベッドで寝ようとはしなかったし、以前のような嫌な触れ方も減った気がするの…。ケイランが何を考えているのか、私もよく分からない…」
「シャーラン……」
「こんにちは」
背後から聞こえる少し高めの声に、皆一瞬体を硬直させ、一斉に振り返る。
そこには、体はまだ小柄で顔には幼さも残った、男の子が立っていた。
美術室の電気も消し、ジャンがドアをゆっくりと開け、顔を出して外の様子を伺う。
「誰もいない。出ていいよ」
ジャンの合図で、全員が順番に素早く美術室を出る。
「よし、じゃあ向こうの階段を上って行こ…」
「結局、そういうことか」
廊下の柱の陰から出てきたのは、うんざりした顔のケイランだった。
「…!?お兄さま…!?やっぱりついてきて…。…私を1人で行かせると、夕食までに戻ってくればいいと…言ったのは、最初から嘘だったのですね」
「嘘ではないよ。ただ、シャーランが無事かどうか確かめようとここに来ただけで、別にシャーランを連れ戻そうなどとは思ってはいなかったよ。今の、この状況を見るまではね」
ケイランはイラついた様子で、顎を少し上にあげ皆の顔を見回す。
「シャーラン、もうこいつは兄じゃないだろ。お兄さまなんて、呼ぶ必要ない」
マハラは、シャーランの前に出ると、腕を伸ばし、シャーランが連れて行かれないように守る。
「…君は毎回私に噛みついてくるな。それに、発言する前に、もう少し考えるっていうことをした方がいい。私とシャーランが実の兄妹ではないからと、呼び方を変えたらどうなる?周りは不審がり、何かあったのかと探ろうとしてくる、違うか?シャーランが自分の出生を知った事実を隠すために、いつも通り呼ばせているというのに、そんなことにも気付かないとは、はぁ…シャーラン、よくこんな奴らと一緒にいられるな…」
額に手を当て、ガッカリした表情で首を振るケイラン。
マハラは、今回はケイランの挑発にのることなく、冷静に聞いていた。
「そうやって、今もシャーランを守っているんですね」
「——は、なんだ?」
マハラからの思いもよらぬ返しに、ケイランは険しい顔をする。
「シャーランへの接し方は間違っていますが、彼女を、妹としてではなく、1人の女性として愛しているのは、本当なんだなと思っただけです」
「…何を言いだすかと思えば、ははっ、急にどうした?私の気持ちを考えてどうなる。で、仮にそうだとしたら、なんだ?」
「オレもシャーランのことを、1人の女性として好きなんです。オレだけじゃなくて、他にもここにいるメンバーも」
突然の告白に動揺するシャーランと、突然自分達の気持ちをバラされ、同じく動揺するジャン達。
「それで、聞きたいんです。シャーランが記憶を取り戻すべきか否か、あなたはどう考えているのか。オレらの中では意見が割れているんです」
「君は、ふざけているのか?それを私に聞いて、どうするんだ?まず、記憶を取り戻す方法に、何か心当たりでもあるのか?ないのであれば、議論をする以前の問題だと思うが。それ以上に、誰が耳にするか分からない、学園のこういった廊下でする話ではない」
「じゃあ、オレらの部屋でこの続きを話しましょう」
「断る。君らとこれ以上話すつもりはない。シャーラン、部屋に帰るぞ」
ケイランはシャーランに向かって手を差し伸べるが、シャーランはマハラの服をギュッと掴み、マハラの後ろに隠れる。
「…ごめんなさい、お兄さま。私、皆んなとまだ一緒にいたいの。部屋には戻るけれど…、もうお兄さまとずっと一緒は…いや…」
シャーランの言葉に、ケイランは一瞬顔が凍りつくが、目を伏せて息を吐き、その端正で綺麗な顔をシャーランに向ける。
「お前を守ってやれるのは、私だけだよ。セントラル国王から、直々にお前を託されているんだ。愛してるよ、シャーラン、彼らとはまた別日に話せばいいだろう、さあ早く帰ろう」
「あとで戻るから…先に戻って…ごめんなさい…」
マハラの服を更にギュッと強く掴むシャーランの顔は、少し怯えていた。
そんなシャーランの様子を見たマハラは、シャーランの手を服から離すと、優しくシャーランの手を握りしめる。
「部屋にはオレらが送っていきますし、必ず帰します。でも、それまでは一緒にいさせてください」
マハラはシャーランの肩を抱き寄せ、互いに体を寄せ合い、ケイランを真っ直ぐに見据える。
ケイランは何か言おうと口を開きかけたが、怯えたような目で自分を見るしゃーらんを見て、話すのをやめ、代わりに深いため息をつく。
「好きにしたらいい…」
そういうと、ケイランは背中を向け歩き出し、少し先の階段を上って消えていった。
「…なんか、ずいぶんアッサリ引き下がったな」
拍子抜けしたルイは、自分の髪の毛をクシャッと掴み、ケイランが去った方向を見つめる。
マハラは心配そうな表情で視線を落とし、シャーランを見つめると、同じくして視線をあげたシャーランと目が合い、思わず互いに体をビクッとさせる。
「あっ…あの…、えっと…」
シャーランは、マハラとの距離が近いことにドキドキと胸の音が激しくなり、節目がちになって顔を赤らめる。
「あ…!ごめん、えっと…」
シャーランの思わぬ反応に、マハラもまた顔を赤らめ、抱いていたシャーランの肩から手をパッと離す。
「と…とりあえず、部屋に…」
「あ…はい…」
ぎこちないマハラとシャーランの様子に、他の5人はニヤニヤしながら見つめていた。
「おれたちだって、シャーランのことが好きなんだからな」
「そうだそうだー。なんか自分ばっかり、ずるいぞー」
ケイシとスカイは目を細めて、マハラを揶揄からかう。
「ほらほらほら、とりあえず行こう」
ジャンが両手を広げ手のひらをヒラヒラとさせ、歩くよう全員を後ろから促す。
やっと歩き出した一行は、なるべく人気の少ない廊下を選んで部屋まで歩く。
マハラ達の部屋まではまだ距離がある中、スカイが我慢できずに口を開く。
「あのさ、シャーランちゃんはどうなの、記憶が戻って欲しいとか、そのへん」
「記憶は…まだどっちがいいのかわからないです…。私も過去に何があったか、昔の私はこの世界のことをどう思っていたのか、…他のシュトム族の方はどんな人だったのか、何を話していたのか思い出したい。でも…」
シャーランを取り囲むように歩くマハラ、スカイ、ケイシ、ジャン、タク、ルイは、辺りを警戒しつつも、暗い表情のシャーランを心配そうに見つめる。
「私が記憶を取り戻すことで、またシュトム族として生きなけらばならなくなる…としたら……。…私は…私は、伝記にあったような生き方はしたくない。今のように、皆と同じ人間として、普通に生活していきたい…」
「シャーラン…」
最後の方で涙声になるシャーランの頭を、マハラはポンポンと優しく触れなだめる。
ルイは、マハラとシャーランの様子を横目で見ながら、暗い声で話す。
「そっか…そうだよな、俺よく考えていなかったな…。シャーランは記憶を取り戻すべきだ、って最初から思っていたけど、記憶が戻るとシュトム族としての生態に戻る可能性があるのか…」
ルイが自分の疑問に対して意見を求めるかのように、ジャンとタクの方を見る。
「どうなんっすかね。おれもそれは考えたことあるんすけど、記憶はないだけで、シャーランの体は今もシュトム族のままなんすよね。もし、例の7日起きて100年寝るサイクルは、シュトム族としての記憶と脳によって起こるものだとして……」
タクは口をギュッと結び、シャーランの体を一度見るとすぐに視線をそらし、固い表情のまま黙り込む。
「だとして、で、なんだよ…?お前、まさか…気持ち悪いな!そんなこと考えんじゃねーよ」
タクの考えを悟ったスカイは、顔を歪め話を打ち切ろうとするが、ジャンが真剣な目でスカイを見つめる。
「…いや、これは僕もタクと同じことを考えてる。それに、仮定として考えておいた方がいい…。シャーランの体は、もしかすると、シュトム族としての能力は、そのままかもしれない」
「——それって、つまり、仮に誰かの子を妊娠したら、その生まれてくる子は、伝記の通り全能で人の上に立つ子…」
ケイシが前を向いたまま小声でボソっと話すと、シャーランは自分の腕を両手で掴み身震いする。
「おい、そんな、まさか…もしそうだったら、今頃シャーランちゃんはセントラル王族の奴らに……」
言いかけてやめたスカイは、苦々しい顔になり、シャーランから顔を背ける。
ルイは、そんなスカイの背中をポンと励ますように叩くと、周囲に人がいないことを確認して後方から皆に話しかける。
「スカイの言いたいことは分かるよ。それならば、セントラル国王がシャーランを手放すわけがない、俺もそう思う。それに、もしそれが真実だとしたら、先日会ったときに、私の父上はもっと俺に必死に圧力をかけてくると思う」
ジャンはルイの話を聞きながら頷きつつも、最後に首を傾げる。
「ルイの父親の考えまでは分からないけど、あくまでもこれは推測でしかないから、ルイの父親もそこまで強行できないとか?」
ジャンの話のあとは少しだけ皆無言になり、廊下を歩く音だけが目立って聞こえる。
「ジャンとタクの、推測通りだと思うよ」
マハラが正面を向いたまま、低い声で静かに話し出す。
「さっきもさ、シャーランがオレらと行くっていうのを、ケイランは結構すぐに引き下がっただろ。あれも、オレらならシャーランにそういうことをしない、って分かってたから、引き渡したって感じしないか?」
「いや、それは深読みしすぎな気もするな。そもそも、ケイランがおれらと同じ推測をしていたとしたら、なぜ今までシャーランへ…決定的な行為をしなかったんだ?シャーランへの過去の接触を見る限りケイランなら、すぐやりそうだろ」
真剣な表情でケイシはマハラを見つめて話すが、マハラはゆっくりと首を横にふる。
「いや、ケイランは全て分かったうえで、色々とやっている気がする」
「あとは、手を出さない理由に、セントラル国王からマージ家への圧力も関係するかもしれないっすね。…まぁ、ケイランがそれに屈するようには、見えないっすけど」
タクは言っておきながら、腑に落ちない何かに頭をかく。
シャーランは自分の体をギュッと掴みながら、歩く足元に視線を落とし、沈んだ声で話す。
「…あのね、皆んなと一緒にいない間…お兄…ケイランは…理由は分からないんだけれど…、離れたら危ないからって、私と同じ部屋で寝たがったんだけれど、私と同じベッドで寝ようとはしなかったし、以前のような嫌な触れ方も減った気がするの…。ケイランが何を考えているのか、私もよく分からない…」
「シャーラン……」
「こんにちは」
背後から聞こえる少し高めの声に、皆一瞬体を硬直させ、一斉に振り返る。
そこには、体はまだ小柄で顔には幼さも残った、男の子が立っていた。
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