誰も助けてくれないのだから

めんだCoda

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第38話 一族の剣

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 タイキは立ち上がり、キャビネットの場所まで戻ると、両手でキャビネットを持ち上げ横にどかした。
 そして、キャビネットが置いてあった場所の床を両手で力一杯押すと、パカっと扉のように床が左右に分かれた。

 ぽっかりとできた空間に、タイキが肩まで中に突っ込むと、紫の布に包まれた長細いものを取り出した。

 タイキは慎重に紫の布を取ると、中からは黄金に光り輝く長く細い剣が出てきた。

 あまりの美しさに誰もが息を潜める中、シャーランは目を細め剣を見つめ、ゆっくりとソファから体を起こした。

 タイキは両手で剣を持って厳かに立ち上がると、シャーランの前にゆっくりと歩み出て跪ひざまずく。

「シュトム様の剣でございます」

 シャーランは差し出された剣を掴むと、体にビリビリと衝撃が走り、全身の筋肉が波打った。
 脳が震えているような感覚に、まるで目の前に絵の描かれた本が現れ、パラパラと読んでいるかのように、今までの記憶がどんどんと自分の脳に蓄積されていくのが分かった。

 そして、最後の記憶が脳に入った瞬間、ドンという衝撃が頭にきて、シャーランはソファから前のめりに崩れ落ちる。

「シャーラン!!」

 倒れるシャーランを見て、マハラが慌てて駆け寄るが、シャーランの目の前にいたタイキが、シャーランと剣を冷静に受け止めた。

「シャーランは、どうしたんだ!?何が起こった!?」

 マハラはタイキの隣にしゃがみ、脱力状態でタイキの体に重なるシャーランに、おそるおそる触れる。
 シャーランは目を瞑っており、ピクリともしない。

「予想でしかないが、おそらく、シュトム族としての記憶が戻ったのだと思う」

「待て、シャーランは記憶が戻ることを望むとは、一言も言ってないぞ…確認もしないでなぜ急にこんなことを!?」

「確認をする必要などない。シュトム族様の100年眠り7日間覚醒するという、本来のサイクルを元に戻さないといけない。なぜなら、ニーカ族は、誓約で決められた墓守りを行わなければならないからだ」

 タイキの言葉に、一瞬あっけに取られたが、ふつふつと怒りが沸いてきたマハラ。

「……あんたは、こうやってコソコソ隠れていたから、世間の状況を知らないんだろうが、セントラル王やその王族が、シャーランを使ってまた権力を独占しようとしているんだぞ。彼女がまた道具のように使われるのを承知で、彼女を元に戻すっていうのか…!!」

「そのことなら、知っている」

「知っていて、それでも、シャーランより自分らニーカ族の誓約の方が大事だって言うのか!?」

「そうだ。シュトム族様が生きているにも関わらず、その任務を放棄した場合、ニーカ族の全員が漏れなく、一生滅びるまで、未来永劫日の目を見ることなく生きる罰を受ける誓約となっている。だから、記憶を失っていたとしても、シュトム族であるシャーラン様が、なんらかの原因により亡くなってしまった場合、ニーカ族は任務放棄とみなされ、その途端…俺らニーカ族の人生は終わる。一族のために、一族の未来のためにも、俺はやらなければならない」

 そういうと、タイキはシャーランをソファに優しく寝かせ、剣を持ち立ち上がる。

 立ち上がったタイキを見上げたマハラは、ふとその姿が以前見たものと重なった。

 剣に人の姿、そして十字の印——。
 シャーランがキャンパスに描いていた絵だ。

 マハラは、自分の中で何かを受け入れたかのように、自然と悟った。

「シャーランが描いたキャンパスの絵の人物、あれはニーカ族のことだったんだ…」

 マハラは、タイキを見上げながらポツリと独り言のように言う。

「…最初に会ったときから、彼女はちゃんと分かっていたんだ…記憶を戻すなんていう議論の余地なんて、全く必要なかったんだ…」

 うなだれるマハラに、ジャンはおろおろと近寄り、心配そうな表情でマハラの肩に手を置くと、タイキを見上げる。

「それで、この後はどうなるんだ?シャーランは、このまま100年の眠りについてしまったのか…?」

「俺にも分からない。記憶がないシュトム族は彼女が初めてだ。記憶が戻ったことによる一時的な状態で彼女がこの後目覚めるのか、あるいは、このまま起きないのか、俺には答えることができない」

 ジャンはがっかりしたように視線を下げ、目の前の床を見つめる。
 すると、マハラが声を絞りながら、ゆっくりと話す。

「分からないなら、なんで剣を握らせる前にオレ達に教えてくれないんだ…!100年だぞ…!?次彼女が目覚めたときには、オレらは多分いないんだ、もう会えないんだ!最後の別れくらい、させてくれよ…!」

 マハラは床に拳をぶつけ、涙を一筋流し歯を食いしばりながらタイキを睨む。

「…すまない…」

 どこか淡々としているように見えたタイキだったが、マハラの言葉に少し落ち込んだような表情を見せた。

 ジャンは目の前の床を見つめながら静かに2人の話を聞いていたが、ゆっくりとタイキに顔を向ける。

「それで…シャーランをこれからどうするんだ。君らニーカ族は墓守り人と呼ばれるくらいなんだ、彼女をどこか土の中にでも埋めるのか」

 ジャンの話に、マハラの肩にぐっと力が入る。

「いや、違う。彼女の眠りにつく場所は——」

 タイキが言いにくそうに話そうしたとき、ガチャガチャッと激しい音が響いた。

 皆話すのをやめ、気配を消しその場で固まり、音のした方を静かに見つめる。

 皆が隠れているこの小屋のドアのドアノブが、ガチャガチャッと左右に激しく回り、またガチャガチャッと激しい音を立てる。

 不安な表情で、マハラ達は一斉にタイキの顔を見て、この状況はどういうことなのかと、無言で訴える。

 しかし、口を真一文字に結んだタイキは、ドアノブを見つめたまま、微動だにしなかった。

 またドアノブがガチャガチャガチャと回ると、キーーッと音をたてドアが開いた。

 そこには、目深にフードを被った人物が立っていた。
 そして、そのフードはマハラ達には見覚えがあった。

「タイキ!逃げろ!セントラル王族の医師だ!」

 マハラは、立っているタイキの服の裾を掴み、必死に伝える。

 しかし、タイキはフードを被った人物を無言で真っ直ぐに見つめたまま、動かなかった。

「おい!タイキ!聞いているのか!」

 必死の形相のマハラは、勢いよく立ち上がりタイキの顔を覗き込む。
 タイキは、変わらず真っ直ぐフードの人物を見つめている。

 マハラは焦りもしないタイキの様子を奇妙に思いつつ、ドア前に立つフードの人物を改めて見つめる。すると、思っていたより小柄なことに気付いた。

 フードの人物は鼻から下しか見えなかったが、肌は白く、顔の輪郭は華奢であった。

 フードの人物は、マハラを見ると、口を開いて話しかけてきた。

「君、血がついているが、怪我をしているのか」

 声色は高く、どこか機械的な話し方だった。

「これはオレの血じゃない」

 マハラは答えながら、どこかで聞いたことがある声だと記憶を辿っていた。

 タイキは、フードの人物に淡々と話しかける。

「なんの用だ。ここに来たということは、何か問題が起きたか」

「大問題だね。学園内はセントラル国王も現れて、混沌としているよ」

 そう言ってフードを取ると、現れたのは、肩までの真っ直ぐな金髪に鋭い目をした女性の顔だった。

「あ……!」

 マハラ達は思い出す、セントラル王族の専属医師であるアイフォールと自室で話していたときに、迎えにきた女性のことを。

「リリー」

 タイキはそう呼ぶと、

「久しぶり」

 リリーは淡々と返した。
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