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第6話 紅茶の中身
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授業終わりに、ぼーっと席に座ったままのマハラ。周りは、各々次の授業部屋へと移動していく。数日前の楽しかった祭りを、思い返していた。りんご飴の後も様々な店に出入りし、祭り終了時間までみんなと動き回っていた。
気の置けない友人であるジャンたちと過ごせたことはもとより、シャーランと長い時間一緒にいられたことが嬉しかったマハラ。
(シャーランさんにまた会いたいな・・)
マハラはふと時間を確認し、今ならもしかしたらあそこにいるかも・・、と急いで席をたつ。
◇◇◇
午後に2つの授業を終え、シャーランは昼食会場へ向かう。
昼食会場には、午後3時前後になると多種多様な菓子等が振る舞われる。生徒たちからは、スイーツタイムとも呼ばれており、ケーキにスコーン、ホットケーキ、クッキー、チップス、軽食のサンドイッチなどもあり、どれもこれも自由に食べて良いため、授業の合間の休憩時間に立ち寄る人も多い。
シャーランは連日詰め込んだ授業で疲弊しており、気分転換にと昼食会場に入る。
テーブルを見ると、甘いスイーツに、紅茶、そしてりんご飴が置いてあった。りんご飴が置いてあるのは初めてで、他の生徒はなにか今日は特別な日なのかな?!、と喜んでいた。
次の授業部屋がここから離れているシャーランは、急いで席に座り紅茶を飲み手元のスコーンを口に含む。
シャーランはあまり時間がなかったが、ずらりと並んで置かれているりんご飴を手に取り1口かじる。
カリッと小気味いい音と共に、口の中に甘い味が広がる。
シャーランはりんご飴の自分のかじった跡を目の前にかざし、じっと見つめる。そして、またひとかじりし、かじった砂糖のかたまりを、ゆっくりと口の中で転がしていく。
「シャーラン。美味しそうなものを食べているね。」
甘ったるい声に背筋が凍りバッと左を向く。
兄のケイランが、足を組み座っていた。頬杖をつき、笑みを浮かべてこちらを見ている。
今日も3人護衛をつけている。兄の服装は前回とは違い、特別な催しのときに着られる正装だった。
兄の正装姿に家柄の良さを感じたのだろう、会場内にいる女性たちが色めきだっていた。
「・・・今日は正装ですが、何かご用事があったのですか?」
冷たく淡々と聞きながらテーブルの上を片付け、シャーランは早くこの場を離れようと席を立つ。
「今日はね、セントラル国のファースト公爵の式典があってね。父の代わりに僕が参加してきたわけさ。」
逃げようとするシャーランの腕は掴まれ、逃すまいとケイランに引き寄せられる。
掴んだシャーランの腕を、ケイランはもう片方の手でスリスリと撫で、シャーランを見つめる。
「そうですか、それはご苦労様でした。私はこの後も授業がありますので。」
兄の手が気持ち悪く、腕をふりほどこうとするが力の差で無駄だった。
どうにかこの場を凌ぎたく、シャーランは目の前にあるりんご飴を空いている方の手で取り、兄に見せる。
「お兄さま、りんご飴いかがですか?甘くて美味しいのでぜひ。」
すごい勢いで、りんご飴をケイランの顔の目の前に突きつける。
ケイランはシャーランの思いがけない行動に面食らった様子だったが、すぐにフッと笑い、シャーランの腕を離しその代わりにシャーランの腰へ手を当て抱き寄せ、愛おしそうにシャーランを見る。
「きみはいつ見ても可愛いな・・。」
兄の言葉と手の感触に、ヒッと恐怖を感じ体が硬直し、また動かなくなる。
「やめてください・・。」
恐怖で声は小さくなる。だが、聞こえているはずの兄は気にするそぶりはなく、シャーランを優しく抱いていく。
シャーランは緊張と恐怖のあまり体のコントロールがきかず、腕に力が入らず力なく腕をダランと下げる。持っているりんご飴が、シャーランの着ているワンピースのスカート部分にベチャっとくっつく。
マハラは昼食会場へ急いで入り、その瞬間シャーランが兄ケイランに抱かれているのを見た。
フツフツと湧いてくる怒りに、マハラは両手で握り拳をつくりグッと力を込めた。
1歩1歩シャーランたちに近づく足はだんだんと早くなる。
「やめてあげてください・・!」
大きな声で制した男性は、栗毛色の髪がふわふわと彼の動きにそって動いている。だが、その表情は固く、口をギュッと結びケイランを見据える。その反面、ポットを持っている両手が、小刻みに震えている。
ケイランは彼を一瞥いちべつしただけで、気に留める様子はなく、シャーランにまた愛おしげに視線をおくる。その様子は、まるで恋人にするそのものだった。
シャーランは兄のせいで呼吸が苦しくなり、ハァ、ハァと息が荒くなる。
男性はポットを持つ手に力を入れ、低く落ち着いた声で話す。
「彼女、息をしにくそうです。紅茶を入れますので、飲ませて少し休ませてあげてください。」
ケイランはシャーランの額にかかる髪の毛をぬぐい、シャーランの顔を優しく撫でる。
確かに、顔色が悪く青白く具合が悪そうだ。
「そこに2つ置いてもらえるかな。」
ケイランは淡々と男性に命令すると、シャーランを自分の膝の上に座らせる。
シャーランは息をするのに精一杯で、兄に抗うこともなくされるがままだ。
男性は、テーブルにある近くの空のカップを引き寄せ、持っているポットから慣れた手つきでカップに紅茶を注ぎ、ケイランとシャーランのそれぞれの前に紅茶を置く。
ケイランは男性を見ることもなく無言でシャーラン側のカップを取り、シャーランに飲ませようとする。シャーランは気持ちの悪さと眩暈めまいがしたが、強引に口に押し付けられるカップに嫌々ながらも少し口を開き、中の紅茶を1口飲む。
ほのかな花の香りと、ふんわりと広がる甘みに、不思議とシャーランはだんだんと気持ちが落ち着いていく。
シャーランが、ふう、と息を吐いて落ち着いていく様を見たケイランは、安堵して紅茶のカップを戻す。
「こちらはリラックス効果のある、オリジナルブレンドです。よろしければ、あなた様もご一緒にどうぞ。」
男性は、人当たりの良い笑顔でケイランに紅茶をすすめる。
ケイランはジッと彼の顔を見て紅茶の持ち手に手をかける。すっと口元へカップを近付けていくが、口元数cmのところでカップを止めると、紅茶を見つめそのまま皿にカチャリと戻す。
「何か気になることでも、ありましたか?」
男性はゆっくりと丁寧に下手に出て話していたが、少し慌てた様子が声に隠せていなかった。
「私のような身分になると、こういった場所で出されたものをそのまま口にすることは危険もあってね。」
ケイランは鋭い目つきで男性を見ながらカップを指で弾き、胸ポケットから薄い白い紙を取り出す。
その紙を人差し指と親指で掴むと、紅茶へと近づけていく。
白い紙の先が紅茶につくかつかないかそのとき、シャーランがケイランの手を掴み紅茶から遠ざける、急に動いたシャーランの右手が反動でカップにあたり、紅茶がテーブルに倒れこぼれる。
兄の手を掴むシャーランは、ハァハァと息を切らし肩は上下に揺れる。
ケイランは、そんなシャーランに驚くそぶりも見せず、やや冷たい目で自分の腕を掴むシャーランを見つめる。
シーーンとしたこの空間で、シャーランの息の音だけが目立つ。
ケイランは、無言で自らの片腕を直角に立てていく。その腕をシャーランは両手で急いでつかみ、腕を降ろさせる。
ケイランとシャーランは互いに目をそらさず見る。シャーランはケイランの瞳に怒りが混じっているのが分かりそらしたい思いにかられたが、なんとか耐えた。
「・・帰るぞ。」
ケイランはシャーランを離し、護衛3人を連れて出ていく。
シャーランはテーブルに両手をつき、体を支えてなんとか立っていた。息をするのが苦しく上下に肩が激しく動く。
ケイランが出て行ったのを確認したあと、シャーランはポットを持った男性の方に振り向く。
「あなた、何を考えているの!?死にたいの!?」
その顔は苦々しく、苦悶に満ちていた。
「何をおっしゃられているのか、わかりません。」
男性はポットを持ったまま、表情を変えず答える。
「兄があの腕を上まであげてしまえば、あなたはその場で殺されていたわ!」
シャーランは男性から目を逸らさず、大声をあげる。ハァハァ、とまた息が切れる。
「何を大袈裟な。腕をあげただけでそんな、殺されるだなんて。そんなこと、この国では起こりませんよ。そんな権限を持っている人はごく一部ですし、他国の人間がそれをましてや学園という場で実行すれば、その本人が処罰されるでしょう。」
ハッ、とバカにしたように鼻で笑う。
周りでことの成り行きを見ていた人たちもみな、シャーランがおかしなことを言っていると、笑い声をあげる。
「あなた方の住むこの国ではそうかもしれません。ですが、国が違えば、ルールも、やり方も考えも違う人間がいる、ということだけは覚えておいてください。」
シャーランは表情こそ変えなかったが、目は悲しげにふせ、テーブルに放り出されたケイランの持っていた白い紙を取る。
「この紙は毒を検知するもので、毒に少しでもふれれば色がピンクに変わります。」
こぼれた紅茶にひたした紙は、あっという間に全体がピンクに染まっていく。
「なぜこんなことを・・?」
シャーランはポツリと悲しそうに問いかける。物憂いな目で男性を見るその姿は、こんな場面でなければ美しいとすら思えてしまうほどだった。
男性はポットを持ったまま無言で踵きびすを翻ひるがえし、人で溢れる中をかき分け会場を出て行った。
マハラは、その男性が俯うつむき向かってきたときに肩が思い切りぶつかり、その拍子に男性がよろけ、髪が顎にふれた。
栗毛色の髪、シャーランと行ったりんご飴の店の店員だった。お手拭きを持ってきてくれた親切な男性。
マハラはりんご飴の店員と目が合ったが、男性はすぐ顔を背け走り去って行った。
キャー!!という悲鳴でマハラは我に返り、人混みをかきわけ、人垣ひとがきができている場所へと辿り着く。
その人垣の中央で、シャーランが床に倒れていた。
気の置けない友人であるジャンたちと過ごせたことはもとより、シャーランと長い時間一緒にいられたことが嬉しかったマハラ。
(シャーランさんにまた会いたいな・・)
マハラはふと時間を確認し、今ならもしかしたらあそこにいるかも・・、と急いで席をたつ。
◇◇◇
午後に2つの授業を終え、シャーランは昼食会場へ向かう。
昼食会場には、午後3時前後になると多種多様な菓子等が振る舞われる。生徒たちからは、スイーツタイムとも呼ばれており、ケーキにスコーン、ホットケーキ、クッキー、チップス、軽食のサンドイッチなどもあり、どれもこれも自由に食べて良いため、授業の合間の休憩時間に立ち寄る人も多い。
シャーランは連日詰め込んだ授業で疲弊しており、気分転換にと昼食会場に入る。
テーブルを見ると、甘いスイーツに、紅茶、そしてりんご飴が置いてあった。りんご飴が置いてあるのは初めてで、他の生徒はなにか今日は特別な日なのかな?!、と喜んでいた。
次の授業部屋がここから離れているシャーランは、急いで席に座り紅茶を飲み手元のスコーンを口に含む。
シャーランはあまり時間がなかったが、ずらりと並んで置かれているりんご飴を手に取り1口かじる。
カリッと小気味いい音と共に、口の中に甘い味が広がる。
シャーランはりんご飴の自分のかじった跡を目の前にかざし、じっと見つめる。そして、またひとかじりし、かじった砂糖のかたまりを、ゆっくりと口の中で転がしていく。
「シャーラン。美味しそうなものを食べているね。」
甘ったるい声に背筋が凍りバッと左を向く。
兄のケイランが、足を組み座っていた。頬杖をつき、笑みを浮かべてこちらを見ている。
今日も3人護衛をつけている。兄の服装は前回とは違い、特別な催しのときに着られる正装だった。
兄の正装姿に家柄の良さを感じたのだろう、会場内にいる女性たちが色めきだっていた。
「・・・今日は正装ですが、何かご用事があったのですか?」
冷たく淡々と聞きながらテーブルの上を片付け、シャーランは早くこの場を離れようと席を立つ。
「今日はね、セントラル国のファースト公爵の式典があってね。父の代わりに僕が参加してきたわけさ。」
逃げようとするシャーランの腕は掴まれ、逃すまいとケイランに引き寄せられる。
掴んだシャーランの腕を、ケイランはもう片方の手でスリスリと撫で、シャーランを見つめる。
「そうですか、それはご苦労様でした。私はこの後も授業がありますので。」
兄の手が気持ち悪く、腕をふりほどこうとするが力の差で無駄だった。
どうにかこの場を凌ぎたく、シャーランは目の前にあるりんご飴を空いている方の手で取り、兄に見せる。
「お兄さま、りんご飴いかがですか?甘くて美味しいのでぜひ。」
すごい勢いで、りんご飴をケイランの顔の目の前に突きつける。
ケイランはシャーランの思いがけない行動に面食らった様子だったが、すぐにフッと笑い、シャーランの腕を離しその代わりにシャーランの腰へ手を当て抱き寄せ、愛おしそうにシャーランを見る。
「きみはいつ見ても可愛いな・・。」
兄の言葉と手の感触に、ヒッと恐怖を感じ体が硬直し、また動かなくなる。
「やめてください・・。」
恐怖で声は小さくなる。だが、聞こえているはずの兄は気にするそぶりはなく、シャーランを優しく抱いていく。
シャーランは緊張と恐怖のあまり体のコントロールがきかず、腕に力が入らず力なく腕をダランと下げる。持っているりんご飴が、シャーランの着ているワンピースのスカート部分にベチャっとくっつく。
マハラは昼食会場へ急いで入り、その瞬間シャーランが兄ケイランに抱かれているのを見た。
フツフツと湧いてくる怒りに、マハラは両手で握り拳をつくりグッと力を込めた。
1歩1歩シャーランたちに近づく足はだんだんと早くなる。
「やめてあげてください・・!」
大きな声で制した男性は、栗毛色の髪がふわふわと彼の動きにそって動いている。だが、その表情は固く、口をギュッと結びケイランを見据える。その反面、ポットを持っている両手が、小刻みに震えている。
ケイランは彼を一瞥いちべつしただけで、気に留める様子はなく、シャーランにまた愛おしげに視線をおくる。その様子は、まるで恋人にするそのものだった。
シャーランは兄のせいで呼吸が苦しくなり、ハァ、ハァと息が荒くなる。
男性はポットを持つ手に力を入れ、低く落ち着いた声で話す。
「彼女、息をしにくそうです。紅茶を入れますので、飲ませて少し休ませてあげてください。」
ケイランはシャーランの額にかかる髪の毛をぬぐい、シャーランの顔を優しく撫でる。
確かに、顔色が悪く青白く具合が悪そうだ。
「そこに2つ置いてもらえるかな。」
ケイランは淡々と男性に命令すると、シャーランを自分の膝の上に座らせる。
シャーランは息をするのに精一杯で、兄に抗うこともなくされるがままだ。
男性は、テーブルにある近くの空のカップを引き寄せ、持っているポットから慣れた手つきでカップに紅茶を注ぎ、ケイランとシャーランのそれぞれの前に紅茶を置く。
ケイランは男性を見ることもなく無言でシャーラン側のカップを取り、シャーランに飲ませようとする。シャーランは気持ちの悪さと眩暈めまいがしたが、強引に口に押し付けられるカップに嫌々ながらも少し口を開き、中の紅茶を1口飲む。
ほのかな花の香りと、ふんわりと広がる甘みに、不思議とシャーランはだんだんと気持ちが落ち着いていく。
シャーランが、ふう、と息を吐いて落ち着いていく様を見たケイランは、安堵して紅茶のカップを戻す。
「こちらはリラックス効果のある、オリジナルブレンドです。よろしければ、あなた様もご一緒にどうぞ。」
男性は、人当たりの良い笑顔でケイランに紅茶をすすめる。
ケイランはジッと彼の顔を見て紅茶の持ち手に手をかける。すっと口元へカップを近付けていくが、口元数cmのところでカップを止めると、紅茶を見つめそのまま皿にカチャリと戻す。
「何か気になることでも、ありましたか?」
男性はゆっくりと丁寧に下手に出て話していたが、少し慌てた様子が声に隠せていなかった。
「私のような身分になると、こういった場所で出されたものをそのまま口にすることは危険もあってね。」
ケイランは鋭い目つきで男性を見ながらカップを指で弾き、胸ポケットから薄い白い紙を取り出す。
その紙を人差し指と親指で掴むと、紅茶へと近づけていく。
白い紙の先が紅茶につくかつかないかそのとき、シャーランがケイランの手を掴み紅茶から遠ざける、急に動いたシャーランの右手が反動でカップにあたり、紅茶がテーブルに倒れこぼれる。
兄の手を掴むシャーランは、ハァハァと息を切らし肩は上下に揺れる。
ケイランは、そんなシャーランに驚くそぶりも見せず、やや冷たい目で自分の腕を掴むシャーランを見つめる。
シーーンとしたこの空間で、シャーランの息の音だけが目立つ。
ケイランは、無言で自らの片腕を直角に立てていく。その腕をシャーランは両手で急いでつかみ、腕を降ろさせる。
ケイランとシャーランは互いに目をそらさず見る。シャーランはケイランの瞳に怒りが混じっているのが分かりそらしたい思いにかられたが、なんとか耐えた。
「・・帰るぞ。」
ケイランはシャーランを離し、護衛3人を連れて出ていく。
シャーランはテーブルに両手をつき、体を支えてなんとか立っていた。息をするのが苦しく上下に肩が激しく動く。
ケイランが出て行ったのを確認したあと、シャーランはポットを持った男性の方に振り向く。
「あなた、何を考えているの!?死にたいの!?」
その顔は苦々しく、苦悶に満ちていた。
「何をおっしゃられているのか、わかりません。」
男性はポットを持ったまま、表情を変えず答える。
「兄があの腕を上まであげてしまえば、あなたはその場で殺されていたわ!」
シャーランは男性から目を逸らさず、大声をあげる。ハァハァ、とまた息が切れる。
「何を大袈裟な。腕をあげただけでそんな、殺されるだなんて。そんなこと、この国では起こりませんよ。そんな権限を持っている人はごく一部ですし、他国の人間がそれをましてや学園という場で実行すれば、その本人が処罰されるでしょう。」
ハッ、とバカにしたように鼻で笑う。
周りでことの成り行きを見ていた人たちもみな、シャーランがおかしなことを言っていると、笑い声をあげる。
「あなた方の住むこの国ではそうかもしれません。ですが、国が違えば、ルールも、やり方も考えも違う人間がいる、ということだけは覚えておいてください。」
シャーランは表情こそ変えなかったが、目は悲しげにふせ、テーブルに放り出されたケイランの持っていた白い紙を取る。
「この紙は毒を検知するもので、毒に少しでもふれれば色がピンクに変わります。」
こぼれた紅茶にひたした紙は、あっという間に全体がピンクに染まっていく。
「なぜこんなことを・・?」
シャーランはポツリと悲しそうに問いかける。物憂いな目で男性を見るその姿は、こんな場面でなければ美しいとすら思えてしまうほどだった。
男性はポットを持ったまま無言で踵きびすを翻ひるがえし、人で溢れる中をかき分け会場を出て行った。
マハラは、その男性が俯うつむき向かってきたときに肩が思い切りぶつかり、その拍子に男性がよろけ、髪が顎にふれた。
栗毛色の髪、シャーランと行ったりんご飴の店の店員だった。お手拭きを持ってきてくれた親切な男性。
マハラはりんご飴の店員と目が合ったが、男性はすぐ顔を背け走り去って行った。
キャー!!という悲鳴でマハラは我に返り、人混みをかきわけ、人垣ひとがきができている場所へと辿り着く。
その人垣の中央で、シャーランが床に倒れていた。
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