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第9話 経験
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「いい天気になったなー!」
スカイが両手をあげ、気持ちよさそうに伸びる。Tシャツにハーフパンツと薄着だが、その顔からは汗が垂たれる。
日差しの強い季節になり、じっとしていても汗が出る。
「昨日まで雨だったけど、今日は晴れて良かったっすね!って、あちちち・・!」
タクは大きな口を開け、歯を見せ笑いながら足をバタつかせる。
「だから、サンダル履けって言っただろ~。」
太陽の熱を吸収した熱い砂浜を、裸足はだしで歩くタクに呆れた表情のケイシ。
「はは。楽しいなー!あ、シャーランさん、こっちの日陰の方おいでよ~!」
振り返り、後ろから歩いてくるシャーランに話しかけるジャン。
マハラが、白いワンピースのシャーランの隣を歩きながら、一緒に笑顔で話しているのが目に入る。
「いやいやいや、お前、今日はみんなでシャーランさんを楽しませよう、ってことで海に来たんだからさ、そういう2人きりでなんか盛り上がる、ってのはやめようぜ。」
ジャンはマハラの両目を見据え、マハラの両肩に手をのせる。
マハラは、分かったよ、といった風に渋々笑う。
「まーた、すぐ抜け駆けするんだよなー!こいつ。」
スカイがストレッチをしながら、呆れたように言う。
ケイシ、タクはシートとパラソルを広げ、全員がくつろげるようセットしている。
「あの、前から気になっていたのですが、呼びにくいので、私のこと、さん付けしなくていいですよ。」
シャーランからの突然の申し出に、みな手が止まる。
「ありがとう。じゃあ、シャー・・ラン!」
少し照れた笑顔でこたえるジャンと、笑う4人。
和やかに、和気藹々わきあいあいと、なんてことない会話ができることに、幸せを感じるシャーラン。
「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに・・。」
シャーランは立ち上がり、1人トイレのある方へと歩き出す。砂浜が足の下のサンダルにもまれ、ギュッギュッ、と音が鳴る。
故郷のマージナル国では外遊びは家族から禁止されていたため、体で感じるこうした感触の1つ1つが新鮮だった。
(お手洗いの場所は・・あそこね。)
シャーランが見上げ場所を確認し、砂浜にとられやすい足を上に引き上げる。
ドン!
誰かとぶつかり、後ろによろけるシャーラン。
「あ!ごめん!大丈夫?!」
半袖の柄シャツを着た、鼻の高い爽やかな雰囲気の男性が、シャーランの腕を慌てて掴み、シャーランが後方に転倒するのを防いだ。
「大丈夫です。私こそよく見ていなくてすみません。」
シャーランは顔の前で1、2回手を振り、問題ないことを伝える。
お互いに、ぺこりと頭を下げ別れる。
◇◇◇
大きいパラソルを立てた下で食事を終え、シャーランとジャンはくつろいだ様子で、シートの上に並んで座り遠くを見る。少し離れた先では、マハラ、スカイ、ケイシ、タクが楽しそうにビーチバレーをしている。
必死にボールを追いかけ何回も砂浜に突っ込むので、Tシャツを脱いでいるスカイ、タクの鍛えられた上半身に砂がたくさんついている。
「ははははは!」
砂浜に突っ込むケイシを見て笑うマハラの腕は、Tシャツが肩までまくられている。可愛らしい見た目からは想像できないほどに逞たくましい腕に目が奪われる。学園内でも、そのギャップで彼に惹かれる人も少なくない。
シャーランは、気がつくとマハラを目で追っていた。
そんなシャーランの様子を横で見つめるジャンは、ノースリーブのワンピースを着ているシャーランの肩をつつき話しかける。
「体調はもう大丈夫?マハラばっかり見られてると、やきもちやくな。」
優しい笑みでシャーランを見つめる。
何か言わなきゃ、と口をパクパクするが、言葉が出てこないシャーラン。徐々に顔が赤くなっていく。
「はは。ごめん、ごめん。別にいじめたいわけじゃなかったんだけど。君のことを見ているのはマハラだけじゃないよ、って伝えたかっただけ。」
ジャンは困ったように笑い、立ち上がって額に手を当て、マハラたちの方を見る。
「マハラたちのところに行ってみよっか。一緒にやってみない?」
誘われ差し出されるジャンの手の上に、そっと自分の手をのせるシャーラン。
グイッ!と力強くジャンに引き寄せられる。
「僕、どちらかというと頭脳派なんだけど、けっこう運動系もいけるんだよね。」
ははっと笑うジャンに引かれ、マハラたちのところへ向かう。
「お、シャーランちゃん来た・・って、今度はお前かよーーー!!」
スカイが手を繋ぐ2人を見て、持っていたビーチボールをふざけて砂浜に勢いよく叩きつける。
「みんな、さり気なくほんと手が早いな~。」
ケイシは、スカイが投げて跳ね返ったビーチボールをキャッチし、腰に手をやり、やれやれといった様子で見る。
「いつまで手を繋いでんの。」
マハラは、手を繋ぐ2人の手をやや乱暴にほどき、
「何か変なことされたりしてない?」
と、ジャンとシャーランの間に立ち、シャーランに心配そうに聞く。
おいおいおいおい、と突っ込むジャンに背を向け、わざと無視するマハラ。だがその顔はふざけており、2人の仲の良さを感じさせる。
「よーし!じゃあみんなでやりましょう!シャーランさんはあっちチームで、ジャンはこっちで!」
タクが元気に声をかけ、それぞれ2面のコートに別れ、スカイ、マハラ、シャーランのチームとケイシ、タク、ジャンのチームで対決することとなった。
「シャーランちゃん、ビーチボールやったことある?ルールはね・・」
スカイが丁寧にシャーランに1つ1つ教える。
「・・てことで、以上なんだけど、あとは慣れてくしかないかな?」
フォローするから大丈夫だよ、とスカイが優しく笑う。
「うん、失敗しても大丈夫!」
マハラも親指を上に向け立てながら、元気に言う。
(できるかしら・・)
もともと、病弱ということで外出したことすら稀なシャーランは、スポーツなど体を動かす経験は全くと言っていいほどない。
「いくよー!」
タクがボールを手に持ち、サーブを打つ。
シャーランのために、優しくふんわりと打つ。
先ほどスカイが教えたようにシャーランは構え、ボールを受けたその瞬間、
体にビリビリと衝撃が走り、全身の筋肉が波打つ。
(い、痛い・・!)
ただ極一瞬の出来事で、ボールを腕で跳ね返した頃にはその症状はおさまっていた。
「おぉ!うまい!」
真ん中のネットをこえ、相手陣地に入るボールを見て、スカイとマハラは声をあげる。
「おぉー!とれる!」
タクがボールを受け、そのボールをケイシが少し強めにシャーランたち側へ送り返す。
マハラがうまくボールを受け、上にポーンと上げる。スカイは上にあがったボールを打とうと、膝を曲げジャンプの用意をする。
バシッ!
低い姿勢を保つスカイの上を、腕を振り上げジャンプするシャーラン。ボールが勢いよく相手の陣地に落ち、バウンドする。
ボールがきたらどう動くか、いや、どう動けばいいのか、体が勝手に反応し自然と動けた。
(え、私すごい動ける・・!)
「おぉーー!すごい!うまいねぇ!」
「マジで?!」
動揺するシャーランをよそに、ケイシとタクは驚きながらも笑顔で拍手し、シャーランはセンスあるね、と褒め、スカイ、マハラは腰に手を当て互いに顔を見合わせ、シャーランの思わぬ活躍に笑う。
「よし!今度は僕の番~!」
ジャンがボールを持ち、上に高く飛び跳ねる。
◇◇◇
しばらく遊んでいると、砂浜のコート周りに、観客がたくさんいることに気付くマハラ。
特に男性が多い。よく見ると、みんなシャーランを見ている。それもそのはず、シャーランがジャンプするたびに豊かな胸は上下に揺れ、短くはないにしろスカートがふわりとなびき、太ももが顕あらわになる。
「やめやめー。この辺で終わりにしよ!」
飛んできたボールを片手でキャッチし、マハラはみんなに撤収するよう手で合図する。
その足でシャーランの方へ向かい、肩を抱くと元いたビーチパラソルの下まで連れて行く。
観客は、面白くなさそうに立ち去っていく。
「あー!疲れたーー!」
ジャンが、ゴロンとシートの上に寝転ぶ。
「ジャン、ボール取り損なうからみんなに狙われてたもんなー。」
ジャンの横に座り、ケイシがポンポンとジャンの体をたたく。
「狙われすぎっすよ!こっちはカバーすんの、めっちゃくちゃ大変だったっすよ~マハラなんて、ほぼほぼジャン狙ってたし!」
お腹を抱え、大笑いしながらマハラを指さすタク。
「シャーランちゃんと手を繋いだりなんてするからー。」
スカイが、おでこの汗をタオルで拭きながら笑い、みなもつられて笑う。
シャーランは持っていたハンカチが風に吹かれ、シートの外へ転がり飛んでいく。
「あっ・・・」
慌てて追いかけるシャーラン。
「どうぞ。」
ハンカチを優しくつかみ、手渡す男性。
「ありがとうございます。・・あ!あのときの・・!」
シャーランは、拾ってくれた男性がトイレ前でぶつかった相手だと気付く。
「また会いましたね。お互い縁があるのかな。」
そう言って手を振り、爽やかに笑う男性は、一緒にきた友人たちであろう集団の方へと向かう。
シャーランは両手でハンカチを握りしめ戻ろうとすると、
「あっ、これ。良かったらどうぞ。俺の好きな飴。」
足を止め引き返したその男性は、シャーランに笑顔で飴を渡し、その後バイバイと手を振り走り去っていく。飴がたくさんつまった袋を、シャーランは両手でにぎりその男性の後ろ姿を見つめる。
「知り合い?」
マハラがいつの間にか横に立っていた。
「ううん、さっき、たまたまぶつかった人とまた会っただけだよ。」
シャーランはきびすをかえし、他の4人の所へ戻る。心配そうな様子で、シャーランの後に続くマハラ。
「さっきの人と知り合い?」
戻ってきたシャーランの顔を見上げ、ジャンが聞く。
「え、知り合い?」
スカイ、ケイシ、タクもシャーランをじっと見つめ口々に言う。
(もーー・・なんでもないのに、みんな知り合い知り合いって・・)
シャーランはシートの上に座ると、飴の袋をギュッと握る。
「私、知らない人から物をもらうのが苦手なの。なんだか、繋がりを持たされたような気がして。」
シャーランは先ほどもらった飴の袋を開け飴を取り出すと、マハラ、ジャン、スカイ、ケイシ、タクの順々に飴を口の中に入れる。
シャーランの急な行動に、顔を赤らめ照れる5人。
「これで、みんな同罪よね。」
悪戯いたずらっぽくニコッと笑うシャーランに、5人はますます顔が赤くなる。
砂浜近くのスピーカーから音楽が流れる。周囲の人々は、待ってたとばかりに各々自由に踊り出す。
それを見たジャンとタクも砂浜に走り出て、楽しそうに踊る。
マハラ、スカイ、ケイシも後に続き、フットワーク軽く楽しそうに踊る。
「おいでよ。」
シートに座って眺めているシャーランを、手招きして呼ぶ笑顔のマハラ。
「オレの足のマネしてみて」
優しい笑顔で踊るマハラの足は、音楽に合わせて軽々とステップをふむ。
シャーランはダンスなどしたことなかったが、なぜか一通り見ただけで覚えられ、マハラと向かい合い踊る。
6人は音楽に合わせて互いに近づいたり遠のいたり手を取りあったり、踊るうちにどんどん楽しくなり、踊りながら少しずつ移動していく。周りでもたくさんの人々が踊り、この活気はまるで最初に行ったお祭りのようだとシャーランは思った。
いつの間にか海の波打ち際ぎわまで来たシャーランの足に、時折ときおりパシャパシャと海水がかかる。濃い青色だった海は、だんだん日が落ちてきたことで、薄暗い色に変化して見える。
「あっ!!そこ危ないぞ!!」
隣で踊っていた中年の男性が、シャーランの足元を慌てて指さす。
ジクッ!急に片脚のふくらはぎに痛みがはしる。何かに刺されたかと見ようとした直後、ヒリヒリと焼けるような強烈な痛みが襲う。
「あぁ、、、痛いーーー、、」
波打ち際で、脚を抑えてうずくまるシャーランに、急いで駆け寄るマハラたち。
「だめだ!そこにとどまっちゃ。刺されるぞ!」
シャーランの近くにいた人が大声で言い、周辺で踊っていた人々は一斉に避難し始める。
マハラは急いでシャーランを抱え上げ、海から離れる。
そこには薄暗くなった海の中で、クラゲが波の動きに合わせて揺れていた。
クラゲに刺されたシャーランの脚は紐状に赤くひどく腫れ、シャーランは痛みで呼吸が乱れる。
「早く医者に!!」
どこからともなく聞こえた声に、シャーランを抱えたまま、5人は走り出す。
スカイが両手をあげ、気持ちよさそうに伸びる。Tシャツにハーフパンツと薄着だが、その顔からは汗が垂たれる。
日差しの強い季節になり、じっとしていても汗が出る。
「昨日まで雨だったけど、今日は晴れて良かったっすね!って、あちちち・・!」
タクは大きな口を開け、歯を見せ笑いながら足をバタつかせる。
「だから、サンダル履けって言っただろ~。」
太陽の熱を吸収した熱い砂浜を、裸足はだしで歩くタクに呆れた表情のケイシ。
「はは。楽しいなー!あ、シャーランさん、こっちの日陰の方おいでよ~!」
振り返り、後ろから歩いてくるシャーランに話しかけるジャン。
マハラが、白いワンピースのシャーランの隣を歩きながら、一緒に笑顔で話しているのが目に入る。
「いやいやいや、お前、今日はみんなでシャーランさんを楽しませよう、ってことで海に来たんだからさ、そういう2人きりでなんか盛り上がる、ってのはやめようぜ。」
ジャンはマハラの両目を見据え、マハラの両肩に手をのせる。
マハラは、分かったよ、といった風に渋々笑う。
「まーた、すぐ抜け駆けするんだよなー!こいつ。」
スカイがストレッチをしながら、呆れたように言う。
ケイシ、タクはシートとパラソルを広げ、全員がくつろげるようセットしている。
「あの、前から気になっていたのですが、呼びにくいので、私のこと、さん付けしなくていいですよ。」
シャーランからの突然の申し出に、みな手が止まる。
「ありがとう。じゃあ、シャー・・ラン!」
少し照れた笑顔でこたえるジャンと、笑う4人。
和やかに、和気藹々わきあいあいと、なんてことない会話ができることに、幸せを感じるシャーラン。
「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに・・。」
シャーランは立ち上がり、1人トイレのある方へと歩き出す。砂浜が足の下のサンダルにもまれ、ギュッギュッ、と音が鳴る。
故郷のマージナル国では外遊びは家族から禁止されていたため、体で感じるこうした感触の1つ1つが新鮮だった。
(お手洗いの場所は・・あそこね。)
シャーランが見上げ場所を確認し、砂浜にとられやすい足を上に引き上げる。
ドン!
誰かとぶつかり、後ろによろけるシャーラン。
「あ!ごめん!大丈夫?!」
半袖の柄シャツを着た、鼻の高い爽やかな雰囲気の男性が、シャーランの腕を慌てて掴み、シャーランが後方に転倒するのを防いだ。
「大丈夫です。私こそよく見ていなくてすみません。」
シャーランは顔の前で1、2回手を振り、問題ないことを伝える。
お互いに、ぺこりと頭を下げ別れる。
◇◇◇
大きいパラソルを立てた下で食事を終え、シャーランとジャンはくつろいだ様子で、シートの上に並んで座り遠くを見る。少し離れた先では、マハラ、スカイ、ケイシ、タクが楽しそうにビーチバレーをしている。
必死にボールを追いかけ何回も砂浜に突っ込むので、Tシャツを脱いでいるスカイ、タクの鍛えられた上半身に砂がたくさんついている。
「ははははは!」
砂浜に突っ込むケイシを見て笑うマハラの腕は、Tシャツが肩までまくられている。可愛らしい見た目からは想像できないほどに逞たくましい腕に目が奪われる。学園内でも、そのギャップで彼に惹かれる人も少なくない。
シャーランは、気がつくとマハラを目で追っていた。
そんなシャーランの様子を横で見つめるジャンは、ノースリーブのワンピースを着ているシャーランの肩をつつき話しかける。
「体調はもう大丈夫?マハラばっかり見られてると、やきもちやくな。」
優しい笑みでシャーランを見つめる。
何か言わなきゃ、と口をパクパクするが、言葉が出てこないシャーラン。徐々に顔が赤くなっていく。
「はは。ごめん、ごめん。別にいじめたいわけじゃなかったんだけど。君のことを見ているのはマハラだけじゃないよ、って伝えたかっただけ。」
ジャンは困ったように笑い、立ち上がって額に手を当て、マハラたちの方を見る。
「マハラたちのところに行ってみよっか。一緒にやってみない?」
誘われ差し出されるジャンの手の上に、そっと自分の手をのせるシャーラン。
グイッ!と力強くジャンに引き寄せられる。
「僕、どちらかというと頭脳派なんだけど、けっこう運動系もいけるんだよね。」
ははっと笑うジャンに引かれ、マハラたちのところへ向かう。
「お、シャーランちゃん来た・・って、今度はお前かよーーー!!」
スカイが手を繋ぐ2人を見て、持っていたビーチボールをふざけて砂浜に勢いよく叩きつける。
「みんな、さり気なくほんと手が早いな~。」
ケイシは、スカイが投げて跳ね返ったビーチボールをキャッチし、腰に手をやり、やれやれといった様子で見る。
「いつまで手を繋いでんの。」
マハラは、手を繋ぐ2人の手をやや乱暴にほどき、
「何か変なことされたりしてない?」
と、ジャンとシャーランの間に立ち、シャーランに心配そうに聞く。
おいおいおいおい、と突っ込むジャンに背を向け、わざと無視するマハラ。だがその顔はふざけており、2人の仲の良さを感じさせる。
「よーし!じゃあみんなでやりましょう!シャーランさんはあっちチームで、ジャンはこっちで!」
タクが元気に声をかけ、それぞれ2面のコートに別れ、スカイ、マハラ、シャーランのチームとケイシ、タク、ジャンのチームで対決することとなった。
「シャーランちゃん、ビーチボールやったことある?ルールはね・・」
スカイが丁寧にシャーランに1つ1つ教える。
「・・てことで、以上なんだけど、あとは慣れてくしかないかな?」
フォローするから大丈夫だよ、とスカイが優しく笑う。
「うん、失敗しても大丈夫!」
マハラも親指を上に向け立てながら、元気に言う。
(できるかしら・・)
もともと、病弱ということで外出したことすら稀なシャーランは、スポーツなど体を動かす経験は全くと言っていいほどない。
「いくよー!」
タクがボールを手に持ち、サーブを打つ。
シャーランのために、優しくふんわりと打つ。
先ほどスカイが教えたようにシャーランは構え、ボールを受けたその瞬間、
体にビリビリと衝撃が走り、全身の筋肉が波打つ。
(い、痛い・・!)
ただ極一瞬の出来事で、ボールを腕で跳ね返した頃にはその症状はおさまっていた。
「おぉ!うまい!」
真ん中のネットをこえ、相手陣地に入るボールを見て、スカイとマハラは声をあげる。
「おぉー!とれる!」
タクがボールを受け、そのボールをケイシが少し強めにシャーランたち側へ送り返す。
マハラがうまくボールを受け、上にポーンと上げる。スカイは上にあがったボールを打とうと、膝を曲げジャンプの用意をする。
バシッ!
低い姿勢を保つスカイの上を、腕を振り上げジャンプするシャーラン。ボールが勢いよく相手の陣地に落ち、バウンドする。
ボールがきたらどう動くか、いや、どう動けばいいのか、体が勝手に反応し自然と動けた。
(え、私すごい動ける・・!)
「おぉーー!すごい!うまいねぇ!」
「マジで?!」
動揺するシャーランをよそに、ケイシとタクは驚きながらも笑顔で拍手し、シャーランはセンスあるね、と褒め、スカイ、マハラは腰に手を当て互いに顔を見合わせ、シャーランの思わぬ活躍に笑う。
「よし!今度は僕の番~!」
ジャンがボールを持ち、上に高く飛び跳ねる。
◇◇◇
しばらく遊んでいると、砂浜のコート周りに、観客がたくさんいることに気付くマハラ。
特に男性が多い。よく見ると、みんなシャーランを見ている。それもそのはず、シャーランがジャンプするたびに豊かな胸は上下に揺れ、短くはないにしろスカートがふわりとなびき、太ももが顕あらわになる。
「やめやめー。この辺で終わりにしよ!」
飛んできたボールを片手でキャッチし、マハラはみんなに撤収するよう手で合図する。
その足でシャーランの方へ向かい、肩を抱くと元いたビーチパラソルの下まで連れて行く。
観客は、面白くなさそうに立ち去っていく。
「あー!疲れたーー!」
ジャンが、ゴロンとシートの上に寝転ぶ。
「ジャン、ボール取り損なうからみんなに狙われてたもんなー。」
ジャンの横に座り、ケイシがポンポンとジャンの体をたたく。
「狙われすぎっすよ!こっちはカバーすんの、めっちゃくちゃ大変だったっすよ~マハラなんて、ほぼほぼジャン狙ってたし!」
お腹を抱え、大笑いしながらマハラを指さすタク。
「シャーランちゃんと手を繋いだりなんてするからー。」
スカイが、おでこの汗をタオルで拭きながら笑い、みなもつられて笑う。
シャーランは持っていたハンカチが風に吹かれ、シートの外へ転がり飛んでいく。
「あっ・・・」
慌てて追いかけるシャーラン。
「どうぞ。」
ハンカチを優しくつかみ、手渡す男性。
「ありがとうございます。・・あ!あのときの・・!」
シャーランは、拾ってくれた男性がトイレ前でぶつかった相手だと気付く。
「また会いましたね。お互い縁があるのかな。」
そう言って手を振り、爽やかに笑う男性は、一緒にきた友人たちであろう集団の方へと向かう。
シャーランは両手でハンカチを握りしめ戻ろうとすると、
「あっ、これ。良かったらどうぞ。俺の好きな飴。」
足を止め引き返したその男性は、シャーランに笑顔で飴を渡し、その後バイバイと手を振り走り去っていく。飴がたくさんつまった袋を、シャーランは両手でにぎりその男性の後ろ姿を見つめる。
「知り合い?」
マハラがいつの間にか横に立っていた。
「ううん、さっき、たまたまぶつかった人とまた会っただけだよ。」
シャーランはきびすをかえし、他の4人の所へ戻る。心配そうな様子で、シャーランの後に続くマハラ。
「さっきの人と知り合い?」
戻ってきたシャーランの顔を見上げ、ジャンが聞く。
「え、知り合い?」
スカイ、ケイシ、タクもシャーランをじっと見つめ口々に言う。
(もーー・・なんでもないのに、みんな知り合い知り合いって・・)
シャーランはシートの上に座ると、飴の袋をギュッと握る。
「私、知らない人から物をもらうのが苦手なの。なんだか、繋がりを持たされたような気がして。」
シャーランは先ほどもらった飴の袋を開け飴を取り出すと、マハラ、ジャン、スカイ、ケイシ、タクの順々に飴を口の中に入れる。
シャーランの急な行動に、顔を赤らめ照れる5人。
「これで、みんな同罪よね。」
悪戯いたずらっぽくニコッと笑うシャーランに、5人はますます顔が赤くなる。
砂浜近くのスピーカーから音楽が流れる。周囲の人々は、待ってたとばかりに各々自由に踊り出す。
それを見たジャンとタクも砂浜に走り出て、楽しそうに踊る。
マハラ、スカイ、ケイシも後に続き、フットワーク軽く楽しそうに踊る。
「おいでよ。」
シートに座って眺めているシャーランを、手招きして呼ぶ笑顔のマハラ。
「オレの足のマネしてみて」
優しい笑顔で踊るマハラの足は、音楽に合わせて軽々とステップをふむ。
シャーランはダンスなどしたことなかったが、なぜか一通り見ただけで覚えられ、マハラと向かい合い踊る。
6人は音楽に合わせて互いに近づいたり遠のいたり手を取りあったり、踊るうちにどんどん楽しくなり、踊りながら少しずつ移動していく。周りでもたくさんの人々が踊り、この活気はまるで最初に行ったお祭りのようだとシャーランは思った。
いつの間にか海の波打ち際ぎわまで来たシャーランの足に、時折ときおりパシャパシャと海水がかかる。濃い青色だった海は、だんだん日が落ちてきたことで、薄暗い色に変化して見える。
「あっ!!そこ危ないぞ!!」
隣で踊っていた中年の男性が、シャーランの足元を慌てて指さす。
ジクッ!急に片脚のふくらはぎに痛みがはしる。何かに刺されたかと見ようとした直後、ヒリヒリと焼けるような強烈な痛みが襲う。
「あぁ、、、痛いーーー、、」
波打ち際で、脚を抑えてうずくまるシャーランに、急いで駆け寄るマハラたち。
「だめだ!そこにとどまっちゃ。刺されるぞ!」
シャーランの近くにいた人が大声で言い、周辺で踊っていた人々は一斉に避難し始める。
マハラは急いでシャーランを抱え上げ、海から離れる。
そこには薄暗くなった海の中で、クラゲが波の動きに合わせて揺れていた。
クラゲに刺されたシャーランの脚は紐状に赤くひどく腫れ、シャーランは痛みで呼吸が乱れる。
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