誰も助けてくれないのだから

めんだCoda

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第8話 シャーランの身分 ②

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 コンコン・・

 マハラはドアを軽くたたくが、応答がない。

「ドア分厚いから、そんなんじゃ聞こえねーんじゃねーの?」
 いつも大きな声で話すスカイが、珍しく小さい声で話す。

「いや、それより今授業ある時間だから。もしかすると、授業に行っていていないのかも。」
 ジャンもコソコソと、ほとんど息の声で話す。

「そもそもここにいるかどうか、わかんないっすよ。」
 タクは、みなの顔を見て肩をすくめる。

「そしたら、隣のドアに行ってみる?」
 ケイシが、向こうにあるドアを指さす。

 ここにいる全員が緊張で顔がこわばり、焦る気持ちだけが募る。
 このドアの向こうにシャーランがいるかどうかも分からないこの状況に、自分たちはいったい何をしているんだ、とよく分からない感情がうずまく。

「・・・もう一度だけ、やってみる。」
 マハラは手をぎゅっと握り、先ほどよりは少し強めにもう一度ドアを叩く。

 シーーーン

 ここじゃなかったか、とマハラが諦めたそのとき、

「どなたですか?」

 中から声がした。
 聞き覚えのある優しい声に、マハラは焦りと緊張で声が大きくなる。

「オレです、マハラです!シャーランさん、大丈夫ですか?!」
 ジャンとスカイが静かにしろ、とマハラの肩に手を置き落ち着かせようとするが、マハラは構わず再度ドアを叩く。

 ギーーー

 重い音と共にドアが開き、そのドアすぐ隣にはシャーランが立っていた。
 ネグリジェの上に1枚羽織った姿に、マハラたちは慌てて視線を逸そらす。

「すみません、突然押しかけて。迷惑だったら帰ります・・ので・・。」
 マハラは帰りたい気持ちなど微塵もなかったが、さすがに女性の部屋を、しかも教えてもらったわけでもなく無断で訪問したことに後ろめたさがあり、つい建前の言葉が口を出た。

(帰ってくださいと言われるかもしれない・・)

 マハラは逸そらした目をギュッと結び、勢いできてしまったことを後悔したが、これでまた会えなくなってしまったら、との思いが頭を横切り、顔をあげシャーランの目を見据える。

「オレ、心配してました。あのとき、倒れたシャーランさんに何もできなくてすみませんでした。具合はどうですか。どこか怪我していませんか?」

 自分でも何を言ってるんだろうと思ったが、自分の気持ちを少しでも伝えたい思いにかられ早口になる。

 無言でマハラを見つめるシャーランだったが、
「ここで話さないで、中にお入りになりませんか?」
 と、マハラたちを促す。

 思いもよらないシャーランの言葉に、安心するマハラ。

「失礼しますーー」
 マハラたちは軽く頭を下げて、順々に部屋に入る。
 部屋の中は外からでは予想だにできないほど広く、壁、天井には装飾が施されており、この部屋では数十人が集まり小さいダンスパーティでもできそうなくらいだった。

 ただ、シャーランの部屋はそのただっ広ぴろい部屋に大きいベッドがポツンと1つ、脇にソファと衣装ダンスが置かれているのみで、他にとりわけ目立ったものはなく、この豪華な部屋に反して寂しい印象を受けた。

「ここに座ってください。」
 シャーランに言われベッド脇にあるソファに座るマハラ、ジャン、スカイ、ケイシ、タク。
 あまり大きくはないソファは5人が座るといっぱいで、シャーランはベッドに腰掛ける。

「飲み物も何も出さず、すみません。」
 シャーランは両手をギュッと握り、憂うれいのある表情で肩をすくめる。

 マハラは、シャーランが動くたび、話すたびに胸がドキドキし目が離せなかった。久しぶりに会えて嬉しい気持ちと、シャーランの部屋にいるという高揚感で落ち着かなかった。

 それはマハラだけでなく、ジャンとスカイも落ち着かない様子でキョロキョロ辺りを見回し、シャーランを直視できないでいた。
 
「やっぱり綺麗な人っすね。」
 シャーランをまっすぐに見て、唐突に言いだすタク。

「おま、なに言ってんだよ、急に。」
 ケイシはなぜか照れて恥ずかしそうに笑ってタクを叩き、デレデレとしているタクと目が合うと、気持ちは分かる、と互いにニヤけてしまった。

「あの、よくここに私がいると分かりましたね。ここに人が来ることは滅多にないので、最初ノックされたとき正直怖くて・・すぐに出られなくて、ごめんなさい。」

「いえ、オレらが勝手に押しかけてきて、こっちこそ、ごめんなさい。怖い思いもさせてごめんね。」
 マハラは顔の前で両手を交差させて振ったあと、手を合わせて謝る。

「いえいえ、倒れた後にすぐ私はこの部屋に運ばれて、あれからずっとこの部屋に1人でいたので、驚いただけです。」

「ここでシャーランさんと会えるかは賭けみたいな、会えるかわからないけど、一か八かで探してました。オレはどうしても会いたかったから。」

 マハラの突然の告白に、ジャン、スカイ、ケイシ、タクはふぅ~!!と囃はやし立てる。

 タクは、照れた可愛い笑顔のマハラをニヤニヤ見ながら肘こづいた後、シャーランへ笑みを向ける。

「この部屋の存在を知っていたのは、おれです。飛び級で入園するときに、ここらの部屋を学園から紹介されました。けど、おれは他の人たちと一緒に生活したかったんで、断っちゃって。まぁ、正直、あんなに寮部屋が狭いとは思わなかったんすけど。なんかくさいし、うるさいし、やっぱこっちにすれば良かったかな~」

 ニヤッと笑うタクの首にケイシが腕をまわし、羽交締めにして戯じゃれる。

「シャーランさんは、どうしてこの部屋を使用してるんすか?ここって、普通の人は使えないっすよね?」
 タクはケイシの腕をポンポンと叩き、離すよう伝える。

「普通って・・だからそういう言い方が、、そういうところだぞ!」
 スカイがタクを、たしなめる。

「いえ、いいんです。別に隠してるつもりもありませんので。私は、ここセントラル国の隣に位置する、マージナル国のマージ公爵家の出身です。」

「え、あのマージ公爵?!」
 ジャンは驚き、ソファに預けていた背中を勢いよく起こす。目を丸くし4人を見るが、4人はポカンとした表情だ。

「この前、歴史の授業でも出てきただろ。何千年も前から続く、歴史のある由緒正しい貴族だよ。」
 ジャンは信じられないという風に、首を左右にふる。

「マージ家は、セントラル国の王族と交流があるので、私はここでは特別な待遇を受けているのだと思います。」

 話の途中でみなから視線を外し、横を向き自分の座っているベッドシーツを見つめるシャーランの表情は、どこか冷たさを感じさせ、その目の奥には孤独が漂っているかのようだった。

(きっとこれでみんな私と距離をとるわね・・)

 マージナル国にいたときは、記憶喪失のシャーランは体が病弱だと家族が言うため、ほとんど邸宅ていたくから出たことがなかった。それでも行事の際には、短時間ではあるが兄に連れられ外に出て参加していた。
 たくさんの令嬢、令息が集まるその場で、シャーランは親しくなろうと場内にいる人たちへ自ら話しかけるが、形式的な挨拶程度でシャーランを避けるかのように、そそくさとみな移動した。
 マージナル国ではマージ公爵が絶大な権力をもっており、下手なことをしてマージ公爵家の怒りに触れては困ると、警戒していたのかもしれないが真相はわからない。
 唯一の社交場であった行事も、シャーランは誰とも話さず1人淋しく立ちつくすのが嫌で、だんだんと参加しなくなっていた。

 そのため、今回のことでみなもまた、私を避けるようになるだろう、とシャーランは初めから諦めていた。
 シャーランは、みなを見るのが怖く、ゆっくりと視線を上げる。すると、シャーランを見つめるマハラと目が合った。
 目が合った瞬間、いつもの笑顔を見せるマハラ。マハラの笑顔は、人を安心させる包容力と優しさを感じる。思わず、つられてはにかむシャーラン。
 マハラの笑顔が、先ほどまであった不安を取り除いていき、緊張がほぐれていく。

(胸の奥があたたかいわ・・こんな感じ初めて・・)

 シャーランは胸を手に当て、手をぎゅっと握りしめる。

 見つめ合う、マハラとシャーラン。

「コホン」
 俯うつむきニヤニヤしながら、ジャンが軽く咳払いする。

「そろそろ帰ろう。シャーランさん、休んでいたところ邪魔してごめんね。ありがとう。」
 ジャンが、スカイやケイシの背中を叩き、早くソファから立つよう促す。
 ソファは男5人が座るには少し狭かったからか、立ち上がり伸びをして順々にドアへ歩き出す。

 マハラは、ジャン、スカイ、ケイシ、タクの全員が出たあと、名残惜しそうに最後にドアから出る。

「・・待って!」
 シャーランが、マハラの腕をつかむ。
 驚くマハラを、見上げるシャーラン。

「心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫だから。ここまで尋ねてきてくれて、本当にありがとう。」

 帰ってしまう前に自分の気持ちを伝えようとしたことで、思わず早口になってしまい、恥ずかしさのあまり自分の顔があつくなっていくのを感じるシャーラン。
 そんなシャーランの様子に、微笑むマハラ。

「・・明日も、また学園で会ったら話してくれる・・?」

(断られるかもしれない・・)
 緊張で顔がこわばるシャーラン。

「もちろん!良ければ、今度一緒に遊びに行こう。」
 腕を掴むシャーランの手を優しくほどき、シャーランの両手を握るマハラ。

 小さくうなずき笑うシャーランの目は、涙でうるむ。

「いくぞ。」
 ジャンに肩をたたかれ、シャーランの手を離すマハラ。

「またね。」

 マハラ、ジャン、スカイ、ケイシ、タクがシャーランに手を振る。

 寂しそうに笑うシャーランの顔は、重い音をたてて閉まるドアとともに、やがて見えなくなった。
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