誰も助けてくれないのだから

めんだCoda

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第19話 監視

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「私が出よう」

 マハラ達は皆、身動き一つせず、その中アイフォールがドアへ向かい取手に手をかけるとゆっくりと開ける。
 そこに立っていたのは、アイフォールと同じマントを着た、肩までの真っ直ぐな金髪に鋭い目をした女性だった。

「リリー」

 アイフォールは低い声でゆっくりとその女性の名を呼ぶと、ギョロリとした目つきで彼女の顔を見下ろす。
 そんなアイフォールの様子に怯ひるむことなく、リリーは話し出す。

「アイフォール様、ここで何をしておられるのですか」

 リリーはまるで、機械のように抑揚のない声で簡潔に喋しゃべる。

「こちらで急患が出たと聞いてな。急遽ここに診にきただけだ。・・よくここに私がいるのが分かったな」

 アイフォールが、ジロリとリリーを見下ろす。

「中からアイフォール様の大きな声が聞こえましたので、何か問題でも起きたのかと」

 中の様子を見ようと目線を動かすリリー。アイフォールはドアの前で体を大きくさせ、寮部屋の中の様子が見えないようにする。
 リリーは冷たい目でアイフォールを見つめ返す。

「その患者はもういいのですか」

「治療は終えた、問題ない」

 アイフォールとリリーはお互いの思惑を探るように見合うと、リリーが先に視線を外し一歩後ろに下がる。

「承知しました」

 リリーは、片手で茶色の四角い鞄かばんを持ち、あいているもう片方の手を後ろに回し、両足の踵かかとをトンッとくつけ敬礼のように姿勢を正す。

 アイフォールはドアから動かず顔はリリーの方に向けたまま、自分の背後にいるマハラやシャーラン達に向かって話し出す。

「部屋の者達、すまぬが私はこのまま他の患者のところへ向かう。そこに置いてある、茶色の四角い鞄を取ってくれないかね?」

 マハラはシャーランをジャンに託し、アイフォールの茶色の四角い鞄を取り、背中を向けてドアのところに立つアイフォールの足元にそっと置く。
 膝を曲げるのを最低限にし腕を伸ばし、その鞄を取るアイフォールは寮部屋の中をリリーに絶対に見せまいとる絶対な意志を感じる。リリーはそんなアイフォールを、氷のような冷たい目で瞬きせず見つめる。

「行くぞ、リリー」

 アイフォールはリリーに先に行くよう顎で示し、リリーが廊下を進み部屋のドアから離れた場所でアイフォールを待つ。

 シャーラン達のいる寮部屋の方に、顔を少しだけ振り向かせるアイフォール。

「神のご加護があらんことを」

 ほんの少し頭を下げそう言ったアイフォールの声は、先ほどまで聞いていた声とは違い情深かった。
 ドアを閉め、去っていくアイフォール。閉まるドアからマントがスルリと消えゆく様子を、皆は一言も話さずただ見ていた。


 ◇◇◇

 マハラ達のいた寮部屋を去り、リリーの指示する次の患者部屋へと向かうアイフォール。
 既に夜中だからだろうか、それとも先ほどマハラ達とリハクへの思いについて思い切り話したからだろうか、静けさをマントから出ている肌で感じる。

「リリー。聞きたいことがあるが」

 自分の数歩後ろを歩くリリーに、前を向いたまま話しかけるアイフォール。

「はい」

 機械的に返事をするリリー。

「君はこの学園に派遣されたときに、私を監視するよう誰かに命ぜられたのか」

 リリーは前を歩くアイフォールへ視線をやる。

「・・いえ、アイフォール様と同じく、ただ医師として働きにきただけです」

「--そうか」

 アイフォールはリリーの方を振り向くことなく歩み進める。


 ◇◇◇

 寮部屋ではアイフォールが去ったあと、皆一斉に息を吐き動き出した。

「はぁーー。びびった~。」

 ケイシとスカイがヘナヘナと座り込んだあと、長い手足をカーペットの上に放り出す。

「あの尋ねてきたリリーって人はアイフォールさんと同じマントを着てたし、王国専属医師っぽいすね」

 タクは、マントのフードを被る仕草をする。

「でもアイフォールさんとあのリリーって人、なんかピリピリしてたなー。リリーって人に僕らが見られてないといいけど。・・特にシャーラン」

 ジャンは、そばに立つシャーランに視線をやりながら話すと、シャーランは不安そうな顔でジャンの顔を見る。

「そうだね、セントラル王族はシャーランをなぜか特別視しているようだし、王族関係者にはシャーランを近づけない方が良さそうだな」

 ルイはベッドの柱に寄りかかり、皆の顔を見回す。

「あのさ、アイフォールが言ってたシャーランを見張っている学園側の人のことだけどさ、オレ気になってる人ならいる」

「あ、誰だよ?」

 ドアから離れ部屋の中央に来るマハラに、スカイは首を傾け聞く。

「砂浜にオレらで遊びに行ったときに、シャーランに飴をくれた人いただろ。会ったのはその日2回目だってシャーラン言ってたし、なんかあやしいだろ」

「あー、あの鼻の高い爽やかな感じの人か。でも監視してるって人が、そんなわざわざ記憶に残るようなことするか?飴くれたし、逆に好意的だったじゃねーか」

「そんなん、わかんねーじゃん。じゃあスカイは誰がシャーランの監視してるか、分かるのかよ」

「まぁまぁまぁまぁ」

 マハラとスカイが喧嘩しそうになるのを、止めに入るケイシ。

「誰がシャーランを監視しているのかは、僕らに分かるわけがないよ。それに分かったところで王族と学園側の取り決めをどうにもできない、だろ?」

 マハラとスカイ、そしてその2人をなだめるケイシの3人を見ながら、ジャンは説明口調で話し説き伏せようとする。

 それまでずっと黙っていたシャーランは、両手を胸の前で組むと、自分の足元より少し先のカーペットをぼんやり見ながら小さい声で話し出す。

「記憶喪失の前は分からないけれど、私はセントラル王族の方とお会いしたことはないし、恥ずかしいことですが、顔も存じておりませんの・・それなのにどうしてあちらは私を監視するのかしら・・それに、アイフォール様の話から、リハク様は私のせいで殺された・・のね」

 声を詰まらせるシャーラン。
 マハラ、スカイ、ケイシ、タク、ルイは、鎮痛な思いでシャーランの話を聞く。
 ジャンは、リハクの、今後もシャーランと一緒にいたいならば気をつけろ、という言葉を思い返しながらシャーランの手をそっと握る。
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