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第20話 武術
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休園期間も終わり、授業も再会された頃には人々の頭からリハクの死の記憶が薄れかけ、学園内にも活気が戻っていた。
今日から武術の授業がやっと開始されるとあり、人々の間では緊張とワクワクとが入り混じった少々興奮状態であった。
武術の授業が行われる学園外へ向かうために、出口へ向かい廊下を歩いていくシャーラン。
この頃にはすれ違う人々が、自分に見惚とれて顔をとろんとさせるのにはもう慣れ、周りを気にせずスタスタと歩いて行く。
少し先に、壁に片足をかけ寄りかかり、こちらを見るマハラがいることに気付いた。シャーランは、マハラに向かって眉毛をあげ目を大きく開き、無言で何をしてるの?と問いかけた。
「シャーランを待ってた。一緒に行こう」
ニコッと子犬のような笑顔を見せるマハラに、シャーランはドキドキし顔が赤くなり、サッと顔を背そむける。
アイフォールと話したあの日以降、シャーランは気持ちが塞ふさぎ気味となり、マハラ達を避けるように自室にこもったり、学園の図書室で1人で勉強するなどし過ごしていた。そのため、マハラに会うのは久しぶりでなんだか緊張する。
「しばらく会わなかったね、元気だった・・?」
自分の歩幅に合わせて歩いてくれるマハラの気遣いと優しさに、胸がキュッと締め付けられる。
「ごめんなさい、会いたくなかったわけじゃないんだけれど、・・ただ・・その・・」
(私と一緒にいることで王族に目をつけられるかもしれない・・巻き込んでリハクみたいに殺されてしまったら、って考えると怖くて不安だなんて・・きっと言ったら余計に心配かけてしまうわ・・)
実際、塞ぎ込んでいた日々に1人で行動した際、アイフォールの話を聞いたせいか、背後から視線を感じたり誰か近くにいるような気配を感じることがあった。
言葉に詰まり、表情が曇って伏目ふしめがちになるシャーランをずっと見つめるマハラ。
「大丈夫だよ。いろいろ考えるよな」
小さく頷うなずくと優しくシャーランに笑いかけ、シャーランの手を取り優しくにぎる。
「あっ」
突然のことに、赤面し動揺するシャーラン。シャーランが顔を上げると、少し恥ずかしそうに笑うマハラはまるで少年のようで、この今一瞬だけは他とは時間の流れが違うかのように全てがゆっくりに思えた。
マハラとシャーランは恥ずかしさのあまりお互いにしばらく無言で歩き、ときどき顔を見合わせては、ふふと笑い合う。
マハラは階段を降りる途中、踊り場で立ち止まり片隅かたすみによると、シャーランを引き寄せて見つめる。
「もう少しでリハクの件があった出口だ。オレが先を歩くから、怖かったら見えないようにオレの服とかに顔をうずめてていいよ」
心配そうに見つめてくるマハラの優しさに、ときめきドキドキするシャーラン。
リハクのことを思い出すとまだ胸が痛むのに、今はこの甘い時間を愛しく思う自分に矛盾を感じつつ、マハラとの時間に欲が勝つ。
「背中にくっついていてもいい・・?あと、手は離さないで欲しい・・」
恥ずかしそうな顔でマハラを見上げるシャーラン。上品な顔での上目遣いにぽってりとした唇から出てくる甘い言葉は、これ以上ないほどに美しくそれでいて儚はかなげで、マハラは今すぐ抱きしめ自分のものにしたくなる沸き上がる欲情を抑え、なんとか自制心を保った。
「じゃあ、行こう」
シャーランの手をギュッと握り、前を向き歩き出す。階段を降りきり、あと数メートルで出口というところで、
「おーい。おれたちは除のけ者ですか」
口を一文字に結び、目をわざと細めこちらを見るケイシに声をかけられる。
出口前の壁には、スカイ、ジャン、タク、ルイの全員がいて手を繋ぐマハラとシャーランに気が付くと、皆一斉にマハラに飛びかかり取り囲む。
「おまえーオレらだってシャーランちゃん気にかけてたんだぞ!」
「見事に抜けがけしたっすねー」
「さすがにこれはないな」
「勝手にそういうことしていいと思ってんの」
困っているシャーランをよそに、マハラにゴニョゴニョと話す5人。
シャーランは学園のグラウンドに向かう人々の格好が、皆同じ服装なことに気づく。辺りをキョロキョロと見回すと、学園の出口近くに掲示が出ていた。近くによって確認する。
「あのっ、急いで行ったほうがよさそうです」
振り向いたマハラたちは、シャーランが指差している掲示に目をやる。
「ここに武術は着替え必須で、別部屋に用意してある武術着に着替えてから集合とありますので・・」
「うわっ、時間やばいじゃん、急ごう!」
いつもの服装で来ている7人は、慌てて着替えに向かう。
◇◇◇
授業を受ける総勢30名ほどが着替えてグラウンドで待機していると、急に目の前の地面が暗くなった。慌てて皆が背後を振り返り見上げると、まるで山のような大男が立っていた。筋肉隆々で背が高く、着ている服から出ている盛り上がっている腕や脚には多くの傷跡がある。顔を見ようとするも、逆光になってよく見えない。
「これから武術の授業を始める。私の名はガオガイだ。まさか私が来るまで何もせず、突っ立って待っていたわけではないだろうな?体をほぐすなど、基本的なことは済んでいるだろうな」
普通に話しているのだろうが、グラウンド中に響き渡るほどに大きく威圧感のある声に、皆萎縮し慌ててストレッチを始める。シャーランはマハラと組みになって体を伸ばしている最中に、チラリと武術の先生の顔を見る。立派な口髭の中に見える口をギュッと一文字に結び、目はぎょろっとし、憤怒ふんぬしているような顔で腕を組み立っているその姿は恐ろしかった。こっそりと見ていたシャーランは、そのぎょろりとした目と視線が合った途端、慌ててそらしうつむく。
「次回からは、ストレッチは事前に行っておくように。それでは始める。真剣を持てると期待していた者もいるだろうが、まずは木刀での練習からだ。各々1本ずつ持ち、素振りを始めろ」
シャーランは木刀を持ち、1人で黙々と素振りを始める。ガオガイが練習する人々の周りをゆっくり見てまわっていることもあってか、手を抜く者はおらず皆、必死に木刀を振り下ろす。
素振りをある程度終えたところで、ガオガイが次の指示を出した。
「よーし、素振りは一旦終わりだ。次はペアを組み模擬練習だ。木刀を真剣だと思い戦ってみろ」
シャーランは誰と組もうとキョロキョロしていたところ、近くにいたルイに腕を引っ張られる。
「シャーランこっちに来なよ、俺と組もう」
シャーランのことを心配して不安げに辺りを見渡すマハラとジャンが人々の隙間から見え、シャーランはルイと組むよとジェスチャーで伝える。
他の人と重ならない場所にルイと行くと、ルイはふぅとため息をつく。
「初日からいきなり模擬練習だなんて、ずいぶん急いだカリキュラムだな。木刀持った経験なんてない人がほとんどだろうし、怪我する人もたくさん出るだろうな。俺は真剣での練習もしたことあるしこの中では慣れてる方だからさ、シャーランのテンポに付き合う。俺と一緒にゆっくりやろう」
慣れた手つきで木刀を素振りして見せ、優しい笑みをシャーランに見せるルイ。
「ありがとう。ルイは優しいのね」
シャーランがルイの気遣いに感謝し笑顔を向けると、顔を真っ赤にし照れ隠しのようにサッと横を向くルイ。
ルイの思わぬ反応に、シャーランは驚きどうしようかと顔が熱くなっていく。
「よし全員ペアになったな。はじめーっ!」
ガオガイの掛け声と共に、全員見よう見まねで相手と打ち合う。
「俺たちもやろうか。まずは俺は受けるだけにするから、シャーランはやりたいように攻めてみて」
ルイが軽く咳払いし、木刀を構え頷うなずき、シャーランに合図を送る。
シャーランも木刀を構えると、ルイの持つ木刀の真ん中あたりに軽く当てる。
「いいよ、上手だ。まずは俺の木刀に正確に当てる練習をしよう。そう、いいよ」
ルイはシャーランを褒めながら、木刀の扱いを教えていく。
打つことになれてきた頃に、もう一度ルイの持つ木刀に向かって振り下ろそうとした瞬間、また体が電気が走ったようにビリビリと痺れ、グッと全身の筋肉に力が入り、その反動で思わず木刀をすごい速度で振り下ろす。
バーン!!!
という音と共に、ルイの木刀が手から吹き飛び落ちる。
あまりのすごい音に何事かと、皆こちらの様子を伺う。
「なんでもないよ、大丈夫だ」
そう言ってルイは皆に笑顔を向け安心させ、しゃがんで落ちた木刀を拾う。
「ごめんなさい!!私、急にまた・・」
慌てて近寄り頭を下げて謝るシャーランは、ルイが自分の片方の手のひらを見つめていることに気づく。その手のひらは真っ赤で、皮がただれ何ヶ所もむけていた。
「ルイ・・わたし・・わたし・・」
自分のしでかしたことに恐れ慄おののくシャーランは顔を青くし、ルイからじりじりと後退あとずさりをする。離れていこうとするシャーランの手を、比較的赤くなってないもう片方の手でつかむと、シャーランを見つめながらゆっくりと首を振る。
「ここにいて。俺は大丈夫」
自分のしたことに怯え震えるシャーランをつかまえながらも、ルイは手の痛みに耐えしゃがみ動けずにいた。比較的近くにいたマハラとジャンが、ルイの異変に気が付き近寄ってくる。
「ルイ、どうした」
マハラがルイの背中に手を回すと、しゃがんで隠すようにしているルイの手に気づき、ジャンと視線を合わせ近付き見る。
「おい、これっ・・酷いな、すぐ手当しないと」
ジャンは顔を歪ゆがめると、先生であるガオガイを呼ぼうと周囲を見渡すが姿がない。
「先生ならさっきあっちで数人怪我人が出て、まとめて医務室に連れて行った」
スカイが木刀をかつぎ、マハラとジャンとは違う方向から近づいてくる。
「怪我人か、俺の言ったとおりだ。こんな急に無茶だ」
ルイが手の痛みに顔を歪めながら立ち上がり、青ざめたままのシャーランを見る。
「シャーラン、俺のことは気にする必要ないよ。医務室に行ってくるからちょっと待ってて。戻ったら再開しよう」
付き添うというジャンと共に、学園の方へと向かうルイの背中を泣きそうな顔で見るシャーラン。
「私・・またなの、やろうとしたわけではないのに、勝手に力が出るの」
「オレらと砂浜で遊んでいたときも、そうだったよな。シャーランちゃん、病弱で外に出たことないにしては、なんていうか・・」
「凶暴だよな」
スカイの後ろから話を遮りニヤニヤして近付いて来た青年は、同じ学年のシジマだ。スカイやマハラとはタイプが違い接点は無かったが、大柄な体と乱暴さで有名だった。
「シジマなんだよ。お前には関係ないだろ」
シャーランに近づこうとするシジマの前に立ちはだかるスカイ。同じ背丈の2人は互いに睨み合い、一歩も譲らない。
「オレは見てたんだぜ。このシャーランて女が、あの公爵坊ちゃんを一発で倒すところ。でもな、あれは人間技じゃないぜ、なにしろ動くところが見えなかったんだからな」
ガハハハと笑い、太い指でシャーランを指さすと不敵に笑う。
マハラは自分の後ろにシャーランをやると、険けわしい目つきでシジマを見る。
「オレは強いやつが好きなんだ。おいシャーラン、あんたオレとこの木刀で一発やろうぜ」
今日から武術の授業がやっと開始されるとあり、人々の間では緊張とワクワクとが入り混じった少々興奮状態であった。
武術の授業が行われる学園外へ向かうために、出口へ向かい廊下を歩いていくシャーラン。
この頃にはすれ違う人々が、自分に見惚とれて顔をとろんとさせるのにはもう慣れ、周りを気にせずスタスタと歩いて行く。
少し先に、壁に片足をかけ寄りかかり、こちらを見るマハラがいることに気付いた。シャーランは、マハラに向かって眉毛をあげ目を大きく開き、無言で何をしてるの?と問いかけた。
「シャーランを待ってた。一緒に行こう」
ニコッと子犬のような笑顔を見せるマハラに、シャーランはドキドキし顔が赤くなり、サッと顔を背そむける。
アイフォールと話したあの日以降、シャーランは気持ちが塞ふさぎ気味となり、マハラ達を避けるように自室にこもったり、学園の図書室で1人で勉強するなどし過ごしていた。そのため、マハラに会うのは久しぶりでなんだか緊張する。
「しばらく会わなかったね、元気だった・・?」
自分の歩幅に合わせて歩いてくれるマハラの気遣いと優しさに、胸がキュッと締め付けられる。
「ごめんなさい、会いたくなかったわけじゃないんだけれど、・・ただ・・その・・」
(私と一緒にいることで王族に目をつけられるかもしれない・・巻き込んでリハクみたいに殺されてしまったら、って考えると怖くて不安だなんて・・きっと言ったら余計に心配かけてしまうわ・・)
実際、塞ぎ込んでいた日々に1人で行動した際、アイフォールの話を聞いたせいか、背後から視線を感じたり誰か近くにいるような気配を感じることがあった。
言葉に詰まり、表情が曇って伏目ふしめがちになるシャーランをずっと見つめるマハラ。
「大丈夫だよ。いろいろ考えるよな」
小さく頷うなずくと優しくシャーランに笑いかけ、シャーランの手を取り優しくにぎる。
「あっ」
突然のことに、赤面し動揺するシャーラン。シャーランが顔を上げると、少し恥ずかしそうに笑うマハラはまるで少年のようで、この今一瞬だけは他とは時間の流れが違うかのように全てがゆっくりに思えた。
マハラとシャーランは恥ずかしさのあまりお互いにしばらく無言で歩き、ときどき顔を見合わせては、ふふと笑い合う。
マハラは階段を降りる途中、踊り場で立ち止まり片隅かたすみによると、シャーランを引き寄せて見つめる。
「もう少しでリハクの件があった出口だ。オレが先を歩くから、怖かったら見えないようにオレの服とかに顔をうずめてていいよ」
心配そうに見つめてくるマハラの優しさに、ときめきドキドキするシャーラン。
リハクのことを思い出すとまだ胸が痛むのに、今はこの甘い時間を愛しく思う自分に矛盾を感じつつ、マハラとの時間に欲が勝つ。
「背中にくっついていてもいい・・?あと、手は離さないで欲しい・・」
恥ずかしそうな顔でマハラを見上げるシャーラン。上品な顔での上目遣いにぽってりとした唇から出てくる甘い言葉は、これ以上ないほどに美しくそれでいて儚はかなげで、マハラは今すぐ抱きしめ自分のものにしたくなる沸き上がる欲情を抑え、なんとか自制心を保った。
「じゃあ、行こう」
シャーランの手をギュッと握り、前を向き歩き出す。階段を降りきり、あと数メートルで出口というところで、
「おーい。おれたちは除のけ者ですか」
口を一文字に結び、目をわざと細めこちらを見るケイシに声をかけられる。
出口前の壁には、スカイ、ジャン、タク、ルイの全員がいて手を繋ぐマハラとシャーランに気が付くと、皆一斉にマハラに飛びかかり取り囲む。
「おまえーオレらだってシャーランちゃん気にかけてたんだぞ!」
「見事に抜けがけしたっすねー」
「さすがにこれはないな」
「勝手にそういうことしていいと思ってんの」
困っているシャーランをよそに、マハラにゴニョゴニョと話す5人。
シャーランは学園のグラウンドに向かう人々の格好が、皆同じ服装なことに気づく。辺りをキョロキョロと見回すと、学園の出口近くに掲示が出ていた。近くによって確認する。
「あのっ、急いで行ったほうがよさそうです」
振り向いたマハラたちは、シャーランが指差している掲示に目をやる。
「ここに武術は着替え必須で、別部屋に用意してある武術着に着替えてから集合とありますので・・」
「うわっ、時間やばいじゃん、急ごう!」
いつもの服装で来ている7人は、慌てて着替えに向かう。
◇◇◇
授業を受ける総勢30名ほどが着替えてグラウンドで待機していると、急に目の前の地面が暗くなった。慌てて皆が背後を振り返り見上げると、まるで山のような大男が立っていた。筋肉隆々で背が高く、着ている服から出ている盛り上がっている腕や脚には多くの傷跡がある。顔を見ようとするも、逆光になってよく見えない。
「これから武術の授業を始める。私の名はガオガイだ。まさか私が来るまで何もせず、突っ立って待っていたわけではないだろうな?体をほぐすなど、基本的なことは済んでいるだろうな」
普通に話しているのだろうが、グラウンド中に響き渡るほどに大きく威圧感のある声に、皆萎縮し慌ててストレッチを始める。シャーランはマハラと組みになって体を伸ばしている最中に、チラリと武術の先生の顔を見る。立派な口髭の中に見える口をギュッと一文字に結び、目はぎょろっとし、憤怒ふんぬしているような顔で腕を組み立っているその姿は恐ろしかった。こっそりと見ていたシャーランは、そのぎょろりとした目と視線が合った途端、慌ててそらしうつむく。
「次回からは、ストレッチは事前に行っておくように。それでは始める。真剣を持てると期待していた者もいるだろうが、まずは木刀での練習からだ。各々1本ずつ持ち、素振りを始めろ」
シャーランは木刀を持ち、1人で黙々と素振りを始める。ガオガイが練習する人々の周りをゆっくり見てまわっていることもあってか、手を抜く者はおらず皆、必死に木刀を振り下ろす。
素振りをある程度終えたところで、ガオガイが次の指示を出した。
「よーし、素振りは一旦終わりだ。次はペアを組み模擬練習だ。木刀を真剣だと思い戦ってみろ」
シャーランは誰と組もうとキョロキョロしていたところ、近くにいたルイに腕を引っ張られる。
「シャーランこっちに来なよ、俺と組もう」
シャーランのことを心配して不安げに辺りを見渡すマハラとジャンが人々の隙間から見え、シャーランはルイと組むよとジェスチャーで伝える。
他の人と重ならない場所にルイと行くと、ルイはふぅとため息をつく。
「初日からいきなり模擬練習だなんて、ずいぶん急いだカリキュラムだな。木刀持った経験なんてない人がほとんどだろうし、怪我する人もたくさん出るだろうな。俺は真剣での練習もしたことあるしこの中では慣れてる方だからさ、シャーランのテンポに付き合う。俺と一緒にゆっくりやろう」
慣れた手つきで木刀を素振りして見せ、優しい笑みをシャーランに見せるルイ。
「ありがとう。ルイは優しいのね」
シャーランがルイの気遣いに感謝し笑顔を向けると、顔を真っ赤にし照れ隠しのようにサッと横を向くルイ。
ルイの思わぬ反応に、シャーランは驚きどうしようかと顔が熱くなっていく。
「よし全員ペアになったな。はじめーっ!」
ガオガイの掛け声と共に、全員見よう見まねで相手と打ち合う。
「俺たちもやろうか。まずは俺は受けるだけにするから、シャーランはやりたいように攻めてみて」
ルイが軽く咳払いし、木刀を構え頷うなずき、シャーランに合図を送る。
シャーランも木刀を構えると、ルイの持つ木刀の真ん中あたりに軽く当てる。
「いいよ、上手だ。まずは俺の木刀に正確に当てる練習をしよう。そう、いいよ」
ルイはシャーランを褒めながら、木刀の扱いを教えていく。
打つことになれてきた頃に、もう一度ルイの持つ木刀に向かって振り下ろそうとした瞬間、また体が電気が走ったようにビリビリと痺れ、グッと全身の筋肉に力が入り、その反動で思わず木刀をすごい速度で振り下ろす。
バーン!!!
という音と共に、ルイの木刀が手から吹き飛び落ちる。
あまりのすごい音に何事かと、皆こちらの様子を伺う。
「なんでもないよ、大丈夫だ」
そう言ってルイは皆に笑顔を向け安心させ、しゃがんで落ちた木刀を拾う。
「ごめんなさい!!私、急にまた・・」
慌てて近寄り頭を下げて謝るシャーランは、ルイが自分の片方の手のひらを見つめていることに気づく。その手のひらは真っ赤で、皮がただれ何ヶ所もむけていた。
「ルイ・・わたし・・わたし・・」
自分のしでかしたことに恐れ慄おののくシャーランは顔を青くし、ルイからじりじりと後退あとずさりをする。離れていこうとするシャーランの手を、比較的赤くなってないもう片方の手でつかむと、シャーランを見つめながらゆっくりと首を振る。
「ここにいて。俺は大丈夫」
自分のしたことに怯え震えるシャーランをつかまえながらも、ルイは手の痛みに耐えしゃがみ動けずにいた。比較的近くにいたマハラとジャンが、ルイの異変に気が付き近寄ってくる。
「ルイ、どうした」
マハラがルイの背中に手を回すと、しゃがんで隠すようにしているルイの手に気づき、ジャンと視線を合わせ近付き見る。
「おい、これっ・・酷いな、すぐ手当しないと」
ジャンは顔を歪ゆがめると、先生であるガオガイを呼ぼうと周囲を見渡すが姿がない。
「先生ならさっきあっちで数人怪我人が出て、まとめて医務室に連れて行った」
スカイが木刀をかつぎ、マハラとジャンとは違う方向から近づいてくる。
「怪我人か、俺の言ったとおりだ。こんな急に無茶だ」
ルイが手の痛みに顔を歪めながら立ち上がり、青ざめたままのシャーランを見る。
「シャーラン、俺のことは気にする必要ないよ。医務室に行ってくるからちょっと待ってて。戻ったら再開しよう」
付き添うというジャンと共に、学園の方へと向かうルイの背中を泣きそうな顔で見るシャーラン。
「私・・またなの、やろうとしたわけではないのに、勝手に力が出るの」
「オレらと砂浜で遊んでいたときも、そうだったよな。シャーランちゃん、病弱で外に出たことないにしては、なんていうか・・」
「凶暴だよな」
スカイの後ろから話を遮りニヤニヤして近付いて来た青年は、同じ学年のシジマだ。スカイやマハラとはタイプが違い接点は無かったが、大柄な体と乱暴さで有名だった。
「シジマなんだよ。お前には関係ないだろ」
シャーランに近づこうとするシジマの前に立ちはだかるスカイ。同じ背丈の2人は互いに睨み合い、一歩も譲らない。
「オレは見てたんだぜ。このシャーランて女が、あの公爵坊ちゃんを一発で倒すところ。でもな、あれは人間技じゃないぜ、なにしろ動くところが見えなかったんだからな」
ガハハハと笑い、太い指でシャーランを指さすと不敵に笑う。
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