誰も助けてくれないのだから

めんだCoda

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第25話 誓約の反故

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 人々は目を疑った。2人目のシュタムが女性であることに。シュタムは7日間のみ目覚め、その後100年眠りにつくというに、女性のシュタムからどう子を得れば良いのか混乱していた。なぜ、神は女性のシュタムを放ったのか。人々の中には神がまだお怒りで私達人間を許していないのだと、その場で泣いて天に許しをこう者、祈る者など人々の間に負の感情が渦巻いていた。

 シャーラン・シュタムは今までシャーノン・シュタムと2人だけで暮らしていたため、人間を初めて見た。自分に向けられる悪意とその混沌とする様子に震え怯えた。
 震えるシャーランをシャーノンは優しく守るように抱き寄せた。シャーノンは現れた人間を完全には信用していなかった。なぜなら、以前に私利私欲のために暴挙にでた人間に、大切なシュタムを殺されたことを覚えているからだ。

 シャーノンは剣を取り出すと、ざわめく人々にその切先きっさきを静かに向けた。

 神はシュタム殺しの人々を許す前に、自身の体内から剣を2本取り出し、人々との争いに巻き込まれた際にはその剣で己を護るよう、事前にシャーノンとシャーランに与えていた。

 人々はシャーノンに剣を向けられたことに慌て恐れ慄おののき、シャーランの存在を非難し騒いだことを詫びた。そして、改めてシャーノンにシュタム殺害を謝罪した。
 しかし、人とは欲望にまみれたもので、心の奥底ではどうにかこの険悪な雰囲気を変え、早く行為に進めたいと考えていた。

 シャーノン自身、人々へまだ憤慨していたが、神が許したのであれば自身は7日間のつとめはせねばならないと、仕方なく人々の謝罪を受け入れることとし、シュタムが生きていた頃のようにここまでやってきた女性達と行為をすることにした。

 その間人々は、女性のシャーラン・シュタムに興味津々であった。神が放ったのだから子作りできるのでは、この美貌の持ち主なのに何もせずなどもったいない、など人々は垂涎すいぜんの思いでシャーランを見つめていた。しかし、剣を片手に持ち人々を鋭い目で見渡すシャーランの姿は神々こうごうしく、簡単に触れてはいけないような気にさせ人々が近寄ることはなかった。

 また、女性のシュタムとはどういうものか分からないが故に、勝手なことをし神の逆鱗に触れるのを恐れ、シャーランが眠りにつくまで誰も手をつけなかった。

 7日間が過ぎ、またシャーノンとシャーラン・シュタムの2人は100年の眠りについた。そして、月日が経つとシャーノン・シュタムの血を引く子どもが複数人生まれ、複数の国の王族や貴族が喜びの声を上げた。セントラル王族もそのうちの1人だった。

 子が産まれた各国の王と貴族は集まり、話し合いを始めた。一同はシャーノン・シュタムの子による力で、他国あるいは自国の人々を制圧しようとしないこと。この幸運を皆で分かち合い人々の平和のために使うことの誓約をたてた。
 そして、2人のシュタムが目覚める100年後にはここにいる一族の子孫が一堂いちどうに揃い、そしてシュタムの場所へ出発しようと約束した。

 その誓約と約束に反論もなくまた100年が経過し、誓約通りに子孫は集まり揃ってシュタムの元へ向かった。
 それが100年ごとに繰り返され、約束は保たれしばらくの間は問題なかった。

 しかし、やがて平和で揉め事も起きないこの世の中に不満を持ち始めたセントラル国王は欲を出し、自分達セントラル王族が真っ先にシュタムと関係を持ちシュタムが他の者と関係をもてないよう自分の城へ連行することを画策した。

 周囲の国や自国民に悟られずに着々と準備を進め目覚めのときを待ち、シュタムが目覚める日になったその瞬間、まだ外は暗い中セントラル国王率いる軍団はシャーノン・シュタムを捕獲しようとした。
 しかし、シャーノンは神から授けられた屈強な体に戦闘能力も高かったため、剣を持って抵抗するとセントラル国王の軍は次々と散って行った。

 予想外の展開に悔しさを馴染ませたセントラル国王は、優秀な者だけを集めた騎士団を呼ぶと、何十人もの軍人を相手にしているシャーノンに攻撃をするよう命じた。流石のシャーノンも騎士団との戦闘には困難を極め、押され気味となった。

 すると、何処からともなくシャーラン・シュトムが剣を持ちひらりとシャーノンの横に飛び出ると、軽快に剣を扱いながら騎士団を圧倒的な力で退けていった。シャーノンとシャーランの2人だけで、何十人ものセントラル軍団を倒していく。

 戦闘を始め数時間が経過し外が徐々に明るくなってきた頃、流石のシャーノンとシャーランも疲れが見えてきた。100年の眠りから目覚めたばかりで空腹であり、体力が完全ではなかったためだ。それに反し、エネルギーが有り余っているセントラル国王軍と騎士団は総勢まだ何十人と残っていた。

 セントラル国王はシャーノン・シュタムの捕獲に思っていた以上に時間がかかり、日が昇り始め明るくなってきた空を見て焦った。他国の王族、貴族、また自国の者に気付かれることなくことを済ませたかったためだ。
 一気に畳み掛けようと、残っている軍、騎士団へシャーノンとシャーランに突撃の合図を出した。

 シャーノンとシャーランが剣を握る手にグッと力を込め、構えたそのときだった。
 シャーランの後頭部目掛け何か重い物が投げつけられ、シャーランはその反動で前のめりに倒れた。実は、セントラル国王は軍の数人に地中に穴を堀り身を潜め、攻撃するよう指示を出していた。
 直撃を受けてしまったシャーランは、目の前がグラグラと揺れ立てずにいた。シャーノンが慌ててシャーランを引っ張り上げようとするも、前から勢よく走り攻めて来る軍と騎士団を見て、座り込むシャーランの前に立ち戦い始める。

 シャーラン達の背後から攻撃した地中軍は穴から這い出し、剣を持ち背後からシャーランとシャーノン目掛けて突撃する。
 セントラル国王は、シュタム族を殺したかったわけではなく、生け捕どりにし自分の城に閉じ込めておきたかっただけだ。しかし、運悪く、地中軍の1人が突撃の途中でつまずき体制が崩れ、目の前に座り込んでいるシャーランの背中目掛け剣が突き刺さろうとする。

 シャーノンはそれに気づき、自分の剣を離すとシャーランをその逞しい大きな身体で包み込み、突き刺さろうと迫る剣から庇う。
 倒れ込む地中軍の剣は真っ直ぐにシャーノンに突き刺さる。正面から迫っていた軍はシャーノンの行動に気づくも、力任せに勢いよく振り下ろされた剣は途中で止められるわけもなく、シャーノン目掛けて幾つもの剣が振り下ろされた。
 騎士団の団長はシャーノンの行動に気づき、いち早く制止するよう団員に合図を出し攻撃を止めたが、既にシャーノンの背中には軍団による幾つもの剣が突き刺さっていた。

 シャーランはシャーノンの腕の中でもがくも、ガッチリとつかまれたその腕を振り解くことができず、シャーノンの心臓の音が弱くなっていくのを涙を流しながらただ聞いていることしかできなかった。

 シンとするその場で、セントラル国王は顔色を真っ青に変え叫ぶ。
 なんとか彼を救うのだと。死なせてはならないと。

 セントラル国王の命でマントを羽織った王族専属の医師がシャーノンに急いで駆け寄るも、シャーノンは既に事こときれていた。

 王族の刺繍をマントの胸元に施したその医師は、シャーノンをシャーランからそっと剥がし、背中に剣が刺さったシャーノンをその場に横向きに寝かした。
 医師がシャーノンの死をセントラル国王に説明するも、国王は目をむき出しワナワナと震え話が耳に入っていない様子だった。

 1人残されたシャーラン・シュトムは、横たわる兄シャーノンに覆い被さり涙を流して泣き叫んでいる。
 お兄様・・私のせいでごめんなさい・・お願い・・私を1人にしないで。

 神の放ったシュタム2人目の殺害をしたセントラル国王、騎士団、軍と残されたシャーラン・シュトムは--。


「おい、なんだ?この先のページが切り取られてるぞ」

 スカイが今にも崩れ落ちそうなほどボロボロなページをゆっくりと摘つまみ、怪訝そうな顔でガオガイを見る。

「この本はな、この小屋に住んでいた者が密かに記していたものでな、セントラル王族にこの本の存在を勘づかれてトラブルになったこともあったと聞いておる。もしかすると、そのときになんらかの理由で破れてしまったのかもしれんの」

 本を静かに閉じると、ボロボロの背表紙をその大きな無骨な手で優しく撫でるガオガイ。
 口から深く息を吐き、その息で髭が揺れる。ガオガイは顔を上げると、その黒い目には暗い影を落とし、悲痛な目でシャーランを見る。

「これがシャーラン、いや、シャーラン・シュタムあなたの出生の記録です」

 シャーランは本に視線を落としたまま、静かに口を開く。

「教えてくださりありがとうございます。ただ、この本ではシュタムは7日間のみ目覚め、その後100年眠るとありました。ですが、私はこのように7日以上起きて生活しております。このシャーラン・シュトムが私というのは何かの間違いなのではありませんか?」

「いや、間違いではないよシャーラン」

 急に居間の入口から声がし、一同は息を呑み素早く振り返る。

「シャーラン・シュトムはシャーラン、きみのことだよ、私の愛する妹」

 居間の入口に背を預け、ケイランが腕を組み立ちこちらを見ていた。
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