誰も助けてくれないのだから

めんだCoda

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第26話 セントラル王族とマージ公爵家

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「ケイラン・・!なぜお前がここにいるんだ!」

 怒りに震えるマハラがシャーランを守ろうと勢よく椅子から降りるも、高すぎる椅子が故に転げ落ちる。

「なぜって、シャーランがここにいると知っていたから尋ねてきたんだが、不用心にもドアに鍵がかかっていなくてね。愛する妹に何かあってはいけないと、確認するために入ったまでだよ」

 薄ら笑いを浮かべるケイランを、睨みつけるマハラ。

「まぁ落ち着きなさい。ケイラン卿久しぶりだぁな。相変わらずなようでなによりだ」

 ガオガイが声をかけると、息子のアリガイは真顔でケイランに向かって小さく会釈する。

「知り合いなんですか?」

 ジャンが驚きガオガイの方を振り向くと、ガオガイは自分の髭を触りながら頷く。

「私どもとケイラン卿が知り合ったのはな・・」

「話はその辺にした方が、いいのではないですかね」

 ケイランが居間にある小窓を、小さく指さす。

「先ほどから、この小屋の周りをウロチョロしている奴らがいましてね」

 暗闇の中に2、3の人影が動き、木の陰に隠れながら徐々に小屋に近づいている。

「私の妹を監視している奴らだろうが、この小屋のボロさだと中の話が筒抜けだろう。それにしても、騎士団長として国王に仕えた者に用意されたのが、この狭いボロ小屋1つとはな。国王はあなた方に、随分と感謝しているようだな」

 意地の悪い笑顔を見せるケイラン。憤慨したアリガイはソファから勢よく立ち上がると、ケイランに向かい胸ぐらを掴む。

「口を慎つつしめ。そういうお前らマージ公爵家も、随分と国王にいいように扱われているようだが?」

「よすんだ、アリガイ」

 ガオガイはやれやれと首を振り、2人に向かって離れろとジェスチャーで伝える。

「まったく・・ケイラン卿もアリガイも、今はやめてくれ。して、ケイラン卿。頼んでしまって申し訳ないが、ここからシャーラン達全員を学園内まで連れて行っては貰えんかの。彼らだけでこの小屋の外を歩くには、ちと危険だからな」

 ガオガイが窓の外をチラッと除くと、人影が物陰にサッと隠れるのが見えた。

「シャーランだけならまだしも、他の男どももですか・・仕方ないですね」

 はぁ、と小さく溜息をつくと、ケイランはマハラ達にこっちへ来るよう首で合図する。
 マハラ以外は、大きな椅子から飛び降りジャンプし、床にうまく着地する。

「シャーランは私の隣へおいで」

 優しい笑みを浮かべ手を差し伸べるケイランに戸惑うシャーランは、不安そうにガオガイの顔を見る。先ほどの本で自分とケイランは兄妹ではないと、はっきりと分かってしまったのだから。
 シャーランの気持ちが分かったガオガイは小さく頷くと、シャーランだけに聞こえるくらいの声量で話す。

「いいか、この小屋を出たら、事実を知ったことを決して他の人に悟られてはならんぞ。ケイランのことが不安だろうが、あやつはシャーランの事情を知っておる。今までケイランとの間に色々なことがあっただろうが、今は彼を信用してついて行ってくれ」

 シャーランはそばまで来たアリガイに、手と体を支えられながら大きな椅子から降りる。戸惑った表情でガオガイを見てまだ話したそうにするシャーランだったが、ケイランに手を取られ半ば強引に連れて行かれ、小屋をあとにした。

 ◇◇◇

 ケイランに連れられ学園へ戻ってきた皆は、自室に戻らずそのままシャーランの部屋に入った。

「今日は、何用でここに来られたのですか?」

 手首のカフスボタンを緩めるケイランに向かって、ルイが声をかける。

「いつもと同じだ。愛する妹の様子を見にきただけだ。何か用事がないと来てはいけないかい?」

 月の光に照らされるその横顔はやはり美しく、男のマハラ達ですらその歪んだ性格さえなければ完璧なのに、と思わせるくらいだった。

「シャーランはあなたの妹ではない、知っていますよね」

 無愛想にそう言うマハラの方を見ることもなく、ケイランは上着を脱ぎベッド近くの椅子に座る。

「あぁ、分かっているよ。シャーランがシュトム族ということもね」

「じゃあ・・じゃあ、なぜ知っていながら今までシャーランにマージ公爵家の娘だと嘘をついていた?なぜ、マージ公爵家がシャーランを?!」

「うるさいな、少し落ち着いてくれないか」

 耳に指を突っ込むような仕草をし、マハラに向かって嫌悪の表情を見せるケイラン。

 マハラの横に立つケイシが、マハラの両肩に手を乗せ、落ち着け落ち着け、と小さく声をかけなだめる。

「あの、ケイラン卿も僕たちと同じように、あの本でシャーランのことを知ったのですか?」

 ジャンは、鼻息荒いマハラをチラチラと見ながらケイランに尋ねる。
 ケイランは椅子に座ったまま、じっとどこか一点を見つめ黙り込む。

「お兄・・ケイラン、どうして私を妹として迎え入れたの?」

 ドア付近で1人でポツンと立ち、寂しそうな声で聞くシャーランに、タクとスカイは心配そうにシャーランに近寄る。

 ケイランは、シャーランの顔を数秒優しい瞳で見つめる。

「私のことを、もうお兄様とは呼んでくれないんだね・・」

 ケイランは目を逸らし伏せると、ゆっくりと話し始めた。

「私がシャーランのことを知ったのは、あの本ではない。セントラル国王から直接聞いたからだ。--シャーラン、私が知っている限りのことを話してあげよう」


 ◇◆◇◆

 シャーノン・シュタムが殺され、シャーラン・シュタムのみが残されたが、彼女をどうすればいいのかセントラル国王は分からず、ただ無惨な死に姿の兄にすがり泣き続けている彼女を見て、立ち尽くしていた。

 いっそのこと、彼女は無用の存在とし葬ってしまおうと軍に合図を送ろうとしたときだった。兄の亡骸にしがみついたまま、目を閉じ声も出さずに急に彼女は動かなくなった。
 国王専属医師が近寄って確認すると、意識を失っているだけのようだった。
 意識のない女性を殺すのは流石の国王も良心が咎め、とりあえず城へ連れ帰り密かに幽閉することとした。

 女性が7日で子を妊娠し出産することは、どう考えても無理である。神の放った子だからそれが可能なのでは、と試験的に行為を行ってみようという話がセントラル王族間であがったが、仮に奇跡的に妊娠したとして、7日のうちに出産せずそのまま眠りについた場合、100年後どういう状態で目覚めるのか分からず、また行為相手の男が死亡している場合、子の証明も難しいという議論になり、結局どうしたら良いのか分からないまま時間だけが過ぎていった。

 そして、待ち合わせの時間となり、約束していたとおり、前シュトムの血筋をひいた者の子孫である自国の貴族や各国の王・貴族がセントラル城へやってきた。国王は素知らぬ顔で皆と挨拶をかわし、シュトムのいる山奥まで向かった。

 しかし、そこには無惨なシュトムの死体が転がっており、それを目にした一同は、怒り狂い首謀者を探し出せと混乱と動揺が広がり、大きな騒動となった。

 セントラル国王は素知らぬ顔で皆に同調し、犯人探しに躍起になっているフリをし、国中にビラをまくなどし被害者を演じた。

 しかし、数ヶ月探しても犯人が見つからず諦めることにした一同は、皆肩を落とし帰路に着いた。

 セントラル国王はバレなかったことに深く安堵し、幽閉していたシャーランを見に行った。すると、そこには目を開けたシャーランが国王を驚いた目で見つめていた。

 国王は目覚めたことに嬉しいような、恐ろしいような複雑な思いを抱えたが、彼女をこれからどうすれば良いのか悩んだ。

 そのとき、彼女が目覚めてから既に数週間が経過していることに気付いた。7日はとっくに過ぎているにも関わらず、なぜ眠りについていないのか。
 国王は、夜中だったが緊急で王族を集めその事実を話しシャーランを見せた。

 王族の1人が、ふとシャーランに名前を尋ねると、彼女は首を横に振り分からないと答えた。

 そう、兄の死によるショックから記憶喪失に陥ったのだ。

 記憶のないシュトム、だが記憶喪失で眠りにもつけない。

 セルトラル国王はにんまりし、これは神が私に与えた最高の贈り物だと叫び、シャーランを隠して育てることとした。

 セントラル国王は、隣の王族のいない小さいマージナル国のマージ公爵に連絡をとった。マージ公爵家には以前窮地を救った恩があり、その恩を餌にシャーランを押し付け、隠し通すよう命じた。
 マージ公爵は最近病気で娘を失っており、その後釜としてシャーランを当てがうこととした。
 しかし、小さい国ともあって公爵家の娘が亡くなっていたことは国中の人に知られていた。しかし、マージ公爵は実の娘だと、病気が治って生きられるようになったとシャーランを紹介することに、人々は動揺し気が触れたんだと彼を哀れんだ。

 事実、前の娘と顔も全く違う。皆、気持ち悪がり恐れ、シャーランをも遠巻きにし関わらないようにした。
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