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第一話
「諭吉さんと私が巣立った日」(4)
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陰陽師、ゴーストバスターズ、退魔、デビルサマナー……色々な単語が浮かび上がり、その度に溜息が出る。車内で私が見たもの、縁さんから聞いたこと、どれもがさっき上げた言葉を連想するものばかりだ。それに、掃除とはいってもそのまま額面通り受け取るほど、私もお人好しではない。
「このツナギ着てるとな、周りから認識されにくくなるんよ」
私が着ているこのクソダサいツナギにだって、そんな効力がある。最初はそんな便利アイテムがあるのかと半信半疑だったが、現場に向かう途中、通行人は私達を気にも留めなかった。逆にこちらが気を使って避けねばならないくらいだ。
「凄いですね、これ」
「言うたじゃろ、値が張るって」
確かにこのツナギは一般人なら大金を出しても、欲しがるだろう。使いようによっては悪用し放題だ。今更ながら私は、普通とは違う世界にいる事を実感した。
「ということはこのモップやバケツも……?」
どうしても心の高ぶりが抑えられない。我ながら不謹慎だと思う。人には言えないような恥ずかしい妄想がどんどん膨らんでいく。
「それが一番大事な道具じゃ」
縁さんが浮かべた笑みは、更に私の期待感を膨らませてくれた。主よ、我をお許し下さいだっけ、それとも御仏よ私をお救いして下さいだっけ。毒々しい輝きを放つ現場に着くと、私は無意識のうちに十字を切り、印を結んでいた。
「ほいじゃあ、お嬢ちゃん……」
「はい」
私は唾を飲み込んだ。
「あっち方面お願いな、わしはこっちやるけえ」
「はい?」
え?何を?説明は?この地に憑いた怨霊を呼び出したりとかは?
「お嬢ちゃん、どしたん?はよ手を動かさんと終わらんで」
縁さんがさっきから地面にこびり付いた汚れを落とすように、モップを振るっている。その様子はまるでベテランの清掃員のようだった。
「お嬢ちゃん、掃除した事ないんか?ほいじゃったらわしがやっとるようにすればええよ。ほら、こうやって。腰曲げすぎると痛めるけえ気をつけえや」
縁さんがモップで擦るたびに、あの毒々しい水溜りが消えていく。いや、まあそうなんだろうけど。
「で、時々こうやってバケツで水気を切ったるんよ。あ、バケツの中のは勝手にそこらに流したらいかんで、これは事務所に持って帰って専門の業者に廃棄してもらうけえな。ほら、お嬢ちゃんもぼうっと突っ立ってないで取り掛かりんさい」
清掃……確かにそうですね。言葉に噓偽り無いですね。清掃を街の殺し屋とか最初に言い出した人って誰なんでしょうね。
「……わかりました」
更なる現実逃避に励むべく、私は自分が持っていたモップを地面にこすり付けた。
「よっしゃ、後ちょっとで終わるで」
「は、はひ……」
はきはきと喋る縁さんに対して、私は息切れ切れな返事しか出来なかった。この作業、地味なのにかなりしんどい。放置していた風呂場の水垢をより頑固にしたかのように、中々汚れが落ちてくれない。ただでさえ家事なんて週に一回やるかどうかの生活を送っていたのに、いきなりの路上清掃は重労働過ぎる。
「カァ!!」
「フミャア!!」
おまけに情けない私を叱咤するかのごとく、猫とカラスのようなものが定期的に鳴き声を上げてくると来たもんだ。そんなに言うなら自分達でやれっつーの!!
「お、終わりました」
結局、二時間はかかったと思う。汗が止まらない。ツナギの下に着ているシャツがべとついて気持ち悪い。今、季節はまだ春だよね?風が全く吹いていないんですけど。
「お疲れさん、ほら、お嬢ちゃん見てみ」
その場に座り込んだ私を咎めることなく、縁さんは私達がさっきまで掃除していた箇所を指差した。
「これ、お嬢ちゃんが綺麗にしたんよ」
目の前には反射しそうなほど磨かれた地面が広がっていた。思わず心の中に温かいものがこみ上げそうになったが……うん、すぐに消え失せました。だって、通行人達が素知らぬ顔で当たり前のように踏みにじっていくんだもの。確かに毒々しい輝きは綺麗さっぱり無くなったけど、今度は靴の裏やポイ捨てゴミなどで普通に汚れていっている。いつの間にか猫やカラスのようなものもいなくなっているし。
「嬉しいです」
私の頭の中は既にこの後渡されるであろう諭吉さんたちで一杯になっていた。
「このツナギ着てるとな、周りから認識されにくくなるんよ」
私が着ているこのクソダサいツナギにだって、そんな効力がある。最初はそんな便利アイテムがあるのかと半信半疑だったが、現場に向かう途中、通行人は私達を気にも留めなかった。逆にこちらが気を使って避けねばならないくらいだ。
「凄いですね、これ」
「言うたじゃろ、値が張るって」
確かにこのツナギは一般人なら大金を出しても、欲しがるだろう。使いようによっては悪用し放題だ。今更ながら私は、普通とは違う世界にいる事を実感した。
「ということはこのモップやバケツも……?」
どうしても心の高ぶりが抑えられない。我ながら不謹慎だと思う。人には言えないような恥ずかしい妄想がどんどん膨らんでいく。
「それが一番大事な道具じゃ」
縁さんが浮かべた笑みは、更に私の期待感を膨らませてくれた。主よ、我をお許し下さいだっけ、それとも御仏よ私をお救いして下さいだっけ。毒々しい輝きを放つ現場に着くと、私は無意識のうちに十字を切り、印を結んでいた。
「ほいじゃあ、お嬢ちゃん……」
「はい」
私は唾を飲み込んだ。
「あっち方面お願いな、わしはこっちやるけえ」
「はい?」
え?何を?説明は?この地に憑いた怨霊を呼び出したりとかは?
「お嬢ちゃん、どしたん?はよ手を動かさんと終わらんで」
縁さんがさっきから地面にこびり付いた汚れを落とすように、モップを振るっている。その様子はまるでベテランの清掃員のようだった。
「お嬢ちゃん、掃除した事ないんか?ほいじゃったらわしがやっとるようにすればええよ。ほら、こうやって。腰曲げすぎると痛めるけえ気をつけえや」
縁さんがモップで擦るたびに、あの毒々しい水溜りが消えていく。いや、まあそうなんだろうけど。
「で、時々こうやってバケツで水気を切ったるんよ。あ、バケツの中のは勝手にそこらに流したらいかんで、これは事務所に持って帰って専門の業者に廃棄してもらうけえな。ほら、お嬢ちゃんもぼうっと突っ立ってないで取り掛かりんさい」
清掃……確かにそうですね。言葉に噓偽り無いですね。清掃を街の殺し屋とか最初に言い出した人って誰なんでしょうね。
「……わかりました」
更なる現実逃避に励むべく、私は自分が持っていたモップを地面にこすり付けた。
「よっしゃ、後ちょっとで終わるで」
「は、はひ……」
はきはきと喋る縁さんに対して、私は息切れ切れな返事しか出来なかった。この作業、地味なのにかなりしんどい。放置していた風呂場の水垢をより頑固にしたかのように、中々汚れが落ちてくれない。ただでさえ家事なんて週に一回やるかどうかの生活を送っていたのに、いきなりの路上清掃は重労働過ぎる。
「カァ!!」
「フミャア!!」
おまけに情けない私を叱咤するかのごとく、猫とカラスのようなものが定期的に鳴き声を上げてくると来たもんだ。そんなに言うなら自分達でやれっつーの!!
「お、終わりました」
結局、二時間はかかったと思う。汗が止まらない。ツナギの下に着ているシャツがべとついて気持ち悪い。今、季節はまだ春だよね?風が全く吹いていないんですけど。
「お疲れさん、ほら、お嬢ちゃん見てみ」
その場に座り込んだ私を咎めることなく、縁さんは私達がさっきまで掃除していた箇所を指差した。
「これ、お嬢ちゃんが綺麗にしたんよ」
目の前には反射しそうなほど磨かれた地面が広がっていた。思わず心の中に温かいものがこみ上げそうになったが……うん、すぐに消え失せました。だって、通行人達が素知らぬ顔で当たり前のように踏みにじっていくんだもの。確かに毒々しい輝きは綺麗さっぱり無くなったけど、今度は靴の裏やポイ捨てゴミなどで普通に汚れていっている。いつの間にか猫やカラスのようなものもいなくなっているし。
「嬉しいです」
私の頭の中は既にこの後渡されるであろう諭吉さんたちで一杯になっていた。
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