ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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3惑甘ネジ

接点⑤

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 ────ていうか、キングって。

 確かにあのマイペースさで帝国築いていけそうだ。
 マイルールの王様。それだけのカリスマ性がある。そう思うと、キングというあだ名があってもおかしくない。

 なら、美耶が自分たちをしっかり目撃していた場合は、小野寺は大学が同じだったということになる。
 そうすると小野寺の正体は少し知れることになるのだが、ますます疑問が増えるだけだ。

 ────なぜ、同じ大学であったことを黙っているのか?

 思い出してというくらいだから、接触していると思うことがおかしいのだろうか。
 絵理奈が言うには有名な人だったらしいから、知ってること前提の思い出せ?
 ふとそう思ったが、違うなと内心で首を振る。

 確かに小野寺はマイペースで強引ではあるが、傲慢ではない。
 だとしたら、どこかで自分たちは必ず接触しているはずだ。だけど、思い当たらない。

 ――ああ、本当、はた迷惑な隣人だっ。

 千幸はぐぐっと眉根を寄せた。

「とにかくそれは見間違いだと思う。でも、キングっていう人、名前を思い出したら教えて。写真もあれば見てみたいかも」

 少しでも手がかりというか、すっきりするものがあれば欲しいと、思わず要望を口にする。
 これが全く違う話題だったら、きっとふぅーんで自分は終わらせているようなことだ。

「何? 千幸が興味持つなんて」

 そういった自分性質をよく知っている絵理奈が、さっそくアンテナをピンとこちらに向けてくる。
 痛いところをつかれ、千幸は微苦笑でごまかした。やっぱり、ちょっと自分らしくなかったか……。

「それだけ熱弁されたら気になるよ。それほどの有名な人を知らないままというのもこんな形で話題に出されたらちょっとね」
「まあ、そっかぁ。誰かに聞いとく。絶対、顔見たら思い出すか、本当にちゃんと見てなかったらその美貌にびっくりすると思うよ」
「ふぅん。そうなんだ。お願い」

 ウキウキとしながらどこか不敵な笑みさえ見せる絵理奈を前にすると、しゅるしゅるしゅると興味が引いていくようだ。
 出す声も力なく平坦になる。
 それに気づいた絵理奈から不平が漏れ、見とけよと意気込みにおぉっと目を丸くする。

「もう千幸~っ! なんか、ここぞという時に熱量なくすのやめてくれない? その持続性のなさ、相変わらず健在すぎて面白いけどさー。本当、惜しいことしたんだからね! せっかく一年同じ場所に通っていたのにあの美貌を見てなかったなんて。よし、わかった。絶対どこかで入手してくるから。千幸は驚くがいい!」
「何が『驚くがいい』なの。ふっ」

 あまりの物言いに笑うと、びしっと千幸の眉間を狙って指差して熱心に訴えてくる。

「だって。本当に千幸は惜しいことしてるからね」
「わかった。わかった。写真か何か入手した時に驚くようにするから」

 その意気込みに笑ってしまう千幸に、絵理奈の目がだんだん座ってくる。

「もう。絶対後悔させてやる」
「目的変わってない?」

 鮮やかで眩しい笑顔で宣言する友人に、思わず突っ込むと鋭い眼光が返ってきた。

「変わっていません。千幸を驚かせるために情報を必ず入手します」

 なぜか、絵理奈はですます口調で本気モードになった。よくわからない闘争心に火をつけたようだ。 
 それにしても、離れていても考えさせられる小野寺翔という人物のことを思い出し、千幸はそっと溜め息を噛み殺した。

 まあ、あの容姿は無視できないよね。
 榛色の瞳は何より綺麗だしとまず思ったところで、ふと疑問に思う。

 そういえば瞳の話は出なかったな、と。
 あれだけ印象的なのだから、絵理奈の口からそれを語られてもいいと思うのだがこちらからは話題を振りにくい。

 なら、やはり違う人だろうか?
 本当にわからない。もうそれらは情報を新たに得られた時に考えようと、千幸は食事に集中する。

 でも、と一口食べたそばからまた考えてしまう。
 容姿もそうだけど、それ以上にあの独特の行動はインパクトありすぎると、普段のあれやこれや、朝一の出待ちから思い出し目を細めた。

 あれを上手く交せる人がいたらぜひともお目にかかりたいくらい、ごいごい強引にやってくる。
 『隣』に住んでいて、地位ある立場だろうと推察できるが仕事は何をしているかわからなくて。
 友人たちも存在感ありありの人たちばかりで、何より言動が、思考が理解できないから気になる。

 そんな相手と毎日顔を合わせる現状。
 気にならないでいられる要素はどこにもない。
 どこまでもひょっこり存在感を示す相手に、休む暇をくれと思って何が悪いだろうか。

 無視しきれず、認めてしまえば気になっている存在に、今はこれ以上は考えるのをよそうと思考から追い出すように頭を振った。


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