ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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3惑甘ネジ

やっぱりわからない②

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 お似合いの美男美女が車に乗り込んでいるところを眺めながら、自分のもやっとした気持ちに首を傾げる。
 三ツ星ランクの高級ホテルから女性をエスコートして出てくる姿は、どこぞの貴公子のようだった。

 女性の態度は小野寺に気があるように見えた。
 しだれかかり甘えているように見えるのは穿うがちすぎだろうか。

 ――んーっ、うぅぅーん、んんーっ。

 意味がわからない言葉を心の中で連発する。そうしていないと落ち着かない。
 さっきからあれこれ思うのだが、モヤっとモヤモヤっとしたものは取れない。視線を外せばいいのに外すことができない。
 千幸はきゅっと口を引き結びそうになって、何その乙女みたいな反応と自分自身の反応にうろたえる。

 ──……もう、嫌だなぁ。

 この後はどこかに行くのだろうか? 彼女の家? と考えてしまう自分が。
 仕事の相手の人だと思いながらもそうじゃない可能性も考えてしまう。
 何より二人きりでランクの高いホテルから出てきたこと、そして親密さを見てしまったから、千幸は何にどう思えばいいのかわからなくなった。

 互いに大人で、ましてや小野寺は千幸にアプローチはしているが付き合っているわけでもない。その間、誰とどこで何をしようが小野寺の自由だ。
 千幸にとやかくいう権利もないし、言うつもりもない。

 ないが、ならここ最近の変に甘い口説き、息をつく暇もないほどの攻撃の数々はなんだったのだろうかと思うと考えがまとまらなくなる。
 それくらい千幸は振り回され、プライベートな思考は小野寺に埋め尽くされてきているのに、当の本人は自由? と思うと無性に腹が立つ気もする。

 今さらながらに、普段の彼が何をしてどのように動いているのか知らないことが気になった。
 以前、仕事は何しているのか聞いた時よりちゃんと知りたいと思った。

 自分だけがいろんなことを把握されている気がして、それも面白くない。
 何より同じ大学だとわかっても、小野寺のことが思い出せない。接触……、はしてないはずだ。
 大学一年の時を思い出してみるが、友人、彼氏、家の手伝い関連、行事、思い出すのはそんなことばかりで微塵みじんもかすりもしない。

 やっぱりさっぱりわからない隣人だ。謎だ。
 しかも、自分ではない女性を優しくエスコートしている姿を見て、そわそわ気持ちが落ち着かなくなった。。
 そんな自分に嫌気がさして、千幸はそこで友人たちに気づかれないように溜め息をついた。

 ――ちょっと、自分のこの反応を含め面倒くさいな……

 そんなことまで思いだしてしまった。
 千幸は熱しにくいタイプだとよく人に言われる。
 そういう人は一度熱したら冷めにくいだろうとも言われるが、熱するところまではあまりにいかないので、持続はするが冷めないという感覚を恋愛で経験したことはない。

 こんなふうになった原因に思い当たらないこともないが、性質は早々変わるものではない。
 だから、いつもの悪いくせでちょっと面倒だなと一瞬でもよぎると、もういいかってどうでもよくなってきてしまう。

 面倒と思う時点で、あれこれ想像し想定し考えて気になって仕方がない証拠なのだけど、そんなことを認めたくない。
 だって、小野寺は明らかに深く関わると面倒なタイプだとわかるからだ。

 千幸は自他とも認める平穏主義なのだ。
 いかに心に波風立てないかが千幸の中で肝だったりする。
 だから、そういうのを見透かされての、元彼の浮気だったのかなと思ったりもしていた。

 深みにハマったらどうなるのだろう。
 あの熱量を受け止めたらどうなるのだろう。
 自分が自分でなくなってしまうのか、自分のまま振り回されてしまうのか。
 全く想像つかないから、怖い。

 気になるから、無視できないから、考えてしまうから、面倒くさくて怖いのだ。
 そんな自分があんな場面を見せられて、そう考えないわけがなかった。

 友人たちとナイスなタイミングの偶然に盛り上がっていた絵理奈だったが、そこでくるっと千幸のほうを向いた。
 千幸はいつも通りを意識し、小さく笑みを口に刻み友人の言葉を待つ。

「で、感想はどう?」

 うん。ちょっといろいろ面倒くさいなってほうが勝ってるよ、と思いながら当たり触りのない言葉を告げる。

「さっきも言ったけど、格好いい人だね」
「それだけ?」
「それだけって?」

 苦笑してみせると、こういった話が好きな友人はもっと何かあるでしょうと追求の手を緩めない。

「だから、大学の時に見たことはあった?」
「うーん。覚えてない。やっぱり集団として捉えていたのかな。一個人の認識は今のところ出てこない」

 今ではこれでもかってほど毎日対面しているけれど、と内心付け足す。
 いろいろ思うこともあって吐き出したい気持ちもあるのだが、今のややこしい関係をうまく説明できる気がしない。

 そこで再度、小野寺たちのいるほうへと視線を走らせ、パチパチっと目をしばたたいた。
 小野寺ではなく、運転手と視線が合ったような気がして……。
 小野寺の運転手といえば、あの人が浮かぶ。だが、いつもと車は違ったし……。

 ――……まさか、ね?

 こちらから見えるということは、向こうも見えるということはわかっている。
 でも、はっきり顔は見えてないから、それは向こうも同じなはずだ。そんな中、意図して目が合うわけないだろう。

 もう、今日はあまり彼らのことは考えたくない。見ていたこと知られた時の反応を想像するだけきっと無駄だ。
 それ以上の斜め上のことが返ってくるに決まっている。

 そして、車の行き先はと考えるだけで気分は重くなり、そんな気持ちを持て余す自分も嫌になった。
 自分が小野寺との関係を中途半端にしているのに、独占欲みたいなものを抱いているのはおごっている気もして。

 ──……あぁ、隣人の──小野寺翔ってなんなのか?

 もう今日はろくなことを自分は考えないだろうから、思考を放棄しようと決める。

「じゃあ、やっぱり見間違いなのかな。それにしても相変わらず格好よかったぁ! 美耶が見たのは彼女かな? 千幸とは似てないと思うけど。うぅーん。とりあえず帰ったら報告しとこ」

 今日一のテンションで絵理奈が話しているのを千幸は耳に入れながら、爽快な気持ちで終える休みが荷物を抱えるように重くなったの感じた。


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