ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

文字の大きさ
65 / 143
4変甘ネジ

やっぱり隣人は②

しおりを挟む
 
 ずっと距離を詰めたがられて、名前も呼んでくれと言われてかわしてきたが、こうなるとそれは無視できない要望となってきた。
 相手はさらっとさくっと呼び捨てで一気に距離を詰めてきたが、年齢が小野寺のほうが上というのもあって、言われたからじゃあなんて器用なことはできない。

 できないけれど、受け身ばかりではいたくない。
 すぐに態度や言葉使いを変えることはできないが、向き合うことを決めたのは何より自分ある。
 千幸は自分より骨ばった大きな手を握り返した。

 その意思の表れとしての行動であったが、やっぱり恥ずかしくてパッと手を離そうとしたら、すかさず捕まえられた。
 揶揄からかうでもなく、じっと凝視する視線が逃げないでと雄弁に語っており、その視線にぶわっと熱が上げられそっと視線を逸らす。

「ほらっ。やっぱり可愛い」

 すると、ふわふわっと小野寺が笑う。ああ、自分の行動も含めて恥ずかしすぎるっ!

「…………っ、もういいです。それ、恥ずかしいので控えめにしてもらえるとありがたいのですが」
「やめろとは言わないんだ?」
「やめれます? 翔さんはやめれませんよね? あと、嫌というわけではないので、その控えめにと」

 自分でも何を話しているのか。相手が正直だと、自分でも言わないでもいいことを言っている気がする。
 それにまだまだ聞きたいことは山ほどあるのに、出会いの話から進んでないのもいかがなものか。

 目の前では小野寺がゆるゆると口元に笑みを浮かべ、「千幸、可愛い。キスしたい。キスしてもいい?」と聞いてくるので、話が終わってからだとぴしゃり言い放つ。
 別にキスが嫌なわけではない。恋人になったのだから、甘い時間もありだとは思っている。
 だけど、それを今許してしまったらもっと話が進まず終わらない気がする。

 自分でも可愛げがないとは思うが、そんな素っ気ない態度でも小野寺は蕩けるような笑みを浮かべるから始末に悪い。
 ああ、喜ばせてしまったのかと思ったがもう遅い。
 どこで何を間違ってしまったのか……。

「そっか。わかった。……やっぱり、千幸が好きだ」
「言ったそばから」
「ごめん。でも、千幸が好きすぎてそれ以外の言葉が出てこない。何より、やっと受け入れてもらえたんだ。簡単にこの気持ちはコントロールできない」

 四年分だしね、と言われれば千幸にはもう何も言えない。

「……っ。ああぁ~、とりあえず今は押さえてもらってということで。聞きたいことがまだあるので、ちょっと先に話を進めてもいいですか?」
「興味を持ってくれて嬉しいよ」
「気になるって言いましたし。経緯もそうですが、最後の言葉とか、ここのこととかいろいろありますよ。というか、とても引っかかってます」
「そうだろうね。たくさん時間があるから何でも聞いてくれていいよ。心ゆくまで話し合おう。それに話に集中していないと、思わずムラっときそうだし」

 そう言うと、小野寺は奥にある部屋に視線を流した。

「……ちょっ、言葉はどうかと思います」
「嘘。ちゃんと話し合いにきたってわかってるから。そのためのここ・・のホテルでもあるから」
「ありがとうございます」

 そのためのここのホテル……、か。

「でも、あまり油断はしないでほしいとは思ってるよ」
「っ、……だから」
「千幸を大事にしたいけど全部欲しいから」
「……もう、……わかりました」

 ね、と欲情をはらむような眼差しで、持ち上げられた手の甲にキスをされる。
 だだ漏れる色気と向けられる思いになんて言っていいのかわからず、千幸は小さく喉を鳴らした。

 ホテルの部屋ということは、当然お泊まりする場所である。
 覗いていないが、ここから見える扉の向こうはベッドが置いてあるのはわかる。

 千幸も初めてのお付き合いというわけでもないし、こうして夜に密室で二人きり、しかも付き合うことになった人をそこまで警戒するつもりもない。
 むしろ、そういう雰囲気になったらなった時だろうと、多少の覚悟を持ってここまで着いてきた。

 だけど、なぜ千幸を気にかけるのかその辺の疑問を話し合うために今夜は約束をしていた。
 その約束を律儀に守ろうとしつつ、意識しろよと雄の部分も見せる相手に翻弄されながら、その律儀さはやっぱり嬉しい。

「四年かかったんだ。多少延びたところで変わらない。今は千幸の気持ちが全部俺に向けられるよう、疑問に答えるのがベストだと思ってる。でも、それらが取っ払われたら覚悟はしてほしい」
「……何で、そんなに直截ちょくせつ的なんですか」
「さっきも話したように千幸との出会いは格好悪すぎたし、少しでも名誉挽回したいから、かな。あとはやっぱりここ」

 そう言って、千幸の手を握りぐいっと引っ張ると、自分の心臓へと持ってくる。
 不意の動作に驚く暇もなく、当てられる小野寺の胸の鼓動を感じる羽目になった。

「ほら、これが落ち着かない。さっきからうるさいほどだ。手に入れたら落ち着くと思ったけど、その逆だな。言葉を選んで駆け引きするほどの余裕はない」
「余裕に見え、る……、んー、ないですね」

 小野寺の心臓はどくどくどくとせわしなく脈打っており、よく平然とした顔で甘い言葉を言えるなと思っていたがそうでもないようだ。

「だろ?」

 この心音を聞かされれば、緩んだ顔やら言葉の数々には余裕というのは感じられないかも知れない。
 だけどそこで、だろ? というのもどうかと思う。

「翔さん、やっぱり変です」
「それを言うのは、千幸と轟たちぐらいだ」

 堂々と好きだと言われているようなもので、実際言われているが、表情でも視線でも常に訴えられ、どうしても照れてしまう。
 照れ隠しもあってそう言ってみたが、それさえも嬉しそうに返されて鼓動が落ち着かず、話は進まないしとむぅっと眉間が寄っていく。

「それは少数派と言いたいのでしょうが、変なものは変ですよ。ちょっと控えてください」
「ふっ。それはどう変なのか自分でわからないから無理だよ」

 我慢できないとばかりに笑われてくすぐったい。
 話を進め疑問を早く解決したいが、この時間も楽しくもあって、この夜の長さを覚悟する。

「無理って。もういいです。話を進めても?」
「いつでもどうぞ」
「……どうも」

 にっこり笑みを浮かべながら、千幸が特別なのだと質問をにこにこ待たれてやりにくいったらない。
 小野寺に抱き締められてから、ずぅーっと胸がそわそわトクトクしている。

 今まで知っている恋のときめきとは違う、奥のまたその奥の知らないところをくすぐられているようだ。
 ネジが緩んでいるようで不安というのもあるけれど、ずっと榛色の瞳に好きだ、欲しいと見つめられ、隠さない熱に確実に当てられる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

処理中です...