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6緩甘ネジ
ポンコツなイケメン②
しおりを挟む「そっか」
そこでほっと息を吐き出した小野寺は、榛色の瞳に笑みを湛えながらよしよしと頭を撫でてくる。
「うん。そっか」
噛みしめるようにまた呟くと、嬉しそうに破顔した。
パァァァッと花が咲いたような表情に、大きな手の優しさに千幸もつられるように笑ってしまう。
「そうですよ。そうやって伝えてくれる翔さんがとても好きです」
一度好きだと自覚すると、視界が広がる。
ささいなことが愛おしいと思える。こうなるまで待ってくれた相手がとても好きだと思った。
口から言葉がつるりと自然に出ることがとても嬉しくて、そう思える相手がいることが、温もりを分け合える関係が愛おしい。
その温もりを実感したくて、千幸は小野寺の背中に腕を回した。
自分よりも分厚い身体、鍛えられた綺麗な筋肉が程よく自分を押し返してくる。
触れることが、身体を繋げたことでじわりと胸に以前より熱さをともなった温もりを落としていくようだ。
「俺も、好き」
唇をくっつけながらささやかれ、柔らかく重なった。
数秒、ただ重なるだけの唇。離れた後に向けられる眼差しに、きゅんと胸が締め付けられた。
触れないところはないというほど、二度の交わりで食い尽くされた昨夜とは違った優しい手つきに安心して身を預ける。
「キリがないな……」
はぁぁっと名残惜しげに離れていく小野寺がそう告げると、最後に額に唇を落としベッドから降りる。
「お腹空いただろう? 朝ごはんにしよう」
「そうでした。作ってくれたんですよね。それにご飯も炊いてくれている?」
わずかに香ってくる匂いに気づきくんと嗅ぐと、米を炊いた後の蒸気が胃を刺激してお腹が空いてくる。
「ああ。よそってくれるだろ?」
──ああ、お茶碗……
昨夜は軽く済ませたので使用しておらず、早く使いたくて朝から炊いたのだろう。
マメというか、欲望に忠実というか、わかりやすいというか。
「どうしましょう?」
期待にこもった眼差しに、ふふ、と笑って混ぜ返してみる。
「いじわるしないで」
冗談だとわかっていてもそんなこと言われたら寂しいんだと、するすると頬を撫でられ、「ねっ?」と訴えられる。
甘い。あっま~いいぃ。
そして、大きい図体なのに可愛くも見えてほだされてしまう。
「わかってます。私も翔さんにあの茶碗にご飯をよそうの楽しみです」
そう告げてすみませんでしたという気持ちを込めて吐息で笑うと、叱るように耳朶を噛まれた。
「千幸のそんなところも可愛いな」
ぞくりと肌が粟立つ感覚を逃がすようにすぅっと息を吐き出す間に、噛み噛みしながら告げられる。
そんなところとは、ちょっとした冗談のことを指すのだろう。その意趣返しが耳朶噛み。
耳朶噛み? いやいやいや、選択肢はほかになかった?
することなすことエロいんですけど?
大型ワンコのようにぶんぶん尻尾振りながらのくせに微エロを醸し出すなんて、キュンとドキッが混ざって朝ワンコも侮れなくなってきた。
そんなやり取りを得て、ようやくダイニングへ。
冷めた味噌汁を温めなおし、冷蔵庫に残っていたおかずをテーブルの上に並べていく。
そして、今。
器用な人は料理まで上手であったことがわかり、茶碗のくだりも甘いのかアホっぽいのかわからないやり取りをしながら、美味しくすべてをいただいた。
いや、ほんと、魚の焼き加減とか塩加減とか、絶妙でした。やっぱりスキル高い。
そして何より、できるほうができることをして動く。
そういった当たり前のことを、相手を思って動けるっていいなとしみじみと彼氏としての小野寺の株を上げている時だった。小野寺の言葉の爆弾が落ちたのは。
言われたもの、差し出されたものに理解が及ばず動作という動作が一度止まる。
「えっ、急になんですか?」
「生活を共にしたい。ひとまず、鍵を渡しておくから自由に出入りして出来たらそこで寝泊まりしてほしい。毎日顔を見たい」
「だから、急ですって」
会えない日もあるけれどほぼ毎日顔を合わせているし、ようやく根っこの部分で想いが通じ合い身体を合わせたばかりで、鍵なんて考えたこともなくて思わず否定する。
「そうでもない。今朝、お揃いの茶碗で一緒に朝を過ごして気持ちが高まったのは認めるが、いつかは話すつもりだった」
「いつかはって。……何で今は?」
「俺には千幸だけだと実感したからだ。なら、少しでもと思うなら一緒に暮らすのが最善だろう?」
「……最善って。唐突なのは困るんですけど。加減、そう加減してほしいです」
「無理だ!!」
間一髪言われ、頭痛がしてくるようだ。
やっぱり、小野寺はネジのつき方おかしい。この人は何を言っているのか。
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