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7激甘ネジ
それは過去という名の②
しおりを挟む「よかった。そういう集まりだからこそ、そういった話題が出るのが目に見えてるのでこんな流れですが紹介させていただければと」
おずおずと続けると、一言も逃さないとばかりに真剣な顔をしていた小野寺が満ち足りた甘い笑みを浮かべた。
「ああ。嬉しい」
心の底から出たと思われるその言葉。
嬉しそうな小野寺を前に、千幸は複雑になる。
純粋に喜んでくれているからこそ、このタイミングでよかったのかどうか。
「私も翔さんが快く承諾してくれて嬉しいです」
そう迷う気持ちもあるけれど、今感じた気持ちを告げる。
小野寺の仕事の都合がどうなるかわからないが、気持ちの上で迷わず実家に行くことを受け入れてくれることがどれだけ心強いことか。
結婚が、と具体的に考えているわけではない。
だけど、堂々と付き合っていることを親に報告してもいい関係なのだと実際態度で示されると、案外嬉しいものだ。
学生の時とはまた違う重みがある分、じわりじわりと嬉しさが積もっていく。
「俺の実家もいつでも来てくれていいから」
そう告げると、自然な動作で頬にキスを落とされる。
海外で生活をしていたこと、容姿からその血が流れていることを思うと、小野寺にしては深い意味がないのかもしれないけれど、千幸はなかなか慣れない。
ふわっと頬に熱が集まる。
「翔さんにご兄弟は?」
「年の離れた兄と、妹がいる」
「へえ。次男でお兄さんなんですね」
意外というか、言われたらそうかなというか。
「彼らには両親より先に紹介することになると思う。会わせろとせっつかれてるから、折を見て話そうとは思っていた」
せっつかれてる? 品定め的な?
なんだろう。真面目な顔でちょっと何かを思い出したように眉をしかめる様子に若干不安を感じる。
「そうなんですね。その辺は翔さんにお任せします」
何にせよ、小野寺の家族のことは小野寺が判断するだろう。
千幸はそれに合わせるだけである。
小野寺の家族。
想像はつかないが、いつかは会ってみたい。どんな人たちなのだろうか。
由緒ある家柄の子息であることを思うとこちらの常識とは規模が違う気がしてならないが、小野寺がいいと思うならばいつかは、とは思う。
それはひとまずおいておいて、今はこちらの話が先だ。
ゆくゆくは一緒に暮らすことを視野に入れている分、その先を考えてくれている人だからこそ、親に会って絶対出るだろう話題に言葉を濁すとか有耶無耶にしたくなかった。
そして、話せば連れてこいって言われるに決まっている。なら、本人がいいのなら、会わせて話すのが一番だろう。
じっと小野寺を見つめると、ん? と優しい笑みを浮かべじっと見返してくる。
それにつられるように千幸は笑うと、蠱惑的な榛色の双眸をまた見つめた。
まっすぐに注がれる眼差しに、美しい色がきらきらと揺れる。
飽きないそれはいつまでも見ていられるものだ。
それが自分に向けられていることが、その事実がすごく愛おしい。なくしたくない。
そこで千幸は小さく頭を振った。
言うかどうか迷って、結局後で知られるよりはと話すことに決める。
「あと一つ。話しておきたいことがあるのですが」
「何?」
「……その、姉の旦那さんの弟というのが、高校時代に付き合っていた人なんです。家族ぐるみで近所付き合いもあって、家族にはいろいろ知られてまして」
「ふ~ん。それで?」
若干、小野寺の声が低くなる。
やっぱり気分はよくない話だよねと思いながらも、会わせるからには避けては通れない話だ。
「なので、親しいからこその配慮と遠慮のない部分がもろもろ」
そこで千幸は言葉を切った。
知られてるからこその配慮をありがたく思うとともに、親しい仲であるからこそ大丈夫だと思ったら遠慮がない。
その辺りが千幸には落ち着かなかった。
だから、姉が結婚したのを機に家を出た。
いつ帰ってくるのか、思いもよらない繋がりがある分、義兄に気を遣わせるのも嫌だったし、千幸も仕事に慣れてきたのもあって家を出るにはいいタイミングだと思った。
元彼の遊川には義兄の話しかしていないが、それなら家を借りるより一緒に住めばいいと誘ってくれた。
住むにあたり、その辺が純粋でもなく打算的な面を否めない。
それだけの理由ではもちろんなかったが、一人で暮らすこともできたしもともとそのつもりであった。
好きだとか一緒にいたいとかそういった気持ちありきであるが、結局楽なほうに傾いただけなのかなと思う自分もいて、だからこそ全力で気持ちをぶつけてくれる小野寺には中途半端なことはしたくない気持ちが大きい。
「もしかして互いにフリーだったら元サヤになったらって気軽に言われるような空気なのかな?」
察しが良い小野寺は、電話での姉のやり取りや千幸の表情からいろいろ汲み取ったようだ。
千幸は観念して、すべてを吐露する。
「……そうですね。母親同士が特に仲が良いので筒抜けなんです。喧嘩してとかではなくて、進路の違いで別れたようなものなので、両方の親からは温かい眼差しで見守られているというか。そういうの伝わってくるんで、姉が結婚した時はちょっと居心地悪かったりして」
「だから、家を出た?」
「はい。それも一つの理由です。親の目線ではいつまでたっても両方子供のままなのだと思います。下の子、三男と次女なので、放っておいてはくれるんですけどいつまでも手のかかる庇護する位置みたいで」
ありがたいんですけどね、と締めくくった。
親にとって子供はいつまで経っても子供。ありがたいが、こっちが忘れたいこととか覚えられていて話題に出されるのは少し困る。
「ふ~ん」
溜め息とも相槌ともつかない返事に、千幸は眉尻を下げた。
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