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7激甘ネジ
それは過去という名の④
しおりを挟むやはり、元彼の話は面白くはないのだろう。
しかも、家族ぐるみとなると切っても切れない縁がある。だからこそ千幸も再会に緊張するのだ。
「仕方がないって」
「ああ、仕方がない。気づけば口に出てるんだから」
「ああ~、そうですか」
さわさわとまた撫でられ、何か言いたげに細められる双眸にドキリと胸がなる。
「千幸と、……もっと早く出会いたかった」
何を指しているかは口にしなかったが、その言葉が、視線が語っていた。
ぎゅんと胸が絞られるようだった。思わず小野寺の手を掴む。
「……それも楽しそうですが、今だから、こうしていられる気もします」
社会人になって自分で掴める選択肢が増えたから、互いに先を見据えて一緒にいれる。
いろんなことが分かった上で、それができる上で共にいる。
「どういう意味?」
「好きとは別に、自分の基盤がある上で選んだ相手だからこそ、理想だけではなく共にいる幸せを見れると思って」
高校時代の元彼のことは別れてから母たちが仲が良いこともあって状況が伝わってくることもあったが、別れてしばらくはなるべく耳に入れないようにしていた。
とにかく、元気だということがわかればいいなくらいだった。
次第にそこまで意識するようなこともなくなったが、頑張っていると知るたびにすごいなと感じていた。
一つ上で優しくて格好よくて努力家で、そんな幼馴染みでもある彼が誇らしかった。
ただの元彼ではない。
幼馴染みで、初めての彼氏で、好きで好きで自慢の人だった。気持ちが離れた今でも尊敬みたいな念は残っている。
「そうだとしても、その頃の千幸を見たかったな」
悔しげに口を尖らす小野寺の表情を見て、千幸は思わず笑う。
精悍な顔立ち、男らしい体躯。
どこから見ても大人な小野寺の高校生時代というのが想像つかない。小野寺にも青臭い時ってあったのだろうか。
「そうですね。私も翔さんの高校生のときの姿見てみたかったかも」
あの高校生の時というのは、永遠に続くのではないかという錯覚とともにいろんなことが全力だった。
でも、ダメだった。
あの頃はわかっているようでわかっていなくて、別れる以外に何もできなかった。
一つ上だというだけで、見ているものも違った。違って当然だった。だから、別れた。
あの頃に小野寺と出会ってもし付き合っていたとして、先を見れただろうか? 三つ違うから学校がかぶることはなく、現に大学で一年間被っただけだ。
具体的に想像がつかないし、なんとなくダメになっていそうな気もした。
今だからできる付き合いというのがあって、やはり小野寺と出会ったのは今でよかったと思う。
元彼のことは、当時すごく落ち込んだ自分を家族に見られていた。
隠す余裕がないくらい、その当時はしんどかった。
青臭く眩しい時を過ごした相手。感傷に近いそれをいつまでも抱えている自分。
そういった経緯もあって、姉の結婚で思わぬ縁が出来てしまって意識のどこかにいる相手。
別れることになった時、苦しくて苦しくて仕方がなかった。
仕方がない、と何度も言い聞かせた。
思い出すと、淡く光るような思い出たち。
長い年月で美化されているだろうそれらと、それらを過ごした人と対面した時にどのように感じるのだろうか。
久しぶりに会った時、自分はどう思うのだろうか。どういう態度をとれば正解かなんて考えたりもする。
あと、周囲の生暖かい眼差しを目の当たりするのもなんだか……
そこまで考えてようやく、ああ、と思う。
「千幸?」
「……、えっ、あっ、すみません。ちょっと考え事をしていて……」
黙する千幸を心配な顔で小野寺が覗き込んでくる。
その端整な顔を見つめ、千幸はにっこりと笑った。
常に自分のそばに寄り添おうとしてくれる、小野寺の存在がほわほわと温かく思えて仕方がない。
今、一緒にいたくて一緒にいる。その事実がこんなにも愛おしい。
戸惑うように、「どうした?」と頬に優しく触れる手の感触がもどかしい。もっと、もっと、求められたい。求めたい。
ためらうように触るのは、きっと元彼の話をしたから。
遠慮なんてしなくていいのに、小野寺はどこまで触れていいのか迷っている。
「……翔さん、もっと触ってください」
その手を取り握り込む。
ぴくっと動くと手が止まり、数秒、掻き抱くように抱きしめられた。
ぐぅっと力を込められて、苦しいけれど温かかった。
千幸もそっと後ろに手を回した。すると、さらに強まる腕の力。小野寺の葛藤する気持ちそのままの抱擁が嬉しい。
「千幸……」
小野寺の爽やかなのに甘い匂いが濃くなった。
小野寺も、千幸の肩に顔を預けすんと匂いを嗅いだ。そして、くいくいっと鼻で髪を避けキスを落とす。
ちゅっ、ちゅっと愛おしいと告げる優しい羽のようなキス。
小野寺は変わらない。出会った頃から、付き合ってもまっすぐに向けられるそれらは何も変わらない。
ずいぶんと熱烈で独特なアピールとともに、千幸が欲しいとまっすぐに手を伸ばしてきた相手の手を自ら取った。
少しでも一緒にいようと、気持ちとともに態度で告げてくれる相手のそばは居心地がいい。
知った今、それを手放したいと思えない。だから、繋ぎとめる努力をするのだ。
甘えるように求められ、胸の奥が常にじわじわと熱を灯す。
そばにいること、隣にいること、こうして元彼のことを考える今、隣にいるのが小野寺で良かったと心底思った。
手を伸ばしてよかった。それが、ほかの誰かに伸ばされなくて本当によかった。
「翔さん、んっ、くすぐった、もう!」
「なぁに?」
「一緒にいるのすごく落ち着くっと言いたかったんですけど、さっきから……、って、んっ…」
「俺は落ち着くけど、もっとってなるから今は落ち着かないな」
そう言いながら、腰のあたりを怪しげに撫でてくる。
服の下にもぐりそうでもぐらない長い指を這わせながら、耳たぶをカリッと噛んできた。
「んっ…あっ……」
思わず漏れた声に、くすりと笑われる。唇を頬に滑らせながら、そっと顔を離して見合わせる。
「ほら、すぐこんなに蕩けて。誘ってるとしか思えないな」
綺麗な顔。情欲のともった瞳が自分を見ている。
「千幸のこんなに可愛い顔が見れるのは俺だけだから」
「は……、い」
「俺だけだ……」
「……はい」
再度言われ、こくりと頷いた。
「ほかの誰にも一ミリたりとも見せたくない」
「翔さんもですよ」
「俺をこんな風にさせるのは千幸しかいない。これからもずっとだ……」
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