ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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7激甘ネジ

それは過去という名の⑤

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 何を当たり前のことをとばかりに眉を跳ね上げて、その手は官能を誘うように動く。
 美人は三日で飽きるというが、知れば知るほど深みが増す美貌に飽きる気がしない。それは想像もつかない彼の言動のせいだ。

 深みが増し、常に新鮮で、そこに小野寺の想いや優しさがあるからそれらを取りこぼさず受け止めたい。だから、一緒にいたい。
 小野寺の熱と自分の熱。匂い。それらが混ざり合い、空気に重みが加わってドキドキするのに心は穏やかだった。

 姉との電話で覚えた妙な動悸はすっかり消えた。わかってしまえば、結構簡単なことだった。
 今までずっと高校時代の元彼のことを思うとどこか引っかかってしまっていたのは、彼が、というよりは家族の前で構えてしまうことが要因だったのだろう。

 別れた経緯とか、関係性とかいろいろな要素はあるが、いつか再会することが姉が結婚したことで決定ずけられ、意識することが多くなった。
 気持ちを周囲には見せることはできないから、どう見られるか、今の気持ちをどうやってうまく伝えられるかを考えてしまう。

 少しごちゃごちゃ考えがちになってしまっていた。相手が、というより周囲の視線に対しての己の在り方を気にしていた。
 思い入れのある相手だっただけに、自分の気持ちが見えにくかっただけ。

 だって、こんなにも気持ちは小野寺に向いている。
 彼のそばにいるとこんなにも満たされる。

 熱くて、心地よくて。
 自分の中にそういった恋情がほかに入る余地はないくらいに、小野寺で占められていた。

 ──ああ~、最近、なんか思考が甘いっていうか。

 恋愛脳っていうのかな。自分でもちょっと心配になる。
 仕事とか他のことをおろそかにしているつもりはないが、それ以外はすべて小野寺一色になりつつあるというか。

「翔さん。そんな自信満々に言うことでもないっていうか。どこから自信が? ずっとというのもそうだし……。えっと、軽々しいって思ってるわけではないんですけど、そう言われて喜んでしまうっていうか。なんか、翔さんに満たされすぎて怖いです」

 嬉しがってくれてるんだと、にやにやと相好を崩した小野寺が頬を摺り寄せてくる。

「なんで、そこで怖いってなるんだ?」

 満たされることの何が悪いのかと、口にすることで何を思ったのか今度は眉間に軽くしわが寄る。

「えっ、ん~、ほかが見れないから? ですかね」
「見なくていい」

 自分でもよくわからないままそう告げると、小野寺はそこであからさまに顔をむすっとしかめた。
 言葉の意味を誤解させてしまったようだ。腰に回された手の力がぐっと込められる。

「違います。そういう意味じゃなくって」
「なら、どういう意味?」
「違う相手を見るとかそういうのではなくて、翔さんの隣にいて当たり前になるのが怖いっていうか。居心地よすぎて困るっていうか」

 小野寺は独占欲が強い。だけど、大人の男という感じで包容力もあるから、窮屈さも感じない。
 今だって嫉妬心だとかを向けてくれるのを申し訳ないけど心地よいとも感じていて、そう感じる自分がやばいって思うっていうか。

「溺れるのが怖い?」

 ……ああ、そうなのかも。

 元彼の話をした後だからこそ、いろんなブレーキを踏まなくなってからいなくなることが怖い。

「……そうかもしれません」
「ふ~ん。でも、今さらだ。俺は千幸にとっくに溺れてる。千幸も観念したら?」
「無理、です」
「嫌ではなくて、無理なんだ。千幸らしいな」
「らしいってなんですか?」

 自分らしいっていうのが本当にわからない。
 小野寺には自分がどう映っているのか疑問に思うことだらけだ。

「真面目で、優しくって、そして甘え下手な千幸。何をするにもまっすぐな視線が俺は好きだ。だから、蔑まれても嬉しかったし、つい出してしまう本音とか、あとでちょっぴり反省しているところとか、そんな全部が可愛いって思ってるから大丈夫。溺れてることもわからないくらい溺れさせるつもりだし、それだけの度量はあるつもりだから安心して寄りかかったらいい」
「………」

 流れるような賛辞に、言葉につまり思わず胡乱げに見てしまった。
 あっ、こういうのがと思っても後の祭り。耳が熱くなる。

 ちょっと発言におかしな部分あったが、小野寺は構わず続ける。
 それはもう凄絶な微笑とともに。

「いいよ。恥ずかしいんだよね。そんなところも可愛いな。とりあえず、俺の腕の中で溺れようか?」

 甘くささやかれ、するりとシャツを捲り入ってくる指先に直接肌を撫で回される。

「……んっ、手」
「手がどうした? もしかしてそれで咎めてるつもり? 磁石みたいに吸い寄せられて今さら止められないから。俺に愛でられて?」
「よく、そんなセリフばかり出ますね?」

 ブラジャーの境をつつつっとなでられて、おへそへと降りてくる手から逃れようと腰をよじらせながら睨みつける。
 言葉もだが、伸びる手に期待もしてしまっていて、そんな態度しか千幸はとることができない。

「千幸がツンってしてる分、こっちは押さないとデレが程遠い」
「ツンって……。そんなクールではないですし、いたって対応は普通です」

 普通のはずだ。
 照れ臭かったり、やはり相手がオープンすぎるので比較すると目立つかもしれないけれど。

「でも、こっちが何もしなければ何の反応もなく澄ましてるだろ? それは嫌だ。千幸のいろんな表情を引き出して、俺だけが知る表情をたくさん見たい」
「……っ」

 そんな言葉も慈しむような眼差しで言われ、千幸は言葉がでなかった。
 本気で心底可愛いと思っているのだと偽りのない眼差しで告げられると、実際はそうじゃなくても小野寺にそう映っていることは認めるしかないなと思う。

 小野寺が自分を見る目には、分厚い桃色フィルターがかかっているのではと思うことはあった。
 だけど、案外、素直になりきれない自分のダメなところも見てくれてそれでも好きだと言ってくれているようだった。

 千幸は冷静といえば聞こえはいいが、どこかで自分を守るために理屈をこねてしまって自分の気持ちに正直になりにくいほうだ。
 わからないというか、見えないことも多くて、そういったことも含めて可愛いと言われるともう完敗だった。

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